○8/13

タクシーの運転手が宇宙(そら)という名を発した後、the矛盾君は苦虫を噛み潰したような表情から舌打ちをうった。

そしてこう言った。
 
”失口さん、タクシーの運転手には悪いですが、ここは早々に逃げた方がいいです。かなり面倒くさいことになりそうです。”
 
「おお、そうか。どうやら過去に何かあったようだな。だが、詮索は俺の趣味じゃない。ここはお前の言う通りにするよ。」

 
二人は振りきるようにタクシーから姿を消すことにした。この渋滞ではそうそう追ってもこれまい。

 
角を曲がる際に視界に入った一瞬、運転手が携帯電話で誰かに連絡をしていたように見えたが人混みの雑踏で定かではなかった。
 
5分ほど走っただろうか。

既に喧騒から離れ無事に撒けたようだ。
 
近くのコンビニで休んでいると彼から本名を突然告げられた。

磯辺AGE(エイジ)と言う名前だという。そうか、the矛盾君も今日で卒業か。若干失礼な呼び方だと薄々感じていたが。
 
彼には”磯辺AGEか。良い名前だ。、、、磯辺、名前を教えてくれてありがとうな。”
 
と告げた。
磯辺か、
と、その名を聞いて 頭の片隅にあった記憶の引き出しの一つが かたっと音をたてて開いた。
 
磯辺、、、磯辺??   い、磯辺!!
 
 
思い出した。。。。。磯辺。



磯辺
 
近所のTUTUYAで6ヶ月間、大会練習や残業も溜まっていたせいで返却し忘れて借りっぱなしにしてしまった
今話題のエロティシズムアダルティ女優、磯辺多観代(36)の処女作
 
”開門!あたしの凱旋門の秘密、教えてあ、げ、る!!

 
のレンタルDVD、返却最終勧告明日だった。

明日までに返さないと延滞金に加え、罰金、買い取りになるんだった。

 
妖艶で甘美なタイトルに引かれて借りたはいいが、
アダルティ&エロチックシーン皆無
中身は
TAMIYAの1/144スケールの凱旋門のプラモデルの作り方を事細かに教えてくれるホントの意味での
HOW TOだったかなりの痛い作品だった。
 
HOWTOも何も パーツ10個以下だし。凱旋門

期限は明日か、、、無理だな。この状況じゃ。

買い取りは恥だな、こんなに恥ずかしい事他の能力者につけこまれたら痛手になる。


たはーーー・・我ながらやっちまったな。なけるー(笑)
 
私が情けない気持ちになり 不意に一筋の涙が流れた。

それを見た磯辺は 感極まったように泣きじゃくってる。

 
ど、どうした!?俺の延滞の件、既に知られているのか!?まさか心読めるのか?

こいつやるな。とりあえず知らぬ存ぜねのスタンスで、やりすごすか


 
”磯辺、せっかく再会したんだ。湿っぽいのはよそう!よし、今日は二人で三種の神器カレーで感謝祭だ!”


 
そういうと冷静を保ったまま 私は自分の心の凱旋門に延滞の件を押し込めた。



 
早足でCOCO壱に向かい後2.3分で到着するというとき、足元にコロコロと冷凍の唐揚げが転がってきた。
 

む、この唐揚げ、見覚えが・・・・
 
磯辺が女性に近寄ると私に向かって
失口さん!!!こっちにお年を召した女性が倒れてます!


 
嫌な予感は簡単に的中した。
 

近寄ると、そこにはいつもお世話になっていた八重子さんが倒れていた。

 
醤油ペロペロとやりあったあの日以来、八重子さんのお店には行っていなかった。
まさかこんな再会になるとは。。


 八重子さん!!!反応が無い。

状況を把握しよう。
 
醤油ペロペロと俺に叱責したときにももっていた ”レンジでチンするから揚げ大盛り”
の袋を左手に抱きしめ、なぜか 上半身広島カープルック・・・
外傷は特にない。が、まだ息はある

 
 
磯辺がため息混じりにこういった。

 
”失口さん、この方、さっきタクシー運転手が言っていた 宇宙(そら)さんにやられたんだと思います。

 
なぜだ?
 
あの人は上半身広島カープルックが奴の特徴なんですよ。

そうか、けど それだけじゃ判断材料にならないのでは??



重い口を開くように磯辺が
 
”少し 宇宙(そら)さんのこと、話してもいいですか?”
ああ、聞くとしよう
 


磯辺から6年前にマドモアゼルという弁当屋で初めて会ったことを聞かされた。
 
 
ほう、その男、なかなかキレテル奴だな。
 
はい。
 
実は続きがありまして。。。
 
その時は追い返したんですが、実は自分、期間は短いんですが あの人に一度師事したことがあるんです。
 
ほう、それは初耳だ。磯辺が師と仰ぐなんて珍しい。
 
 
はい。
あの日、追い返した後も数日間か連続で来てて。

いつもわけわからないこと行ってたんですが、時々ぞくっとするようなオーラ出したり、ちょっと興味がありました。

自分の作るジオラマに、何を作っているのか当てるのは確実に間違っているんですが 作り方というかそういう点はあたっているんですよ。なんていうか、その道を知ってる人、というか

 

その週は店長休みだったんでいつも自分ひとりで毎回追い返してたんですが。


ある時、どうだ、見てみろよ!といわんばかりのドヤ顔で 遠くから人造バランで出来た 厳島神社のジオラマ背負って持って来たんですよ。

凄いでかい奴。
 
正直やられたって思いました。


失口さんはその道の人じゃないので判らないかと思うんですが、
人造バランのとげとげしさを全く出さないで荘厳な厳島神社を再現するって あのときの自分には出来なかったんです。正直すごいテクでした。
 

圧倒的な作品を見せられて心、悔しいんですが奪われました。
 
それで その数日後にマドモアゼルに辞表を出して、宇宙(そら)さんについていく事にしたんです。
 
どうやって作ってるのか、見せてもらったんですが、見て一発で判りました。
あの人も能力者でした。
 

どうやって厳島神社を作っていたか。

 
靴紐が手足のように意思をもって動かせるんです。靴紐に意思を持たせ 繊細に紐を操る能力。人造バランをしなやかに靴紐でくみ上げる、それは不思議な光景でした。初めて合った日も発動させようとしてたんですが追い返しちゃったんで見れなかったんですね。
 
宇宙(そら)さんは自分の能力を 自信満々に 羅未亜(ラミア) と名づけてました。
ほら、どうだ!ラミアの頭の蛇みたいに靴紐動かせるんだぜ!凄いだろ!
 
と。
 
ただ、心の中では それを言うならメデューサじゃないのかな、、蛇頭は。。。。
ラミアは胴体のほうだったような、、、しかも 靴紐って言っても解いても両足で多くても4本しかないからそこまで蛇頭に見えないし、、
 
ま、そこは師事したばっかだったんであまり突っ込まなかったんです。
確かに構築する技術も凄かったし。

 
ただ、あの人の思想が自分の思想とどうしても合わなくて。
なので短い間だったんですが師事をやめさせてもらったんです。

 
自分ではちゃんと筋を通したつもりだったんですが あの人はそれを許してないから今日、僕たちもタクシーに襲われたんだと思います。
 
 
そうか、思想が違ったか、、例えばどんな風にだ?
 
色々あるんですが、例えば 唐揚げにレモンをかけたら怒るんですよ。

 
私は大きな声で話をさえぎった。
”おい” 
 
は、はい。
 
”それは仕方ない。”
私は大きくうなずいた。
 
とそのとき、意識を取り戻した八重子さんが何かを言いたがっている
 
どうしました!?八重子さん 大丈夫ですか?
 
 
蚊の鳴くような声で八重子さんはこうつぶやいた
 
”ああ、、、靴紐が、、靴紐がー”
 
うなされるようにもだえる八重子さん
 
大丈夫ですか!!八重子さん!


 
”孫に、、孫のこの子にあたしがやられたこの事を伝えて欲しい、この子なら あいつを、、、頼むわ、、ガク”


八重子さんはポケットから一枚のCDジャケットを指差して気を失った。
手にあったCDのタイトルは”ヅケマグロル”だった

●8/7


うそ、だろ・・・・

失口さん、宇宙(そら)さんはヤバい。まさかあの人が関係してるなんて…。

俺は、宇宙(そら)という名前を聞いて、戦慄した。



あれは6年前の今頃、西東京市の東伏見駅前にある老舗の弁当屋「マドモアゼル」でバイトをしている時のことだった。

その日は早番で、いつもより早めの七時に出勤し、唐揚げ弁当用の人造バランでオリジナル・チベット高原ジオラマを作っていた時だ。


「上半身広島カープ」ルックをオシャレに着崩した男がやってきた。年齢は30歳前半というところか。

こんな早い時間に来る客は大抵「下半身ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム」ルックが多いので、広島カープルックの客は珍しい。

少し警戒しつつ、「いらっしゃいませ、おはようございます。」と挨拶をする。


「キミ、そのジオラマいいね!広島の世羅高原かい?」


男は俺の作った人造バラン製高原ジオラマに興味を示し始めた。だが、世羅高原ではない。

「い、いえ、これはチベット高原です。」

「ははは!そんなはずはないだろ!そうか、わかったぞ、広島の神石高原か!」

「いえ、チベット高原といいまして、ユーラシア大陸の中央部に広がる世界最大級の高原です。」

「ははーん、そうきたか!いたなー、昔そういうやつが!でも、こっちだって負けないぞ、ずばり広島の八幡高原だ!」

「いや、ですからこれはチベット高原…」


「バカ野郎が!!!!」


「え!?」


「もういい!!B級グルメ弁当一つ!!」


「す、すみません。当店にそのような弁当はありませんし、B級と言われましても、広義すぎてよくわかりません。」


「カチャカチャカチャ」


男はおもむろにベルトを外し始めた。そして、外した時の倍のスピードでまた締め始めた。

「…この弁当屋も変わったばいね。」

突然の謎の行動と、よくわからない方言に違和感を覚えつつも、この男が何者なのか未だに計れないでいると、奥から店長がやってきた。

今日は赤いTシャツを着ている。雨が二日続いた場合、三日目は決まって赤いTシャツを着てくるのだ。ただし、真意は明らかではない。

「いらっしゃいませー!お客さん、どうしたんです?コイツが何かやりました??」

「いえ、俺は何もやってませんよ!」


「…あんたが店長かい?このジオラマをどう思う?」


「ジオラマ? あー!!お前!!それ唐揚げ弁当用の人造バランだろ!!何やってんだ!!」

「全く、仕事さぼって栃木県の霧降高原なんか作りやがって!目を離すとすぐこれだ!」

「いえ、店長、これはチベット高…」

「うるさい!いつも人造バランで高原ばかり作りやがって!たまには高野豆腐で カナディアン・ロッキー山脈自然公園でも作ってみろってんだ!」


シュシュシュー!!


「ふうううぅぅぅ!!店員も店長も全然ダメダワー!!Crazy as hell!!」


男は突然叫びながら、自らの靴紐を高速でほどき始めた。

きっちりと結ばれていた靴紐が、目にも留まらぬ速さでほどかれていく。

よく見ると、手が小刻みに振るえているではないか。

なぜ靴紐をほどき始めたのか、なぜ震えているのか、この時点では判断はつかない。ただ、男から発せられる、ただならぬオーラがチリチリと全身を包む。

時間にして12分が経過した頃、靴紐をほどきを終わった男は、獲物を捉えたベンガルトラの如く、店長と俺を睨めつけた。


「…お前ら、気に入ったぜ。ついて来るか?」


「店長、この人ヤバいっすよ。」

「うん、ヤバいね。追い出して。」

「わかりました。」

「え、ちょ!!やめろって!!俺が誰だかわかってんのか!?名古屋が生んだ、ひつまぶしディザスター「宇宙(そら)」様だぞ!!」

「はいはい、わかったから早く出て出て。ドカッ!」

「うわーん」



失口さん、タクシーの運転手には悪いですが、ここは早々に逃げた方がいいです。かなり面倒くさいことになりそうです。

「おお、そうか。どうやら過去に何かあったようだな。だが、詮索は俺の趣味じゃない。ここはお前の言う通りにするよ。」

失口さんは常に紳士だ。こういう所も魅力の一つでもある。きっと会社でも一目置かれている存在なのだろう。

ただ、ヒビの入ったメガネだけは取り替えた方が良さそうだ。


あと、尊敬している人に「the矛盾君」と呼ばれるのにも徐々に抵抗が出てきた。やはり、失口さんからは本名で呼ばれたい。

本名は隠しているわけではなく、ただ、自己紹介をするタイミングを逃しただけなのだ。

俺も失口さんも、普通の一般人ではない。人には言えない、非常に危険な世界で生きることを選択した人間だ。

そう、言うまでもなく、明日生きている保証はどこにもないのである。

名前を伝えるなら、今しかない。


「失口さん、俺、自分の名前、まだ言ってませんでしたね。もう何年も前からの付き合いなのに、すみません。」

「え?…突然どうしたんだ?無理しなくてもいいよ。昔、五年付き合った彼女からも名前を教えてもらえなかったことがあるし。…ははは。」


「俺の名前は、「磯辺 Age(イソベ エイジ)」って言います。よく、磯辺揚げって言われてイジメられましたよ。」


「磯辺 Ageか。良い名前だ。…磯辺、名前を教えてくれてありがとうな。」

失口さんの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。それに気付いた時、既に自分の頬はすっかり涙で濡れていた。

「磯辺、せっかく再会したんだ。湿っぽいのはよそう!よし、今日は二人で三種の神器カレー感謝祭だ!」


二人は過去の思い出話しに花を咲かせながら、神保町方面に早足で向かった。

「いやー、今もセガサターンの新品のソフトを探してるんですが、中々ないですねー!」

「それより、俺は先週、消しゴムのカスでミドガルズオルムの召喚に成功したよ!」

「マジですか!!ヤバいっすねー!!」


そして、あと2,3分で神保町のCoCo壱に到着するという時、足元に何かがコロコロと転がってきた。

よく見ると、冷凍の唐揚げではないか。

唐揚げが転がって来た方向を見てみると、暗がりに誰かが倒れているの見える。年齢は59歳くらいだろうか。


「失口さん!向こうに誰か倒れてますよ!…え!?し、しかも上半身広島カープルック!?」


「…や、八重子さん。なんてことだ…!!」

○7/20

醤油ペロペロとの事、

G.T HAWKINSとブリヂストンのダブルネームのポーチのいきさつをthe矛盾君が正直に話してくれている間、

ポーチを見ながらアイツと最後に飲んだ日の事を、
袂を別けたあの日の事を思い出していた。
 
 
~~~~~
場所は合宿所の近くの居酒屋
”八重子(59)の店 2号店”
 
2名、入れるかな?

らっしゃーい!ご新規様二名ご来店でーす
”よろこんでー!”
 
とりあえず、いつものサルビアハイ二つと蟹の甲羅の煮付け、唐揚げ、あと別皿に醤油多目で!
 
”よろこんでー!”
 
いやー、しかし失口、今日の課題、難しかったな、1分以内に魚肉ソーセージでネジを作れ、なんて出来っこないよな。
 
ああ、C班の奴ら、ネジを形成する以前に魚肉ソーセージの皮剥いた勢いで食欲に負けて食べてしまうトラップ、
イートバイトトライアウト 
がんがん発動しまくってたしな。
 
違いねえな。ほんとドライバー道は奥が深いな。

二、三、話をしていると店員が早速持ってきた。
 
お待ちどうさまでした。サルビアハイ二つと唐揚げですねーハイどうぞー、

あ、甲羅の煮付け、もう少々お待ちくださいね、すぐにお持ちしますので。それと、こちら別皿醤油ですね。
 

じゃ、いつもの乾杯のご発声させて頂きまーす!
 
その声と同時に店員が全員で席を囲む。
 
ハイ!ご新規様乾杯モード入りまーす。
今日は1日、お疲れ様でした!
店員一同心を込めて斉唱させていただきまぁーす!
せーの、
 
♪かんぱいかんぱいかんぱいぱい!♪
 
♪はいかんぱいかんぱいかんぱいぱい!♪
 
♪もひとつおまけにかんぱいぱい!あざっしたー!♪
 
 
・・・・・・・・・・
 

この店は料理も旨いし安い、けど乾杯から5杯目まで、毎回この斉唱があるのが難点なんだよな。
 
やれやれと首を傾げる私とは対照的に、奴は多めに注がれた醤油に小指をちゃぽんといれて舐め、又入れて舐め、さも料理中の味見をしているような姿で醤油をつまみに酒を飲む。
 
日本酒好きが 塩をつまみに飲む、
といった通な飲み方の表裏一体とでも言おう。

ただ、奴の小指は常日頃から醤油を舐めているので小指の頭だけ黒色に染まっているのがなんとも気持ち悪い。

ふー、やっぱり大豆が違うと効くな。今日のはなんていうか眼に来るぜ。
 
そんな独り言を言ってるのをよそに、私は頼んでおいた大好物の唐揚げを食べることにした。
 
特にここの唐揚げはうまいのだ。
 
店長八重子(59)が丹精込めて揚げたあつあつのジューシー唐揚げ。
ここの店の名物だ。
 
その唐揚げに、酸味の強いレモンをぎゅっと絞ることで口に入れた瞬間なんとも言えないうまみと爽やかな酸味が独特のハーモニーを奏でる。
毎回これを食べる為に来たと言っても過言ではない。
 
私がおもむろに唐揚げにレモンを絞った瞬間、場が張りつめた。
 
 
・・・おい、失口、、、、、
お前、またやらかしたな。あれほど酒の席で共有している唐揚げにレモンかけるなと言ってるのに。
 
そう、醤油ペロペロはレモンが苦手だった。醤油との相性が悪い、らしい。
もちろん知っていた。何度も注意されていた。前回ももめたからな。ただ、これだけは譲れない。ここの唐揚げにはレモンが必須なのだ。
いや、旨いんだって、ここのレモンはシチリア産のSクラスを厳選に厳選を重ねているわけではない、そこらへんで買ってるやつだけど、それがいいんだって。
 
違う、そもそも唐揚げに酸味などいらんのだ。
 
また始まったか。何回か言いあいが続いたとき、私はついポロリと口にしてしまった。
 

”あれだよ、もしかしたらお前の醤油舐めすぎで舌が、、、
 
は、禁句だった。醤油の事は奴には大コンプレックス。舐めたくて舐めているのではい、運命(さだめ)なんだよ、と常日頃悩んでいた。
 
すまん、また俺、、、、ごめ、、
 
謝ろうとした瞬間、冷静かつ、怒りに満ちた表情の醤油ペロペロの左手がすばやく動いた。
 
 
と同時に机の上の私のポケベルが、かたっと音を立てて動いた。
 
 
な、速い!既に仕掛けてくるとは!飲みの席だぞ!
 
ポケベルを見ると無惨にも切れたネジ頭のみが散乱している。
 

同門の私達だが、能力の質が違う。私のドライバーはネジ山を潰すが、奴の能力はネジ頭その物をねじきってしまう。
 
私の能力は相手にとって 
”ネジ山が潰れてしまった、なんてことだ、いやもしかしたら、あー!やっぱり駄目だー!”
と少しの希望を持たせつつだめ押しでダメージを与える精神系の能力
 
 
だが奴の能力は物理的にポロリとネジ頭が取れちゃう。一目瞭然
相手も
”あーあ。ネジ頭が取れちゃ絶対むりだわ、これ!あー無理”
 
と言う一瞬にして大ダメージを与えるパワーヒッターだ。
 
系統が違う分、実際に受けるダメージも異質だ
いざ食らうと凄まじいダメージだ、買ったばかりの愛美ちゃんとお揃いのポケベルを、、、よくも!!
 
私も反撃に出る。
 
奴のお気に入りのレイバンの浜田省吾モデルのサングラスに手を、ドライバーを伸ばす!
鼻の当たる部分を90度に曲げた後、すばやくネジ山つぶし!!!!これでカッコ良くつけることは出来まい。
 
がは!!!何をする!
 
それはこっちの台詞だ!ポケベルに手を出さなくても!
 
おまえ、、、自分のやったことが判っているのか???命の次の次の次位に大事なこのサングラスに手をかけるとは、、、許さん!!!!
 
のぞむところ!来るか!
 
そのとき、 店長の八重子(59)が動いた。
 
”あんたら、いいかげんにしーや、やりたいんなら外でおやり!!”
八重子の手には”レンジでチンするから揚げ大盛り” と書かれた袋を手に我々の攻防をさえぎった。
 
ええええ ここの唐揚げ揚げてんじゃなくてレンジでチンする奴なの!!??
 
私は戦意を失った。揚げ立てだと思っていた自分に腹が立った。その場に崩れた。
 
 
醤油ペロペロは戦意を失った私が 自分の攻撃のせいだと勘違いしたようだ。
そしてこう言い放った
 
”おまえ そんなポケベルが逝ったぐらいで怖気ずくとは正直失望したよ、そんなので凹んでいたらこの先のドライバー道は到底歩めないぞ?もういい、弱虫のお前とは一緒にいられん 明日朝一で出て行く。次に会うときはお前と戦うときだ!!”
 
そういって やつは店を出た。こっそりと後から来た蟹の甲羅を舐めながら。
 
~~~~~~~
 
若かったな。思いにふけながら話しているとthe矛盾君が不意に気付く。
 
失口さん、なんかこのタクシー変ですよ!ココ壱所か浅草の雷門方面に向かってますよ!!
 
ちょっと、運転手さん、どこに向かってるんです??


運転手「…どいつもこいつも甘ちゃんばかりだな。闘いは待ってくれたりはしない。生きてる時点でゴングは鳴っているんだよ。」
 
 
く!これは罠か!!!車は方向的に浅草の大会会場を目指しているようだ・・・・
 
大会まで後一週間あるはずなのに。
 
お前は誰だ!
 
お前達は別に俺のことを知らなくてもいい。知っておくべきは目的地についてからだ。黙って乗っておけ。
 
 
二人ともパニックになっている中、運転手の姿は暗闇で見えず、どんな能力者なのかもわからない。
 
 
失口さん、どうなってるんですかね、、、不安そうに見つめる中、車は徐々にスピードを落としていく
不意に外を見ると御徒町手前の国道でかなりの渋滞の列。どうやら前方で深夜の道路修復の一車線工事のようだ。
 
まさかとは思う。まさかとは思うが、、、、ガチャ
 
 
ドアに鍵がかかっていない。どうやら運転手、閉めるの忘れていたようだな。
 
 
”おい、the矛盾君、カレー食いに行くぞ”
 
はい!
 
おもむろに後部座席から余裕で降りていった二人の姿に唖然とする運転手
 
ちょ、っちょいと!

お、おい!お前ら待てよ!待ってくれよ!鍵閉め忘れで降りるとか、こういうとき普通降りないだろ!
ちょっとは空気読めよ!

それにまだお代もらってないし! 
 
めんどくさいことに巻き込まれるのはごめんだ。

御徒町ならそこまで店まで遠くないだろう。
聞き流そうとそそくさ歩いて神保町方面に向かおうとしたその時

 
”頼むから戻ってきてくれよ、お前ら連れてこなかったら、俺、あの人にやられちまうんだよ!!!宇宙(そら)さんに”
 
宇宙(そら)?知らない名前だな。そのまま歩き続けようとしたとき、


横にいたthe矛盾君の唇がかすかに動いた ”うそ、だろ・・・・”とつぶやき 足を止めた。
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