「昨日、夜中にインターホン鳴らなかった?」
朝、母がそう言ってきた。

俺は覚えがない。
「鳴ったの?」
「うん。ピンポンピンポンって、何回も。モニター見たけど、何も映らなかったのよ」

うちにはモニター付きのインターホンがある。
夜なら外灯の明かりで、誰かいればシルエットくらい映るはずだ。
「外に誰かいた?」
「それが、まったく見えなかったのよね。でも確かに鳴ってたのよ」

「で、どうしたの?」
「……最初は無視したの。でも、何度も鳴るから気になって。いたずらかもしれないし、もしかしたら何かの事件かもって……」

母はそこで言葉を切った。
intercom_monitor_silhouette


「正直、怖かったわ。モニターに何も映らないのに、ずっと鳴り続けてるのよ? 変でしょ」

確かに、普通なら誰かがいるはずなのに、モニターに映らないのはおかしい。

「それで、玄関は開けたの?」
「……少しだけね。でも、チェーンは外さなかった。怖くて、ドアの隙間からそっと外を見ただけ」

母は、小さく息を吐いた。

「でも……誰もいなかったの」

母の言葉に違和感を覚えつつ、俺は仕事から帰った後、インターホンの履歴を確認してみた。

履歴を開くと、確かに記録が残っていた。
「1:58」「2:06」「2:13」「2:27」「2:34」……
不規則な間隔で、夜中に何度もインターホンが押されていた。

母の言う通りだった。
だが、一つ妙なことに気づいた。

母は「モニターには何も映らなかった」と言っていた。
しかし、履歴に残っている画像には、人影が映っている。
それも、全て同じ姿勢、同じ角度で。

何かおかしい。俺は画像を拡大した。

……違和感の正体に気づいた。

その人影、足がない。

それだけじゃない。

カメラの高さよりも遥かに上に、逆さまに映っている。

まるで、天井からぶら下がった何かが、インターホンを覗き込んでいたみたいに。





蹴りたい