北朝鮮が、5月4日に続いて9日にも再びミサイルを複数発射しました。4日に発射されたとみられる短距離弾道ミサイルが、今回も含まれていた模様です。

いかなるロケット/ミサイル発射も安保理決議違反

大陸間弾道ミサイル(ICBM)や中距離弾道ミサイル(IRBM)ではないので、「ミサイル発射凍結(モラトリアム)」違反ではないし挑発的ではない、というような報道もあります。しかし、現在の北朝鮮は、そもそもミサイル技術に関する活動を厳しく制限されています。人工衛星だろうと核兵器だろうと、北朝鮮によるロケット/ミサイル発射は、国連安全保障理事会決議1695、1718、1874への違反ということになります。

さらには、昨年4月に結ばれたばかりの「板門店宣言」にも違反していますし、形骸化しているとはいえ「日朝平壌宣言」にも違反しています。

まず、北朝鮮によるミサイル発射が国際秩序に挑戦するものであることは、毎回押さえておきたいところです。


短距離弾道ミサイルは「イスカンデル」派生型

北ミサイル、分析が遅れている理由は「新型兵器システムの可能性」=韓国国家情報院(2019/5/10 Yahoo)
北朝鮮が4日と9日に発射した中に、従来北朝鮮が試射した事が確認されていないミサイルがあり、これが新型かどうかも含めてまだ確定されていません。朝鮮中央通信は4日、“戦術誘導兵器を発射した”と発表しましたが、これもミサイルの詳細についての言及はありませんでした。

ただし、朝鮮中央通信が発表した実験の写真をみれば、これはロシアの「イスカンデル」短距離弾道ミサイルに瓜二つです。
iskander.kcna.may
専門家の多くも北朝鮮版イスカンデルとして分析しています。

韓国の国家情報院などが「新型ミサイル」という見方をしているのは、前拙稿に書いた通り政治的な産物です。外見から推測される当該ミサイルが「イスカンデル」のシリーズであることはほぼ間違いありません。

一方、発射されたミサイルがずいぶんと低く飛翔するな、という印象は私個人も抱きました。

約420km飛翔する弾道ミサイルだと、到達高度は約100kmを少し超えるくらいをイメージしますが、「北朝鮮版イスカンデル」は約50kmと、いわゆるディプレスト軌道を描いています。

下図は、北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12」の弾道側視図ですが、ロフテッド軌道、最小エネルギー軌道(MET)、ディプレスト軌道の参照となります。

trajectory
ミサイル入門教室より、Lofted、MET、Depressed)

同じ重量でも到達高度の低いディプレスト軌道は燃料に余裕があるため、発射角度が45度くらいのいわゆる最小エネルギー軌道(MET)よりも着弾までの時間は当然速くなります。同じ重量のミサイルをMETを描くように発射すれば、着弾までの時間はかかりますが、今度は当然遠くまで届きます。それゆえ(それだけではないですが)、飛翔距離が約420kmだった「北朝鮮版イスカンデル」の最大到達距離がMETでは約630kmと推定されています。


イスカンデルはイスカンデルでもM

4日の発射後には、ロシアの輸出版である「イスカンデルE」の技術だと愚考していたのですが、500kmを超えるとなると、ロシア軍に配備されている「イスカンデルM」と同等以上の仕様と考えられます。

イスカンデルMの発射実験はロシアでもしばしば行われています。ただ、今回の北朝鮮による実験まで知らなかったのですが、最大到達距離が500kmを超えるといわれるイスカンデルMは、実験では飛翔距離が約80km〜300kmあたりに抑えられています。また、到達高度はそもそも最大で50kmくらいのようです。
The Iskander-M weighs 4615 kg. It is system is equipped with two solid-propellant single-stage guided missiles, which use stealth technology. Each missile in the launch carrier vehicle can be independently targeted in a matter of seconds.

The missile cruises at hypersonic speed of 2100–2600 m/s (Mach 6–7). The high velocity of the missile allows it to penetrate antimissile defenses. Flight altitude is up to 6–50 km. Interval between launches: less than a minute. The missile can maneuver at different altitudes and trajectories and can turn at up to 20 to 30 G to evade anti-ballistic missiles. It is controlled in all phases of the flight with gas-dynamic and aerodynamic control surfaces. Targets can be located not only by satellite and aircraft but also by a conventional intelligence center, by an artillery observer or from aerial photos scanned into a computer.

The missiles can be re-targeted during flight in the case of engaging mobile targets, making it possible to engage mobile targets (including ships). The optically guided warhead can also be controlled by encrypted radio transmission, including such as those from AWACS or UAV. The electro-optical guidance system provides a self-homing capability. The missile's on-board computer receives images of the target, then locks onto it with its sight and descends towards it at supersonic speed. The circular error probable (CEP) is 5–7 meters.

Andrei Akulov, Russian Iskander-M Missile System: Credible Deterrent, Strategic Culture Foundation, 2016/9/19.
METを描くことがなく、基本的にはディプレスト軌道で飛翔し、マッハ6〜7の速度、大気圏内での機動などが、イスカンデルMの特長ということなのですね。

北朝鮮版イスカンデルも最大到達距離は600kmを超えるようですが、実運用でもMETで飛翔させるのではなく、高度50kmくらいで最大射程よりも近くに速く着弾させることを目指すのではないでしょうか。やはり北朝鮮が保有していない地対地巡航ミサイルのギャップを埋める役割を果たしているように愚考します。今後、北朝鮮が高度50kmを超えるようなMETで発射実験を繰り返せば、この考えはあっさり間違いとなるかもしれませんが。


ミサイル防衛を突破?

イスカンデルMの謳い文句は、速度と機動力でミサイル防衛を突破する、です。上述のとおり、ミサイルをディプレスト軌道で飛ばせば、METで飛翔するよりも速く着弾します。しかし、それはあくまでも「その重量のミサイルにしては」という話であり、どうも誇大広告気味です。

例えば、ある短距離ミサイルをブースター燃焼時間27秒、バーンアウト速度秒速2434m、発射角度18.1度とすると、最大到達高度が約39.5km、着弾距離が約421kmとなります。大雑把なざっくりとした参考程度のシナリオとなりますが、このような設定にして、これを北朝鮮の亀城から発射すると、着弾までの時間は約195秒。射程範囲は下図のようなイメージです。
iskander0511
これを約354km離れた韓国の烏山空軍基地にあるPAC-3が迎撃する場合、北朝鮮版イスカンデルが約285km飛翔し、高度34.7kmあたりまで下降したところで迎撃に成功します。北朝鮮版イスカンデルの速度が秒速2334m、PAC-3の速度が秒速1589mと、お互い妥当な速度です。進路や速度など設定の数値を多少変更してもやはり迎撃は難しいものではありません。

THAADの場合、最大到達高度40kmのディプレスト軌道なイスカンデルを迎撃するのは難しいでしょう。しかし、イスカンデルの発射角度が上がれば、PAC-3よりもTHAADの守備範囲となります。仮に発射角度20.8度だと最大到達高度は50.1kmとなり、射程は466km。高度は9日のミサイルとほぼ同じで、このケースだと烏山基地のTHAADが、高度48.57kmまで下降したイスカンデルを迎撃することができます。

機動も巡航ミサイルほどのものは期待できません。そもそもミサイルがそれほどの回避機動をとってしまえば速度とのトレードオフとなり、突入速度が落ちた弾頭は待ち構える迎撃ミサイルの格好の餌食となります。

PAC-3もTHAADも自らの守備範囲を北朝鮮版イスカンデルに突破される可能性は低いと言えます。あとはイスカンデルと迎撃ミサイルの数の問題や迎撃側の探知の問題ですが、イスカンデル程度の弾頭重量ですと、よほどの斉射をしない限り、在韓米軍を無力化するのは難しいでしょう。

とりあえずメモ代わりの更新でした。