うちの学校には、誰もが知っているけど、誰も詳しく話したがらない噂がある。

「卒業式の最後の一人には、影がついてくる」

これだけ聞くと、よくある学校の怪談っぽいけど、実際にそれを体験した生徒は確かにいる。
でも、その後の消息が途絶えている。

先生たちは「ただの偶然だ」と言うけど、"影の卒業生" という異名で、最後に卒業証書を受け取った生徒が数年以内に行方不明になるという話は、昔から続いているらしい。
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その噂が再び話題になったのは、去年の卒業式のときだった。

最後に卒業証書を受け取ったのはA先輩。
明るくて、面倒見のいい先輩で、進学先も決まっていた。

でも、卒業式の後、A先輩は「変なことが起こる」と言い出した。

・夜中に誰もいないはずの自室で、背後から視線を感じる
・鍵をかけたはずの部屋のドアが、朝になると少し開いている
・スマホの写真フォルダに、撮った覚えのない黒い影が写り込んでいる

最初は友達も「気のせいだよ」と笑っていたけど、A先輩の様子は日に日におかしくなっていった。
表情が暗くなり、寝不足のような顔つきになり、授業中もぼんやりしていることが増えた。

そんなある日、A先輩が「証拠を見せる」と言って、ある写真を見せてくれた。

それは、卒業式のクラス写真。

A先輩は最後に卒業証書を受け取ったから、後列の端っこに立っていた。
でも、写真をよく見ると、A先輩の肩のすぐ後ろに、誰かが立っていた。

いや、「誰か」ではない。

そこには、真っ黒な人影があった。

顔も、服も、何もかもが黒く塗りつぶされたような影。
でも、その影の形は、確かにA先輩のものとそっくりだった。

「これ、俺じゃないよな？」

A先輩の手が震えていた。

周りのみんなも不気味になり、それ以上話題にするのを避けた。
先生に相談しても、「写真の光の加減だろう」と言われたらしい。

でも、それから数日後――A先輩は突然、学校に来なくなった。

家にもいない。
親は「本人の意思で家を出た」と言っていたけど、A先輩の友達は「そんなはずない」と言っていた。

結局、A先輩は見つからないまま、噂だけが残った。

「今年も"影の卒業生"が出た」

それから、俺たちの学年の間で、密かに話し合われたルールがある。

"卒業式では、最後の卒業証書を受け取るな"

もし自分が最後になりそうだったら、誰かに譲る。
どうしても避けられないなら、卒業式の日は学校に来ない。

「まさか」と思うかもしれない。
でも、A先輩の前にも、"影の卒業生"になった人がいる。

そして、その人たちは、もう誰もこの学校の卒業生として名前を覚えていない。

…来年の卒業式。
最後の一人は、誰になるんだろうな。





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