以前、「北朝鮮・中国→米本土の弾道ミサイルは日本上空を通過しません」(2012/4/7)という記事を書きました。主旨は、表題通りです。記事中でも繰り返し「北朝鮮から米“本土”へ向かう弾道ミサイルは日本上空を通過しない」と説明したつもりです。

しかし、昨今の集団的自衛権の議論の中で、「北朝鮮から“米国”へ向かう弾道ミサイルは日本上空を通過しない。安倍政権は無駄なことをしている」という論があり、その証拠として拙ブログの解説図が用いられているケースがあるとのご指摘を頂きました。

北朝鮮・中国→米本土の弾道ミサイルは日本上空を通過しません」の記事中でも触れてある通り、北朝鮮から“米国”へ向かう弾道ミサイルは日本上空を通過します。米“本土”へ向かうものは通過しませんが、ハワイやグアムも米国です。北朝鮮がハワイやグアムを狙う場合、日本の上空を通過することは該当記事でも触れたのですが、こうした説明がきちんとご理解いただけないような内容であったことは私の文章力のなさなので、本稿で改めて説明しておきたいと思います。


北朝鮮の弾道ミサイル戦力


まずは、北朝鮮の保有する弾道ミサイルは以下のとおりです。

北朝鮮の弾道ミサイル戦力2014
(表1 米国防総省、2014 Military and Security Development Involving the Democratic People's Republic of Koreaより)

表1をざっくり言うと、スカッド・シリーズは韓国攻撃用で、ノドンが日本、それ以上の射程を持つIRBM(中距離弾道ミサイル:ここではムスダン?)、TD-2(テポドン2)、ファソン13(火星13、KN-08)が、対米国用と見られています。


北朝鮮→米“本土”へ向かう弾道ミサイル


では、飛翔コースを見てみます。

北朝鮮から米“本土”へ向かう弾道ミサイルはこのようなコースを通過します。
北朝鮮〜ロサンゼルス

日本上空は通過しません。

また、現時点で、ワシントンDCやニューヨーク、ロサンゼルスといった米“本土”主要都市を攻撃可能な弾道ミサイルを北朝鮮は持っていないのも表1のとおりです。テポドン2Bやファソン13のような大陸間弾道ミサイル(ICBM)も開発してはいますが不十分です。

現時点では米“本土”に届く弾道ミサイルを持っていない北朝鮮ですが、開発は進んでおり、いずれ米西海岸を攻撃可能なICBMを獲得するかもしれません。米国は北朝鮮のICBM開発に強い懸念を持っていて、すでに米本土防衛用ミサイル迎撃システムのGMDを配備しています。

なお、北朝鮮から米“本土”へ向かう弾道ミサイルが完成したとして、それが発射される状況になったとしても、日本海などに展開したイージス艦からSM-3で迎撃することはできません。ただし、日米のイージス艦を前方展開させ、ローンチ/エンゲージ・オン・リモートの役割を担わせることはあるでしょう(参考『週刊オブイェクト』)。


北朝鮮→ハワイ・グアムへ向かう弾道ミサイル


北朝鮮の準中距離〜中距離弾道ミサイルの戦力は豊富です。ノドンはいうまでもなく、ムスダンは射程3,200km、ファソン13は5,500kmです。

ハワイとグアムは、北朝鮮からそれぞれ7,500kmと3,400kmですから、すでにグアムはムスダンやファソン13の射程に入っていると見て良いでしょう。ハワイには米太平洋軍(USPACOM)の司令部があり、グアムにはアンダーセン空軍基地をはじめ海軍軍港や陸軍施設などがあり、どちらも太平洋の要衝です。北朝鮮が有事の際にグアムやハワイ(攻撃可能になれば)を狙うことは十分予測できることですね。

その場合の飛翔コースはこちら。
北朝鮮〜ハワイ

北朝鮮〜グアム

思いっきり日本の上空を通過します。言うまでもなく、ハワイもグアムも“米国”です。

そして、仮にグアムへムスダンが発射された場合、海上自衛隊のイージス艦が搭載するSM-3ブロック1A迎撃ミサイルで対応可能です。すでに2011年4月の実験でSM-3ブロック1Aは秒速4kmを超える中距離弾道ミサイルの迎撃に成功しています(過去記事)。

補足しておくと、現在、日米で共同開発中のSM-3ブロック2Aは迎撃高度が1,000kmに到達し、ムスダンには余裕をもって対応できるようになります。2018年までには配備される予定です。

また、北朝鮮がグアムやハワイへ弾道ミサイルを発射する際にも、日本周辺に展開したイージス艦が獲得するデータがローンチ/エンゲージ・オン・リモートの重要な役割を果たすことになります。


政府も北朝鮮→ハワイやグアムを想定


集団的自衛権の議論においては、政府も北朝鮮からハワイやグアムへ向かう弾道ミサイルを想定しています。

例えばミサイル防衛において、日本に落下するものについては、これは撃ち落とすことができるけれども、あるいは、もし将来技術的にそれが可能となった場合、グアムあるいはハワイに向かっていくミサイルについて、撃ち落とす能力があるのに撃ち落とすことはできないのか(強調筆者)。

2014年2月10日衆議員予算委員会 安倍首相の答弁(国会会議録

米“本土”へ向かう弾道ミサイルを迎撃することなどは想定されていません。


最後に、くどいようですがもう一度だけ。

「北朝鮮から米“本土”へ向かう弾道ミサイルは日本上空を通過しない」けれども、「北朝鮮から米国(グアム・ハワイ)へ向かう弾道ミサイルは日本上空を通過する」のです。しかも、グアム行きの弾道ミサイルは、現時点でも対応可能です。


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