(5th LD) N. Korea fires 2 short-range missiles into East Sea: JCS(2019/7/25 聯合ニュース)
北朝鮮が、5月(4日、9日)に続いて再びミサイルを2発発射しました。5月に発射したとみられる短距離弾道ミサイルと同じもの(2発目は新型という見方も)だと見られています。

いかなるロケット/ミサイル発射も安保理決議違反

大陸間弾道ミサイル(ICBM)や中距離弾道ミサイル(IRBM)ではないので、「ミサイル発射凍結(モラトリアム)」違反ではないし挑発的ではない、という見解もあります。しかし、現在の北朝鮮は、そもそもミサイル技術に関する活動を厳しく制限されています。人工衛星であろうと核兵器であろうと、北朝鮮によるロケット/ミサイル発射は、国連安全保障理事会決議1695、1718、1874への違反ということになります。

さらには、昨年4月に結ばれたばかりの「板門店宣言」にも違反していますし、形骸化しているとはいえ「日朝平壌宣言」にも違反しています。

まず、北朝鮮によるミサイル発射が国際秩序に挑戦するものであることは毎回押さえておきたいところですし、防衛省にもこの点は明言してほしいと考えています。

北朝鮮版イスカンデル(KN-23)

米統合参謀本部によると、2発のミサイルは、北朝鮮東岸の元山に近い虎島半島から輸送式起立発射機(TEL)を用いて発射されたようです。

1発は430km、もう1発が690km飛翔し、どちらも到達高度は50km。690km飛翔したミサイルについては、5月のものと比べて新型の可能性もあると報じられています。

現時点(2019/7/25/1800)では、いずれも「北朝鮮版イスカンデル(KN-23)」と見られます。20190725ranges

前拙稿でも言及しましたが、約400kmを超えて飛翔する弾道ミサイルだと、到達高度は約100kmを超えますが、KN-23は約50kmと、いわゆるディプレスト軌道を描いています。

下図は、北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12」の弾道側視図ですが、ロフテッド軌道、最小エネルギー軌道(MET)、ディプレスト軌道の参照となります。
trajectory
ミサイル入門教室より、Lofted、MET、Depressed)

同じ重量でも到達高度の低いディプレスト軌道は燃料に余裕があるため、発射角度が45度くらいのいわゆる最小エネルギー軌道(MET)よりも着弾までの時間は当然速くなります。同じ重量のミサイルをMETを描くように発射すれば、着弾までの時間はかかりますが、今度は当然遠くまで届きます。

KN-23の仕様等についての分析は、ミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)東アジア核不拡散プログラム部長のジェフリー・ルイス氏が端的にまとめています。
Preliminary Analysis: KN-23 SRBM (2019/6/9 James Martin Center for Nonproliferation Studies (CNS))

低い弾道軌道の意味

KN-23は、ロシア軍が配備している「イスカンデルM」と同等以上の仕様と考えられます

最大到達距離が500kmを超えるといわれるイスカンデルMは、ロシア軍による実験では、飛翔距離が約80km〜300kmあたりに抑えられています。また、到達高度はそもそも最大で50kmくらいのようです。
The Iskander-M weighs 4615 kg. It is system is equipped with two solid-propellant single-stage guided missiles, which use stealth technology. Each missile in the launch carrier vehicle can be independently targeted in a matter of seconds.

The missile cruises at hypersonic speed of 2100–2600 m/s (Mach 6–7). The high velocity of the missile allows it to penetrate antimissile defenses. Flight altitude is up to 6–50 km. Interval between launches: less than a minute. The missile can maneuver at different altitudes and trajectories and can turn at up to 20 to 30 G to evade anti-ballistic missiles. It is controlled in all phases of the flight with gas-dynamic and aerodynamic control surfaces. Targets can be located not only by satellite and aircraft but also by a conventional intelligence center, by an artillery observer or from aerial photos scanned into a computer.

The missiles can be re-targeted during flight in the case of engaging mobile targets, making it possible to engage mobile targets (including ships). The optically guided warhead can also be controlled by encrypted radio transmission, including such as those from AWACS or UAV. The electro-optical guidance system provides a self-homing capability. The missile's on-board computer receives images of the target, then locks onto it with its sight and descends towards it at supersonic speed. The circular error probable (CEP) is 5–7 meters.

Andrei Akulov, Russian Iskander-M Missile System: Credible Deterrent, Strategic Culture Foundation, 2016/9/19.
METを描くことがなく、基本的にはディプレスト軌道で飛翔し、マッハ6〜7の速度、大気圏内での機動などが、イスカンデルMの特長ということなのですね。

KN-23も同様に、低い弾道軌道をとることが運用上の要のようです。

ルイス氏と同じMIISのFerenc DV (@ferencdv) 氏は、低軌道KN-23は、(1)THAADのAN/TPY-2レーダーに探知されない、(2)巡航ミサイル「トマホーク」(マッハ0.75)を大きく超える速度によってTHAADシステム・パトリオットシステムをかいくぐる、(3)弾道ミサイルなので巡航ミサイルのような自律的な回避軌道をとるわけではなく、変化球でいうとナックルボールのような予測不可能な軌道をとりえる、というような特徴を指摘しています。

KN-23をMETで発射した場合、雑な計算ですが1,300kmを超える可能性がありますが、実運用でもMETで飛翔させるのではなく、高度50kmくらいで最大射程よりも近くに速く着弾させることを目指すのではないでしょうか。やはり北朝鮮が保有していない地対地巡航ミサイルのギャップを埋める役割を果たしているように愚考します。今後、北朝鮮が高度50kmを超えるようなMETで発射実験を繰り返せば、この考えはあっさり間違いとなるかもしれませんが。

ミサイル防衛を突破?

イスカンデルMの謳い文句は、速度と機動力でミサイル防衛を突破する、です。上述のとおり、ミサイルをディプレスト軌道で飛ばせば、METで飛翔するよりも速く着弾します。KN-23も本家ロシアの運用に近いところを辿っているように見えます。

また、“It is a direct threat to Seoul (I know, many missiles artillery are). Likely not Japan”と、Ferenc DV氏も言及している通り、すでにソウルや在韓米軍にとっては直接的な脅威です。最大射程を考慮すると、当然日本にも到達する弾道ミサイルではありますが、日本を攻撃するのはノドンや北極星シリーズで、それを迎撃する担当はSM-3とPAC-3ですから、KN-23とは別な話となります。


【2019/0726追記】

飛翔距離が2発とも約600kmに修正されました。
北ミサイル2発とも約600キロ飛行 「イスカンデルに類似」=韓国軍(2019/7/26 聯合ニュース)
繰り返しになりますが、KN-23に関して北朝鮮は到達高度と水平飛翔時の速度を重視していると考えられ、日米韓にとって飛翔距離はそれらを推定するための材料となります。しかし、日本を攻撃する際にKN-23を用いることは現時点で蓋然性が低いことから、日本に届くかどうかを議論する必要性は薄いと考えています。