2006年12月31日

第45話/第10章 それぞれの道(その1)

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秋も深まった晩秋の海。夕日が葉山の海岸を紅く染め、遠くには富士山のシルエットが浮かび上がっている。

 海を見つめる美奈の横顔が夕日に照らされ、涙が頬を濡らしている。
 結局、山田は逝ってしまった。

 最期を看取ることは出来なかった。
 後で医者に聞いたところでは、開腹したものの既に手遅れだったらしい、癌は全身に転移していたため、そのまま手術を終えたということだった。美奈が病室を訪ねた時点で、死を待つばかりだったのだ。

 一時は元気になったように見えたが、やはり病魔には勝てなかった。
 山田は1通の手紙を美奈に残していた。
 普段、達筆な山田の字は釘の折れたように書かれ、苦痛の凄まじさを物語っていた。

 美奈へ、ありがとう。
 残念ながら、約束は果たせない。
 もう永く無いことが自分では分かる。

 俺は、今までやりたいように生きてきた。だからこの世にそれ程未練は無いと思っていたが、違う。君を知ってしまったからだ。

 生きたい。恥ずかしい程生きて、死ぬまで君と一緒に暮らしたい。無念だ。
 
 君を独り残して先に逝くことを許して欲しい。
 君には俺の分も生きて、幸せになって欲しい。

 君には未来がある、辛い思いをした分、きっと良いことがある。
 もし、君が不幸に遇うようなら、あの世で必ず俺が神様にオトシマエをつけるてやる。

 永遠に君を見守っている。

 葉山の海で見た星空のように、君には無限の可能性が・・・・


 突然そこで字が崩れ、手紙は終わっていた。

 葉山の海は美奈にとって、山田との想い出深い場所だ。夜のとばりが降りた海岸で、彼の腕に抱かれながら見上げた夜空の星を、今も覚えている。

 あれ以来、美奈は心の中の山田とともに生き、時に相談し、時に報告しながら、彼の言う無限の可能性を信じて生きてきた。

 大学在学中に自分のこの体験を書いて、ドラマの懸賞シナリオに応募したところ、大賞を取ってしまった。ただ、心の彼に支えられて無限の可能性へのチャレンジのつもりで、亡くなった山田への思いを綴っただけだったが、TVドラマとして放映されると、多くの女性ファンの涙をさそい、一躍時の人となった。

 美奈は自分に文才があるとは夢にも思わなかったが、その後書いたエッセイは多くのファン獲得した。今や若手の女流エッセイストとして、注目され始めている。

〈ラッキーだったわ。きっと、ゴーさんが神様を脅したのね。ゴーさん、ありがとう〉
 確かに最初の頃は運も良かった、決して巧い文章ではなかったが、最近は、度重なる辛い経験を乗りこえたことが作品に若手とは思えない厚みを加え、将来が期待されている。


 作家として注目を浴び出すと、下半身不随といえども、再び美奈の美貌にマスコミは注目した。これに目を付けたかつてのプロダクションから、車椅子のファションモデルをしないかとオファーがあった。
 あの事故直後には、モデルから一転、小岩さんのような顔で下半身不随。死んでしまいたいとさえ思ったものだ。

 人前に我が身を曝すなど思いもよらなかったが、今は違う。心の中の山田に支えられ、どんな運命にも耐えられる。ありとあらゆる可能性にチャレンジしよう。私には無限の可能性がある。これが今の美奈だ。

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つづく

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