ウクライナで混乱が続いています。現在はクリミア半島を中心に事態が展開しつつありますね。クリミア半島は、オリンピック/パラリンピックの開催地であるソチから西に500kmほどの場所です。


より大きな地図で クリミア半島 を表示

ウクライナの政情、とりわけクリミアの状況は刻々と変化しています。私も専門家の方々の情勢分析と現地報道を見比べていますが、予想以上にロシアの介入が早かったですね。米国を含むNATOがロシアに自制を求めていますが、影響力は小さく、おそらく国連もロシアの意向次第で有効に機能しないでしょう。

ロシアとウクライナ間では、セバストーポリ港の返還問題やガス・パイプライン問題がありました(過去記事)。ウクライナを巡っては、ロシアとEUとの間での綱引きもあります。こうした情勢は、エネルギー問題や伝統的安全保障などでも説明がつきますが、それ以外にも「地政学」的な観点を頭の片隅に置いてみると、ニュースがまた違って見えるかもしれません。


東欧を制する者が世界を制す

ハルフォード・マッキンダー(1861-1947)は現代地政学の事実上の開祖ですが、彼は「東欧を制する者が世界を制す」という箴言を残しています。

まず、マッキンダーは全大陸の3分の2を占めるユーラシア大陸を「世界島(World Island)」と名付けました。
世界島
(世界島)

この世界島から見ると、ヨーロッパは「半島」であり、ヨーロッパの歴史は、このヨーロッパ半島よりも内側からやって来る脅威にさらされてきました。実際、この地域の付け根(東欧)が政治的に不安定になると、ヨーロッパ半島全域も影響を受けてきたのです。モンゴルの騎馬民族も内陸から東欧をたどってヨーロッパ半島を脅かしました。

こうしたことから、ヨーロッパ半島の付け根(東欧)から内陸にかけての地域が、ヨーロッパにとって死活的な地域なのだとマッキンダーは考え、東欧より内陸を「中軸地帯(Pivot Area)」と名付けました。中軸地帯というアイデアは、後に「ハートランド(Heartland)」 という語に改められます。「東欧を制する者がハートランドを支配し、ハートランドを制する者が世界島を支配し、世界島を制する者が世界を支配する」という広く知られたフレーズには、東欧を含めたハートランドの重要性が込められているのです。アレキサンダー大王もナポレオンも、そしてヒトラーもハートランドを掌握することを目指しました。

なぜハートランド支配がそれほどまでに重要なのでしょうか?それは、ハートランドが陸上交通の要衝であり、この地域を敵対勢力に握られると周辺のランドパワーはその圧力にさらされ、生存が困難になるからです。大航海時代以前のシルクロードはその最たる例ですね。

そして、マッキンダーの理論を継承したのが、ニコラス・スパイクマン(1893-1943)です。彼は、ハートランドの周縁地帯でシーパワーの影響が及んでいる地域、すなわちランドパワーとシーパワーの接触している地域を「リムランド(Rimland)」と呼称し、世界島からの脅威を防ぐためにリムランド地帯の国々を取り込み、世界島のランドパワーを閉じ込めてしまえ!と主張したのです。

リムランド
(ハートランドとリムランド)


ウクライナの地政学的環境
ウクライナの位置する場所は、まさにこのリムランドです。ハートランドに位置する現在のロシアから見て、リムランドであるウクライナ、とりわけクリミア半島の帰趨が、地政学的にもいかに抜き差しならない問題なのが見て取れると思います。

それでなくともウクライナは、モルドバ、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア、ポーランド、ベラルーシ、そしてロシアに囲まれており、黒海に突き出したクリミア半島という要衝を持ちます。こうした地理的な条件から、グルジアや、バルト三国、ベラルーシなどと同様に、ロシアと西側諸国との緩衝地帯として、大国政治に翻弄されることを宿命づけられた国の一つかもしれません。

国家というのは基本的に地理によって制約される。地理的制約が国家の性格の基本の部分をつくり、さらには対外国の姿勢の基本部分をつくり、そしてそれらはきわめて厄介なことに、その時代々々の国家が持つ意思以前のことに属する。

司馬遼太郎、『坂の上の雲〈3〉』、67ページ

司馬氏のこの言葉が沁みますね。

こうした地政学的環境にあるウクライナにとって、ロシアとEUとの間で等距離外交をすすめることは難しいもので、そもそもどの大国・陣営にも属さず「どっちつかずの状態」にある国家は戦略的に見て危険です。例えば、冷戦時代に起こった紛争の多くは、この「どっちつかずの国」においてであり、朝鮮半島やベトナムといった歴史がそれを証明しています。実際、「どっちつかずの状態」にいるということは、「第三世界(中立国・地帯)」を形成することであり、これは自国が異なる陣営間の代理戦争の舞台になるという危険性を生むだけではなく、どちらの陣営からも脅威にさらされる状況を招きかねないのです。日本や韓国もリムランドに属していることを考えれば、ウクライナの動向から考えさせられることはありますね。

ロシアは、ウクライナを制して世界を制しようなんて目論見から介入しているわけではありません。とはいえ、ロシアの立場になって考えれば、数世紀もの年月をかけてクリミア半島で築き上げたものを手放すことに抵抗があるのは無理もない気がします。特に、ウクライナ領内にあるセバストーポリですが、ロシアが租借権料を払って黒海艦隊の母港として使っています。キエフの帰趨はさておき、ロシアが地政学的要衝であるクリミアだけはしっかりコントロールしておきたいのは理解できるところです。

なお、どうでもいいことですが、ウクライナは英語でユークレインです。