Tinker,Tailor,Soldier,Zombie

未公開映画を中心にレビューしていきます。

The Fits(2015)

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【あらすじ】

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11歳のトニは、兄を含む年上の男達と共にボクシングジムに通い続けていた。
走り込み、腹筋・懸垂、ミット打ちにサンドバッグ打ちと、毎日毎日ハードな練習に励むトニ。しかし、なぜ自分はボクシングを続けるのか、その意味はわからない。

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ジムの入ったビルには、若い女の子達が集うラップダンスチームの練習場もあった。
窓ガラス越しに見える彼女達の躍動的なダンスはとても魅力的だった。
そして、トニは思い切ってラップダンスチームに入団することを決意した。

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かくれミッキーを探せ!

しかし、ボクシングには自信があるものの、ダンスなど生まれてこのかたやったことがない。リズムは合わないし、身体はぎくしゃくしてお笑い者である。
おまけに男勝りの場所で育ったので、女の子の世界に馴染むことは大変である。

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ここにも自分の居場所はないのか…。
しかし、トニの目に覚悟と決意の炎が燃え上がった。
ボクシングを続けつつも、必死にダンスの技術を磨き、やがて周りの子達にもついていけるようになってきた。するとチーム内に同年代の友人もでき始め、トニの青春がようやく花開こうとしていた。

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殴れる少女じゃいられない♬

しかし、予想もしないことが起き始める。
ダンスの練習中、チームのリーダー格の女達が次々と失神する不可解な現象が発生。

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どうやら飲み水に問題があるとのことだが、その後も失神者は続出し、この謎の事件を皮切りにトニは再び自分の居場所を失っていく。
トニの進むべき道は何処に…、安息の地は何処に…


【感想】

青春映画の枠を遥かに超えた、今年最大級にユニークな作品!

毎年200本ぐらいの映画を観ていると、人間の想像力が無限であることを感じさせるユニークな作品を数本ぐらい目の当たりにしますが、本作はまさしくそのような希有な作品にあたります。

主人公トニは、仲の良い兄と毎日ボクシングジムに通い、厳しい鍛錬を積む女の子。
しかし、内心はボクシングを続ける理由がわからず、隣で開催されているダンスチームの女の子達に憧れの眼差しを向けています。
そこでトニは思い切ってダンスチームに入団しますが、先輩達はハンパなくレベルが高いし、同学年の女の子達もそれなりには踊れているので、明らかにトニのダンスは浮いています。
ちぐはぐでヘタクソなダンスに、時折ボクシングで磨いたワンツーが入ります。このワンツーだけはやたらとキレが良く、トニのボクシングレベルとダンスレベルの差が浮き彫りとなっています。

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この子、パンチだけはキレがよいわね!

それでも、トニは踊る事が好きなので、ボクシングとダンスレッスンの合間に一人で猛特訓。ボクシングで磨いたキレのある動きをうまく活用し、次第にパワフルで躍動感のあるダンスが出来るようになっていきます。

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歩道橋ダンスシーンの躍動感はハンパない!

ボクシングとラップダンスを融合させた青春映画。
ボクシングをとるか、ラップダンスをとるか、熱血少女の葛藤物語。
誰もがそういったスポ根青春ドラマを予想しますが、ここから作品の方向性は一気に様変わりします。

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いきなりキングの終末SFの様相に!

チームのリーダー格の女の子達や、同年代の友人にいたるまで、ダンスチームのメンバーが一人また一人と謎の失神を起こします。失神中、ある者は強い恐怖や不安を感じ、ある者は安らぎを感じ、その後一定の時間が経過すると症状は自然緩解して元の状態へと戻ります。
この不可解な現象について、その詳細は明らかになりませんが、失神を経験する女の子達は、彼氏と喧嘩をしたり、チームリーダーとしての責任感を感じたり、失神現象そのものに対する恐怖を感じたりと、前駆的に強い不安や悩みを抱えています。
そして失神を経験した女の子達同士は、不思議と見えない絆で繋がれたように結託が深まります。

失神を経験しないトニだけが周囲から取り残されていくところは、フェルナンド・メイレレス監督の『ブラインドネス』で一人だけ盲目状態を経験しなかった主人公が、後に周囲との関係性の上での盲目状態に陥ってしまう描写を想起させます。
そして、原題の示す “ The Fits(適応)” の意味を知るクライマックスは、心の奥にズッシリと響くものがありました。

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ボクシングジムに居場所を感じられず、ダンスチームにも当初は居場所を感じられなかったものの、徐々に自身の努力とスキルアップを通して周囲との友好を深め、ようやく居場所を感じられるようになった矢先、この不可解な現象によって、再び周囲との溝を感じてしまうトニ。
この不可解な現象と、自分の居場所がどこにあるのかわからず彷徨うトニの姿が、作品の不穏な空気感とBGMに後押しされて、居心地の悪さを醸し出しています。

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ボクシングとラップダンスを融合させたスポ根青春ドラマ、並々ならぬ空気を漂わせる不穏な終末SF、彷徨う少女の葛藤、あらゆる要素が72分という時間に凝縮された唯一無二の作品。
『A Monster With A Thousand Heads』といい、70分という時間は観ている者に強い衝撃やメッセージを与えるのに十分な時間であることがわかります。
削ぎ落とし洗練させることで、たいていの場合100分もの時間は必要ありません。

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本作はヴェネチア国際映画祭の学生コンペ部門に出品されており、監督のアナ・ローズ・ホルマーは本作が長編処女作ということで、現時点ですでに並々ならぬ才能を見せつけ、将来が大いに期待される若手監督です。そして、主演子役女優のロイヤリティ・ハイタワーの躍動感溢れる魂の熱演には賞賛の念しか湧きません。

本作の日本公開予定はいまのところ未定のようです。
これまでに観た事のないような作品なので、公開決定が強く待ち望まれます。


【邦題予想コーナー】
①「ザ・フィッツ/彷徨う少女」
②「ザ・フィッツ/踊る少女」
③「ザ・フィッツ/闘う少女」




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A Monster With A Thousand Heads(2015)

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【あらすじ】

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ソニアは病気の夫を在宅介護していたが、ある夜、夫の容態が急変した。
夫の病気の治療には特別な医療が必要となり、治療には莫大な金額がかかるため、当初より高額の保険に加入していた。
いよいよ保険を使って治療を始める時がきたので、ソニアは息子を連れて翌朝早くに保険会社に行ったが、何時間待ってもいっこうに呼ばれない。
いくら相談しても担当者は話をはぐらかし、治療認定の審査を行う主治医は居留守を使って逃げようとまでする。

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責任者呼べこのクソアマ!

あまりの対応に困惑を通り越してブチ切れたソニアは、逃げ出した主治医の後をつけて自宅まで追いかけた。ようやく話を聞いてもらえることになったが、主治医は承認できないの一点張り。
高額の保険を払い続けてきたのに、なんたる仕打ちか!とばかりに、銃で脅して承認を迫るソニア。

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責任取れこのクソデブ野郎!

主治医曰く、承認を下ろすためには会社のCEOに掛け合うしかないというので、今度はCEOのいるスポーツジムへ押しかけたソニア達。
裸の大将をサウナから引きずり出して、承認を下ろすよう掛け合うが、書類に記入して顧問弁護士のところへ持っていく必要があると言う。

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承認しやがれこのチンポコ野郎!

顧問弁護士のところへ行くと、今度は株主のサインがいるとふざけやがる始末。
たらい回しに遭いながらも、もはや引けぬところまでやってきたソニア達。
一方その頃、警察の追っ手がじわじわと迫りつつあった。
果たしてソニアは、夫の治療のために目的を遂行することができるのか…

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もう後戻りはできない!この無鉄砲なワタシ!


【感想】

74分間ノンストップの、たらい回し社会派バイオレンスドラマ!

メキシコ発の社会派ドラマ、かなり好みの作品でした。
原題の『A Monster With A Thousand Heads(without brain)』が示す「(脳のない)千の頭を持つ怪物」とは、頭数の多さ・頭となる人物の不在・責任の所在不明という大企業のシステムを風刺したものであり、本作では利益のために顧客を騙し、責任の所在を有耶無耶にする悪質な保険会社が描かれています。
日本と外国では保険制度が異なるため、ややイメージしにくい部分もありますが、利益を追求する無責任な大企業に一般人が捕食されるケースは少なくないようです。

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本作のストーリー構成はいたってシンプルです。保険の認定承認を得るために、ソニアと息子が次々と関係人物を脅しながら、絶望しか残されぬ道へと転げ落ちていく様が描かれます。
銃を突きつけ、時には誤射したり、バットで殴りつけて人を傷つけたりと、ソニアの行き過ぎた行動を正義と呼ぶことはできませんが、彼女は加害者でありながら被害者でもあります。大企業に従事する人間たちも、やはり被害者でありながら加害者でもあります。目先の利益を求め、責任の所在を有耶無耶にした挙げ句の悲劇。
日本は銃社会ではないにせよ、ソニアのようなごく普通の一般人が暴走し転落する様は現実味を帯びています。

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演出面にも非常に面白い点がありました。
引きの画を用いて、核となる行動場面にあえてフォーカスを当てないという演出が散見され、必ずしも効果的であるとは言い切れないものの、不思議なインパクトを与えることには成功しています。
また、画面に映る登場人物(企業側の人物)が後の裁判で語る証言を、二重台詞のように上からのせる演出も面白かったです。「ラン・ローラ・ラン」の登場人物その後映像を思い出しました。

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どこかアートな印象を残す画の構成も自分の好みでした。
また、暴走する母親とそれを危惧しつつも擁護する息子の関係性が秀逸に描かれており、ラストシーンの二人の会話は本当に印象的でした。
74分という短い尺の中に強い問題提起のメッセージを挿入しつつ、クリエイティブな演出も取り入れた意欲作であり、個人的には非常に満足度の高い作品でした。

本作は「モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ」の邦題で昨年のTIFFにて上映されています。正式公開はいまのところ未定です。




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Let's Be Evil(2016)

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【あらすじ】

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ジェニーことジェニファー・ライアンは、闘病中の親の医療費を稼ぐために、政府が管理する児童施設のスタッフ募集に応募した。
そこは都会の真ん中に建つビルの地下深くにあり、厳重な管理の下、子ども達の天才的頭脳を養成するアングラ施設であった。ジェニーの仕事は、泊まり込みで子ども達の食事や就寝のお世話をするだけの簡単なものだった。

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施設内は暗闇に包まれており、ジェニーと他2名のスタッフや子ども達は常にARグラスを装着する必要があった。このARグラスによって、施設内の地図表示や、他スタッフとのリアルタイムコネクトが可能となり、子ども達は拡張現実を使用した脳トレに打ち込んでいた。

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施設を管理しているのはアリエルというAIであり、ジェニー達はARグラスごしに彼女と接触した。万能の管理AIと、養成される天才少年達。
しかし、ここで予測不能の事態が発生。アリエルの管理システムが何者かに侵入されコントロールされてしまったのだ。
ジェニー達に襲いかかる魔の手。ハイテクアングラ施設は修羅場と化してしまった。

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システムダウン!南無三!


【感想】

盛り上がりに欠ける、ARグラス越しの次世代POVスリラー。

ポケモンGO大流行の昨今、AR<拡張現実>を使用したゲームアプリ、VR<仮想現実>を体感するゲーム機と、次世代のバーチャルゲームが台頭する中、やはり登場したARホラー。
同系統の作品として、Googleグラスを使用したPOVホラー『エルサレム』が既出ですが、本作に登場する虹色AIなどのカラフルな映像表現はとても印象的でした。

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しかし、色調豊かな映像表現やデジタルな世界観は面白かった反面、POVホラーとしてはだいぶ物足りない出来となっていました。ARを活かした恐怖演出はまるでなく、登場人物も少ないために殺人シーンの迫力にも欠けています。

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子供ホラーあるある①:気をつけチャイルド

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子供ホラーあるある②:ドヤ顔チャイルド

一方、本作はPOVが苦手な方に優しいPOV映画と言えます。
というのも、本作はARグラスをかけた3人の人物視点で構成されていますが、不自然なほど視線の位置が安定してブレないため、「クローバーフィールド」や「REC」でPOV映画が苦手になった方にも比較的見やすい作品かと思います。首を左右に回旋させる動きなど、まるで三脚を使っているかのようでした。

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カラフルかつデジタルな世界観は心地良かったもの、POV映画としては物足りない本作。せっかくのARという発想をもう少し活かしてほしかったところです。
本作の日本公開予定はありません。DVDスルーかな。

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POVは奥が深いよ!


【邦題予想コーナー】
①「レッツ・ビー・イーヴル!」
②「戦慄のAR/ハイテクメガネの館」
③「クソガキGO」




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