俺の学校には、「夜の保健室には絶対に入ってはいけない」という噂があった。
誰もが「夜に保健室を覗くと、ヤバいものを見る」と言っていたし、先生たちも放課後には必ず鍵をかけていた。
夜に忘れ物を取りに行こうとすると、妙に厳しく止められることもあった。
ある日、俺と友達数人で、その噂を確かめることにした。
夜の学校に忍び込み、こっそりと保健室の前まで行った。
すると、鍵がかかっているはずのドアが少しだけ開いていた。
誰もが「夜に保健室を覗くと、ヤバいものを見る」と言っていたし、先生たちも放課後には必ず鍵をかけていた。
夜に忘れ物を取りに行こうとすると、妙に厳しく止められることもあった。
ある日、俺と友達数人で、その噂を確かめることにした。
夜の学校に忍び込み、こっそりと保健室の前まで行った。
すると、鍵がかかっているはずのドアが少しだけ開いていた。

俺たちは息を潜めながら中を覗いた。
保健室の中は真っ暗で、ベッドが並んでいるだけ。
いつもと変わらない、はずだった。
だが、その時、ギシ……ギシ…… と微かにベッドが軋む音がした。
俺たちは顔を見合わせた。誰も動いていないのに、確かに音がする。
気のせいかと思いながらカーテンの方をじっと見ると、ある一枚だけがほんの少しだけ揺れていた。
「……誰かいるのか?」
誰も答えない。
次の瞬間、カーテンの奥から白い手がスッと伸びてきた。
細く長い指先が、ベッドのシーツをなぞるようにゆっくりと動く。
まるで何かを探しているように、確かめるように。
俺たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
背後で ギシ……ギシ…… と、ゆっくりとしたベッドの軋みが続く。
まるで、俺たちの代わりに誰かがそこに横たわり、静かに身じろぎしているかのように。
そして、その音に混じって、かすかに 「ふふっ……」 という微かな笑い声が聞こえた。
だが、振り返る余裕などなかった。
ただ必死で走り、学校の外に飛び出した。
逃げる途中、俺は気のせいかもしれないが、背後で 「スゥ……」 というわずかな息の音を聞いた気がした。
追われているような、見守られているような、不思議な感覚。
けれど、誰も振り返らなかった。
次の日、俺たちは保健の先生にそれとなく聞いてみた。
すると、先生は顔を曇らせて言った。
「……やっぱり、見ちゃったのね」
俺たちは固まった。
「昔、この学校には一人の女医の先生がいた。とても優しくて、生徒たちに慕われていたんだけど、ある日、突然学校から姿を消した。理由は誰にも分からない。でも、それ以来……」
先生は少し言い淀んだあと、小さく息を吐いた。
「保健室で夜に眠ると、白衣の人がカーテンの隙間から覗いている」
「放課後にベッドに座ると、誰もいないのに、後ろから肩を掴まれる」
俺たちは、何も言えなかった。
先生はゆっくりと立ち上がり、硬い声で言った。
「二度と夜の保健室には近づかないで」
普段穏やかな先生の声には、いつになく強い圧があった。
その迫力に、俺たちはただ頷くしかなかった。
だが、帰り際、ふと俺は気づいた。
先生の手が、机の端をゆっくりとなぞっていた。
その指先は、どこか細く、妙に白かった。
それ以来、俺たちは夜の保健室には絶対に近寄らないようにした。
けれど、後日、ふと保健室のカーテンを何気なく見たとき、そこに白くて細い指の跡が残っていた。
それは、ベッドの上をなぞるように、ゆっくりと……。

保健室の中は真っ暗で、ベッドが並んでいるだけ。
いつもと変わらない、はずだった。
だが、その時、ギシ……ギシ…… と微かにベッドが軋む音がした。
俺たちは顔を見合わせた。誰も動いていないのに、確かに音がする。
気のせいかと思いながらカーテンの方をじっと見ると、ある一枚だけがほんの少しだけ揺れていた。
「……誰かいるのか?」
誰も答えない。
次の瞬間、カーテンの奥から白い手がスッと伸びてきた。
細く長い指先が、ベッドのシーツをなぞるようにゆっくりと動く。
まるで何かを探しているように、確かめるように。
俺たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
背後で ギシ……ギシ…… と、ゆっくりとしたベッドの軋みが続く。
まるで、俺たちの代わりに誰かがそこに横たわり、静かに身じろぎしているかのように。
そして、その音に混じって、かすかに 「ふふっ……」 という微かな笑い声が聞こえた。
だが、振り返る余裕などなかった。
ただ必死で走り、学校の外に飛び出した。
逃げる途中、俺は気のせいかもしれないが、背後で 「スゥ……」 というわずかな息の音を聞いた気がした。
追われているような、見守られているような、不思議な感覚。
けれど、誰も振り返らなかった。
次の日、俺たちは保健の先生にそれとなく聞いてみた。
すると、先生は顔を曇らせて言った。
「……やっぱり、見ちゃったのね」
俺たちは固まった。
「昔、この学校には一人の女医の先生がいた。とても優しくて、生徒たちに慕われていたんだけど、ある日、突然学校から姿を消した。理由は誰にも分からない。でも、それ以来……」
先生は少し言い淀んだあと、小さく息を吐いた。
「保健室で夜に眠ると、白衣の人がカーテンの隙間から覗いている」
「放課後にベッドに座ると、誰もいないのに、後ろから肩を掴まれる」
俺たちは、何も言えなかった。
先生はゆっくりと立ち上がり、硬い声で言った。
「二度と夜の保健室には近づかないで」
普段穏やかな先生の声には、いつになく強い圧があった。
その迫力に、俺たちはただ頷くしかなかった。
だが、帰り際、ふと俺は気づいた。
先生の手が、机の端をゆっくりとなぞっていた。
その指先は、どこか細く、妙に白かった。
それ以来、俺たちは夜の保健室には絶対に近寄らないようにした。
けれど、後日、ふと保健室のカーテンを何気なく見たとき、そこに白くて細い指の跡が残っていた。
それは、ベッドの上をなぞるように、ゆっくりと……。
