281:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:28:14 ID:zX3RK4T30
高所恐怖症じゃなくて、屋上恐怖症なんてもんがあるんですかね?
いやね、私かれこれ十年以上その恐怖症が治らないんですよ。
ちょうど高校生の時にある体験をしましてね、そのトラウマを引きずった
まま、いい年齢になっちゃったっていうか。
ここで自分の体験を書いたら、少しは解消されるかな、なんい虫のいい話
でもあるんですけど。あと、たまたまロムってまして、皆さん心霊スポットとか
行かれたことを書かれてますけど、あれは創作ですよね?
前置きが長くなりましたが、私の体験した話を読んで、本当に洒落にならない
場所があるってことを知ってもらえば幸いです。
haunting_rooftop_scene


282:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:28:58 ID:zX3RK4T30
高校二年の夏休み、部活も塾通いもしてない仲間四人が自然と集まり、だらだらと
毎日を過ごしていました。みんな金も彼女もなく、若さだけはあまりましたが、
ナンパしたり、飲酒喫煙するだけの勢いみたいなのはなかったですね。
で、それぞれ目当ての女の子はいたりいなかったりなんですけど、誰も告白する
なんてことはできず、うじうじと噂話や妄想で紛らわせてました。
「俺ら根性ねえなあ」
みんな薄々そう思ってたんですかね。
ある日、田中(仮名)が肝試しやらないかと、唐突に言い出しました。
場所は○○マンション。あそこは毎年のように飛び降り自殺があるらしい。

そこは郊外の新興住宅地の外れにある、一棟建て十一階の建物です。
山の丘陵を造成した場所にあり、築十五年以上、周囲は田畑や雑木林。コンビにも
ファミレスもない寂しいロケーション。



283:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:29:34 ID:zX3RK4T30
夜八時くらいに到着して、四人でその建物を見上げると、明かりのついている窓が半分
くらいでした。
とりあえずエレベーターで最上階に行くと、左右に五戸ほどの住居がありまして、
それが一つの開放廊下で、フロアがすべて見渡せるようになってました。
照明もあって、少なくとも怖い感じは皆無でした。
「屋上だよ」
拍子抜けした三人に向かって、田中は真剣な顔つきです。
「自殺者が出たなら、鍵かかってるのは当然だろ」
ドアノブを回しながら伊藤(仮名)が口を尖らせました。
さあ帰ろ帰ろ、とみんながドアに背を向けた瞬間でした。
階段の照明がパチッと消えたのです。

さすがにみんなびびりましたね。
我先に階段を駆け下り、興奮して声を上げたりしました。
田中だけが、しぃーと口に指を当て、騒ぎを制してました。



284:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:30:09 ID:zX3RK4T30
結局その夜はまあ面白かったってことで解散しまして、その二日後ですかね。
いつものように集まると、山田(仮名)が奇妙なことを言い出しました。
「今度行ったら何か起こると思うな」
つまり、あの照明が突然切れたことは、何かのサインだと言うんですよ。
あそこにいた四人に対する挨拶だったと。
私は思わず言い返しましたね。
挨拶ではなく警告だ、と。

伊藤は偶然だと言い、田中が確認する意味はある、と提案したことで、
翌日、再びあのマンションに行くことになりました。



285:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:30:44 ID:zX3RK4T30
階段は真っ暗でしたが、それぞれが懐中電灯を持参していたので、大丈夫でした。
前回と同じように、伊藤がドアに手をかけました。
「開いてる」
みんな無言で階段を駆け下ります。
「やばいよ。やめよう」
そういう私を、山田が挑発しました。
「怖いのか。それじゃ肝試しにならないな」

「でもさ、あのドアの向こうに何があるか知りたくねえか?」
伊藤がそう言うと、田中も乗ってきました。
とりあえずじゃんけんでドアを、開ける者を決めることになりました。

「屋上のフェンスでも柵でもいい。一番最初に言った奴が、そこに鍵をする」
田中は私に小さな南京錠を手渡して言いました。
「次に行く奴が鍵を外して持ってくる。その次はかけて、最後が持ってくる」

外開きのドアノブをゆっくり回すと、一瞬向こう側で誰かがノブを引いたような
気がして、思わず声を上げました。
伊藤がドア枠を手で押していたせいかもしれません。



286:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:31:25 ID:zX3RK4T30
ドアの向こうは月明かりのせいか意外と明るく、見渡すことができました。
補助水槽のタンクと共同アンテナがあり、周囲はフェンスで柵がしてあります。
「どこに鍵かけるんだ?」
田中に訊ねると、どこでも好きな場所でいいよとのこと。
私は最短距離を選び、まっすぐに歩きました。
出入り口より十メートルほど離れたフェンスに鍵をかけ、見守る連中に向けて
ライトを照らしました。
多少の怖さはありましたが、次の山田に対する牽制で葛藤していたような気がします。
確かに、自殺者が飛び越えたであろう場所に長くとどまるのは、気持ちの良いもの
ではありませんからね。

そして足早に立ち去ろうとした時のことです。
急に首と両肩が、何か重く感じました。
あっ、と思った瞬間、足を取られ、倒れるかのよう腰砕けになりました。



287:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:32:07 ID:zX3RK4T30
田中と伊藤が叫びながらこちらに向かってくるのが見えた時、私の背中は
フェンスに張り付いていました。

首と両肩、そして二の腕までが重くなり、自由がきかず、まるで引きずられるように
身体が宙に浮く感じです。
私の両足に田中と伊藤がしがみつくのを、まるで夢でも見ているように眺めていました。
「おいっ、嘘だろっ」
伊藤がしきりに喚き、田中がお経を唱えていました。
後から駆けてきた山田が私に抱きつき、四人もみ合うように転がりました。

身体の自由が戻ったと同時に、私は我に返りました。
そして、みんな転びそうになりながら、その場から逃げ出したのです。

全員落ち着きを取り戻し、冷静になったのは明け方でした。
深夜営業のファミレスで、最初に口を開いたのは伊藤でした。
「おまえの肩から上、黒い煙みたいなのに覆いかぶさってきた」
田中は違うものが見えたそうです。白い煙みたいなものが、風に流されるように飛んできて、私の周りでぐるぐる渦巻いていたそうです。



288:本当にあった怖い名無し:2006/04/24(月) 02:32:41 ID:zX3RK4T30
「俺ははっきりとじゃないけど、人が見えた。男二人と女一人」
山田は消え入るような声で言いました。
「女の方が、俺のこと睨んでた」

私は何も見なかったです。
ただ、屋上に出る扉は、二度と見たくないですが。



文藝2024年秋季号