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 1991年の『ライトスタッフ』でアカデミー録音賞、2004年の『Mr.インクレディブル』で同音響編集賞を受賞し、ノミネート経験は12回にのぼるSkywalker Soundの音響デザイナーRandy Thomが、Dolby Blogに「音響は物語を伝える助けになるべき」とのコラムを掲載しています。
 以下はドルビー・ラボラトリーで行われた彼の講演をまとめた記事の翻訳で、多少の誤訳はご容赦ください。

Sound designer Randy Thom: Movie sounds should help tell stories
 映画の経験がないにもかかわらず、『地獄の黙示録』(1979)で仕事を貰えたのは幸運だった。しかし同作の音響デザイナーのWalter Murchのこと、ヘリコプターらの飛行において過度に気を配りすぎている録音のことを聞いた時は、あまり嬉しくなかった。彼はその録音をあるシンセサイザーとともに走らせ、音の汚れの中へ混ぜあわせたのだ。
 そうして映画のオープニングである、マーティン・シーン演じるベンジャミン・ウィラード大尉が、ハノイのホテルで酔った眠りから覚め、天井のファンのプロペラの音と、燃え上がるジャングルを飛ぶヘリコプターのプロペラの音の間を彷徨うシーンを観た。 そのときはっと、Murchの選択が理解できた、私たちはヘリコプターではなく、ウィラードの意識を聴いているのだということを。


 この経験は私に重要な教訓を与えてくれた。 すなわち、音響デザイナーはキャラクターが何を聴いているか、その音がキャラクターについて観客に何を伝えているかを考えるべきだということだ。
 
 音響デザインとは、音を創造し、捏造し、選択することだ。そしてそれは観客の好奇心をそそり、彼らが映画の中で何が起こっているのか理解しようとすることと同じように、ストーリーへ観客を引っ張っていく。
 幻覚状態や、夢のなか、奇妙なカメラアングル、暗闇、スローモーションなどは、まさに音響デザインの活躍の場だ。 観客は主観性への扉を開ける。創造的な音響の活用は、観客が確実性からの変化に付いていくことを助け、あるキャラクターの意識へと導く。

 映画の編集は、必要のないものを取り除いていく。私たちの役割は、音を映画へ持ち込み、必要のない音が何か理解することだ。 視点によっては、ストーリーを展開させキャラクターを表現する音を創造することは、正確に音を再生ことよりも重要になるのだ。

 私は長年に渡って、映画製作のはじめから音響デザインを行う必要があると主張してきた。最も良いケースなのは、映画監督が作曲家と音響デザイナー、音響効果の専門家を映画製作に参加させ、ストーリーを伝える音に依ってどのシーンが制御されるべきかを決定するため、「音のストーリーボード」を創ることだろう。
 残念ながら、こういったケースはほとんどない。映画製作者はたいてい、音響はすべての映像が創られてからのことだと考えており、いくつかのケースでは、音響を映画の欠陥を覆うために用いようとする。もしくは監督たちが、その作曲家と音響デザイナーに同じ領域で競わせておき、問題のシーンを成功させるのは彼らの責任だと言う こともある。しかしそれらが生み出すのは、「聴覚の停滞(a logjam of aural product)」だけだ。

 上手くいっている映画は、台詞が最前線にあって音楽と効果音が消音のときでも、もしくは音楽と効果音が最前線で台詞が消音の時でも、上手くいっているものだ。
 音響デザイナーは、観客をストーリーに釘付ける慎重な編成のなかで、ひとつの音から次の音へと上品に焦点を変化させることが必要だ。

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 以上になります。
 
 私は音楽や音響が好きですが、映像の魅力と比べて、音響のそれはなかなか伝わっていないと感じています。もちろん実際に劇場やホームシアターが無いと体感できないという問題はあります。ですが映画を構成する要素で、映像と音は同じように大切であり、現代の音がある映画ではどちらが欠けても成立しないとおもいます。
 それらを伝えるテクノロジーもまた重要です。たとえばIMAXシアターでは、通常とは違う体験ができることを、今夏の『パシフィック・リム』や『スター・トレック イントゥ・ダークネス』で実感した方も多いとおもいます。
 今年の私の体験では、シネマサンシャイン平和島に導入されているImm 3D Soundにて、ナオミ・ワッツの『インポッシブル』を観賞したことがあります。Imm 3D Soundは近々日本に導入されるDolby Atmosと同様に、シアター全面にスピーカーを配置して3次元音響を実現するもので、2012年から運営しています。以前『ダークナイト』がImm 3D Soundでリバイバルされた際に行ったのですが、プロセッサによる擬似拡張であるにもかかわらず、IMAXシアターとはまた違った迫力だったことを覚えています。
 『インポッシブル』はImm 3D Sound用にネイティブ14.1chサラウンドで製作されており、平和島でこちらが上映されていました。テクノロジカルなところでは、音の定位や移動が滑らかであるとか、音場が広大であるとか、高音域が伸びていて鮮やかであるとか、誉めたいところはたくさんありました。しかし何よりも感じたのは、津波の恐ろしさや災害時の混乱など、まさにキャラクターたちが置かれている状況や感情がそのまま伝わってきたことです。

 11/22にリニューアルするTOHOシネマズららぽーと船橋、12/20にオープンするイオンシネマ幕張新都心、そして来春3月にオープンするTOHOシネマズ日本橋が、Dolby Atmosの導入を予定しています。船橋と幕張での新作第1弾はアルフォンソ・キュアロン監督のスペース・サバイバル『ゼロ・グラビティ』になると思いますが、観客を宇宙に放り込む新次元の3D映像だけではなく、新次元の音響をたくさんの人が体験することで、音響製作に対する興味関心が高まってほしいと思います。

シネマサンシャイン cinema sunshine×immsound
国内で唯一Imm 3D Soundを導入しているシネマサンシャイン平和島です。

安城コロナシネマワールド シネマ
シネマックスつくば ADMIX
シネマックスつくばと安城コロナワールドではBarcoのAuro 11.1chを導入しています。こちらではニール・ブロムカンプの人肉爆散SFアクション『エリジウム』がネイティブ11.1ch上映されました。 

Auro 11.1
Auro 11.1についてはこちら。採用作品リストをみますと、次に国内で上映されそうなのは『エンダーのゲーム』だと思います。またDreamworks Animationの作品はほぼすべて対応するようです。
 
Designing A Movie For Sound
 こちらはRandy Thomが1999年に書いた音響に関する論考です。