2007年01月10日

第48話/第10章 それぞれの道(その4)

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 芳恵はタイヘン満足した。しばらくはこれで注目されそうなので密かに今日に備えて、練習した逆立ちは止めて、次の機会のネタに取っておく事にした。結構計算高い。

 美奈達の車椅子でのモデルデビューは、相変わらずの芳恵の活躍とともに、多くの障害者達に希望を与えた。今まで、人前に出たがらなかった障害者達は積極的に街に出だしたのだ。

 一時の流行のようではあったが、そうではなかった。流れが変わったのだ。社会そのものが、まだ充分とは言えないが障害者を普通に受け入れるようになってきたようだ。

 駅やバスなど公共施設の障害者施設の整備はすでに整っていたが、ほとんど使われる光景を目にしなかったものだ。しかし最近は当然のごとく使われるようになった。

 特に美奈は、元々人も羨む美少女モデルとして知られていて、ある日突然の事故で障害者となった。この運命を目の当たりにすると、人々はひょっとしたら明日の我が身かも知れないと実感し、健常者が障害者を手助けする事は、万が一に備えての貯金の様なもの。障害者も当然のごとく手助けを要求すべきとの風潮が生まれつつあった。


 ところで、三人組のうち唯一の健常者となった高田恵子は結局、高校卒業を目前に退学してしまっていた。いや、正確には退学処分を受けたのだ。それは当然のことだ。なにしろ、買春と覚醒剤で補導されてしまったのだから。

 恵子は、あの憧れた南条コーチが、美奈をホテルに誘い、あげくに無理心中を図ったことにショックを受けた。自分が裸で迫ったのに抱いてもくれなかった南条が、あろう事か、ストーカーとなって美奈を犯したのだから。

 なにが90パーセントの幸せよ、やっぱり美人しか男は相手にしないではないかとの思いを、うち消すように手当たり次第に男を漁り、シャブ漬けになったところを補導された。


 少年院から出てきても、荒んでしまった恵子は更正出来なかった。更正しようにも、再び例の鮫島が付きまとい、ズルズルともとの生活に引き戻されてしまったのだ。


 何度か立ち直ろうと試みたが、鮫島のようなワルは金づるを、そう簡単には離すものではない。女をつなぎ止めるノウハウは恵子ごとき、赤子の手を捻る様なもので、太刀打ち出来なかった。

 美奈と芳恵が大学に入り、それぞれ、パラリンピックや懸賞シナリオで活躍し始めたころ、再び覚醒剤で逮捕された。

 恵子は、内心ほっとしていた、二十歳を過ぎて、今度は間違いなく刑務所だが、少なくとも、あの男からは逃げられる。

 落ちる所まで落ちてしまって、心も運命もねじ曲がった恵子には、もう刑務所しか逃げ場がなかったのだ。だから取り調べの最中も積極的に罪を認めていた。

 なにしろ追求するまでもなく、自ら進んで自供し、むしろ罪を重くしたがっている様子が伝わってくるのだ。刑務所しかあの鮫島から逃げられる場所はないという事なのだろう。

 その事を調書に取ろうとしたが、仕返しを恐れた恵子は拒否し続けた。そんな恵子に取り調べに当たった刑事も終いには同情するほどだった。

 始めは女としての魅力を確認するかのように、男と寝た恵子であったが、心の渇きは増すばかり。肉体的には、虜になった鮫島に抱かれながら、体の快感と反比例するかのように寂しさが募ったのだった。
 そんな自分がたまらなく嫌で、ラリッた勢いで大事な女の局部にナイフを突き立てようとさえしていた。
 既に、生きる屍と化していたのだ。


 受刑者となってしばらくして、取り調べに当たった老刑事が面会にやってきた。

「しばらくだな、元気そうじゃないか」
「・・・・・」
 恵子はうつむいたままだ。訪ねてきてくれたのは嬉しいが、真意を測りかねていた。
「そうだ、つまらん物だが、おはぎを持ってきた。良かったら、後で食ってくれんか。女房のヤツ、張り切ってなあ。・・・あ、君のこと、ワシがよく話すものだから、ワシらの子供のように思ってるらしい」
 まるで、三流の刑事ドラマの様な接見だ。


 恵子は、なんで私がこの刑事の子供なのさ、おかしいんじゃない?とは、思うのだが、ただし不愉快な感じは受けない。

 いかに荒んだ恵子の心であっても、身内からも見放され、ほとんど誰も訪ねては来ないのに、わざわざこんな所まで足を運んで、おまけに手作りの土産まで持ってくるのだから、何か感じるものがあった。


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novel90 at 12:46│Comments(0)TrackBack(0)clip!

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