望遠顕微鏡で見た東京市場の今週・来週=北浜流一郎

 株式投資では、株価が下ればもちろん心配になります。ところが上がっても心配になるものです。この上昇、いつまで続くのか、から始まって、なぜこんなに上がるのか、こんなに上れば長続きするはずがない、下げに転じたら急落になるかもしれない・・・などと心配のタネは尽きません。

 今週の東京市場は、丁度こんな心配をしたくなるような展開になりました。日経平均株価は順調に水準を高め続けたからです。週初13日の寄りつきは8930. 35円であり、かなり高く始まりました。そのため市場の関心は9000円大台乗せはまず間違いなく、どの程度まで上値を追えるかでした。

 同日早速日経平均は9024. 45円の高値をつけ、あっさり9000円乗せを達成したものの、その後の伸びはありませんでした。9000円台に乗ったというだけで戻り待ちの売りが出て、すぐに8000円台へと逆戻りしてしまいました。

 その後16日にもう一度9000円台奪還にトライ、成功して9030. 00円をつけたものの、それが今週の限界でした。意外に売り圧力が強く、結局週末17日は8907. 58円。週初の8930. 35円から見ると、小幅下落となりました。週足チャートは陰線を描いたことになります。

 しかし市場の中身を見ると、非常にという装飾をつけてもよいほど、好ましい展開でした。なんといっても上昇ぶりが際立ったのは鉄鋼、非鉄株でした。これらは週初から上昇開始、週末までそれが続きました。中でも強さが目立ったのは、東京製鉄 <5423> 、日本冶金工業 <5480> 、日立金属 <5486> 、大平洋金属 <5541> 、東邦亜鉛 <5707> など鋼材や鉛、ステンレス関連株であり、その上昇ぶりは目ざましいものがありました。

 何が起きたのか。ロンドンの貴金属市場で銅や鉛、ニッケルなどの価格が上昇、米国株式市場ではアルミ製品最大手アルコア株の上昇がありました。東京市場の関連株も一斉にそれに連動高したのです。

 非鉄金属価格の上昇の背景には、中国経済復活への期待感があることになります。100年に一度といわれるほどの苦境に陥った世界経済の中で、現在もっとも成長力の高い国となったら中国になります。日本をはじめ、米国、欧州各国がマイナス成長に陥る中で、中国はいまなお高度成長路線をひた走っているのです。
 
 しかし市場はこれまでそれに気付かなかった、もしくはそれを忘れていたといえるでしょう。株式市場の暴落もあって、中国経済も失速してしまう。こんな見方が一般的になっていました。中国政府が何の手も打たなければ確かに失速してしまったことでしょう。しかし中国政府は、すでによく知られているように、途方もない規模の経済対策を打ち出し、速攻で実行し始めたのです。

 景気対策費の総額は、日本円にして実に約58兆円です。これは日本の約56兆円を上回ります。市場は改めてその効果に期待しはじめ、今週は急いで鋼材、非鉄関連株にシフトした。こんな動きになりました。

 ただ16日はそんな流れに水を差すような材料もありました。中国が1〜3月期のGDPを発表、前年同期比6. 1%の成長だったのです。中国政府が掲げる経済成長目標は8%。それに届かなかったとして16日の日経平均株価は、9030. 00円まで上ったところで中国のGDPが6. 1%成長と分かり、一斉に売りが出ました。

 ここではっきりしたことがあります。東京市場で売買している機関投資家たちは、中国経済に対して常に疑念を抱き続けているらしいことです。私にいわせると、6. 1%成長は素晴らしいものです。日本などは2桁のマイナス成長なのです。それに比べると、6. 1%成長は驚異的なものなのに関わらず、それを好材料ではなく、悲観材料と見る。ここには大変な勘違いがあるといえます。

 それゆえ中国のGDP6. 1%成長は、「8%に届いていない」ではなく、「6. 1%も成長している」になるのです。少なくとも株式投資の観点からはこう見たいところであり、これを「8%に届いていない」という視点で見てしまうと、今週起きた鉄鋼、非鉄、さらには海運株などの一斉急浮上に着いて行けなくなってしまいます。

 この点、一部機関投資家たちのように中国経済に対して勘違いした見方をしないようにしたいものです。

 では個別株で今週際立った動きになった銘柄は何だったか。これはもう文句なしに新日鉄 <5401> です。新日鉄株は17日、寄りつき前から大量の買いを集め、チャートが窓を明けるギャップアップで始まりました。新日鉄をはじめとする住友金属工業 <5405> など鉄鋼大手とトヨタ自動車 <7203> は、09年度の自動車用鋼材価格の大幅値下げで合意したというのです。

 合意内容は、08年度比で1 トン当たり1 万5000円の値下げでした。値下げなので株は下がりそうなものですが、市場の反応は逆でした。「これで難問解決」とばかり、プラス評価となったのです。こんな現象は株式市場の回復局面で見られること。それが週末見られことになり、この点でも今週は重要な意味を持った一週間だったといえます。

 こんな動きを踏まえた来週はどうなるか。週後半から3月期決算企業の決算発表が本格化するとともにゴールデンウイーク(GW)が接近して来ます。ともに株式投資にとってはマイナス材料となりやすく、投資家はそれらに神経質にならざるを得ません。
 
 一方で米国市場の堅調展開は続く可能性が高く、それを支えに日経平均株価は、今週果たせなかった終値での9000円台乗せを目指すことになるでしょう。もちろん目指すのは自由。達成出来るとは限りませんが、外国人投資家たちは2週連続で買い越しに転じいます。

 この点を考えると、少なくとも大きく崩れるようなことはなく、サエない場合で9000円を挟んでの揉み合い、強気に見て終値での9000円台回復。こんな展開が見込めます。業種としては為替市場の落ち着きを手がかりにハイテク、自動車とその周辺、そして中国関連株として非鉄、建機株などが物色対象になるでしょう。

 今週急騰した新日鉄など鋼材株はどうか。あまりに騰勢が強かったために、一時的に息切れの恐れありです。

■北浜の直言 上海万博開催まであと約1年。中国関連日本株のお味が次第に美味に。(執筆者:北浜流一郎 株式アドバイザー)