2015年06月
2015年06月19日
イタリア人盆栽ツアー③
旅行で楽しみなのが食事です。今までに出会ったことのない味を味わえることは、やはり、知らない土地へ来た者の醍醐味であり、そこから異文化の理解が深まると言っても大げさではないと思います。
去年いらしたお二人は、日本食がほぼ初めてであったにもかかわらず、なんでもおいしく食べてくれたので、半分安心していましたが、残り4人の方の味覚がどんな風かやはり心配でした。というのも、イタリア人の中にはかなり味覚に保守的な人がけっこういることも事実です。時には通訳業務で出会うイタリア人が、まだ国を後にして数日しかたっていないのに、上寿司を前に大きなため息をついて、「ラザニアが食べたーい」などと言う人もけっこういますから。
自国のピザで数回「箸休め」。知っている味にほっと一息。
しかし、そんな心配も無用であることがすぐにわかりました。
「朝食日本一」を目指している初日に滞在した宇都宮のホテルは、その名に恥じずバラエティーに富んだ質の高いバイキング形式でした。パオロとララ夫妻は、多くの料理を無視しつつ、甘いパンとカップチーノで完全なるイタリア風ブレクファーストを食していたのですが、一旦皿が空になると、和食コーナーへ行って、みそ汁や変わりごはん、また少しして、焼き餃子、蒸し餃子へと、行ったり来たりしているのです。どんなに和食を愛するイタリア人でも、「朝食は甘いもので」と限定している人が多い中、これは私にとって嬉しい意外性でした。
そんな彼らが、日本滞在中、何を食べたかざっとご紹介します。
善光寺の蕎麦屋
まず、ラーメン、蕎麦、うどん類は何度も食べました。パーキングエリアの食堂の醤油ラーメンから京都の「黄金の出汁」で名高いうどんまで、色々なタイプの麺類でした。やはりパスタの国の人たちですから、ああいったものは大好きなようです。
2日目の夜は、以前ヴェネツィアへ行った仙台の方々が料亭で歓迎会をしてくれたので、八寸から始まってくずもちとお抹茶で締めくくる、いわゆる会席料理を和室で楽しむことが出来ました。
奈良では老舗の鰻屋さんでうな重を食べました。イタリアでも鰻を食しますが、日本のように蒸してから焼いて、タレをつけて...ということはしないので、また違ったおいしさを感じていたようで、山椒をパラリと振ってこちらも完食。
京都では旅館に宿泊したので、お部屋で鱧のお吸い物や鮎の焼き物など初夏らしい京料理を堪能しました。一品一品着物姿の女性がお給仕してくれる姿に感動していたようです。着物姿で何度も立ったり座ったりするからです。
大阪ではもちろんお好み焼き。街で一番人気のお店だというところへお連れしました。エプロンをつけて鉄板でジュージューいうのをいただきました。
お好み焼きは、イタリアにいる時、何度も友人たちに振る舞いましたが、ああいう味はとても好きなようです。粉もので言えば、今回タコ焼きも食べる機会がありましたが、タコ入りニョッキだと言って喜んで食べていました。
その他、写真にはありませんが、常滑ではエビフライ、小布施では栗ごはん、広島では牡蠣のオーブン焼きも食べました。牡蠣の養殖はイタリアではされてないので、ヴェネツィアの人たちによって牡蠣はそれほど身近に感じないようでした。
寿司は浅草雷門そばのお寿司屋さんで食べました。色々なネタが味わえる握りよりも、大トロがずらりと並ぶ丼ぶりが魅力的だったようです。生魚はヴェネツィアでも食べたことがあるけれど、やはり新鮮さが全く違うと言ってました。
魚と言えば、築地の魚市場へ朝一で見学に行こうという話しもありましたが、今回は時間一杯一杯で諦めることに。次回は是非行って、魚屋さんや漁師が通う食堂で朝食を食べよう、と話しました。
このようにあらゆる日本食に興味を示し、何でも挑戦してくれた皆さんでしたが、時々自国の味が恋しくなるのも当然で、何度かピッツァで「箸休め」しました。
生地がおいしいと褒めていましたが、もっと大きかったらと言って、男性たちは1枚半ずつ食べてました。
和食ではありませんが、焼き肉や中華料理も楽しみました。
色々訪れた町の中でも、小布施がとても気に入ったようです。
小さな町で、より日常の日本を感じたからだそうで、本当に数時間だけだったので、またいつか行きたいと皆さんが口を揃えます。
その理由は、もう一つあります。一泊だけでしたが小布施の夜は特別なものとなったからです。
埼玉からの移動で、小布施に到着するのは遅かったので、移動の車中、ネットで手に入れていた町の飲食店の電話番号に一つ一つ電話をして予約することにしましたが、もう閉店だという店ばかりで、その中でようやく一軒の飲み屋さんを夕飯の場所にすることとしました。これから外国人6人連れて行くという私に、女性の店主はちょっと驚いていたようでしたが、小布施ならではの物も出してくれると嬉しい、という私のリクエストにも「では、栗ご飯を炊きましょう」と言ってくれました。
私たちが店に入ると、もう出来上がっているサラリーマングループと入れ代わり、私たちだけの貸し切り状態となりました。その家庭的な雰囲気がすぐに皆さんの気に合ったようで、「ノリカはここに何度も来ているのか?初めて?でかした!」と褒められました。
「あり合わせで何とか出しますね」という店の人が、サバの味噌煮や、キュウリの糠漬け、小布施の新鮮な野菜と味噌ディップ、イカの天ぷらなど家庭料理が次々並びました。それぞれを食べて「おいしい、おいしい」と喜んでます。イタリア人は殊に、チェーン店や出来合いの料理を嫌います。こういった家庭的なお店がとにかく好きで、「そこにしかない」というものを断然評価してくれる人が多い気がします。
ある程度食べた頃、壁に立てかけてあるギターに気づいたパウロが、ポロロンと爪弾き始めると、男子たちが野太い声を上げて何やら合唱が始まりました。第一次大戦のアルプス軍の歌だそうで、とても勇ましい合唱でした。
よくよく歌詞に耳を傾けると、「愛する人」とか「花束」などというロマンチックな響きがあります。アルプスを行進していれば、高山に咲く素朴な花々が目につく。それを摘んで束にして故郷に残してきた恋人にプレゼントしよう、という内容。「もちろん、彼らは二度と恋人に会うことなく戦地に散ってしまったのよね」と、ちょっとうっすらと涙を浮かべて彼らの歴史の一片を語ってくれました。
それから、当時の戦争がどれほど悲惨だったか、ヴェネツィア人の歴史を知らない私に、6人の顔が私に注目し熱心に教えてくれます。彼らだけでなく、イタリア人というのは、祖父母や両親などから脈々と生まれ故郷の歴史を聞かされているからか、あたかも自分が体験したかのように、外国人の私にイタリアの歴史を熱心に話してくれることが多いです。イタリアの事、彼らの地域の歴史をもっと知らなくてはといつも思う瞬間です。
好評だったペンション「ヴァンベール」のおいしい朝食。
前日の楽しい夕べの話しで持ちきり。
パオロのギターはまだまだ続きます。ビートルズやルーチョ・バッティスティなど懐かしのメロディーを奏でると、みんなで大合唱。店のカラオケも使って何曲も歌っては踊ってはじける皆さんに私も嬉しくなりました。
地酒も沢山飲んでほろ酔い気分の後、〆の栗ごはんのおにぎりと味噌汁に舌鼓、デザートの小布施の林檎の冷たさも心地よく、本当に楽しい一夜でした。
計画性がないほうが時々大成功を収めるということがありますが、まさにこの夜は計画性のなかったことが、吉と出たという感じがします。
2015年06月11日
イタリア人盆栽ツアー②
10日の日本滞在中、イタリア人のお客様の希望に沿って、色々な盆栽園を訪れました。
まず、埼玉県川口市の深野さんの萬園。小品と呼ばれる小さな盆栽など品揃えの多さが自慢の園です。いつか盆栽を学びに数週間日本に滞在したいと思っているジャンニとパオロはそれが可能かどうか、通訳も一緒に連れて来ていいか、近くに宿泊施設があるかなど、詳細に訊ねてました。
盆栽の手入れの仕方なども次々に質問をして、深野さんの丁寧な説明をいただき、短い時間でしたが、とても満足したようでした。
埼玉県の伊那町へは世界的に有名な盆栽家木村さんの盆栽園のために行きました。
彼らがイタリア人と知ると、「最近こういう手紙をもらったんだよ」と、筆書きの熱烈な弟子志願書を見せてくれました。なんと17歳のイタリア人の男の子からで、盆栽に鋏を入れる真剣な横顔の写真も同封されていました。
木村さんのところだけでなく、今回訪れた盆栽園のほとんどが外国人のお弟子さんが学んでいました。住み込みで何年と学んでいくそうです。そうやって盆栽は世界に広がっているのだなぁと思いました。
さいたま市盆栽村では、竹山さんの芙蓉園と、加藤さんの蔓青園を訪れました。盆栽村には6つの盆栽園が存在します。関東大震災で被災した盆栽業者が、盆栽に適した広い地域を目指してこの地に移住したのが始まりとされています。こちら2園とも昨年も訪れたのですが、冬の真っただ中だった前回とはまるで様子が違い、緑が本当に美しく豊かでした。
竹山さんは以前、盆栽協会理事などの役職に就いていた偉い方です。竹山さんが昔担当したNHk趣味入門の本で盆栽のイロハを学んでいる私は、その穏やかな語り口と、遠いところからはるばるやって来た愛好家にどこまでも親切に対応して下さる真摯な姿勢に、密かに竹山さんのファンです。「雑木の芙蓉園」と言われるように、特に雑木作家として知られています。
蔓青園の加藤さんもお忙しい中とても親切に応対して下さいました。盆栽を愛する人を歓迎し、気を配って下さる姿に私は去年も感動しました。
そうこうしている間も、イタリアの方々は良い盆栽を買って帰る、という大きな目的があるものですから、海のごとく沢山並ぶ盆栽からより良いものを選び出し、「この値段はいくらか」、「もっとまけられないか」というような生臭い話が飛び交います。
そういった「駆け引き」に全く疎い東北人の代表のような私は、穏やかな笑顔を絶やさない盆栽家の方々に半分申し訳ない気持ちと、でもイタリアの方々に良い買い物をしてもらいたいという使命感がせめぎ合う中、冷や汗をかきかき交渉。
この時ほど、ああ、駆け引きにさばけた関西人になりたいと思ったことはありません。
汗を拭きながら、はたっと気づきました。ヴェネツィアは、東ローマ帝国内における免税特権を活用し、東西貿易や香辛料貿易の仲介人として膨大な富を築いた商人の町であることに!間に入って四苦八苦交渉する私に、「ノリカ、もう一声!がんばれ!」と、カツを入れるのは、彼らの血が成すものだということを知ったのでした。
盆栽村にある盆栽美術館は、訪れる海外からの入場者数が年々増えていると先日ニュースで聞いたばかりです。現在、さつきの盆栽展をやっていているということで、こちらもじっくり見たかったのですが,生憎時間がなく、また再来年に開催される盆栽世界大会に戻ることを約束して、長野県小布施に向かいました。
小布施には、鈴木さんの素晴らしい盆栽園美術館があるからです。あいにくおばあ様が他界されたということでマエストロにお会いすることが出来ず、イタリア人の皆さんは残念な様子でしたが、奥さまと温かい歓迎と、お弟子さんの丁寧な説明を受けて感激していたようです。
西に足をのばして、大阪の池田にある藤光華園も見学しました。
ここでも盆栽の手入れをするお弟子さんに色々質問をしていました。
東京では、江戸川区新堀にある春花園へ行きました。
「これからイタリアの方を連れて行きます」と電話を入れると、早速トリコロールの国旗を掲げてお迎えくださいました。
10億円をかけたと言われる盆栽美術館が敷地にあり、いくつかの床の間を見学することで、掛け軸と盆栽のバランスなどを学ぶことが出来たようです。当主の小林さんは数日前に海外から戻ってきたばかりで、来月もまた外国へ出かけると話し、海外で盆栽が大変人気だということでした。(一番上の写真も春花園の庭園)
愛知県岡崎では、鈴木さんの大樹園を訪れました。これもイタリア人の皆さんに教えてもらったことですが、現当主の鈴木さんのおじい様が黒松の短葉法という技法をあみ出し、瑞祥と言う樹種を世に生み出したというすごい一族です。本当に気さくに肥料のことや剪定の仕方など丁寧に教えて下さいました。
盆栽園だけでなく、盆栽鉢の80%が常滑焼だということで、常滑にも足をのばし、有名な鉢作家、行山さんの作業場を訪れることが出来ました。盆栽愛好家ならば誰もが行山さんの作った鉢で、自分の盆栽を出展したいと夢見るそうです。盆栽を引き立てるも、台無しにしてしまうのも鉢であり、鉢が盆栽にとってどれだけ大切なものあるかも、イタリアの方々から教えてもらいました。
行山さんは何と私たちにサプライズを用意して下さっていました。ジャンニとパウロに直接鉢づくりを体験させてくれたのです。時間があまりない私たちのために、前日から粘土を用意して下さっていました。彼らは、あの行山さんの指導で鉢が作れるまたとない機会を得たということで、興奮しっぱなし。その姿はまるで小さな男の子でした。(写真は鉢を作り終えて、裏にサインを入れているところ)
2015年06月04日
イタリア人盆栽ツアー
ヴェネツィアから6名(3夫婦)のお客様がいらっしゃいました。通訳ガイドとして10日間案内します。
そのうちのお二人は昨年も来日されたトゼットご夫妻。お二人はヴェネツィアのサンマルコ広場にほど近いカンポ・サント・ステーファノという名前の広場に面したレストラン&バールを経営しています。その裏手にはお土産にもピッタリの郷土クッキーなどが並ぶおいしいケーキ屋さんもしています。
ちょっと昔の映像ですが、お店の雰囲気がわかるので、こちらにyoutubeを。
https://www.youtube.com/watch?v=Z0rbGd8CG_4
一瞬だけ正座
旦那さんのジャンニは盆栽が大好きで、今回は盆栽仲間のご友人夫婦、お姉さん夫婦と6名で来てくれました。ジャンニ夫妻以外の4人は日本が初めてですから、私も張り切ります。今回も盆栽をメインに栃木から広島までまわる予定です。
第一日目の今日は、全国一のさつきの産地として知られている鹿沼市へ行きました。この時期開催されている「鹿沼さつき祭り」がお目当てです。去年初めて2月に来日し、日本を発つ時には、「翌年の鹿沼のさつき祭りに合わせてまた来日するから、またノリカよろしくね!」と話していたことが実現したわけです。
全国各地の愛好家が丹精こめて育てた「さつき」約300点が展示される「さつき大展示会」をはじめ、数万本のさつきの展示即売や特産品の販売もあり、全国最大級の「さつき」のイベントです。
去年から少しずつ盆栽の事を勉強していますが、サツキの盆栽というのは他の植物の盆栽とは一線を画する違いがあるようだ、ということはちょっと理解しています。だからサツキ盆栽を育てる人は、他の盆栽は育てない、というくらいです。例えて言うならば、同じ菓子と言えども、洋菓子職人が和菓子を作らないのと同じだとある盆栽家の人が説明してくれました。
去年から楽しみにしていた「鹿沼さつき祭り」では、それはそれは見事な作品が並んでいたので、イタリアの方々は写真を撮ったり、上から見たり、下から眺めたりととても喜んでいました。