2006年12月24日

第42話/第9章 再会(その2)


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 2人の会話に割り込むように、受付の山田を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、私を呼んでいる。それじゃあ、お大事に」
「ありがとうございます。あなたもお大事に。また、お会いできると良いですね」
「それは、いやだな」
「えっ?」
 山田の拒否に、美奈は何か気に障ったのかと狼狽していると、いたずらっぽく笑いながら、山田が続ける。
「病院の中ではね。お互い元気になって、外で会えると良いですね。じゃ、そういうことで縁があったらまた」
「そうですね」
 複雑な表情で美奈は頷いた。
〈せっかく彼を忘れようとしているのに縁があったらなんて。神様の意地悪!お願い、彼を忘れさせて!〉
 立ち上がり、受付に向かう山田を目で追っている美奈。そこへ入れ替わるように、退院手続きを終えた母親が寄ってきて、怪訝そうに尋ねた。

「美奈、今の方、知っている方?」
「ううん、知らない人。私を誰かと勘違いしたみたい。胃潰瘍で手術をするみたいヨ」
「胃潰瘍で手術?まあ、お気の毒に、あの若さでねえ」
「お母さん、胃潰瘍って、そんなに大変な病気なの?」
「本当に胃潰瘍なら、大したこと無いわね。でも、最近では胃潰瘍くらいで手術はしないものよ。癌で無ければ良いけどねえ」
「そんな・・・」
 美奈の顔が青ざめた。
〈あの人が癌だなんて、そんなのイヤ〉
 女の直感であろう、母親は会ったばかりの他人だというのに、この美奈の様子に、まさかと一抹の不安を感じたが、そんな事はあり得ない、それ程親しそうには見えなかったと、直ぐに心の中でその疑念を振り払った。

 退院したものの、もし本当に山田が癌だったらどうしよう、彼に会いたい、会って癌と闘うよう励ましてあげなくては。と、美奈の心は再び山田のことでいっぱいだった。
〈神様、彼を忘れたいだなんて、あれはウソです。お願い!彼を助けて!彼に逢わせてください〉 けっこう、美奈は調子いい子だ。

 別に神様にお願いしなくとも、山田に会うチャンスはあった。美奈は通院の際、馴染みの看護婦に適当な理由を付け、入院している山田のベッドを聞いた。
 病室の前で美奈は、どう言って山田に会うか躊躇していた。ふと、背後に人の気配を感じて、顔を上げると、点滴装置を引きずって、山田が覗き込んでいた。

「あれえ、君はこの間の・・・、どうやら縁があったみたいだね」
 美奈は、冷静さを装いながらも山田を見つめながら言った。
「病院の中で残念ですね」
「いや、これが縁なら贅沢は言わないよ。そんな潤んだ瞳で見つめられると、おじさん、ドキドキしちゃうよ。どう、よってく?」

 山田は自分の病室を指さした。美奈は苦笑して頷いた。
 山田は自分の病室に向かって、点滴装置を引きずりながら、ラララ、ムジンクン、ラララ、ムジンクンとTVコマーシャルを口ずさみ、再び「どう、よってく?」と言うので、美奈もつられて答えた。
「いいねえ」

 2人は顔を見合わせて笑った。
 そこへ、看護婦が通りかかり、声を掛けた。
「あら、山田さん、お安くないわねえ」
「いや、そんなんじゃないよ」と、山田は照れている。
「そーお、あなた達、クサイわよ」
「あーあ、そりゃそうだ、たった今、トイレの帰りにナンパしたんだからな。そういえば、オシッコがこの辺にひっかかったなあ。お嬢さん、俺達クサイ訳だなあ」
 病魔に冒されながらも、山田の飄々としたところは健在だった。美奈も山田のペースに合わせた。

「そうなんです、ナンパされて、いきなり彼の部屋に誘われたんです」
「あらまあ、私になんて見向きもしないのに。でも、こんな素敵なお嬢さんなら仕方ないわね。私の負けね」
 看護婦はウインクすると、100キロはありそうな巨体を揺すりながら去っていった。




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novel90 at 11:54│Comments(1)TrackBack(0)clip!

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この記事へのコメント

1. Posted by 透   2006年12月27日 13:59
初めまして!ちょうど5章が始まったときにこのブログを見つけ、それから毎日楽しみに見させてもらってます。最初から全部読みましたが、美奈の話しが一番好きです。この小説はもちろんフィクションですよね?(笑)更新楽しみにしてるので、これからも頑張って下さい☆

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