「フィンランドが世界で初めてベーシック・インカムを導入。全国民に毎月11万円を支給へ」
以前、そんな報道が日本でも報じられたことを記憶している人はいるだろうか。ベーシック・インカムとは、その国の市民権を持つ人全員に、無条件で一定の現金を定期的に支給するという構想のこと。
その考え方自体は、200年近く前から繰り返し論議されてきた。それがついに導入されたということで世界の耳目を集めたのだ。ところが、その後の詳報によれば、これはフィンランド語が不自由な英国の記者の誤読に端を発した誤報であったらしい。 もっともまったく根拠がなかったわけではなく、フィンランドでは実際にシビラ首相によりベーシック・インカムの給付実験に向けた準備が進んでおり、導入に向けて本格的な検討が始まろうとしているようだ。
無条件給付で働かなくなる?
ベーシック・インカムの導入には、「市民の勤労意欲を削ぐ」などの反対意見がある。しかし、過去に行なわれた給付実験によると、現金を給付しても人々が生産活動に従事することをやめることはない、という結果も出ている。
ベーシック・インカムと生活保護の違いは、ベーシック・インカムはすべての人が無条件に対象になるのに対し、生活保護は財産や収入が極めて限られた人のみを「選別」して対象としていることだ。だが、この「選別」にこそ莫大なコストがかかっており、ベーシック・インカムを導入する最大の利点は、そのコストをなくせることだという見方もある。
全員が対象、選別にかかるコストを削減
若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」の代表の今野晴貴氏も、著書『生活保護─知られざる恐怖の現場』(ちくま新書)で、こう述べる。
「保護の対象者の絞り込みにかける費用、そして、保護開始後の監視にかける費用は、貧困の防止と自立の促進という制度本来の趣旨からすると、すべて『無駄』である。」
「対象を選別しようとするから、こうした『選別の費用』が生じるのだ。だから、もっとも低コストの福祉制度とは、一律の明快な基準で、誰も差別せずに福祉を給付することなのである」
行政と利用者に分かりやすいシンプルさ
ベーシックインカム世界ネットワーク理事の山森亮氏の著書『ベーシック・インカム入門』(光文社新書)によれば、アイルランド政府が2002年に出した「ベーシック・インカム白書」には、その利点について次のように書かれている。
・現行制度ほど複雑ではなく単純性が高い。行政にとっても利用者にとっても分かりやすい。資力調査や社会保険記録の管理といった、現行の行政手続きの多くはいらなくなる。
・自動的に支払われるので、給付から漏れるという問題や受給に当たって恥辱感(スティグマ)を感じるという問題がなくなる。ベーシック・インカム給付のために必要な増税は、ベーシック・インカムという形で市民に直接戻される。
どうだろか? シンプルさと公平性がベーシック・インカム構想の大きなポイントだということが分かる。
もともと生活保護制度自体も、国民の最低限度の生活水準を国家が保証するナショナル・ミニマムという考え方が基本になっている。そのコンセプトを突き詰めていけば、このベーシック・インカムに行き着くはずだ。
生活保護をはじめ、現状のセーフティネットの問題が山積する今、社会のあるべき姿を考える上でのひとつの基準として、ベーシック・インカムが議論されてもいいのではないだろうか。
(文=編集部)
http://healthpress.jp/2016/05/11.html
以前、そんな報道が日本でも報じられたことを記憶している人はいるだろうか。ベーシック・インカムとは、その国の市民権を持つ人全員に、無条件で一定の現金を定期的に支給するという構想のこと。
その考え方自体は、200年近く前から繰り返し論議されてきた。それがついに導入されたということで世界の耳目を集めたのだ。ところが、その後の詳報によれば、これはフィンランド語が不自由な英国の記者の誤読に端を発した誤報であったらしい。 もっともまったく根拠がなかったわけではなく、フィンランドでは実際にシビラ首相によりベーシック・インカムの給付実験に向けた準備が進んでおり、導入に向けて本格的な検討が始まろうとしているようだ。
無条件給付で働かなくなる?
ベーシック・インカムの導入には、「市民の勤労意欲を削ぐ」などの反対意見がある。しかし、過去に行なわれた給付実験によると、現金を給付しても人々が生産活動に従事することをやめることはない、という結果も出ている。
ベーシック・インカムと生活保護の違いは、ベーシック・インカムはすべての人が無条件に対象になるのに対し、生活保護は財産や収入が極めて限られた人のみを「選別」して対象としていることだ。だが、この「選別」にこそ莫大なコストがかかっており、ベーシック・インカムを導入する最大の利点は、そのコストをなくせることだという見方もある。
全員が対象、選別にかかるコストを削減
若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」の代表の今野晴貴氏も、著書『生活保護─知られざる恐怖の現場』(ちくま新書)で、こう述べる。
「保護の対象者の絞り込みにかける費用、そして、保護開始後の監視にかける費用は、貧困の防止と自立の促進という制度本来の趣旨からすると、すべて『無駄』である。」
「対象を選別しようとするから、こうした『選別の費用』が生じるのだ。だから、もっとも低コストの福祉制度とは、一律の明快な基準で、誰も差別せずに福祉を給付することなのである」
行政と利用者に分かりやすいシンプルさ
ベーシックインカム世界ネットワーク理事の山森亮氏の著書『ベーシック・インカム入門』(光文社新書)によれば、アイルランド政府が2002年に出した「ベーシック・インカム白書」には、その利点について次のように書かれている。
・現行制度ほど複雑ではなく単純性が高い。行政にとっても利用者にとっても分かりやすい。資力調査や社会保険記録の管理といった、現行の行政手続きの多くはいらなくなる。
・自動的に支払われるので、給付から漏れるという問題や受給に当たって恥辱感(スティグマ)を感じるという問題がなくなる。ベーシック・インカム給付のために必要な増税は、ベーシック・インカムという形で市民に直接戻される。
どうだろか? シンプルさと公平性がベーシック・インカム構想の大きなポイントだということが分かる。
もともと生活保護制度自体も、国民の最低限度の生活水準を国家が保証するナショナル・ミニマムという考え方が基本になっている。そのコンセプトを突き詰めていけば、このベーシック・インカムに行き着くはずだ。
生活保護をはじめ、現状のセーフティネットの問題が山積する今、社会のあるべき姿を考える上でのひとつの基準として、ベーシック・インカムが議論されてもいいのではないだろうか。
(文=編集部)
http://healthpress.jp/2016/05/11.html