米国には、CPGS(Conventional Prompt Global Strike:通常兵器型即時地球規模攻撃)構想というものがあります。これは、「地球上のあらゆる場所へ1〜2時間以内に通常兵器による攻撃を行う」というコンセプトです。核抑止力の「一部」の代替、もしくは通常戦力と核戦力の「隙間」を埋めるニッチなシステムとして期待され、研究・開発が手がけられています(CPGS関連記事はこちら)。
再突入体や極超音速機の運搬プラットフォームは、ICBM、SLBM、または戦略爆撃機が用いられ、極超音速巡航ミサイルや、無人機も候補として研究されています。メリットはなんといってもその速度に由来するもので、探知されづらく、迎撃の機会・時間を相手に与えない生残性です。また、終末速度では弾道ミサイルにかなり劣るものの、攻撃の精度は弾道ミサイルよりも優れているとされます。
陸海空軍、国防高等研究計画局(DARPA)、そして国防省全体や米議会、NASAにまでまたがる構想であることから、なかなか総括して見ることは簡単ではありません。米国がCPGSにどのような役割を与えようとしているのか、どのような課題を認識しているのかといった点を体系的に把握する上で役立つのが、2011年に米議会調査局から発行された報告書『[PDF] Conventional Prompt Global Strike and Long-Range Ballistic Missiles: Background and Issues』です。要約したものを記事にしてあります。
そのCPGSに関する新たな議会報告書が公開されました。2015年版、2017年版と読み比べてみたので、本稿では2019年の現状をざっくりとメモしておこうと思います。
上記以外にも、開発中だったり構想中のものについてもいくつか紹介がありました。
潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)
長距離爆撃機
潜在的な脅威についても言及されています。
米国がこの種の極超音速ミサイルに対する防衛能力がないことも懸念されています。
本報告書では他にもCPGSの理論的位置づけやリスクなどについても言及されています。過去の報告書で指摘されている内容と重なる点が多いため割愛しましたが、興味深い指摘もあるのでお時間のある方は是非。
再突入体や極超音速機の運搬プラットフォームは、ICBM、SLBM、または戦略爆撃機が用いられ、極超音速巡航ミサイルや、無人機も候補として研究されています。メリットはなんといってもその速度に由来するもので、探知されづらく、迎撃の機会・時間を相手に与えない生残性です。また、終末速度では弾道ミサイルにかなり劣るものの、攻撃の精度は弾道ミサイルよりも優れているとされます。
陸海空軍、国防高等研究計画局(DARPA)、そして国防省全体や米議会、NASAにまでまたがる構想であることから、なかなか総括して見ることは簡単ではありません。米国がCPGSにどのような役割を与えようとしているのか、どのような課題を認識しているのかといった点を体系的に把握する上で役立つのが、2011年に米議会調査局から発行された報告書『[PDF] Conventional Prompt Global Strike and Long-Range Ballistic Missiles: Background and Issues』です。要約したものを記事にしてあります。
そのCPGSに関する新たな議会報告書が公開されました。2015年版、2017年版と読み比べてみたので、本稿では2019年の現状をざっくりとメモしておこうと思います。
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[PDF] Amy F. Woolf, Conventional Prompt Global Strike and Long-Range Ballistic Missiles: Background and Issues, 米議会調査局, January 8, 2019.
海軍の計画
- 2017年10月、潜水艦に搭載されるブースターとグライダーの飛行試験「CPS FE-1」に成功(参照:USNI News)。3,700km以上飛行。
- ベネディクト中将は、海軍はオハイオ級SSGNとヴァージニア級の弾道ミサイルを通常弾頭システムへ替えるかもしれないと言及。
- FY2020に2度目の飛行試験を実施する予定で、FY2019予算案が要求されている。
- FY2019〜FY2022の予算は計19億ドルとなり、過去5年間の2倍となる。
HTV-2
- FY2018の予算は100万ドル。各種研究は継続するが、飛行試験は予定されていない。
陸軍先進型極超音速兵器:AHW
- HTV-2よりも射程が短いため、前方展開させる必要がある。
- FY2017は1億7,400万ドル、FY2018は1億9,740万ドル、FY2019は2億6,340万ドルが当てられている。
- 2011年11月17日に初飛行試験を行い、成功*1。4,400km飛行した。
- 2014年8月25日に2度目の飛行試験を行い、失敗*2。
- 2017年10月、“scaled” version(縮尺版?)での飛行試験「CPS FE-1」を行い、成功。試験では陸上から発射されたが、scaled versionは潜水艦発射型弾道ミサイルに搭載される。
- 2018年、国防総省は陸海空軍がAHWを共同開発し、2020年初期までに共有の極超音速滑空体を配備するとした。海軍はAHWを潜水艦発射型CPGS計画の一部として配備し、空軍は極超音速通常攻撃兵器(HCSW/Hacksaw)に用いる予定。現在、CPS計画の最有力候補は、この潜水艦発射型中距離弾道ミサイルにAHWを搭載したものである。
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上記以外にも、開発中だったり構想中のものについてもいくつか紹介がありました。
陸上発射型弾道ミサイル
- 長距離弾道ミサイルに通常弾頭を搭載したものは、準備態勢が整っており運用実績も高い。前方展開する必要もないことから、PGS任務に合致する。しかし、弾道ミサイルと同じ軌道を描くことから、核兵器の発射と誤認する危険が高い。
- 準中距離・中距離弾道ミサイルを米国外に配備する選択もある。この場合、無誘導弾頭または極超音速滑空体を搭載する。ICBMの軌道とは異なるため、誤解・誤認を回避できるかもしれない。
- このミサイルが射程5,500km未満である場合、INF条約に抵触する。ロシアがINF条約に背いていることに対して、米国は条約からの離脱を表明している。FY2018国防権限法は、国防総省に対して射程500〜5,500kmの通常型移動式陸上発射巡航ミサイルシステム(conventional road-mobile ground-launched cruise missile system)の開発計画を立てるよう命じている。そのため国防総省は2018年7月に6,500万ドルを陸上発射型極超音速能力の開発のために要求し、FY2018、FY2019に合わせて1億7,000万ドルを要求した。
潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)
- SLBMへ通常弾頭を搭載する利点は陸上発射型弾道ミサイルと同じであるが、誤認リスクの点でも同じである。いくつかの報告によると、ロシアの米SLBMに対する監視能力はICBM監視能力に比べて劣る。それゆえ、ロシアがSLBMの発射を探知した場合、彼らは核攻撃を受けたと結論付けるかもしれない。
- 一方、トライデントを搭載して戦略パトロールをする潜水艦は、通常弾頭ミサイルを発射するのであればロシアや中国の上空通過を避けて対象を攻撃するために移動しなければならない。これは紛争発生前に米国が潜水艦を発射ポイントへ移動する時間があるという前提だが、想定外の紛争開始に即応するミサイルの発射というPGS任務とは外れたものとなる。
長距離爆撃機
- 空軍は2022年までに極超音速通常攻撃兵器(Hypersonic Conventional Strike Weapon (HCSW/Hacksaw))システムを開発する。HCSは固体燃料GPS誘導システムで、AHWをB-52から投下、発射する。2019年4月に空軍はロッキードマーチンと9億2,800万ドルの契約を結んだ。
- 空軍には、タクティカル・ブースト・グライド(Tactical Boost Glide (TBG))システムという計画もある。CAV/HTV-2や陸軍のTactical Missile System (ATacMS)の別バージョンに似た滑空体である。2018年8月、ロッキードマーチンと4億8,000万ドルの契約も結び、空中発射・即応兵器(air-launched, rapid-response weapon (ARRW))という計画のもと、2020年には戦力化される。
潜在的な脅威についても言及されています。
- ロシアと中国は、極超音速滑空システムや極超音速巡航ミサイルを開発している。
- マイケル・グリフィン米国防次官(研究・工学担当)によると、米中間の極超音速兵器開発のギャップは不安定を生んでいるという。米国が自身の極超音速ミサイルを持たないために、中国が太平洋の米軍基地や空母を極超音速ミサイルで攻撃し始めた場合、「道を譲るか核攻撃だ」となってしまうと指摘する。
- 2018年12月にロシアが「アヴァンガルド」極超音速滑空兵器の試験を実施。ロシアの南西部から5,600kmを飛翔し、カムチャッカ半島へ着弾したとされる。滑空体はSS-19弾道ミサイルに搭載されていた(通常6発の核弾頭を搭載。滑空体は3発搭載可能と見られる)。
- メディアによると、この滑空体は予測可能な機動をたどらないので、既存の対ミサイル防衛では迎撃できないと言われる。ただし、専門家はアヴァンガルドが米国にとって新たな脅威となったり核抑止に新たな問題を起こすことにはならないとしている。というのも、そもそも米国はロシアの長距離弾道ミサイルを迎撃するミサイル防衛能力を持ってもないし開発もしていないからである。既存のミサイル防衛はアジアや中東からの準中距離・中距離弾道ミサイルへの迎撃を指向している。アラスカやカリフォルニアにわずかの長距離弾道ミサイルへの迎撃ミサイルが配備されているが、ロシアからの攻撃を防ぐには質も量も不足である。
米国がこの種の極超音速ミサイルに対する防衛能力がないことも懸念されています。
- FY2017国防予算案は、米国や同盟国、在外米軍に対する極超音速ブースト滑空体や通常型即時攻撃(CPS)能力への対処能力を開発するよう命じている。FY2019予算には、極超音速ミサイルの探知と防衛用の宇宙配備センサーのプロトタイプ開発を空軍とミサイル防衛局に命じ、4,200万ドルがあてられている。
- 2018年に、グリフィン米国防次官は米中間の極超音速兵器開発のギャップに対して懸念を表明したうえで、「米国はこれまで、そしてこれからもこの研究分野において世界最先端である。その地位を維持するために研究への投資を増やさなければならない」と述べた。
本報告書では他にもCPGSの理論的位置づけやリスクなどについても言及されています。過去の報告書で指摘されている内容と重なる点が多いため割愛しましたが、興味深い指摘もあるのでお時間のある方は是非。