野坂昭如という人は、とらえどころがない。
テレビなどで知った人は「変なおじさん」というイメージでとらえているかもしれない、と想像する。

もちろん『火垂るの墓』の作者であることは、よく知られているだろうが、小説よりも先にアニメから入られている方が多いのではあるまいか。

作品の多くは独特のリズムで紡がれた文体だから、するりと入り込むというわけにもいかない。
読み慣れていくと名調子といってもいい文章の流れが心地よく、クセになる味わいだけど、その一方では拒絶の反応をおこす人もあるのではないか、と思う。

そんな人におすすめしたいのが『戦争童話集』である。
童話集だから子供向けに平易な文章で書かれているので野坂文体に馴染まない人でも、読める。
というより親子で読むべき一冊だと思う。

戦争の悲惨さについて難解な言葉を一切使わずに描かれていて、心にじわりと染みこみ、読了した後はアフガンで起こっていること、世界中で起きている内戦内乱に心をいためるに違いない。

この『戦争童話集』を未来に向かって残さなければならないとの使命感からイラストレーターの黒田征太郎と長友啓典が中心になって結成されたのが「忘れてはイケナイ物語実行委員会」だ。
そこで制作されたのが『映像版・戦争童話集』(NHKのBS2で放映)である。
毎年夏にむけて発表され、すでに完結したが、どれをとっても素晴らしい作品に仕上がっているのだ。

黒田征太郎のイラスト、大塚寧々や宮沢りえなどの女優、男優の朗読との組み合わせだけのシンプルなものだが、そのシンプルさゆえに心を激しく揺さぶられる。
これは、書籍とともに佐渡の図書館に、ぜひそろえていただきたいものだ。

さらに、野坂文体に馴染むには、身近な不思議を題材にした作品がいいのではないか。

「なぜ、この人と話が通じないのか?」
という素朴な疑問をお持ちの方には、おすすめである。

『見えない女房』という短編である。
文芸雑誌に発表された時に読んだもので、現在、どの作品集に収められているのか、わからないのが残念である。
興味をもたれた方、お調べいただくとありがたい。

これは、自分の女房と会話が成立しないことをユーモラスに描いた作品で、男と女の感性の違いなのか、それとも個別の問題なのか…。

男と女とはいえ、同じ人間なのに、なぜ話が通じないのだろう…。

この件については、日々、考えさせられているので、この際、わたしも再読してみようと思う…。