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中国は第一・第二列島線の内側で米軍の活動を制限することを目指しています。このA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略を実現する兵器としてDF-21D対艦弾道ミサイルのような謎兵器もありますが、本命はやはり超音速巡航ミサイルではないでしょうか。かつてのソ連も、米空母艦隊への対抗策として採用したのは巡航ミサイルによる飽和攻撃でした。実際、今年になって3度も実験したWU-14極超音速滑空ミサイルや姿を見せたばかりのCX-1超音速巡航ミサイルといったニュースは、中国がどのような兵器を2020年代のA2AD環境下で使用するつもりなのかを示唆するものです。

このような状況を受けて、「もはや米軍は中国のA2AD圏内で活動することはできない」というような見方をする向きもありますが、米軍はすでに中国の超音速攻撃兵器に対処するシステムを構築しつつあります。今日はその中核となる、「ニフカ」というシステムを紹介してみます。私自身も勉強中で、ここではあくまでもイメージをつかんでもらえれば、と思います。


地球は丸い


ニフカの話をする前に、少しだけレーダーの話をしておいた方が分かりやすいかもしれません。

たとえば500kmの探知能力を持つレーダーは、レーダー水平線を超えても500km先まで探知できます。しかし、地球は丸いので、レーダー水平線を超えたところにある地上目標や低空目標は地平線/水平線の下に隠れてしまい、見通すことができません。

レーダー水平線は、レーダーの設置高と目標の地上高度に応じて決定されます。たとえ500kmの探知能力を持っていても、設置高が20mの場合、レーダー水平線は16kmです。16km以遠の水平線下は死角になるわけです。

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(レーダー見通し線外のイメージ:自作CG)

ですから、レーダーの設置位置が低いのはもちろん、目標の高度が低ければ低いほどレーダーで探知できる範囲は限定されてしまうんです。巡航ミサイルがシースキミング(海面すれすれを飛行すること)する理由もこのためです。

レーダー見通し線外から攻撃されると、気づくのが遅れるために対処する時間が制限されます。それが、超音速兵器であればなおさらです。そのために中国は超音速兵器の開発を進め、それに対して米国はリアクションタイムを稼ぐための状況把握能力向上と迎撃兵器の射程延長を目指しているのです。


ニフカってなに?


このレーダー見通し線外の脅威を迎撃するのが、ニフカです。

ニフカとは、海軍統合射撃指揮対空 (NIFC-CA:Naval Integrated Fire Control-Counter Air) 能力のアクロニム(バクロニム?) で、陸(FTL)・海(FTS)、空(FTA)と3種類の「キル・チェーン」があります。語弊があるのを承知でざっくりまとめると、味方の航空機や艦船を新型ネットワークで接続し、敵の情報をリアルタイムで共有することで脅威に対処しようという構想です。センサーを強化し、現代戦に不可欠な情報優勢を確保、それにより航空/海上優勢をとるわけですね。ニフカによって、ネックだったレーダー見通し線外から飛来する超音速対艦ミサイルやUAVを超水平線(OTH)で迎撃できるようになります。構想自体はかなり前から存在していましたが、ここ5年ほどで技術の確立が進んだようです。

これまで、レーダー見通し線 “内” の脅威に対してはCEC(共同交戦能力)というものがありました。ニフカと同じくネットワークで味方をつないで情報をほぼリアルタイムで共有し、状況把握能力を高める仕組みですが、周波数の都合で見通し線内に限定した運用である点が、ニフカとの違いです。

ニフカの肝となるのは、E-2D早期警戒機戦術ターゲッティングネットワーク技術 (TTNT)です。

【E-2D早期警戒機】
E-2Dは航空自衛隊への導入も決定した機体ですね。ニフカでは2機のE-2Dが、膨大なデータを共有し、空母艦載機、空母、イージス艦をデータリンクでつなげる中継機として働きながら、センサーと指揮管制の役割をも果たします。ニフカにとっては不可欠な存在です。2機のE-2Dは広範囲に分散配置されることで、電子戦への耐久性も考慮しているとのことです。

【戦術ターゲッティングネットワーク技術 (TTNT)
目標をE-2Dが探知すると、その情報を味方に知らせ、別の僚機・僚艦がスタンドオフでミサイルを発射、誘導は発射母機以外が行います。膨大なデータをリアルタイムで送受信するデータリンク技術が必要になるわけですが、これを実現したのが、次世代ネットワーク技術・TTNTです。TTNTは空母部隊のE-2Dと空母をつなぎ、将来は空母艦載無人偵察攻撃機(UCLASS)とのリンクにも使われる予定です。


海のニフカ


ニフカは水上艦部隊に組み込まれ、すでに巡航ミサイルの迎撃実験が始まっています (過去記事)。ニフカがもたらすものは、エンゲージ・オン・リモート (EOR) ならびに超水平線 (OTH) 攻撃能力です。E-2D  (F-35CやUCLASSなどの艦載機群も) とのリンクにより、イージス艦は自身のSPY-1Dよりも高く遠い位置にセンサーを持つことになるため、レーダー見通し線外の目標に対処できるようになります。

海のニフカでE-2DとTTNT以外にもう一つ重要なものが、SM-6ミサイルです。

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(ニフカのおおざっぱなイメージ:自作CG)

SM-6はAIM-120 AMRAAMのアクティブ・シーカーを搭載しているため (セミアクティブ・モードもありますが)、目標付近で自立して命中する機能を持っています。現行のSM-2は発射母艦のイルミネーターによるレーダー照射が必要ですが、SM-6はいわゆる「撃ちっぱなし」が可能になります。SM-2よりも長射程であるだけでなく、延伸した射程をニフカによって存分に発揮出るわけですね。OTH攻撃にはまさに御あつらえ向きの兵器だと言えるでしょう。

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(SM-6を用いたニフカOTH能力:NAVSEAより引用)


空のニフカ、陸のニフカ


ニフカには3種類のものがあると先述しましたが、空のニフカではE-2Dはもちろん、F-35CやEA-18G、F/A-18E/F、UCLASSなども登場し、結構具体的なシナリオも出てきています。

陸のニフカはJLENSを組み込んでいます。2012年9月には、海軍と陸軍がニフカ構想の下での巡航ミサイル迎撃に成功していますね。米陸軍のJLENS情報がCECを経由して活用され、イージス・システム (陸上の模擬施設。イージスアショアとは違います) から発射したSM-6で標的を迎撃しました (米海軍)。今後はパトリオットなども参加するかもしれません。陸海空いずれも進展が興味深いです。

今のところ空軍と海軍との連携はまだ見られません。エアシーバトル的な話からいくと、今後は空・海協同のニフカも現れるのではないでしょうか。


ニフカと集団的自衛権


米第七艦隊が西太平洋で中国のA2ADと対峙する際、海自のイージス艦をTTNTによって接続し、センサー・ノードとして米海軍艦を防護するという態勢を整えておくことは、日本の防衛力強化にもつながります。航空自衛隊はE-2DだけでなくF-35Aも導入しますし、海上自衛隊には米海軍に次ぐ量のイージス艦もあります(ニフカ対応ベースラインへの改修が必要ですが)から、SM-6の射手としての役割も果たせます。となると集団的自衛権の実質的な法整備についても議論になるところですね。


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ニフカについては構想の細部がまだぼんやりとしたところも多いので、やや勇み足な内容である点はお含み置き下さい。個人的に大変興味がそそられるテーマなので、今後もフォローしていきたいと思います。



【参考資料】