2005年12月17日

「赦し」と「幻影」5

『ランド・オブ・プレンティ』(@ヴェンダース)を観る。

「赦す」ということがテーマだ。

母親の手紙を伯父に渡すためにイスラエル(パレスチナ)から帰国したラナ。
ヴェトナム戦争に従軍した伯父のポール。

彼らの視線から、現在のアメリカのあり方を描写する。
帰国後スラムの伝道所の手伝いをするラナから見えるアメリカ。
彼女の視線から見えるのは貧困という現実。
そして、アメリカをテロから守ろうとする元軍人が見るアメリカ。
彼の視線から見えるのは、危険に満ちた社会。
同じアメリカでも、二人の見るアメリカはまったく異なる。
それは、アラブ系のホームレス、ハッサンに対する二人の態度に象徴的に現れる。
一人は、慈悲の対象であり同じ人間の仲間として。
一人は、テロ・グループの仲間として。
彼らの視線から見えるのは、大国の内部にある貧困であり、「9.11」以降見えない敵にたいする恐怖である。伯父ポールの描写から浮かび上がるのは、その恐怖に過剰反応するヒステリーのアメリカである。

ヴェンダースは、この過剰反応を起こしているアメリカを批判しているというわけではない。
この映画における二つの視線は、いずれもアメリカ人からのものである。
このことが指し示していると思うことは、ヒステリーを起こしているアメリカもある一方で、「赦す」アメリカもあるということである。
ヴェンダースは、このアメリカの「赦す」という側面、すなわち寛容さを、喚起させようとしている。

ハッサンの遺体を送り届けた先で、ポールが発見したのは、アメリカの攻撃を目論んでいるテロ・グループなどではなかった。結局彼が追跡していたのは、恐怖によって自分自身が作り上げたテロ・グループという「幻影」にすぎなかったのである。
他方殺されたハッサンの兄は、被害者とその家族の気持ちを慮って遺体を運んできてくれたラナとなんの屈託もなくハグできるのであり、兄によってラナは歓待を受けるのである。


「赦す」ことで恐怖の「幻影」を消散させること

ヴェンダースのアメリカへの愛を込めた強烈なメッセージである。


nt_tnb1103 at 05:05│Comments(0)TrackBack(2) 学術&芸術 | 映画

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