2006年12月22日
第41話/第9章 再会(その1)
男は山田だった。以前と比べげっそり痩せてはいるが、紛れもない。
よりによってやっと、今日を限りに忘れる決心をした矢先に・・・・。
山田は、何事も無かったように、美奈から視線を外し、受付に向かった。
「掛かりつけの医者から、紹介されてきたのですが」
山田は、受け付けに紹介状を差し出した。受付は、その書類を受け取り、手際よくファイルに収めると、手続きの書類を差し出した。
「はい、山田吾一さんですね、承知しました。では、お手数ですが、こちらにご記入をお願いいたします」
山田が書類に記入していると、背中に視線を感じた。振り向くと、先ほどちらりと目が合った車椅子の若い女性だった。
〈可愛そうに、下半身麻痺かな。それにしても、なんて美しい女性なんだろう〉
山田は相変わらず鈍感だ。しかしどことなくあの美奈に似てる様な気もする。
書類を書き終えると、受付が美奈の隣辺りを指して言った。
「お呼びしますので、そちらでお待ちください」
山田は言われるまま、美奈の横に座った。椅子は結構気の利いたデザインだが、ビニールレザー張りで、腰掛けると、がたついた。山田は前屈みになり、思案するようなポーズを取った。
思い過ごしだろうが、何かが引っかかる。もしや、と思い美奈に声を掛けた。
「失礼、あなたとはどこかでお会いしたような気がするのですが?」
美奈の心臓は早鐘のように鳴り出した。
〈嬉しい、私に気づいてくれたのかしら〉
しかし、思いとは逆に、美奈の口をついて出た言葉は素っ気なかった。
「そうでしょうか」
ハスキーな声が返ってきた。やはり違う。
「あなたとよく似た人を知っていたものですから、もしやと思ったのですが、やはり人違いでした。失礼しました」
山田は落胆した表情で答えると、ペコリと頭を下げた。
「いえ、別にかまいません。その方も車椅子なのですか?」
「いえ、私の知る限りそうではありませんでしたが最近は、会っていないものですから。大変失礼ですが、あなたは、そのう・・・」
「ええ、もう半年程前になりますけれど、事故で脊髄を痛めたらしく、それから下半身が麻痺してしまいました」
「ああ、そうですか、それは大変でしたね。私の知っている女性はあなたと同じくらいの歳で、モデルをしてました。最近も雑誌で見ましたから、人違いに決まっているのですが、何故か、あなたを見ていると思い出してしまいました。美しさといい、雰囲気といいよく似ている」
「まあ、お上手ですね。でも私は御覧の通り車椅子です。ご・・・」
危うくゴーさんと言いかけた。
「あなたは、どこかお悪いのですか」
紹介状を持って病院に来るのだから、どこか具合が悪いに決まっているが、他に思いつかなかった。
「ええ、頭が」
「?」
美奈がキョトンとしていると、頭をかきながら山田が続ける。
「あ、悪いのは、性格もでした。せっかくご心配いただいたのに、ふざけて申し訳ない。本当は、胃潰瘍でね、ここでさばいてもらうんです」
と言いながら、山田は胃の辺りを切るように、指で縦になぞった。美奈が顔をしかめる。
「まあ、大変ですね。やはり何かストレスが原因なのですか?」
「いや、だと良いけど、私の場合単なる飲み過ぎでね、私の存在自体が他人にはストレスらしいけど」
「躰を壊す程飲んではいけないわ。どうしてそんなになるまで飲むんですか?」
美奈が心から心配そうに言った。山田は本当の美奈が心配してくれているような気がして、この車椅子の女性に言いようのない親近感を覚えた。
「いやー見ず知らずのあなたにご心配いただいて、なんか感激だなあ。それに、さっきも言ったけど、不思議とあなたとは初めて会った気がしないんです」
「私もです」
〈気付いて!相変わらず鈍感なんだから、もう〉と、美奈自ら、気付かれないようにしながら、そのくせ、じれていた。女は複雑だ。
***********************ええ、女は複雑です(筆者談)**************************

