2006年12月28日

第43話/第9章 再会(その3)

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 山田は痛そうに顔をしかめると窓際のベッドに腰掛け、寂しそうに呟いた。窓の外は、すっかり秋の気配だ。

「痛たたた、この間さばかれてね。どう、手術の跡見てみる?考えて見れば、人間、立って半畳、寝て1畳。今の私にはこれで充分だな」

 そこは、ついこの間まで美奈が入院していた病室と同じような部屋だった。窓際とベッドの間に無理矢理車椅子を入れると、壁に貼ってある雑誌から切り抜いた美奈の写真が目に付いた。五体満足な美奈の姿だった。

 山田の馬鹿な問いかけを無視して美奈が聞く。
「あなたのご存じのモデルさんというのはこの方ですか?」
「最高の女性でした。、ただし振られました・・・・」
 それだけ言うと、山田は落ち込んだ。

「愛してらしたんですね」
 美奈の問いかけに山田は頷くと、こんな告白をする自分自身が信じられなかった。目の前の車椅子の女性は声も顔も、美奈ではない。が、その物腰や仕草は美奈そのものだ。山田は息苦しさを覚えた。

 それは美奈も同じだった。
「失礼ですけれど、どうして振られたと思うのですか?」
「何度も、携帯に電話をしたんだが、全然出なくてね。始めのころは事故にでも遭ったのかと心配したんだが、そのうち雑誌に載っている彼女を見つけてね。ま、無事で良かったよ。それで、やっと振られたことに気付いたと言うわけさ。考えてみれば、私みたいなおじさんが年甲斐もなく、君と同じくらいの歳の子に本気になるなんて馬鹿みたいだね」

「そんな事ないわ、山田さんは素敵な方ですもの・・・。ところで奥様は?  あ、立ち入ったこと聞いて、ごめんなさい」

「いや、いいんだ。情けない話、モデルの彼女が忘れられなくてね。こんな私に愛想をつかして、他の男の所に逃げちゃった」
〈 えっ、それじゃあ今はバツイチ?わお、やったあ・・・でもないか、今更、こんな体では・・・〉と、一瞬、他人の不幸に目を輝かせた自分が情けない。

「そうですか・・・、つまらないことを聞いてごめんなさい。でも奥様、今ごろ後悔してるんじゃないかしら」
「ははは、そんなことないさ。第一、ほかの男に走ったんだ、もう関係ない」
「ずいぶんあっさりしてるんですねえ。同じようにモデルさんのことも?」
「それが出来れば、苦労はないんだけどねえ」
〈それって、今も私を愛してるってこと?〉美奈の心臓が破裂しそうだった。

「ところで、モデルさんとは連絡が取れなかったそうですが、この方は事情があったのではないでしょうか。それとも、もう山田さんは関心がないのですか?」
「どうして、君にそんなことが判るのかな?」

 〈私が美奈よ!〉と、美奈は山田の胸に飛び込みたかったが、自分の姿を考えると、怖くて言い出せなかった。
「私も同じ経験をしたからです」

「えっ?」
「私も山田さんと同じくらいの方とおつきあいしていました。でも、こんな躰になってしまって・・・、彼はきっと私を見たら嫌いになるにきまってます」
「そんな些細なこと、どうでも良いさ、手足が無くなろうが、顔が変わろうが、無事でいてくれたら何よりだ」

 山田は美奈を見つめた。
 美奈も見つめた。
 2人の熱い眼差しが絡み合い、山田は確信した。

カーテンを引くと、山田は腰をかがめ、美奈にそっと口づけをした。
「探したよ、美奈。もう死ぬまで君を離さない」
 夕日が窓から射し込み、病室を紅に染めた。

 同室の患者達は息を殺して、耳がダンボになっていた。
 抱き合う2人のシルエットがカーテンに浮かび上がっていたのだ。熱く長い口づけを交わすと突然、周りから拍手と歓声が起こった。

「エッヘン。おじゃましてもよろしいかしら?山田さん、検温の時間ですけど」
 先ほどの看護婦がカーテンを開けると、照れくさそうに2人がいた。山田が頭を掻いて言う。
「みんな人が悪いなあ」

 すると、間髪を入れず同室の患者からヤジが飛んだ。
「逆光だからなあ。カーテンに映ってラブシーンが丸見えだったよ」
 別の老人も言う。

「若い人はいいねえ。山田さん、あんたいつまでも入院してたら彼女、逃げちゃうよ」
 それを引き継いで、体温計を見ながら看護婦が言う。

「そうよ、山田さん、早く良くなって退院しなくちゃね。ラブシーンはそれまでお預けよ」
 顔を真っ赤にして、うつむいている美奈の背中を、ポンと叩きながら、あなたも頑張ってね、お幸せに。と、看護婦は再び巨体を揺すりながら病室を出ていった


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novel90 at 09:43│Comments(0)TrackBack(0)clip!

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