本日はオススメ本の紹介。
高木徹著、『国際メディア情報戦 (講談社現代新書)』です。

◇ ◇ ◇

「過去の偉大な哲学は、それらが真理であるから成功したのではなくて、それらが真理であると信じられたから成功したのである」。国際政治の泰斗ハンス・J・モーゲンソーは宣伝戦についてこう述べています。

人は信じたいものしか信じません。自分にとって信じたくないものが客観的事実であった場合でさえ、それを受け入れるのは難しいものです。真理や事実はひとつでも、正義はいくつもあると言われる所以です。だからこそ情報戦は難しく、プロパガンダは現代も有効なのです。

日本と領土や歴史をめぐって揉めている隣国は、意欲的にプロパガンダに取り組んでいます。中国は「三戦」という3つの原則を掲げて国際情報戦を遂行していますし、韓国も現大統領自身が行く先々で日本のマイナスイメージを植え付けようと努めています。

我が国もこれに対抗する必要がありますが、その際、客観的事実を強調すれば必ず勝てるわけではありません。というのも、係争相手は学術的な正しさを日本と競っているわけではないからです。さらに、いくら客観的事実が日本に都合の良いものであっても、それを押し付けられた第三者が我が国の味方にならないのであれば、これを強調するのは筋の悪いやりかたです。

では、どうすれば国際情報戦で優位に立てるのでしょうか。 

国際世論を形成する大きなアクターのひとつが、国際メディア、とりわけ欧米メディアです。彼らにどう訴えていくのか、彼らをいかに取り込んでいけるか、という点をもっと考えていかなければなりません。

本書は、国際メディア情報戦のエキスパートである ジム・ハーフ がどのようにしてホワイトハウスを動かし、国際世論に影響を与えていったのかを克明に描き出します。ハーフはボスニア紛争でボスニア側のPR戦略を担い、「敵」となったユーゴスラビア政府を国連追放し、NATO空爆を導き、最終的には敵の首領・ミロシェビッチ大統領の逮捕と獄死にまで追いやりました。

ボスニアがどこにあるかも知らない状態だった欧米メディアに対し、ハーフは「サウンドバイト」、「バズワード」、「サダマイズ」というテクニックを用いて、あれよあれよという間にセルビア=悪という世論を作り上げました。ハーフの手法には、軍事戦略家のジョセフ・C・ワイリーの言う累積戦略と順次戦略を垣間見ることができて興味深いものです。

国際メディア情報戦を闘う専門家たちは、やらせや捏造、デマを嫌います。明白な不正は露見した時のダメージが大きいからです。あくまでもメディアの特性や人の心理を利用するのです。

重要なのは、「宣伝の対象がどのようなものを信じたいのか」を評価・選別し、そこに我が方の利益を反映するよう導いていくことです。例え客観的な事実であっても、自分の論理・身内の論理だけで第三者を説得できるとは限りません。逆にこちらの主張が少々胡散臭いものであっても、欧米メディアの “正義” と重なれば、彼らは積極的に我が方を支持するでしょう。

正義は必ず勝つ、ではなく、勝った方が正義になるのが国際政治です。物理的暴力を忌避するのであればなおさら、心理戦・宣伝戦によって人心獲得を図らねばならず、それさえも怠るなら外交的敗北は必至である、ということを思い知らされる一書です。


【プロパガンダを取り上げた過去記事】