かねてから報じられてきたとおり、北朝鮮は地球観測衛星を打ち上げる模様です。メモ代わりに基本的なところをまとめておこうと思います。


前回と同じく国際機関へ通告


北朝鮮が「2月8日〜25日の間に地球観測衛星を打ち上げる」と国際民間航空機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)と国際電気通信連合(ITU)へ通告しました。これは、2012年に人工衛星「光明星3号」を打ち上げた時と同じで、まもなく衛星の第1段・第2段などの予定落下地点情報が公開されることと思われます。前回と同じ方角へ打ち上げるとすると、北朝鮮北西部の西海衛星発射場から発射され、大まかに見て1段目が韓国南西部・辺山半島の西方沖に、2段目がフィリピン・ルソン島の東方の海上に落下する、という感じなのでしょうか。


銀河4号ロケットはテポドン2Aがベース


今回、北朝鮮は人工衛星「光明星4号」を運搬ロケット「銀河4号」で打ち上げる計画のようです。この「銀河4号」ロケットは、弾道ミサイル「テポドン2A」とほぼ同じ技術が用いられていると見られます。

テポドンと共通の技術をもったロケット発射実験だからといって、日本の安全保障上の脅威を急激に高める、というわけではありません。北朝鮮はすでに日本を射程に収めた準中距離弾道ミサイル「ノドン」の発射能力をもち、日本が備えるべきはこのミサイルです。本来、ミサイル防衛もこのノドン迎撃を目的としたものです。テポドンやKN-08といったICBM級の実験成功で安全保障上の問題が増えるのは米国で、日本は同盟国として米国とどう協力し、地域関係国と連携するか、という点が焦点となります。

また、北朝鮮にとっては再突入体(Reentry Vehicle;RV)技術の確立が越えなければならないハードルです。RVがないと、大気圏外から大気圏に再突入する際の高温によって弾頭部の爆弾が燃え尽きたり正常に作動しなくなってしまうので、弾道ミサイルには不可欠な技術なのです。今後、RVのための発射実験を始めれば、日米韓が受ける脅威度は衛星発射の比ではないでしょうね。イランとの技術協力により、RVの技術はすでに北朝鮮にわたっているという話もありますが、さて。


弾道ミサイルと人工衛星ロケット


弾道ミサイルと人工衛星打ち上げに使われる運搬体はほぼ同じものであり、互換性のある技術です。ロシアではミサイルもロケットも「ラケータ」(ракета)というようですね。テポドン2Aも銀河4号もロケット部分はほぼ同じです。

しかし、両者には違いもあります。おおざっぱ過ぎる言い方ですが、弾道ミサイルと人工衛星ロケットは、「何を運ぶか」「どのように飛ぶか」という点が異なります。

たとえば弾道ミサイルとして用いるテポドンの場合、ロケットの弾頭に高性能炸薬や核爆弾をのせて、山なりに高度1,000+kmほどの宇宙空間まで飛ばし、放物線(弾道軌道)を描いて再び地上に帰ってくるように飛ばします。


(アメリカのICBM・ミニットマン3の軌道イメージ(※音量注意))

他方、人工衛星運搬体として用いる銀河4号の場合、ロケットの弾頭に宇宙衛星をのせて水平に飛ばし、高度約500kmの太陽同期軌道へ投入します。


(北朝鮮の銀河3号1号機(2012)の軌道イメージ)

弾道ミサイルの技術として特筆すべきは、先述したRVでミサイルの弾頭を保護している点です。ミニットマン3の動画で、1分45秒あたりで切り離された三角錐の物体がRVです。


「事実上のミサイル」という表現


現在発射準備が進められているロケットは間違いなく人工衛星ロケットですから、今回の実験のみを指す場合、「事実上のミサイル」(テレビ朝日)とか「人工衛星と称する弾道ミサイル」(首相官邸)という表現は適切でないでしょう。宇宙条約に従って平和利用されている他国のロケットまでもミサイルに転用可能な危険なシロモノ扱いになるので、けっして乱用すべき表現ではないかな、と愚考します(もちろん、発射してみれば人工衛星ではなくRVだった、という可能性も北朝鮮ならないと言い切れない・・・かな)。

同時に、「事実上のミサイル」という表現がまったく間違っているとも言えません。今回の発射実験で得られたデータや経験を、北朝鮮が弾道ミサイル開発に利用することは確実だからです。今回打ち上げられるものはたしかに「事実上のミサイル」ではないですが、人工衛星打ち上げが北朝鮮の弾道ミサイル開発計画の一部である以上、「事実上のミサイル実験」であることは否定できません。


いかなるロケット/ミサイル発射も安保理決議違反


「事実上のミサイル」などという表現を用いずとも、北朝鮮の人工衛星打ち上げは国際的に十分非難されうる行為です。

日本もH-IIAロケットを打ち上げていますが、日本にはその権利があり、現在の北朝鮮にはありません。北朝鮮は2006年7月にスカッド、ノドン、テポドン2あわせて計7発の弾道ミサイルを日本海に向けて発射したことにより、ミサイル技術に関する活動を制限されています。人工衛星だろうと核兵器だろうと、北朝鮮によるロケット/ミサイル発射は、国連安全保障理事会決議169517181874への違反ということになるのです。ちなみに、形骸化しているとはいえ日朝平壌宣言にも違反しています。

北朝鮮は2012年と同じく、今回も国際機関へ事前通告を行ったり、宇宙条約に基づいた宇宙空間の平和利用を謳っています。しかし、安保理決議を無視してロケットやミサイルを発射しようと思い立った時点で、国際社会の取り決めに従おうという意思のないことが明白です。


発射を控えた日本政府の対応


銀河4号は順調に行けば、南西諸島上空300km+の大気圏外を通過すると考えられます。発射後、ロケットの速度や飛翔方向、角度といった情報は、米軍の早期警戒衛星や海上自衛隊のイージス艦によって直ちに探知され、予想弾道が割り出されます。イージス艦は想定海域に展開を始めていますね。ロケットやその破片及び部品が日本の領土、領海に落下する恐れがあれば、自衛隊法に基づく「破壊措置命令」により、SM-3PAC-3が落下物を迎撃します。破壊措置命令はすでに発令されています(防衛省)。差し障りなく通過するようであれば、迎撃しません。


北朝鮮の目的は?


北朝鮮にとっては、米国から金王朝の体制保障を取り付けるための交渉カードとして核ミサイルを保有する、ということが最大の目的だと思われます。

長距離弾道ミサイルにはビルを狙い撃ちするようなピンポイント攻撃能力はありません。だからこそ弾頭に大きな破壊力を持つ核兵器を搭載することで数km圏内をなぎ払うというのが、長射程の戦略級弾道ミサイルの使い方です。テポドンやKN-08のようなICBMは核とセットでなければならないのです。先日の水爆実験発表や度重なる核保有宣言が示すとおり、北朝鮮はこのことをよく分かっているのではないでしょうか。北朝鮮が核兵器の運搬手段として弾道ミサイル開発にいかに真剣に取り組んでいるかはこれまでの陸上発射型弾道ミサイルを見ても分かりますし、近年は潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)開発まで始めました。

核ミサイル保有の熱意を北朝鮮が自ら捨てることは、独裁体制が続く限りないでしょう。遅い歩みであっても核ミサイル技術の信頼性は高まっていきます。事実、彼らは2012年に光明星3号を太陽同期準回帰軌道に投入することに成功しています。その際、軌道傾斜角を「く」の字に曲げるドッグレッグターンを行って正しい同期軌道に修正するなど、その技術力を侮ることなどできません。北朝鮮の核+ミサイル戦力は着実に整備されつつあるというのが現実です。