「2006-09年と比較すると、10-13年は数多くの新薬が出てきます。この10-13年で出てくる新薬がどのくらい利益貢献できるかがポイント」―。米国市場で大型新薬の特許が切れる「2010年問題」、国内市場での後発医薬品のさらなる使用促進策の導入で、製薬業界に地殻変動が起きようとしている。新薬メーカーは発売ラッシュでこの危機を乗り切れるのか。後発品専業メーカーの将来は明るいのか―。クレディ・スイス証券の医薬品シニア・アナリストの酒井文義氏に聞いた。

―2010年問題が話題になっています。この問題にうまく対応できている企業はどこでしょう。

 2010年問題は語り尽くされた感じです。挙げられている製品は、武田薬品の糖尿病治療薬アクトスやエーザイのアルツハイマー型認知症治療薬アリセプトなど10製品ほどです。これ以降になると、日本の大きな製品は特許が切れて後発品になってしまうということです。
 結局、これは非常に重い「ボディーブロー」です。一回ノックアウトされて、立ち上がって、その後ずっとボディーブローで痛め付けられているということです。

 では、どこがマネージできるか―。武田は後手に回りました。その理由は、アクトスの後継品と考えていたDPP-4阻害薬のSYR-322が、FDA(米食品医薬品局)のガイドライン変更によって追加試験を求められてしまったことです。武田にしてみれば、失策ではないという主張はできるのかもしれませんが、やはり最終的にはFDAのメッセージを読めなかったのではないでしょうか。前倒しで2年間の心血管系リスクの安全性データを取りに行くべきではなかったのか、または少なくともFDAに積極的に相談すべきではなかったのかという見方がありますが、武田はどうもその辺が先を見越して動いていなかったようです。そのため、最終的にはFDAから試験を求められたことによって、発売が2、3年後ろにずれてしまって、アクトスのパテント切れに間に合わないことになりました。
 もう一つは、消化性潰瘍治療薬(プロトンポンプ阻害薬=PPI)タケプロンの後継品として開発したデクスラント(カピデックスから製品名変更)があまり売れていないことです。これも武田の責任というよりは、米国の市場環境の変化によって、なかなか新薬は保険会社や病院の採用が進まない状況にあることが理由として挙げられます。特にPPIの市場はジェネリックが多くてコモディティー化(どの製品にも大差がない)していますから、デクスラントのような改良型がどこまで受け入れられるかはもともと不透明だったのですが、その不安が現実問題になってしまったということです。
 ただ、武田は苦しんでいるものの、日本の中ではまだ体力があり、国内の収益基盤もしっかりあるので、赤字になることは絶対にありません。2010年問題の考え方というのは、大手企業の営業利益が最低限どの水準まで減るのかということであり、赤字になるとか倒産するということはありません。ただ、低迷が長期化するリスクはあります。

 エーザイについては2010年問題のリスクは大きく、アリセプトとPPIパリエットの2製品の特許が切れます。今年11月にまず、アリセプトの特許が切れますが、アリセプトを守り切れないと利益は半分くらいになってしまう上に、13年5月にパリエットの特許が切れた時にこれを守れないと、利益の6、7割が飛ぶことになります。そうなると研究開発費にお金を回せなくなります。それでは困るので、今は必死にライフサイクルマネジメントと新薬投入に取り組んでいますが、こちらもスケジュールに遅れが目立ちます。

 第一三共は、2010年問題というのはあまり大きくありません。ところが、買収したランバクシーの「インド問題」を抱えているし、抗血小板薬エフィエントがなかなか売れないという問題もあり、株価の重しになっています。そこにもってきて借入金もあるし、非常に大変だなと感じています。第一三共にとっての2010年問題は、高血圧症治療薬オルメテックや合成抗菌薬クラビットの特許切れだけでなく、戦略の失敗という原因があります。

―エフィエントがうまくいっていない理由は何でしょうか。

 これも、第一三共とイーライリリーだけの失敗とは言いません。エフィエントは半年間の優先審査になったものの、それが1年以上たなざらしにされてしまい、その間に安全性に対する懸念など、いろいろな雑音が出てきてしまいました。この雑音が、医師やそれを使わせる保険会社の見えざる不安につながっていると思います。
 もう一つの原因は、リリーと第一三共の戦略ミスだと思いますが、米国での価格を競合品のプラビックスよりも高く設定したことです。第一三共とリリーに言わせれば、「いい薬」だということです。プラビックスよりは確かに効果はあります。ただ、効果の上積み以上に、プラビックスがディスカウントされているので、恐らく価格差は相当ついているはずです。プラビックスはエフィエントの半額程度という説があります。そうなると、医師は使えませんよね。何で高い方の薬剤を使うのかということに対しては、よほどしっかりとしたエビデンスがない限り、ましてや「新薬のエフィエント」対「データが相当蓄積されているプラビックス」ですから。

 また、早ければ今年10月には、アストラゼネカから違うメカニズムを持った新薬ブリリンタが出てくる可能性があります。これにより第一三共とリリーとしては、エフィエントを製品化して立ち上げて、その価値を最大化するための期間が1年以上短くなってしまいました。この短くなった部分は、プラビックスの特許が切れる前、ブリリンタ が出る前の立ち上げに要する部分で、逆に言うとその先が心配です。助走期間がなく、立ち上がっていない状況では、そのまま低空飛行を続けてしまう可能性が高いということです。

 今年1月から、エフィエントの有効性の部分を初めてアピールできる情報冊子を持ってMRが情報提供活動をできるようFDAから承認が下りたので、1月以降プロモーションを強化できます。それによって、どのくらいエフィエントの売り上げが上がってくるかに相当懸かっていますが、1月もあまりぱっとしません。6月くらいまで様子を見て、それほど売り上げが増えなかったら、これはその先はもっと大変になります。

―アステラスはどう評価されていますか。

 アステラスは本当に地味な会社になりましたよね。こつこつと国内で収益をためるという。それでもプログラフなどは頑張ったと思いますが、昨年8月に米国で後発品が出てきました。当初は免疫抑制剤で臓器移植という特定の患者が使うこともあり、医師が後発品を処方せず、浸透のスピードもかなり遅いだろうといわれていましたが、発売1か月で2、3割があっという間に後発品に切り替わってしまいました。
 ただ、分析してみると、大手の中ではアステラスが一番既存品の残存価値は高いです。プログラフや排尿障害改善薬ハルナールといった主要製品の特許が米国で切れていますが、プログラフの残存価値は結構高いということがあります。もしこれが維持できて、現在販売中の新薬が4、5年先に開花してきたら、少しおもしろくなるかなと思います。また、米国で仕掛けたOSIファーマ社への敵対的買収もやや理解に苦しむものです。失敗すると経営判断の正否が問われます。
 お金はあるので、アステラスが強い病院市場で米国から開発後期に入っているものを導入して、早期に製品化するなどのビジネスモデルに転換し、1、2年後には変わる方向が示せたかもしれないのに、OSIを買収するとそうした構想も描きにくくなります。


【関連記事】
「分析・新薬価制度」(上)―中村和男氏(シミック会長兼社長)
「分析・新薬価制度」(中)―小野俊介氏(東大大学院薬学系研究科医薬品評価科学講座准教授)
「分析・新薬価制度」(下)―酒井文義氏(クレディ・スイス証券医薬品シニア・アナリスト)
顕在化する製薬大手の先行不安
昨年の医療用医薬品市場、6兆7千億円余―富士経済

千葉・医療再生の序章(上) ―銚子病院再開、成否のカギは「複合医局」(医療介護CBニュース)
米、徳之島案「運用上受け入れられない」(読売新聞)
児童ポルノサイト遮断、年度内に=法的課題を整理-総務相(時事通信)
カルテル疑惑でウソ申告、課徴金減免見送りへ(読売新聞)
「リストラされ…いざこざ」45歳男、義父絞殺(読売新聞)