ある地方の中学校で起こった奇妙な話だ。
この学校の放送室は、昼休みや放課後に音楽を流したり、先生が全校放送をするために使われていた。
しかし、ある時期から、無人のはずの放送室から突然アナウンスが流れるという不可解な現象が起こるようになった。

最初に異変があったのは昼休みだった。
いつものように昼の放送を流そうとした放送委員が、マイクのスイッチを入れる前に、**「……お昼……です……」**という声が流れた。
誰が話したのか、委員の誰も知らなかった。
機器の誤作動だろうと先生たちは言ったが、それ以降も不気味な放送は続いた。
school_broadcast_room


ある日、授業中に突然、ノイズ交じりの放送が流れた。

「……◯年◯組の……□□……」

小さく、くぐもった声が、スピーカーから聞こえた。
先生が慌てて放送室へ向かうと、鍵はかかっており、誰もいない。
「機械のエラーか」と再び片付けられたが、その放送で名前を呼ばれた生徒は、その数日後に事故に遭った。
登校中、交差点で車にはねられ、意識不明の重体になったのだ。

それ以降、放送で名前を呼ばれた生徒は、必ず何かの事故や怪我に遭うようになった。
落下事故、階段での転倒、体育の時間の負傷、いずれも偶然とされたが、放送委員たちは、明らかに何かがおかしいと気づいていた。

放送委員の生徒たちは、できるだけ放送室を使わないようにしていた。
それでも放送は続いた。

ある日の夕方、帰り支度をしていた教師が、何気なく放送室の方を見た。
誰もいないはずの放送室のマイクの前で、黒髪の女の子が座っている。
制服の襟元は黄ばんでいて、髪は不自然に濡れていた。
ガラス越しに目が合うと、少女はニヤリと笑い、そのままスーッと消えたという……。

後日、ある教師が古い記録を調べたところ、10年前、その放送室で一人の女子生徒が亡くなっていたことがわかった。
原因は不明、事故と処理されていた。
そして、その生徒の名前が、最初の奇妙な放送で呼ばれていた名前と一致していた。

それ以来、放送室では誰もひとりで作業しようとしなくなった。
放送委員の間では、「放送中に名前を呼ばれたら、すぐに逃げろ」という暗黙のルールができた。

それでも時折、誰も触れていないはずのマイクから、

「……次は……誰……?」

という声が、静かな校舎に響くことがあるという。





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