GMDのDACS性能試験


GMD(Ground-based Midcourse Defense:地上配備型ミッドコース防衛)の実験「CTV-02+」が行われました。

Ground-based Midcourse Defense System Conducts Successful Flight Test(2016/1/28 ミサイル防衛局)

今回の実験は、大気圏外迎撃体(EKV)のDACS(軌道修正・姿勢制御装置)の動作確認及び、中距離弾道ミサイル(IRBM)とデコイを識別することを目的としたものです。標的の迎撃は含まれていません。

実験の概要は、ハワイから飛び立ったC-17輸送機から中距離弾道ミサイル標的が発射され、ハワイ・カウアイ島のAN/TPYレーダー(前線配備モード)がこれを探知、追跡データをアラスカにあるCCBMC(指揮・統制・戦闘管理・コミュニケーション)システムへ送信、ハワイ北東沖にいた海上配備Xバンド(SBX)レーダーも標的を探知・追跡、GMDシステムがこれらのデータを受信し、交戦のための発射管制をしきました。標的とデコイの識別も実施。

3段式GBIがバンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア州)から発射され、飛行、EKV「CE-II」を切り離しました。EKVはalternate divert thrusters(代替軌道修正スラスター)のパフォーマンスを試すための決められた機動をとり、燃料が尽きるまでalternate divert thrustersの性能評価のための燃焼推進シーケンスを実施しました。迎撃はできないように設定されていました。

GMDとは


GMDとは、北朝鮮やイランの弾道ミサイル攻撃から米国本土を守るための地上配備型ミサイル防衛システムです。GMDで用いられる迎撃ミサイルは「GBI(Ground Based Interceptor)」といい、3段式固体燃料ロケットです。射高はおそらく2,000kmを超えると思われます(過去記事)。

SM-3やTHAAD、PAC-3がそれぞれ異なる役割を担っているように、GBIも担当する相手が決まっています。

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上図は、SM-3、THAAD、PAC-3が迎撃する目標のイメージ。

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そしてこちらが、GMDが受け持つ迎撃目標のイメージです。

主目標は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)です。それも、米本土へ向かってくるICBMを迎撃します。同じ地上配備型システムのTHAAD、パトリオット・システムなどのような移動発射式ではなく、地下の固定サイロに配備されているために、グアムやハワイへ緊急展開するようなことはできません。

北朝鮮やイランから米本土へ向かう弾道ミサイルは、ICBM級のものしか届きません。ICBM迎撃に関しては、SM-3ブロック2Aにも限定的能力があると思われ、ハワイ程度の面積であればカバーできるかもしれません。しかし、広い米本土全域をICBMから守るためには不十分です。GBIは、米本土防衛用・対ICBM専用の迎撃ミサイルなのです。

GBIには、「CE-I」と「CE-II」の2種類のEKVがあります。「CE-I」は2005〜2010年に5回の実験を行い、そのうち3回が迎撃実験でした。3回の迎撃実験はいずれも成功とされています。ただ、「CE-I」は十分な持続可能性を持たないと評価され、2004〜2005年から「CE-II」の開発が始まりました。「CE-II」の配備は2008年から始まっているのですが、後述するように開発が難航し、開発費も2億3600万ドルから13億ドルへと膨らんでしまいました。

現在、GBIはフォートグリーリー基地(アラスカ)に26基とバンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア)へ4基配備されています。

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2013年3月、北朝鮮の弾道ミサイルの長射程化を受けて、このGBIを14発増やして44発にするという発表がありました。他に、東海岸へ最大60発のGBIを配備する計画もあり、新たなGBI設置場所の環境アセスメントがスタートしています。


難航する開発


SM-3、THAAD、PAC-3が迎撃実験において優秀な成績を収めているのに比べ、GMDは順調とはいえません。

2010年12月の「FTG-06a」(迎撃失敗)で「CE-II」に不具合(振動問題)が見つかりました。以降、原因究明に時間をかけ、2011、12年は主だった実験が行われず、2013年1月にようやく実験を再開し、飛行実験「CTV-01」に成功しました。

同年7月に「CE-I」を用いた長距離弾道ミサイルの迎撃実験「FTG-07」に失敗。原因は、「CE-I」自体やシステムの不具合ではなく、GBIの三段目ブースターの切り離しがうまくいかなかったことでした。宇宙や地上、海上に配備されたセンサー群や、そこから得られるデータのリンク及び処理は機能し、標的の探知、追跡、識別などは問題なかっただけに、「CE-I」の改善点を確認できなかった点は大きな痛手でした。

「FTG-06a」の失敗の結果、問題解決と迎撃実験の成功までは「CE-II」の調達が停止され、2013年に決定した14発の追加配備も「CE-II」迎撃実験成功まで待たれることとなっていました。

そうした状況の中、2014年6月に「CE-II」を搭載したGBIによる3度目の迎撃実験「FTG-06b」が行われ、中距離弾道ミサイル標的の迎撃に成功します。2008年12月の「FTG-05」以来5年6ヶ月ぶりの迎撃成功であり、「CE-II」にとっても初めての迎撃成功でした。

なお、今回の実験で用いられたのは先述の通り「CE-II」です。


今後の予定


今年後半にはICBMを迎撃する実験が予定されています。そこではカウンターメジャーも用意されるとのこと。さらにその後に予定されている実験では、1発のICBMに対し、2発の迎撃ミサイルを発射すると発表されています。

2018年には、再設計された「CE-II」の初飛行実験(迎撃を含まない)が実施される予定です。改良型CE-IIという感じでしょうか。

2019年には、3段式ロケットのうちの2段だけを用いた迎撃体(弾頭はCE-II)の実験も計画されています。


【GMDに関する過去記事】