2度目のICBM発射実験 飛翔能力は1万kmを超えるか

北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を行いました。
北朝鮮は、7月28日23時42分頃、北朝鮮内陸部の舞坪里(ムピョン二)付近から、弾道ミサイルを北東方向に発射した模様です。詳細については現在分析中ですが、現時点で発射が確認された弾道ミサイルは1発で、3,500kmを大きく超える高度に達し、約45分間、約1,000km飛翔し、北海道積丹半島の西約200km、同奥尻島の北西約150kmの我が国の排他的経済水域(EEZ)内の日本海上に落下したものと推定されます。我が国の安全保障に対する深刻な脅威であり、断じて容認できません。


北朝鮮北部の慈江道・舞坪里から発射されたミサイルは、高度3,500km(〜3,700km?)で水平に45〜47分間、約1,000km飛翔し、北海道・奥尻島の西方沖に着水したとのことです(下図、黄と赤の線の交差点付近に着水との分析)。

今回の実験もまた、間違いなくロフテッド軌道での発射です。ロフテッド軌道発射とは、「角度をつけて高く打ち上げ近くに落とす」軌道をたどる発射方法です(下記イメージ)。 
ロフテッド軌道
午後11時という時間帯にも発射できる態勢にあることを示したのも、北朝鮮にとっては大きな成果です。

今月4日に発射された「火星14」もロフテッド軌道で発射され、高度2,802km、約43分間、約933km飛翔し、最小エネルギー軌道で発射されればICBM級(射程5,500km〜)であると評価されました。
20170704__5500
(平壌を中心に射程5,500kmの範囲。正距方位図法。)

今回のミサイルは飛翔時間・到達高度がともにそれ以上のものであることから、こちらも大陸間弾道ミサイル(ICBM)だとみられます。米国防総省は「大陸間弾道ミサイルである」と公式に認めていますね。北朝鮮によるICBM発射は今月4日の「火星14」に続き2度目となります。

なお、今回発射された弾道ミサイルは「火星14」であることが北朝鮮から発表されています。
金正恩党委員長が大陸間弾道ロケット「火星14」型の第2次試射断行命令を下す(2017/7/29 朝鮮中央通信)
【平壌7月29日発朝鮮中央通信】最高指導者金正恩委員長がチュチェ106(2017)年7月27日、大陸間弾道ロケット「火星14」型の第2次試射を断行することに関する親筆命令を下した。
今月4日の「火星14」の弾頭には中身の不明なシュラウド(覆い)がつけられていましたが、今回の弾頭は北朝鮮がよく用いるtriconialなものを試したのかどうか、が個人的には気になります。 

後述のように、軽い弾頭であれば10,000kmに到達することができるミサイルという評価になりそうです。西海岸主要都市は射程に収めます。
20170729_10000kmrange
(平壌を中心に射程10,000kmの範囲。正距方位図法。)


憂慮する科学者同盟(UCS)のデビッド・ライト氏は、10,400kmとの試算を出しています。
20170729_davidwright
USCより引用。)

仮に11,000kmとすると、下図のようになります。
20170729_range11000km
(平壌を中心に射程11,000kmの範囲。正距方位図法。)

ペイロードはさておき、飛翔能力だけならニューヨーク、ワシントンDCなど東海岸にも到達する能力を持っていると見ておいたほうが良いでしょう。

詳しい情報が入り次第、追加・訂正をしたいと思います。


北朝鮮の目的は?

「核兵器」とそれを運搬する「弾道ミサイル」というセットメニューでの相次ぐ実験によって、北朝鮮のひとつの意思が明確になります。すなわち、対米核抑止のために何が何でも核ミサイルを保有することが目的なのです。実験ごとに所期の達成目標はあるでしょうが、核実験やミサイル実験そのものがなんらかの挑発や交渉材料であるという認識は長期的には間違いだといわざるを得ません。どのように北朝鮮にアプローチしたとしても、独裁体制が続く限り、彼らは粛々と各種実験を継続し、米国本土を攻撃可能な戦略核ミサイルを完成させるまで歩みを止めることはないでしょう。ですから、今回の実験も、あくまでもこうした核ミサイル開発のプロセスのひとつです。


今回の実験の主眼は?

金正恩体制になって以降の弾道ミサイル開発の進捗は目覚ましいものがありますが、ある程度の信頼性を得ているスカッド・シリーズやノドンとは異なり、IRBM〜ICBM級の長距離弾道ミサイル開発には依然としていくつもの技術的なハードルがあります。

代表的なものとして2つ挙げますと、1つが、再突入体(RV)の開発です。弾頭が大気圏外から大気圏内へ再突入する時の高温・高圧条件は、長距離ミサイルになればなるほど厳しくなります。今回の実験の主眼は、この再突入体の実験だったのではないか、とみられています。 最大レンジで発射すれば日本上空を飛び越え、余計な摩擦や問題を引き起こしてしまいます(実際の有事の際、米本土へ向かうICBMが日本上空を通過することはありません)。しかし、再突入体の実射実験は必要です。北朝鮮は日本の上空を通過せず、ぎりぎりEEZの境界付近に落下する精度にも自信をもっているため、ロフテッド軌道での長距離ミサイル最大射程発射による再突入体実験を繰り返しているという側面もあります。

周知のとおり、北朝鮮はすでに再突入体開発を進めており、今月4日の実験により「ICBMの大気圏再突入技術を確立」したと発表しています(聯合ニュース)。今回の実験でも、大気圏再突入の際の発光のようなものが観測されているようです(NHK)。米露中のような信頼性のある技術を獲得するまでにはまだ時間がかかるでしょうが、ロケット/ミサイル技術開発に関する北朝鮮の歩みは大変堅実なものではないでしょうか。 

もうひとつは核の小型化です。長距離弾道ミサイルを戦略兵器とするためには、核弾頭の小型化が不可欠です。長距離弾道ミサイルにはビルを狙い撃ちするようなピンポイント攻撃能力はありません。だからこそ弾頭に大きな破壊力を持つ核兵器を搭載することで数km圏内をなぎ払うというのが、長射程の戦略級弾道ミサイルの使い方です。「火星14」のようなICBMは核とセットでなければならないのです。水爆実験発表や度重なる核保有宣言が示すとおり、北朝鮮はこのことをよく分かっています。北朝鮮が核兵器の運搬手段として弾道ミサイル開発にいかに真剣に取り組んでいるかはこれまでの陸上発射型弾道ミサイルを見ても分かりますし、近年は潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)開発まで始めました。  

米国防総省などでは、北朝鮮はすでに核弾頭小型化の技術を一定程度まで確保しているとの見方で(立証はできていないようですが)、その前提でミサイル防衛網を構築しています。


迫られる難しい対処

他方で、北朝鮮の一挙手一投足になんらかのメッセージを読み取ろうとし、それに動揺することで波紋が広がっていくこともまた国際政治の歴史で繰り返されてきた一幕ではないでしょうか。我が国のイージス・アショア導入検討や米国のハワイ州でのICBM対応策定なども、波紋のひとつです。

すでに北朝鮮の核+ミサイル開発をめぐる状況は「危機」レベルに入っているものの、残念ながら彼らは国際秩序に従う存在でなく、従わせるべき手立てもほとんどありません。「危機」においてその状況を管理する手段となる対話さえも拒否している状況ですから、米国による武力を背景とした現在のレベルでの強制外交も奏功していません。特効薬となるカードなどはありません。いわゆる 「外科的攻撃(サージカル・ストライク)」も現実的に選択するのは極めて難しいでしょう。

北朝鮮に「現時点では」米国と武力衝突をする意図がなかったとしても、彼らが核+ミサイルを順調に開発していくことで誤解と誤算によって生まれるリスクは大きくなる一方です。

 オバマ政権で国家安全保障会議軍備管理・不拡散を担当したジョン・ウォルフサルのコメントが現状を簡潔に説明していました。いわく「北朝鮮の核武装化により、危機は意思決定と警告のための時間を大幅に削られたものとなり、エスカレーションがあっという間に発生する」、「核ICBM装備の金正恩という幻影は危機を新たなレベルへと向かわせるが、我々がしばらく直面している脅威の本質を変えるものではない」、「北朝鮮による核兵器使用の抑止と、核兵器使用に関するいかなる動きも自殺行為であることを我々ははっきりさせなければならない」( ワシントンポスト)。

まあ、オバマ政権は何をやっていたんだ、というツッコミはさておき、ウォルフサルのような閣僚経験者も「北朝鮮が核保有国である」ことは既成事実なんですよね。現実を再確認させられます。

なお、北朝鮮のICBMは米本土(CONUS)を狙うものであって、せいぜいハワイを攻撃するかもしれない、というものです。日本や韓国へは「ノドン」、「北極星2号」、「スカッド」シリーズが専用に整備されており、わざわざ虎の子のICBMをロフテッド軌道で発射するメリットが北朝鮮にはありません。可能性としてゼロではありませんが、蓋然性の低さから見て考慮に値しません。上述のとおり、ロフテッド軌道での発射実験は日本のBMDを回避する目的というよりは、ICBMの再突入体試験という意図を持っていると愚考します。

それゆえ、というのもおかしな話ですが、「火星14」のようなICBM級はその到達高度からもSM-3やTHAAD、PAC-3では迎撃できるものではありません。これらは短距離、準中距離、中距離弾道ミサイルを迎撃することを目的に設計されています。北朝鮮が米本土を攻撃する際の迎撃ミサイルはアラスカとカリフォルニアに配備された「GBI」です。


北朝鮮のICBMは使い物になるのか?

米国防情報局(DIA)によると、2018年には北朝鮮がICBMの大量生産と配備を開始する見込みのようです(ワシントンポスト)。果たして北朝鮮のICBMは実戦運用に耐える代物なのでしょうか?

前回の「火星14」の試射時、航空宇宙工学者のジョン・シリング氏が『38 North』において試算したところによると、弾頭重量500kgでようやく射程9,700kmとなり、サンディエゴ海軍基地に届くかもしれないと分析しています。ただし、上記は数字としての可能性を上げているに過ぎず、著者本人もペイロードが何であるかによって話は変わってくるとしています。シリング氏は、2017年7月4日の「火星14」にはシュラウドがつけられており中に何があるかは不明で、いつもの弾頭は搭載できないとした上、現在確認されているbluntな弾頭では精度もかなり悪いものだと分析しています。 CEPは3〜5kmといったとこではないでしょうか。

米国防総省は「ICBM級である」という以上の評価を下していません。すなわち、5,500〜kmの射程であるというのが米国による現時点での公式見解です。

「火星14」は今はまだゲームチェンジャーではありませんが、北朝鮮の弾道ミサイル開発状況を観察していると、いつ本物のゲームチェンジャーが現れるかはもはや時間の問題です。『ワシントンポスト』紙上にてモントレー国際大学院ジェームズ・マーティン不拡散研究所(CNS)上級研究員メリッサ・ハンハム氏が言及しておられるように、 "Is this particular ICBM going to hit D.C.? No. But are they working toward it? Yes"というのが、北朝鮮のICBMの現在地ではないでしょうか。