2020年02月12日

相馬・大宮へ盆栽作家めぐり

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現在、世界的に有名な盆栽展、国風展が東京上野で開催されているため、この時期、外国から多くの盆栽愛好家が日本に来ています。

昨日と今日は、そんな盆栽を愛してやまないイタリア人7名の案内をしました。そのうちの2名は盆栽インストラクターでした。

IMG_9760日本で、盆栽をしている人というと、大抵おじいさんです。国風展のような盆栽展に行けば、日本人だったらほぼ100パーセント60代以上。そこに40~50代の外国人愛好者がいる、というのが常です。

今回案内したイタリア人のみなさんも30代~50代でした。

移動中のタクシーの中で、盆栽歴を訊ねると、約20年ということ。その中で一番年若の人が言いました。「僕は高校生の頃、旅行先のドイツで、たまたま盆栽展を見る機会があって。見た瞬間、すぐに好きになったのだ」

仲間内でもそういう話はしないのか、この出会い話を聞いて、他の人たちが「へぇ」と言った後、「そうそう、(好きになるのに)一瞬で十分なんだよねー」と、同じ経験をしているらしく、みんな大きく頷いています。一緒に頷けない自分が残念でした。

それにしてもコロナウイルスで、先週、来日をキャンセルするのではない、かと少し思っていました。
「日本に来るの怖くなかったですか?」と訊ねると、「ぜんぜん!」との声。盆栽愛、おそるべし。

IMG_9753昨日は、開園90年以上という相馬の「ぼんさいや阿部」さんへお邪魔しました。

3年ほど前、イタリア人を連れて行ったたことがありました。今は2代目健一さんと3代目の大樹さんがいらっしゃいます。去年お二人でフィレンツェの盆栽展で、その技を披露するなど、イタリアとの繋がりもある方々です。

一代目の倉吉さんはイタリアでも有名な伝説の人です。
というのも、著書「五葉松盆栽の作り方」がフランス語、イタリア語にも翻訳され、現在も盆栽愛好家のバイブルとなっているそうです。

今回案内したイタリアの方々も、去年の盆栽展で阿部さんのアシスタントを務めた人もいて、1年ぶりの再会となりました。

今年は雪が少ない暖冬ですが、私達が到着した時、ちょうど吹雪いて、けっこう寒かったのですが、イタリア人のみなさんは、憧れの阿部さんが手懸けた五葉松がたくさん並んでいるのを見て、興奮しっぱなしです。

IMG_9730盆栽には、いわゆる「良し」とされる型があり、それを目指して盆栽を作るのがスタンダードとされていますが、阿部さんは吾妻山の五葉松の自然樹形から、どのような盆栽をつくるべきか学んでいるそうです。

初代の教えは、山から木を掘り出すのではなく、一つの種から育て上げる、というもの。並んでいる立派な盆栽は、すべて実生ですから、こんなふうに立派な盆栽になるには気の遠くなる時間と労力がかかっています。

最近の盆栽の分野は、商業的になりつつあり、盆栽が紋切り型になって、どれを見ても同じ、という印象があるのだそうですが、阿部さんの作る盆栽は、そういうものから離れたところにあって、イタリアの方々にも阿部家の盆栽哲学を感じるのだと思いました。

展示会を覗けば、猫も杓子も同じような形ばかりが目立つのだそうです。健一さんと大樹さんは初代の教えを守りつつ研究を重ねているのです。

中に入って、お茶をいただきながらもまだまだ盆栽談義が続きます。五葉松を育てる上での質問を健一さんに尋ねます。健一さんも久しぶりに盆栽の話を外国人にするということで、嬉しいとおっしゃってました。盆栽を愛するという気持ちが国境を超える、というのでしょうか。横で専門的な言葉を、大樹さんが私にわかりやすく言い換えてくださいます。

IMG_9752五葉松は、松と言っても、他の松とは手入れの仕方が違うところがあって、20年のキャリアを持つ人たちでも、知らないことばかりで、たくさん学んだようです。

「へぇそうだったのか!」とイタリア人が合点しているのをを聞くと、私も少し役に立ったみたいだ、と嬉しくなります。

午前中でお暇するはずが、質問コーナーが長引き、なんと大勢で押しかけたのにもかかわらず、お昼までご馳走になってしまいました。

健一さんの奥様の手料理はとてもおいしいです。イタリア人は「手作り」とか「その土地ならでは」というものを大切に、そして評価する人たちなので、福島の郷土料理に感謝して嬉しそうに味わっていました
         みなさん、とてもいい表情!
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2日目の今日は、大宮の川辺武夫さんという盆栽作家さんのところに訪問しました。

川辺さんは、海外へ盆栽の講師として招待され、なんとこの20年間で60回以上行ったそうです。だから、特に海外で知られている方。70歳を超えた現在は、海外へ行くのは止め、その分海外から多くの愛好家を迎えるようになったと話され、先月も、なんと30名のイタリア人盆栽愛好家が通訳なしでやって来て、「あの時は大変だったよ!」とおっしゃっていました。

イタリア人が水やり、肥料、植え替え、剪定、取り木、挿し木、ジン・シャリの技術などなど、いろんな質問をするのを一つ一つ丁寧に教えてくださいました。

時折手を大きく広げ、ジェスチャーを交え交え、情熱一杯で答えて下さる川辺さんの少し後ろで、奥様が冷静に、「おとうさん、長い長い。通訳さんが困るでしょ。」とおっしゃる絶妙なご夫妻の関係も素敵でした。

川辺さんの口癖は、「木の声を聞きなさい」です。木は一本一本違う。水が欲しいのか、どれだけ欲しいのか、それは木の声に耳を傾けて、自分で感じ取ることです。

インストラクターのマルコさんが書いた日本の歴史・文化をまとめた本をプレゼント
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イタリア人が「真夏、何時頃、水を与えますか?」という質問をしました。  

「逆に皆さんにお尋ねします。何時に皆さんは水をやりますか?」 

イタリアの皆さんは、暑い日中は避け、陽が沈んでだいぶ経って、鉢の熱がなくなった頃、もしくは朝涼しい時、と答えました。模範解答。私もそうだろうと心で思いました。

川辺さんは続けます。
「では、みなさんが日中、炎天下に立っていたらどうなりますか?」

「喉が渇きます」

「そうでしょう。私たち人間がそうなのだから、植物もおなじだと思うんです。だから私は日中の暑い時に、麦わらかぶって、水をあげます。その時は、地面にもたっぷりかけて、温度を下げるようにします。これが正しいかわかりませんが、ここにある盆栽すべてはこうして育てたものです」と、生き生きと元気な盆栽たちを見わたしながらおっしゃいました。その中には樹齢600年、1000年という真柏も並んでいます。

こうしたら、かっこいいという人間の勝手な「美を」木に押し付けるのではなく、木のみずみずしい生命を最優先にすること、美は人が創造するのではなく、命に宿るのですよ、まずは木が健康でなければ、ということも何度もおっしゃってました。

川辺さんは30歳までエンジュニアだったという異色の経歴をお持ちです。そのため、盆栽で使う道具や機械すべて自分で作るというオリジナルです。

私ははじめて知りましたが、イタリア人がジン・シャリの質問をしたところ、サンドブラスターを見せてくださいましたが、こちらも手作りだということでした。

最後に「加賀の一位」という作品を見せていただきました。
加賀藩が生け花などに使う素材にするため、金沢の山に植林したイチイが放置され、ジャングル状になってしまっているのに心痛めていた地元の方が、川辺さんに再生を依頼してきたのだそうです。

それまでに数人の盆栽家が挑戦したけれども、どなたも成功しませんでした。あまりに荷が重いので、初めは断ったそうですが、金沢の山に連れられて実物を見た時に、これは自分が再生させなくては、と思ったのだそうです。それほど痛々しかったようです。

イチイは弱酸性の土壌で育つ樹木ですが、加賀一位が植えられていた山は海が隆起したアルカリ性土壌。350年間かけて合わない土壌に順応し、川辺さんがあった時は、葉が黄色っぽく、何とか生きながらえている、という状態だったそうです。

すぐに弱酸性の土に移してしまっては、350年慣らされてきた土との違いに、木がびっくりするだろうと考え、段階を経て、少しずつ慣らしながら、鉢の中へ移動成功しました。

私たちが見た時は、美しい緑色が輝いていて木が嬉しそうでした。木の声を聞くというのはこういうことなのでしょう。加賀の一位12作品は、兼六園で披露されました。川辺さんに何度もお願いしてた地元の方は、その展示会を待たず、少し前に亡くなったということを聞くと、何だか川辺さんが木に呼ばれたような気がしました。

私達が見たのは、木製の「仕立て鉢」に入って、リラックスしたイチイでした。

盆栽に用いられる鉢には、仕立て用のものと観賞用の「化粧鉢」があります。仕立て鉢は培養するためのもので、木製の大きな箱や素焼きの鉢だったりです。大きな鉢でゆったりするのです。ちなみに苔も木には負担になるので、仕立て鉢に植えられている時は苔はつけません。

きっと兼六園で披露された時は、化粧鉢に入って、よそ行き顔になって美しかったのだろうなぁと思いました。

日本の盆栽家とイタリアの愛好家の間に立って、言葉を訳して伝えることは、難しいけれども、喜んでもらえるととても嬉しいです。私はイタリア人が好きなので、イタリア人に日本の盆栽の文化が伝わることは嬉しいです。

しかし一方で、盆栽展に行けば、日本の盆栽はお年寄りばかり。10年後の盆栽人口はどうなってしまっているだろう、真剣に心配になるほどです。

イタリアの盆栽展は、年配の人も若い人も色々な年代が混じって、盆栽が好きだという同じ気持ちが共通点で繋がっている感じです。

大げさかもしれませんが、盆栽の通訳をする時に、自分のすることが、日本のためになっていないような、自分の「立ち位置」に疑問を感じていました。これでいいのか、という気持ちがいつもありました。

川辺さんは20年前から招待されるままに、海外へどんどん出て、ワークショップの講師をしたり、講演をした、ということは先に書いた通りです。

浮世絵は、はじめ日本では評価されず、どんどん海外に流れました。後で、海外で高い評価をえていることを知って、日本は浮世絵の評価が変わりました。海外に評価されて、ようやく自分の持っているものの良さに気付くのです。

「盆栽でもいずれこういうことが起こるだろう」と、ずいぶん前に思い、だからこそ、まずは海外を盛り上げようと、飛行機が大嫌いであるにもかかわらず、年間に3~5回も足を運んだのだそうです。

もちろん、海外へ行けば、盆栽に一生懸命な愛好家に出会い、自分の経験で培った技術を精一杯伝えました。

川辺さんから浮世絵の話を聞いて、私は自分が常に疑問に感じていた立ち位置を肯定するような気持ちになりました。

盆栽が、「難しく、面倒なもの」、「お金のかかるもの」、「おじいさんの趣味」、というマイナスイメージから脱却して、純粋に、何だかやってみたい、飾ったらカッコイイ、何だか安らぐ...と若い人たちの盆栽人口が増えることを信じたいです。                                
                       中に献辞も書いてくださいました
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案内したうちの一人、盆栽インストラクターをしているマルコさんから彼が書いた本をプレゼントしてもらいました。訳して川辺さんに内容を伝えたいと思っています。

パラパラと開いて見たら、「天照大神」という文字が見えました。え?!と思いつつ読んでみると、日本の歴史や神話、文化、天皇、行事など、よりよい盆栽づくりに必要な日本文化背景がまとまった本、という感じです。

外国人の視点から、日本の様々な面を見るのは、通訳ガイドで外国人に日本を説明するわたしにとっても、とても勉強になりそうです。



norichetta at 00:39│Comments(0) 通訳ガイド | 自分のこと

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