米中経済・安全保障検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission)から中国の対艦弾道ミサイル(ASBM)に関する報告書が発行されました。
Andrew S. Erickson, Chinese Anti-Ship Ballistic Missile Development and Counter-intervention Efforts, Testimony before Hearing on China’s Advanced Weapons Panel I: China’s Hypersonic and Maneuverable Re-Entry Vehicle Programs U.S.-China Economic and Security Review Commission, 23 February 2017.

米議会の諮問機関である同委員会の公聴会において、中国軍事専門家のアンドリュー・エリクソン米海軍大学校教授による意見がまとめられています。このヒアリングは当然ながら米海軍や米政府の公式見解を示しているものではありませんが、中国のASBMに関する現状を把握するのに適した資料です。

個人的に気になったところをメモ代わりに更新。いつもの如く、ざっくりです。

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  • 中国は終末誘導機動弾頭のASBMを2種類保有している。
  • これは”近海(黄海、東シナ海、南シナ海)”において懸念を引き起こし、同地域での領有権紛争において中国に大きな優位をもたらしている。
  • 中国は地域の安定や国際法、規範を無視し、精密誘導兵器システムによって米国の介入を危険に陥れ、米国のシー・コントロールに挑戦している。
  • これまで中国が開発し、少数の配備を進めていたのはASBM専用の準中距離弾道ミサイル「DF-21D」である。
  • もうひとつのASBMとして、中距離弾道ミサイル「DF-26」が開発された。
  • 中国の偵察/攻撃システム能力が限定的であることや、米国やその同盟国のカウンター能力向上によってASBM運用上の効果は不明ではあるものの、DF-21DとDF-26がASBM能力を持つべく開発されたことは明白である。

開発の背景と今日まで


  • 少なくとも1990年代中頃から、中国はASBMを研究している。
  • 弾道ミサイルや巡航ミサイルを陸・海・空の様々なプラットフォームから協同攻撃することで、敵国船艇に脅威を与えることを中国海軍は求めてきた。
  • 米国の介入に対抗する兵器開発の意図としては、近海へのアクセス・コントロールと平時における抑止(同海域での領有権主張のため)である。中国の戦略は、内線に沿って陸上戦力と海洋戦力のハイブリッドによって戦略的縦深性を確保し、戦略ロケット戦力で“海をコントロールするための陸の使用”というアプローチを実現する。

  • 2015年9月3日の軍事パレードでDF-21DとDF-26がそろい踏み。
  • 2015年12月31日より、ロケット軍(旧・第二砲兵)により運用中。
  • パレードにおいてDF-21Dは次のように公式紹介された;
    「移動式対艦弾道ミサイル、非対称海上戦における暗殺者の矛(assassin's mace)」。
  • 米国防総省2016報告書では、「ASBMは、準中距離弾道ミサイルCSS-5(DF-21)をベースに開発され、2010年に配備が始まった。CSS-5 Mod 5は射程1,500kmでMaRV(終末誘導機動弾頭)を搭載。MaRVは西太平洋にいる空母を含む船を攻撃できる」と言及した。
  • 2016年2月、『China Daily』が「DF-21Dが中国西部において10発の発射演習を行った」と報じたが、詳細は不明。
  • 米国防総省2010年報告書では、「DF-26の射程は3,000〜4,000kmで、グアムとその周辺海域を攻撃しうる」と指摘。
  • 2015年パレードでは、DF-26を次のように公式紹介している;
    「中距離〜長距離精密兵器で対地・対艦(中〜大型目標)攻撃が可能。新たな戦略抑止兵器である。核兵器と通常兵器どちらも搭載可能で、通常弾頭によって対地だけでなく洋上の中〜大型目標を攻撃できる」。
  • 2015年11月、『China Youth Daily』に「DF-26は移動発射において立地を選ばない。素早く移動し、発射場所の厳密な要求がない」と報じられた。これは権威ある人民解放軍軍事科学研究院の研究者2人による分析である。
  • この研究者たちによると、「水上艦のようなtime-sensitiveな標的に対し、DF-26は標的の情報を獲得すれば即攻撃可能で、敵は逃れられない」。
  • 近代的な統合作戦において勝利するためにはスピードを駆使することが必要であり、DF-26に関する情報は「速さ」を強調するものが多い; 核弾頭と通常弾頭の切り替えの速さ、移動の速さ、発射準備の速さ、転置・撤収の速さなど。
  • 「DF-26の射程はDF-21Dの2倍であり、第二列島線を超えて攻撃することもできる」との分析もある。

  • 現在までに中国が洋上の非協力的な標的に対するASBM実験を行ったという確認はされていない。
  • インターネット上では、遠望型4号を協力的な標的艦として破壊試験が行われたとの噂もあるが十分な証拠がない。
  • より有力な話として、ゴビ砂漠で空母の甲板を模したコンクリート施設を疑似標的として1回か複数回の発射試験をしたとの情報もある。この試験においては北斗衛星測位システムの援用も実施されたとのこと。
  • これらの情報から、ミサイルそのものが機能していることは明らかである(訳者注:ASBMとしてではなく、弾道ミサイルとして機能しているという意)。
  • パレードに展示したということは、中国がこれらのミサイルが最低限の作戦能力を持ち、抑止効果を発揮するとみなしているということである。
  • 一方で、ターゲッティングに必要な偵察/攻撃複合システムの能力のほどは不明なままだ。
  • ASBMに搭載されるセンサーは、おそらく中距離弾道ミサイルパーシングIIのセンサーに類似したものであろうことが考えられるが、海面と移動目標を識別するための技術的な進歩と修正が必要となる(訳者注:パーシングIIもMaRVですが、地上固定目標に対する機動弾頭でした)。
  • 中国の専門家たちはパーシングIIの終末誘導システムなどを徹底的に研究してきた。
  • 中国のASBMのセンサーやMaRVなどに関する詳細はオープンソースに現れてないが、技術書の中にはパーシングIIに直接言及したものも多い。
  • オープンソースに情報がないことは中国の技術的限界を示しているのではなく、機密情報を秘匿する努力であると言えよう。

偵察‐攻撃複合システムの発展


  • 中国は洋上目標のターゲッティングに必要なC4ISRを持ち、それを発展させ統合させようとしている。
  • しかし、オープンソースを通じてこれらの作戦能力を明確に確認することはできていない。
  • ASBMのターゲティングは中国の沿岸から離れれば離れるほど困難になる。
  • 現時点で、DF-26の最大射程をカバーするのに十分なC4ISRはない。
  • 理論上、中国のASBMはロフテッド軌道をとったり、燃焼調節をすることで最大射程より短い範囲を攻撃するべく配備されているだろうが、中国側資料ではこの可能性に触れていない。

  • ASBMのシステムオブシステムズは地理的・官僚的な壁を超えて様々な部門での統合を果たさなければならない。
  • 偵察/攻撃複合システムは衛星と地上レーダーの連携も含まれる。小型衛星や無人機(UAV)の配備も考えられる。

  • ASBMには、複数ソースからの各情報を統合するために正確なサード・パーティの提供もしくは超水平線(OTH)のターゲティング支援が必要である。
  • OTH-Bはキューイングには有用だが、ターゲッティング・ソリューションにはならない。
  • 中国は1986年よりOTH-Bを運用していると報じられている。現在少なくとも1基が稼働中で、別に建設中とされている。
  • 近い将来、中国は南シナ海全域をカバーするOTH-Bレーダーのセットを構築することになるだろう。

  • OTHレーダーを使用可能な環境にあったとしても、ターゲッティングは技術的に難しい問題であることに変わりがない。
  • ターゲットを探知・識別することは比較的簡単だが、それを追跡し、シューティング・プラットフォームへリアル/ニアリアルタイムで情報を送信することは困難で時間との戦いとなる。
  • ROEの適用やコラテラル・ダメージを避けようとすることなどがさらなる障害となる。
  • それゆえ、宇宙からの監視システムがASBMには不可欠となる。
  • 中国は目覚ましい頻度で様々な衛星を打ち上げているが、いくつかの課題に面してもいる;
    ・所定の軌道に多数の衛星をのせるためにはコストがかかる。
    ・異なる組織によって運用される複合的監視アーキテクチャは扱いづらい。
    ・軍事組織の縦割りが、リアルタイムデータの融合を複雑にする。

  • 洋上の移動目標をターゲッティングする上で、中国は複雑なプロセスをマスターしなければならない;リアルタイム・センサーのインプットを融合し、正確な状況報告を各部署に伝え、ターゲッティング・パッケージとして司令部や射手に送信する。
  • たとえこれらのプロセスが完璧に行われたとしても、データの送信や読み込みで射手に伝わるまでにはどうしてもディレイが生じる。
  • PLAは各部署それぞれが持つ“自前の”ISRセンサーと地上施設との調節する必要があり、その中において優先度の決定や武器使用の権限などの課題もある。

  • 北斗衛星測位システムは、ミサイルが望む場所へ確実に到達するのに役立つ。
  • 旧ソ連は慣性航法に限定されていて達成できなかった衛星航法が、中国のASBMの要となる。
  • 中国は約30基の北斗衛星を打ち上げた(2016年6月12日までに)。20基は現在軌道上で稼働している。
  • 地域のカバーは2012年に達成しており、2020年までに35基を配備して地球全域のカバーを目標としている。

  • 中国の偵察衛星は電気工学(EO)、ハイパースペクトル及びマルチスペクトルセンサー、そして合成開口レーダー(SAR)を持つ。
  • SAR衛星はターゲティング情報を提供可能で、他の衛星は標的の識別に利用できる。
  • 遥感(Yaogan)、高分(Gaofen)、吉林(Jilin)の3シリーズは、洋上の監視・ターゲティングに用いることができる。
  • 「遥感」衛星は太陽同期軌道上で運用され、SARとEOタイプがあり、これまでに40基打ち上げられ、30基超を運用中。
  • ジェーンズによると、「外国艦の位置追跡ができる(遥感)衛星は、艦船の光学的・無線電子的シグネチャを収集、中国海軍の他のアセットによって集められた情報とともに用いられる。大型の西側艦艇を発見・追跡し、ASBMのターゲティングに必要な位置情報を提供する」。
  • これは、米海軍ホワイトクラウド広域海上監視システム(NOSS)の第一・第二世代に類似している。

  • 次世代リモートセンシング衛星「高分」は、「中国高分解能地球観測システム(CHEOS)」の一つとして打ち上げられ、ニアリアルタイム・全天候型の地球観測衛星である。現在、高分1、2、3、4、9号がある。

  • 2015年10月、4基の「吉林」リモートセンシング衛星が打ち上げられた。主衛星のほか、2機のビデオ衛星と1機の技術実証衛星からなる。
  • 2019年までに16基を打ち上げる計画で、データアップデートは3〜4時間。
  • 2020年までには60基となる予定で、データアップデートは30分間隔。
  • 2030年までに中国は138基の衛星を軌道上に配備する予定で、データは10分ごとに書き換えられる。

  • ASBM作戦能力を最大限発揮するために、中国は莫大なコストと困難に立ち向かわなければならない。
  • しかし、南シナ海に関して言えば、より安くシンプルで簡単にターゲッティング・ソリューションを得られつつある。
  • 南シナ海を陸上配備・空中配備センサーの拠点化している。

  • 中国は1967年に短波(HF)地表波OTHセンサーの開発を始めた。当初の探知距離は、250km。
  • 南シナ海ですでにHF地表波レーダーがスプラトリー諸島に設置され、急速に増設している。
  • 探知距離は278〜370km(150〜200カイリ)と推定され、占拠した人工島から運用される洋上哨戒機とともに、南シナ海全域を見張るには十分である。
  • こうした監視の目は、ASBMと巡航ミサイルの火器管制にも役立つ。
  • 米軍にとって大規模なエスカレーションを拒否しつつこれらの施設を排除するのは困難である。


結提と政策提案


  • ASBM能力獲得には多くの課題があるが、米国が適切に取り組まなければ重大な挑戦になりかねない。
  • 中国のASBM作戦能力をオープンソースから評価することは難しい。
  • もしもASBMのシステムが完全な形で開発され配備されれば、中国は地上配備移動発射機から長距離弾道ミサイルで移動する空母群をターゲッティングするシステムを持つ世界最初の国となる。
  • このようなミサイルに対するターミナル・ディフェンスは困難で高価で、発射前に破壊しようとすればエスカレーションを招きやすい。
  • 中国は西太平洋の安全保障を一方的かつ根本的に変えるかもしれない。

  • 十年余り、米軍は中国のASBMを真剣に取り上げてきた。
  • 海軍情報局(ONI)報告書では、2004年には公式に中国ASBMについて言及しており、軍指導者たちも米国と同盟国がASBMに後れを取っていないことに自信を示すとともに、対抗策を講じてきた。

  • 中国のASBMその他のミサイルが米戦力に潜在的な挑戦を投げかける一方で、中国がターゲッティングを確かなものにすることは高価であるうえ、付け入られる脆弱性を生み出すことにもなっている。
  • 米国と地域の同盟国は、この脆弱性を効果的に利用し、ASBMの“キル・チェーン”を見出すべきだ。
  • 特に、ASBM運用において、ターゲッティング情報を提供する宇宙に配備されたセンサー群が不可欠である点である。
  • これは、中国を電子戦(EW)において脆弱にさせている。
  • EWはASBMが速度に依存している点を利用することができる。
  • ASBMは速度が最大の強みだが、それが最大の弱点でもある。
  • 中国が現在直面している限界(統合運用、データ融合、リアルタイム意思決定における経験不足、高度な長距離精密攻撃に関する権限の委譲など)を利用する。
  • 冷戦期に旧ソ連の海洋監視システムを混乱させた経験などが示唆的かもしれないが、中国はすでにこの種のジャミングに対する能力を獲得している。

  • ASBMの正確な能力や限界は別にして、この兵器が米国のアジア太平洋への国益や軍事的影響への挑戦であり、米国の介入に対するカウンターとなる。
  • 米国の政策立案者たちは、中国が南シナ海におけるターゲッティング・ノードの要地としてスカボロー礁を開発することをとどめるべきである。
  • スカボロー礁での人工島造設は、ADIZ設定にも関連している。

  • 中国は海軍のミサイル搭載量及び船舶数を急増させており、2020年までに世界第二位の外洋海軍となる。さらにこの趨勢のまま成長すれば、2030年までには質・量ともに米海軍と同じ艦艇をそろえることができるかもしれない。
  • ASBMのキル・チェーンを狙うことに加えて、米政府は上記のようなミサイル配備や能力ギャップについても注目すべきである。
  • 米国は、東アジアの重要海域において十分な装備を持った海軍艦をそろえているのだと示さなければならない。
  • 十分な数の海軍力の配備は、平時のプレゼンスと影響力を最大化する。
  • 圧倒的な物理的作戦能力を展開することで最悪の事態を抑止することができる;「汝平和を欲さば戦に備えよ」。
  • 米軍の対ASBM能力や艦艇、ミサイル数の不足は、地域の安定と安全、そして米国の国益を損ねる。
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ASBMを「assassin’s mace」と表現したりするあたり、機雷と被る扱いですね。そういう意味では、終末誘導や機動は今に至るも中国はそれほど重要視していない、とも受け取れます。配備すると宣言するだけで抑止になる、と。

ただ、SM-6やNIFC-CAなどの開発状況を見ると、ASBMとのかけっこは依然として米国に軍配が上がります。エリクソン氏も触れていますが、あくまでも南シナ海の国家への恫喝及び同海域周辺での米軍の領域拒否をもくろんでいるのでしょう。ミサイルの量的ギャップの拡大は大きな懸念ですが。

まとめの部分でエリクソン氏が「汝平和を欲さば戦に備えよ」の警句を引いて、米海軍が質だけでなく物量をそろえて見せることの重要性を説いています。なんとなく高坂正堯がフォークランド紛争に関して評論した一文を思い出したので引用してみます。

イギリスの誤りとは、いくつかの兆候にもかかわらずまさかアルゼンチンが軍事力を用いてフォークランド諸島をとるとは考えず、対応策をとらなかった点にある。イギリスは艦艇を送るとか、海兵隊を増員することによってアルゼンチンの行動を抑止することができたし、1977年はそうした。それが今回はアルゼンチンの意図を誤認したのであり、それが自らも損をし、他国にも迷惑をかけることになった。

高坂正堯、イギリスの過ち 1982.7、『外交感覚 ― 時代の終わりと長い始まり』、151ページ。