2007年09月15日

イタリア貴族のワインとマッドな冒険者たち

Mad Motorists手元に一冊の本がある。

『The Mad Motorists』

カヴァーは色あせ、古本屋の値段シールが貼ってある。
価格はセールで$1。
出版元はロンドンの会社で1964年に印刷されており、したがってカヴァーに表記してある値段は£7.5となっている。
Mad Motorists2 
この本、元はNYで僕の一番の友人であるSamの親父さん(Nick)のものだった、というか今もそうである。2年近く前に借りたっきりなのだが、それには理由がある。
今年初めNickは脳梗塞を患い、軽い言語障害になってしまった。
元来陽気な人で、4月に僕とSamと3人で食事したときも朗らかに笑ってはいたけれど会話は無理な状態だった。あれから4ヶ月ほど経っているが、回復に向かっていてくれればいいと思う。

そんなわけでこの『Mad Motorists』は帰国の際にSamに了解をとって僕が預かっておくことになった。


この本の和訳版は99.9%存在しないと思う。
オリジナルの英語版でさえロンドン中の古本屋を探しまくって見つかるかどうか。
そんな忘れられた40年前の本が僕とNickとあるワイナリーをつなぐ不思議な縁をつくった。


自動車が発明された20世紀初頭、ヨーロッパ各地では様々な趣向のレースが行われていた。
そんな中、フランスの出版社がとんでもない企画を発表したのだ。

その内容とは、「北京―パリ ラリー」
当時アジアはもとよりロシアにさえ自動車はほとんど普及しておらず、したがってガソリン・スタンドなんてものもありはしない。
外交ルートを通じて各国の了解をとり、予定のルート上に燃料をディポジットするところからレースの準備ははじまる。

本文はレース中のドラマを淡々と語り、アジアには「自動車」という単語すらなかった時代の強行軍の模様を克明に伝えてくれる。
今回のブログに関係があるのはレースの参加者の一人、イタリア貴族であったBohgeheseという人。(ボウゲイジと発音する)
彼はトップでこのレースのゴール、パリに到達するわけだが、このBohgehese、ロングアイランド・ワインを調べるとそこのワイナリーの一つに名前がついている。
オーナーはイタリア人である。さてそこに何らかの関係があるのか?

「YES」

僕はワイナリーは数年前から知っていたが、リサーチのためオーナーに会いに行く前日、ロングアイランドのNick宅に泊まったとき彼から『The Mad Motorists』のことを教えてもらった。

翌日Nickと二人でBohgehseワイナリーに向かう。
運良くオーナーと会うことができ、テイスティングをした後ワインの日本輸出のことなどを話し、落ち着いたところでこの自動車レースのことを聞いてみた。

彼曰く、「ああ、もちろん知っているよ。レースに参加したのは私の大叔父にあたる人だ」

「おぉー、やっぱりそうか! なんだかいかにも貴族の子孫みたいにお高くとまったところがあると思った」、とはもちろん口にできない・・・
Mad Motorists3
おもしろいのはNickはロングアイランドに何十年も住んでいるにもかかわらず、僕がSamを通じてワインの話を持ち込むまでほとんどワイナリーに足を向けることはなく、したがって随分前に古本屋で手に入れた本に出てくるイタリア人貴族の末裔が車で15分のところにワイナリーを営んでいる事実も知らなかったのだ。

初めて行ったBohgehseでNickはそこの白を気に入り、「明日友人のパーティーに持っていこう!」とシャドネイを2本買って帰った。


一冊の古本がNickと僕とワイナリーを結ぶ。


次回はBohgehseワインのもう少し詳しい話と、僕が帰国した後偶然見つけた「北京―パリ レース」100年後のニュースをお伝えします。

お楽しみに!


nywine at 13:42│Comments(3)TrackBack(0) Far East Cafe 

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この記事へのコメント

1. Posted by semi   2007年09月17日 18:04
「自動車」という単語すらなかったというところがリアルですね。
 それから、北京、パリという距離感。地続きなんだけれど、まったく世界が違うところ、そういうのを実際に地道に見て回ったら、面白いでしょうね。
2. Posted by あけみ   2007年09月19日 20:30
こんばんは。
ご無沙汰しております。
とても興味深いお話ですね。
私もそんな「お高くとまった」ような(笑)
子孫の造られるワインに興味深々です
3. Posted by YUJI   2007年09月23日 11:47
本文中に「自動車」にどんな漢字をあてたか、みたいなことが書いてあったんだけど、もう一度読み直さないと思い出せないなぁ・・・


それからあけみさん、どうも。
実はワインの味のほうも「お高く」とまってまして・・・
つまり、ウマイということですが。
白もいいし、LIでは数少ないピーノ・ノアを出していて、年によってそのレベルに差がありますが、僕はこの繊細な赤も好きです、ハイ。

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