仕事が回らなくなったのは、半年前からだ。
人が減り、俺の業務量が増えた。毎日終電ギリギリで帰宅し、休日も呼び出される。
それでも、何とか踏ん張っていた。
でも、ある時から変なことが増えた。
「昨日の報告書、まだ来てないぞ」
上司に言われた。確かに送ったはずだ。
送信履歴を確認しようとしたが、どこにもない。
「ちゃんと管理しろよ」
呆れたように言われると、周囲も「あれ、前もあったよな」と頷いた。
そんなはずはないのに、皆の視線を浴びると、記憶が曖昧になってくる。
本当に出してなかったのか?
違う、確かに送ったはずだ。でも、その証拠がない。
人が減り、俺の業務量が増えた。毎日終電ギリギリで帰宅し、休日も呼び出される。
それでも、何とか踏ん張っていた。
でも、ある時から変なことが増えた。
「昨日の報告書、まだ来てないぞ」
上司に言われた。確かに送ったはずだ。
送信履歴を確認しようとしたが、どこにもない。
「ちゃんと管理しろよ」
呆れたように言われると、周囲も「あれ、前もあったよな」と頷いた。
そんなはずはないのに、皆の視線を浴びると、記憶が曖昧になってくる。
本当に出してなかったのか?
違う、確かに送ったはずだ。でも、その証拠がない。
その日も終電ギリギリまで働いて、翌日の会議に向けた資料を仕上げた。
会議は朝10時の予定だったはずだ。
念のため、スケジュールを確認する。
社内カレンダーにも、俺の手帳にも「10:00~会議室A」と書かれている。
安心して帰宅し、翌朝、いつもの時間に出社した。
ところが、オフィスに入るなり、同僚が驚いた顔で俺を見た。
「お前、何やってんの?」
「え?」
「会議、8時からだったろ?」
「え?」
頭が真っ白になった。
デスクに座り、PCを立ち上げ、社内カレンダーを開く。
そこにも、はっきりと「8:00」と書かれていた。
「違う、昨夜まで10時だったんです」
俺がそう言うと、隣の同僚が首をかしげた。
「いや、最初から8時だっただろ?」
上司が近づいてきて、呆れた顔をする。
「お前、何やってるんだよ? 重要な会議だったのに」
「いや、でも、昨日の夜まで10時の予定で」
「はいはい、言い訳はいいから」
周囲の目が冷たくなっていく。
「最近、ミス多いよな」
「ヤバくない?」
小さな声が聞こえてくる。
俺は何も言えなくなり、ただ黙って席に座った。
でも、確かに昨夜までは10時だったんだ。
誰かが、俺の予定を変えたのか?
それとも、俺の記憶がおかしくなっているのか?
わからない。でも、何かがおかしい。
デスクに置いたはずの書類が消えていた。
探していると、別の部署の棚から見つかる。
「最初からそこにあったろ?」
そう言われると、自信がなくなる。
いや、そんなはずはない。
会議で提案したアイデアを、後日上司に確認すると、
「そんな話、してたか?」
周囲も「聞いてない」と言う。
「また勘違いか?」
俺のミスとされることが増えた。
PCを立ち上げると、デスクトップの配置が変わっていた。
データはそのままだが、フォルダの位置が微妙にズレている。
「また設定いじった?」
隣の同僚が笑いながら言った。
「触ってないけど」
でも、何かが違う。
俺が気づいていないだけか?
仕事中、ふと周囲の笑い声が耳に入った。
最初はただの雑談かと思ったが、何かがおかしい。
「いやー、ほんと鈍いよな」
「だよな、さすがに気づくと思ったけど」
クスクスと笑い声が続く。俺のことを話しているのか?
ふと目をやると、数人の同僚がこちらを見て、すぐに目をそらした。
「まさか、まだいるつもりなのかな」
聞こえるか聞こえないかの声で、誰かが言った。
「え?」思わず聞き返したが、みんな知らん顔をしている。
そんなことが何度も続いた。
給湯室でコーヒーを淹れていると、後ろで誰かがヒソヒソと話していた。
「いつまで持つかな?」
俺のことを言っているのかと思い振り返ると、同僚たちはすぐに話題を変えた。
気のせいかもしれない。でも、それ以来、誰かが俺のことを話しているような気がしてならなかった。
「お前、最近疲れてるんじゃないか?」
ある日、上司が妙に優しい声をかけてきた。
「ミスも増えてるし、休んだらどうだ?」
ついこの前まで「ちゃんとやれ」と言われていたのに、急に「無理するな」と言われるようになった。
「いや、大丈夫です」と答えた。
でも、心の中では何かが引っかかっていた。
仕事帰り、コンビニでカップ麺を買った。
レジの店員が、小声で何かつぶやいた。
「終わりだな」
「え?」
聞き返しても、店員は何事もなかったようにレジを打ち続けている。
周囲の客も普通にしていた。
聞き間違いか? でも、確かにそう言った。
それから、夜が怖くなった。
寝ようとすると、耳元で囁く声がする。
「やっと寝るのか?」
飛び起きても、誰もいない。
仕事中も、周りの会話が俺の悪口に聞こえる。
「アイツ、気づいてないのか?」
「もう終わりだよ、手遅れ」
帰り道、後ろから誰かがついてきてる気がする。
でも振り返ると、誰もいない。
耐えきれず、親に相談した。
すぐに病院へ連れて行かれた。
診察室で、医者にこれまでの出来事を話した。
コンビニでの会話、会社での妙な出来事、帰り道の違和感すべてを。
医者は淡々と言った。
「統合失調症の疑いがあります」
違う。俺は統合失調症なんかじゃない。
俺は、誰かに狙われている。
会社ぐるみで、俺を追い詰めようとしてる。
でも、薬を飲み始めたら、少し楽になった。
頭の中のざわざわした感じが薄れて、あの夜の囁きも聞こえなくなった。
それからしばらくして、会社を辞めた。
退職届を出した時、上司は「ああ、そうか」とだけ言った。
まるで、最初からそうなることが決まっていたみたいに。
妙な笑い声が響いた。
振り向くと、同僚たちがこちらを見てニヤついていた。
その瞬間、俺は確信した。
あの会社は、最初から俺を辞めさせたかったんだ。
でも、もうどうでもいい。
久しぶりに空を見上げた。
風が気持ちいい。
会社にいた頃は、息をするのも苦しかったのに。
「やっと、終わったんだな」
そう思うと、自然と笑えた。

会議は朝10時の予定だったはずだ。
念のため、スケジュールを確認する。
社内カレンダーにも、俺の手帳にも「10:00~会議室A」と書かれている。
安心して帰宅し、翌朝、いつもの時間に出社した。
ところが、オフィスに入るなり、同僚が驚いた顔で俺を見た。
「お前、何やってんの?」
「え?」
「会議、8時からだったろ?」
「え?」
頭が真っ白になった。
慌ててスマホを開くと、確かにスケジュールは「10:00」になっている。
でも、同僚たちの言う通りなら、俺は間違えて覚えていたのか?
いや、そんなはずはない。
でも、もし本当に打ち間違えていたとしたら? 混乱しながら、画面を見つめ続けた。
デスクに座り、PCを立ち上げ、社内カレンダーを開く。
そこにも、はっきりと「8:00」と書かれていた。
「違う、昨夜まで10時だったんです」
俺がそう言うと、隣の同僚が首をかしげた。
「いや、最初から8時だっただろ?」
上司が近づいてきて、呆れた顔をする。
「お前、何やってるんだよ? 重要な会議だったのに」
「いや、でも、昨日の夜まで10時の予定で」
「はいはい、言い訳はいいから」
周囲の目が冷たくなっていく。
「最近、ミス多いよな」
「ヤバくない?」
小さな声が聞こえてくる。
俺は何も言えなくなり、ただ黙って席に座った。
でも、確かに昨夜までは10時だったんだ。
誰かが、俺の予定を変えたのか?
それとも、俺の記憶がおかしくなっているのか?
わからない。でも、何かがおかしい。
デスクに置いたはずの書類が消えていた。
探していると、別の部署の棚から見つかる。
「最初からそこにあったろ?」
そう言われると、自信がなくなる。
いや、そんなはずはない。
会議で提案したアイデアを、後日上司に確認すると、
「そんな話、してたか?」
周囲も「聞いてない」と言う。
「また勘違いか?」
俺のミスとされることが増えた。
PCを立ち上げると、デスクトップの配置が変わっていた。
データはそのままだが、フォルダの位置が微妙にズレている。
「また設定いじった?」
隣の同僚が笑いながら言った。
「触ってないけど」
でも、何かが違う。
俺が気づいていないだけか?
仕事中、ふと周囲の笑い声が耳に入った。
最初はただの雑談かと思ったが、何かがおかしい。
「いやー、ほんと鈍いよな」
「だよな、さすがに気づくと思ったけど」
クスクスと笑い声が続く。俺のことを話しているのか?
ふと目をやると、数人の同僚がこちらを見て、すぐに目をそらした。
「まさか、まだいるつもりなのかな」
聞こえるか聞こえないかの声で、誰かが言った。
「え?」思わず聞き返したが、みんな知らん顔をしている。
そんなことが何度も続いた。
給湯室でコーヒーを淹れていると、後ろで誰かがヒソヒソと話していた。
「いつまで持つかな?」
俺のことを言っているのかと思い振り返ると、同僚たちはすぐに話題を変えた。
気のせいかもしれない。でも、それ以来、誰かが俺のことを話しているような気がしてならなかった。
「お前、最近疲れてるんじゃないか?」
ある日、上司が妙に優しい声をかけてきた。
「ミスも増えてるし、休んだらどうだ?」
ついこの前まで「ちゃんとやれ」と言われていたのに、急に「無理するな」と言われるようになった。
「いや、大丈夫です」と答えた。
でも、心の中では何かが引っかかっていた。
仕事帰り、コンビニでカップ麺を買った。
レジの店員が、小声で何かつぶやいた。
「終わりだな」
「え?」
聞き返しても、店員は何事もなかったようにレジを打ち続けている。
周囲の客も普通にしていた。
聞き間違いか? でも、確かにそう言った。
それから、夜が怖くなった。
寝ようとすると、耳元で囁く声がする。
「やっと寝るのか?」
飛び起きても、誰もいない。
仕事中も、周りの会話が俺の悪口に聞こえる。
「アイツ、気づいてないのか?」
「もう終わりだよ、手遅れ」
帰り道、後ろから誰かがついてきてる気がする。
でも振り返ると、誰もいない。
耐えきれず、親に相談した。
すぐに病院へ連れて行かれた。
診察室で、医者にこれまでの出来事を話した。
コンビニでの会話、会社での妙な出来事、帰り道の違和感すべてを。
医者は淡々と言った。
「統合失調症の疑いがあります」
違う。俺は統合失調症なんかじゃない。
俺は、誰かに狙われている。
会社ぐるみで、俺を追い詰めようとしてる。
でも、薬を飲み始めたら、少し楽になった。
頭の中のざわざわした感じが薄れて、あの夜の囁きも聞こえなくなった。
それからしばらくして、会社を辞めた。
退職届を出した時、上司は「ああ、そうか」とだけ言った。
まるで、最初からそうなることが決まっていたみたいに。
妙な笑い声が響いた。
振り向くと、同僚たちがこちらを見てニヤついていた。
その瞬間、俺は確信した。
あの会社は、最初から俺を辞めさせたかったんだ。
でも、もうどうでもいい。
久しぶりに空を見上げた。
風が気持ちいい。
会社にいた頃は、息をするのも苦しかったのに。
「やっと、終わったんだな」
そう思うと、自然と笑えた。
