今話題の集団安全保障集団防衛集団的自衛権をそれぞれ短く説明してみます。この3つの用語は細かすぎてなかなか違いが分かりにくいものですが、入門編的にできるだけ平たく書いてみます。ちなみに、日本における内閣法制局の解釈や国内議論については本稿ではとりあげません。

はじめに、集団安全保障と集団防衛/集団的自衛権のざっくりとしたイメージを視覚化してみました。

<集団安全保障イメージ>
集団安全保障モデル


<集団防衛/集団的自衛権イメージ>
集団防衛モデル

このイメージをもとに、細かすぎない程度に見ていきたいと思います。

集団安全保障


集団安全保障とは、グループ内の不特定の構成国に向けられた内向きの協力体制のことです。グループを形成する際に敵を想定するものではありません。そして、グループとは具体的には国際連合のことを指します。

では、国際連合では集団安全保障をどのように位置づけているのでしょうか?

まず、武力行使の濫用(らんよう)は国連憲章でも厳しく制限されています。
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

しかし、第2条第4項には武力行使を認める例外が2つあり、その1つが集団安全保障です。ある国によって平和が脅かされた場合、加盟国は国連憲章第7章の規定に従い、安全保障理事会が「平和に対する脅威、侵略行為の認定」(39条)を行い、事態悪化の暫定措置を関係当事者に要請(40条)します。もし暫定措置が失敗すれば、非軍事的強制措置を適用(41条)し、それでも不十分な場合は軍事的強制措置(42条)が発動することになります。

問題は、集団安全保障が機能するための成立要件です。
  1. どんな侵略国をも圧倒できるだけの力をいつでも集めることができること。
  2. グループのメンバーは、主要な安全保障問題について同じ考え方を共有すること。
  3. 安全保障問題の対処が全メンバーの集団的な安全という共通利益になるとすること。

残念ながらこの3要件は、現実的にはいずれも成立しがたいものです。それゆえ、集団安全保障の有効性についても、現在までに十分な満足を得られていないのが実情です。安保理事会は常任理事国の全会一致を前提としますが、五大国(米、ロ、英、仏、中)の対立が発足以来一度も解消されていません。国連が発動した唯一の集団安全保障措置は、ソ連の安保理欠席によって可能となった朝鮮戦争に対してのみ。その際も軍事行動に参加したのは一部の国にとどまっています。

国連は発足当初、五大国の軍事力を背景にして戦後の世界平和を保障しようと考えていました。しかし、国連による集団安全保障体制が機能不全を起こしているため、予防外交と平和維持活動(PKO)を展開するなど、集団安全保障本来の機能とは異なる活動を追加することで対応せざるをえない状況です(是非は別です)。

集団防衛


集団防衛とは、集団外の特定の仮想敵国に向けられた外向きの協力体制のことです。NATO、WTO、SEATO、日米同盟、米韓同盟などが該当します。脅威均衡モデルとほぼ同じですね。なお、集団防衛は、先述したような国連による集団安全保障への不信感から冷戦の展開過程において発展したものです。法的には後述の集団的自衛権(と個別的自衛権)によって規定されます。

集団防衛の成立要件は以下のとおりです。
  1. 構成メンバーが特定の脅威と利益を共有すること。
  2. 共通の利益を実現するための政策と行動を条約の形であらかじめ明示的に規定しておくこと。
  3. 平時の軍事的調整によって同盟が制度化されていること。

日米同盟を例にして考えると、1は対北朝鮮、対中国などで日米は脅威認識を共有していますし、2については日米安保条約第5条が該当します。そして、3は日米安保条約第2条、第3条、第6条などで明文化されています。

集団安全保障とは異なり、集団防衛は同盟の持続性と防衛協力の実現可能性と言う点で有効性が高いとされます。義務不履行は対外的信用を傷つけ、仮想敵国を利する行為であるからです。

なお、集団防衛のデメリットは以下のようなものがあります(過去記事)。
  1. 見捨てられる不安巻き込まれる不安
  2. 同盟が特定の脅威を集団の外に想定する以上、同盟の深化によって脅威視された国との緊張が高まる安全保障のジレンマを生む可能性。


集団的自衛権


集団的自衛権とは、A国が攻撃された場合に、A国と密接な関係を有するB国が敵の攻撃に対して防衛する権利のことです。

集団的自衛権は、武力行使の濫用を戒めた第2条第4項に対する2つめの例外にあたり、個別的自衛権とともに第7章第51条において規定されています。
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。 この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全 の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない(強調下線筆者)。
国連憲章第7章第51条(国際連合)

また、集団的自衛権を行使するためには、被攻撃国による攻撃事実の宣言及び他国に対する援助要請が必要です(国際司法裁判所、1986年のニカラグア事件判決)。集団的自衛権を有し、行使可能な状態であっても、被攻撃国からの援助要請もないのに必ず出かけなければならない義務もないですし、出かける権利も発生しません。

さらに、集団的自衛権を行使する国は、行使するか否かを独自の判断によって行います。一方、国連の集団安全保障の場合は、判断は安保理が行うという違いがあります。

なお、憲章51条に「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」とあるとおり、集団的自衛は安保理が必要な措置をとるまでのあくまで暫定的な手段に過ぎません。有事の際、脅威の拡大状況によっては国連の軍事的強制措置は間に合いません。その場合の例外的措置として、個別的自衛権と集団的自衛権によって、国家は自衛手段をとることが認められているのです。つまり、集団的自衛権と集団安全保障は、現在の国連を中心とした秩序においては互いに補完関係にあるわけです。

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集団安全保障集団防衛集団的自衛権の違いが本稿で多少なりとも見えて頂ければ幸いです。本稿ではそれぞれのメリットデメリットについて掘り下げてはいないので、ここを入口にさらに関心を深めてみると、昨今のニュースも少し違って見えるかもしれません。


【参考資料】


【参照過去記事】


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