速報性は皆無ですが、北朝鮮のミサイル発射に関してメモ代わりの更新。
『38North』が端的に分析してくれています。
最大到達高度は50kmで、80〜90kmのスカッドとは異なる平らな軌道を描きます。CEP(ミサイルの精度)はGPSやGLONASSによる衛星誘導と空力操舵で約20〜50m。
北朝鮮がどのようにしてイスカンデルの技術を獲得したかについて確証はないものの、IISSのElleman上級研究員は先の引用記事で、(1)ロシアから直接輸入された、(2)技術的な資料を獲得して支援の有無にかかわらず北朝鮮で製造された、(3)ウクライナから取得した、という3つの可能性を示唆しています。ただし、ウクライナのイスカンデル自体が開発初期段階にあるため、その蓋然性は高くないのではないでしょうか。
同日に相次いで発射された300mm多連装ロケット砲「KN-09」のオリジナルとされている中国のWS-1B 302mm4連装自走ロケット砲が、野砲と短距離弾道ミサイルのギャップを埋めるべく配備されています。これと同じように、地対地巡航ミサイルを持たない北朝鮮にとっては、イスカンデルが、ロケット砲とスカッド短距離弾道ミサイルシリーズとの間にあるギャップをシームレスに埋める役割を果たそうとしているのかもしれません。
大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではないので、「ミサイル発射凍結(モラトリアム)」違反ではない、というような報道もありますが、現在の北朝鮮は、そもそもミサイル技術に関する活動を厳しく制限されています。人工衛星だろうと核兵器だろうと、北朝鮮によるロケット/ミサイル発射は、国連安全保障理事会決議1695、1718、1874への違反ということになります。
さらには、昨年4月に結ばれたばかりの「板門店宣言」にも違反しています。形骸化しているとはいえ日朝平壌宣言にも違反しています。
イスカンデルよりもさらに射程の短い「KN-02」(約140km)が2007年に発射された際には日本のメディアも“短距離ミサイル”という用語を使っていることをみても、今回の“飛翔体”という表現は政治的な産物であることが分かります。
ちなみに、北朝鮮によると、“今回のミサイル発射は予告なしに抜き打ちした火力打撃訓練であり、いずれかの国を挑発するものではない”(朝鮮中央通信)、としています。確かに、北朝鮮はこうした訓練を以前から実施しており、2014年にもスカッドとKN-09、240mmロケット砲を用いた同様の訓練を重ねています(Missile Threat)。米朝、米韓で対話が進む流れを断ち切る形での演習とはいえ、米韓も規模を縮小したとはいえ合同演習を実施していますから、北朝鮮の立場からするとイーブンなのでしょう(いろいろ違反してますよ、というのは無視していますが)。
液体燃料のスカッドBでさえも、TEL(輸送式起立発射車両)に燃料を注入したまま1年配置させられ、15分以内に発射可能である、とのこと。
今回の発射に関する報道を見ていると、イスカンデルに対してはミサイル防衛が機能しないという懸念もあるようです。確かに、SRBMの増量によってMD網を物量で押し切るという発想が韓国にとって脅威であることは事実です。機能としてパトリオット・システムやTHAADが対応できるのは間違いないので、あとは迎撃ミサイルの数との追いかけっこですね。むしろ、KN-02のような多連装ロケット砲を迎撃するアイアン・ドームのようなシステムが無いことの方にいずれ韓国で不安が大きくなるのでは、と愚考します。
日本もノドン、北極星2号といった準中距離弾道ミサイル群に狙われていますが、いうまでもなく韓国はスカッドシリーズ、イスカンデルの短距離弾道ミサイル以外にも多数のロケット砲への配慮を考えなければいけません。韓国にしてみれば、軍事的に十分な態勢を整えるのは難しく、外交的に平壌へ秋波を送るのも理解できなくはないですけども。
いずれにしても、対北融和へ驀進していた文在寅政権へのダメージは大きなものになりました。北朝鮮の信頼もこれ以上下がることはありません。誰もミサイル開発をやめるとは思ってなかったですしね。
短距離弾道ミサイル「イスカンデル」
多くの専門家の見方が一致している通り、北朝鮮が発射したのは、ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」です。It looks almost exactly like the Russian Iskander solid SRBM (left). The dimensions are the same, but the fins seem to be a little different than those of the Iskander-M, and the shape of the payload shroud might be a little off. 2/10 pic.twitter.com/vvTd025I79
— Markus Schiller (@RocketSchiller) 2019年5月5日
『38North』が端的に分析してくれています。
Michael Elleman, North Korea’s Newest Ballistic Missile: A Preliminary Assessment, MAY 8, 2019.イスカンデルはいくつかのバージョンがあり、今回、北朝鮮が発射したものは輸入版のイスカンデルEと同様の仕様で、弾頭重量が450〜500kgで射程はおよそ280km(ミサイル技術管理レジーム(MTCR)に抵触しない射程制限)とされます。今回の実験では約220km飛翔、最大射程は450kmに達するとミドルベリー国際大学院モントレー校東アジア核不拡散プログラム部長のジェフリー・ルイス氏は推測しています。
最大到達高度は50kmで、80〜90kmのスカッドとは異なる平らな軌道を描きます。CEP(ミサイルの精度)はGPSやGLONASSによる衛星誘導と空力操舵で約20〜50m。
北朝鮮がどのようにしてイスカンデルの技術を獲得したかについて確証はないものの、IISSのElleman上級研究員は先の引用記事で、(1)ロシアから直接輸入された、(2)技術的な資料を獲得して支援の有無にかかわらず北朝鮮で製造された、(3)ウクライナから取得した、という3つの可能性を示唆しています。ただし、ウクライナのイスカンデル自体が開発初期段階にあるため、その蓋然性は高くないのではないでしょうか。
同日に相次いで発射された300mm多連装ロケット砲「KN-09」のオリジナルとされている中国のWS-1B 302mm4連装自走ロケット砲が、野砲と短距離弾道ミサイルのギャップを埋めるべく配備されています。これと同じように、地対地巡航ミサイルを持たない北朝鮮にとっては、イスカンデルが、ロケット砲とスカッド短距離弾道ミサイルシリーズとの間にあるギャップをシームレスに埋める役割を果たそうとしているのかもしれません。
いかなるロケット/ミサイル発射も安保理決議違反
発射されたものが、短距離弾道ミサイルであることが明らかであるにもかかわらず、日米韓は“飛翔体”というような表現を用いています(米国はミサイルだと姿勢を改め始めていますが)。宮本悟聖学院大学教授が指摘するように、これは北朝鮮との対話を継続することが目的です。大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではないので、「ミサイル発射凍結(モラトリアム)」違反ではない、というような報道もありますが、現在の北朝鮮は、そもそもミサイル技術に関する活動を厳しく制限されています。人工衛星だろうと核兵器だろうと、北朝鮮によるロケット/ミサイル発射は、国連安全保障理事会決議1695、1718、1874への違反ということになります。
さらには、昨年4月に結ばれたばかりの「板門店宣言」にも違反しています。形骸化しているとはいえ日朝平壌宣言にも違反しています。
イスカンデルよりもさらに射程の短い「KN-02」(約140km)が2007年に発射された際には日本のメディアも“短距離ミサイル”という用語を使っていることをみても、今回の“飛翔体”という表現は政治的な産物であることが分かります。
ちなみに、北朝鮮によると、“今回のミサイル発射は予告なしに抜き打ちした火力打撃訓練であり、いずれかの国を挑発するものではない”(朝鮮中央通信)、としています。確かに、北朝鮮はこうした訓練を以前から実施しており、2014年にもスカッドとKN-09、240mmロケット砲を用いた同様の訓練を重ねています(Missile Threat)。米朝、米韓で対話が進む流れを断ち切る形での演習とはいえ、米韓も規模を縮小したとはいえ合同演習を実施していますから、北朝鮮の立場からするとイーブンなのでしょう(いろいろ違反してますよ、というのは無視していますが)。
質より量で押し切る?
軍事技術的には固体燃料のイスカンデルが液体燃料のスカッドよりも運用上の取り回しが良さそうな気がしますが、実際にはそれほど大きな飛躍はない、とBulletin of the Atomic ScientistsのMarkus Schiller氏は指摘しています。Great article! But, once again: The notion that solid-fuel missiles are “more stable to transport and doesn’t require time-consuming preparations before launch, making the missiles easier to hide and ready to launch at short notice” is wrong. 1/3 https://t.co/T1OBqUmz93
— Markus Schiller (@RocketSchiller) 2019年5月7日
The R-17/Scud B, for example, could sit for 1 year on its TEL fueled and ready, to be launched within 15 min, which was mostly due to the 1950s guidance system. 2/3
— Markus Schiller (@RocketSchiller) 2019年5月7日
液体燃料のスカッドBでさえも、TEL(輸送式起立発射車両)に燃料を注入したまま1年配置させられ、15分以内に発射可能である、とのこと。
今回の発射に関する報道を見ていると、イスカンデルに対してはミサイル防衛が機能しないという懸念もあるようです。確かに、SRBMの増量によってMD網を物量で押し切るという発想が韓国にとって脅威であることは事実です。機能としてパトリオット・システムやTHAADが対応できるのは間違いないので、あとは迎撃ミサイルの数との追いかけっこですね。むしろ、KN-02のような多連装ロケット砲を迎撃するアイアン・ドームのようなシステムが無いことの方にいずれ韓国で不安が大きくなるのでは、と愚考します。
日本もノドン、北極星2号といった準中距離弾道ミサイル群に狙われていますが、いうまでもなく韓国はスカッドシリーズ、イスカンデルの短距離弾道ミサイル以外にも多数のロケット砲への配慮を考えなければいけません。韓国にしてみれば、軍事的に十分な態勢を整えるのは難しく、外交的に平壌へ秋波を送るのも理解できなくはないですけども。
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いずれにしても、対北融和へ驀進していた文在寅政権へのダメージは大きなものになりました。北朝鮮の信頼もこれ以上下がることはありません。誰もミサイル開発をやめるとは思ってなかったですしね。