2011年01月10日

別字衝突

字体が偶然一致してしまうこと。

別々の字種なのに字体が一致してしまうことを、別字衝突といいます。

身近な例では、「芸」の字があります。
日本語で一般に使われる「芸」の字は、「ゲイ」と読み、「藝」の字の新字体です。
しかし元々、中国語で「芸」の字は「ウン」と読み、「蕓[艸*雲]」の字の簡体字です。
「芸香」と書けば、日本語でも「うんこう」と読み、ヘンルーダという植物の名前になります。
中国語で「藝」の字の簡体字は、「艺[艸*乙]」と書きます。
「ウン」と読む「芸」の字の草冠を真ん中で切り離して書くことで両者を便宜的に書き分けている書物もありますが、厳密にはそのような区別はありません。

このように、異なる漢字が同じ字体になってしまった例が、他にもあります。


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いくつか例を見ていきましょう。

まずは「体」の字。
一般的には、「タイ」「からだ」と読み、「體」の字の新字体です。
ところが元々「体」の字は、「ホン」「ボン」と読み、劣る、粗い、粗笨な、という意味の字となっています。
「体夫」と書けば、「ほんぷ」と読み、棺を担ぐ人夫のことをいいます。
「體」の字を新字体に直すときに、字体が衝突してしまったわけです。

次に「欠」の字。
一般的には、「ケツ」「か(ける)」と読み、「缺」の字の新字体です。
ところが元々「欠」の字は、「ケン」と読み、欠伸あくびの意味となります。
法律用語に「欠缺」という言葉があり、「けんけつ」と読みます。ここでは「欠」の字を「けん」と読んでいます。
この言葉を、もし新字体で書き表そうとすると、「欠欠」と書いて「けんけつ」となります。
さらに、「ケン」の読みは学校でも教えないので、かな交じり文にすると「けん欠」となり、さらにおかしなことになってしまうという有様。
なので、この言葉は旧字体のまま「欠缺」という表記が今も使われています。

「叶」の字。
日本語では、「キョウ」「かな(う)」と読みます。
ところが中国語で「叶」の字は、「葉」の字の簡体字となっています。

「笹」の字。
現代では、「ささ」と読み、国字として知られています。
ところが、周代の金文に「世」の字の異体字として「笹」の字が使われていたといいます。

「槁」の字。
「コウ」「か(れる)」と読み、「槁木」と書けば、「こうぼく」と読み、枯れ木の意味です。
ところが、この字を「橋」の字の異体字として使ったのか、「高槁」と表記して「たかはし」と読む名字の方も全国にはおられるようです。

「仂」の字。
「リョク」「つと(める)」と読む字ですが、「働」の字の略字として書かれたりしています。

平成18年、金沢市において「国字グランプリ」というイベントが開催され、創作漢字が募集されました。
(参考リンク:創作漢字読めますか? - 読売新聞
そこでファッション部門の優秀作品に選ばれた創作漢字の中に、衣偏に夢と書いて「パジャマ」と読む作品がありました。
夢を見るときに着ている衣服がパジャマという意味ですね。
ところが、この「䙦[衣夢]」という字は、すでに存在していて、「ボウ」「モ」と読み、裲襠うちかけという衣服を表す字とされています。
一般的な漢和辞典には載っていない字だと思いますので、応募者も審査員も見逃してしまったのは仕方のないことだと思いますが、本当に偶然に一致してしまったわけです。

チェーン展開をしている居酒屋で、「きて屋」という名前の店があります。
(参考リンク:きて屋 淵野辺店 - ぐるなび
「きて」の字は、木と亭を合わせた字で、以前に店を訪れたときに店の人に尋ねてみたことがありますが「店の名前のために創った字です」という話でした。
ところが、この「楟[木亭]」という字は、やはり存在していて、「テイ」と読み、ヤマナシという果樹を表す字なのだということです。

オリジナルで漢字を創作したつもりが、既存の漢字とかぶってしまった。
別字衝突というのはそんな悲しいお話の顛末なのかもしれません。


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Posted by nrudt at 22:52│Comments(0)TrackBack(0)言語、コトバブックマークに追加する

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