2007年01月14日
第50話/第11章 そして再会(その1)
高田恵子は模範囚として仮出所が認められた。
「高田さん、どんなことがあっても、もうここには戻ってこないでね」
「はい、今度こそ、やり直します。本当にお世話になりました」
恵子は刑務官に深々と頭を下げた。
刑務官は扉を開けると、駕篭の中の鳥を逃がすように、躊躇する恵子を優しく促した。
塀の外に出ただけで、空気の比重が違うような気がした。
明るい日差しが眩しく、知らない惑星に降り立ったようなとまどいを覚える。
新しい人生を歩み出すかのように、歩き出したその時、背後からパン・パンと銃声がした。
恵子は全身を強ばらせた。
〈何故? やっと再起しようと決心したのに〉
呆然と立ちすくむ恵子の頭上に、クラッカーの赤や黄色の紙テープがふわりと落ちた。「コングラッチュレーション!!!」
聞き覚えのあるその声に、振り返ると、車椅子の芳恵と美奈が、ニコニコしていた。
どう対処していいか分からない恵子は唖然として、立ちつくした。
2人とも、記憶にある芳恵と美奈とは少し様子が違う。芳恵には無いはずの足がある。傍らの美奈は写真では見ていたが、会うのは初めてだ、これがあの美奈?
すると、突然芳恵が立ち上がった。ぎこちない動きで、恵子に近寄ると、ロボットダンスのように、カクックッと躰の向きを変え、本当にロボットのような動きで手を差し出した。
「ワ・タ・シ・ヨ・シ・エ・ロ・ボ・ット、シュッショ・オ・メ・デ・ト・ウ、ア・ク・シュ・セヨ」と言いながら、パンツの裾をたくし上げ、金属とプラスチックで出来た足を見せた。
恵子は固まってしまった。
傍らの美奈が、苦笑しながら言う。
「もう、芳恵やめなさいよ、恵子がびっくりしてるじゃない」
「アハハハ、どう、これ。良くできてるでしょう?アンタがムショにいる間に私、サイボーグになったんだ。世の中どんどん変わってるんだよ」
恵子はやっと気が付いた、例によって芳恵の悪ふざけだ。全く変わってない。これが、話しに聞いていた義足なのか、それにしても良くできている。
普通のドラマなら、重い出所シーンであるはずが、すっかり毒気を抜かれてしまい、例によって、芳恵のペースだ。恥ずかしくて会えないと思っていた恵子だが、そんな重い気分が吹き飛ばされ、我に返って言った。
「もう!驚かさないでよ、相変わらずなんだから」
「アハハハ、受けた受けた」と芳恵は喜んでいる。
「恵子、元気そうね、私、美奈よ」
「あなたが、あの美奈?」
「そうだよ、あんたがいつも羨ましがっていた美奈だよ」
と、芳恵が口を挟むと、美奈が頷いた。
「もう、私を羨む必要は無いわ、今度は私が恵子を羨む番よ。私はこんな躰になったとき、昔芳恵が言っていた『五体満足なら、もうそれだけで幸せの90パーセントを手に入れている。美人とか不細工とかは誤差の範囲』ということがつくづく分かったわ」
そのことは恵子自身も獄中で充分考えてきたことだったから、言われるまでもなく、恵子にはわかっていた。
とは言っても、自分があれ程憧れ羨んだ美奈が、今や車椅子という、この現実を目の当たりにすると、彼女の言いたいことは痛いほど分かるし説得力があった。
「そんなことないわ、美奈は前よりも綺麗よ。でも分かってるわ・・・・、私はもう人を羨んだりしない。2人ともありがとう、本当にありがとう」
90パーセントの幸せ・・五体満足なら少なくとも人は皆その幸せを手に入れている。
100パーセントの幸せを求めて、せっかく手にした幸せを捨ててはならない。ハンディを背負った人はそこに到達するだけでも大変なはずなのだ。
恵子は、一風変わってはいるが、2人の励ましに心から感謝し、子供のように泣きだした。
「や〜い恵子の泣き虫」と、芳恵がからかうと、「何よう、泣いてなんかいないわよ」と、恵子が口をとんがらせる。まるで、子供のころに戻ったようだ。
「まあ、イイから。で、これからどうする?」と美奈。
一瞬、間が空いた。
「バスに乗ろう!」
***********************次は動のラストシーン、もうちょいつきあってくださいな************************こんてにゅうど

