人権侵害勧告を受けてのNHKの「対応報告」に対して、BPOが「意見」を出しました。NHK側のあまりにいい加減な対応にBPO委員の方も唖然とされたのでしょう。大変厳しい意見が出されています。NHKの対応の問題点について、私たち有志の会が指摘したことがほぼ言い尽くされたものでした。
http://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/brc/determination/2016/62/20170703_Iken.pdf

以下全文(赤字強調は有志の会によるもの)

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2017年(平成29年)7月3日

NHKの「STAP細胞報道に関する勧告を受けて」に対する意見

 放送と人権等権利に関する委員会 委員会は、「STAP細胞報道に対する申立て」に関する委員会決定第62号(以 下「本決定」といいます)について、当該局(NHK)から2017年(平成2 9年)5月9日付「STAP細胞報道に関する勧告を受けて」との報告(以下「本 報告」といいます)を受けましたので、2017年5月16日開催の第247回 委員会と6月20日開催の第248回委員会でその内容を審議した結果、次のと おり意見を述べます。

 

1. 本報告の位置付け

 本報告は、NHKと民放連による「BPOの設置等に関する基本合意書」 の3として「NHKと民放連加盟各社は…3委員会から指摘された放送倫理 上の問題点については、当該放送局が改善策を含めた取り組み状況を委員会 に報告し」と明記されていることに基づいてなされたものです。
 これまでNHKの「勧告を受けて」と題する報告においては、「対応や再発 防止の取り組みについて」の報告であることを明記されていたところ、本報告ではことさら「対応や見解について」と記されるのみで、本決定で人権侵 害ありと指摘を受けた点についての「再発防止の取り組み」については記さ れておりません。

 

2. 本報告の内容

 本報告は、本決定のうち番組の制作過程で生じた取材上の行き過ぎについ てはこれを重く受け止めるとし、場面転換のわかりやすさや場面ごとの趣旨 の明確化などの配慮を欠いたとの指摘については今後の教訓と受け止めると しながら、第5項で「今回の勧告についてのNHKの見解」と題し、約2頁 半を費やして、本放送が委員会の勧告で人権侵害にあたると指摘されたこと に対しNHKとしては人権侵害にあたらないと考えていること等を述べてい ます。
 しかしながら、取材上の行き過ぎについては本申立て以前にNHK自身が申立人からの抗議を受けてこれを認め直ちに謝罪していたものであり、本決定を受けるまでもなく、当然重く受け止めるべきものです。
 また、場面転換のわかりやすさや場面ごとの趣旨の明確化などの配慮を欠 いたとの点については、本決定においては、それによって人権侵害の結果が もたらされたとしているものですから、人権侵害とことさら切り離して今後 の教訓とするのでは意味がなく、それによって人権侵害がもたらされたと判 断されたこととの関係において教訓とされるべきものです。
 そして、本決定が人権侵害ありと結論した点については、本決定を真摯に 受け止めるとしながら「人権侵害をしたものではないと考えます」とするの みで、人権侵害ありと指摘された点についての「改善策」や「取り組み」に ついては何ら記されておりません。結局本報告では、人権侵害があると勧告 した委員会の結論に関しては何らの取り組みもしないとしているものと理解 されます。

 

3. 決定についての委員会の考え

 委員会決定の結論に対し放送局に異論が生じるという事態はもとより想定 されるものです。それは、申立人と放送局の立場が相いれないという前提で 申立てが受理される制度である以上、委員会の判断次第で、放送局または申 立人のいずれかに不満が残る事態は当然に予想されるからです。
 しかし、放送業界自らが自主的な第三者機関として放送人権委員会を設置 した以上、放送局は異論があったとしてもまずは委員会の判断に耳を傾け、 人権侵害と指摘された場合はそれを受けて「改善策」や「取り組み」を行う などして真摯に対応すべきではないでしょうか。放送業界自らがBPOを設 立し、そこで選任された第三者委員9名が真摯に審理を重ねた委員会の結論 を放送局が尊重しないことになれば、それはBPO放送人権委員会の存在を否定するに等しいとは言えないでしょうか。
 委員会決定に異論がある場合でも、まずは委員会決定に真摯に対応し、そ のうえで、異論があるとすればそれはなぜか、委員会と放送局の見解にどの ような相違があるのかを検討することが、より良い放送を実現していくこと に資するのではないでしょうか。しかしNHKは、後述するとおり本決定に ついての不十分な理解のもとでこれを批判するに止まっています。
 委員会の前身であるBRO・BRCが設立され、さらにBPOが設立され るに至る経緯においては、放送内容に対する法的規制の必要性が議論される状況がありました。これに対して憲法21条、放送法1条に基づく放送の自 主・自律を守るため、NHKと民放連が基本合意書を取り交わし、両者と民 放連加盟社を構成員としてBPOが設立されました。
 BPO規約第3条では、「言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的 人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対し、自主的に、 独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高 揚に寄与することを目的とする。」とされています。
 このように、放送業界全体が、自ら表現の自由を守るため、自主的な機関 としてBPOを設立して放送人権委員会を設置し「独立した第三者の立場か ら」放送への苦情や放送倫理上の問題に対処するとしていることは、NHK を含む各放送局自身が、自らの放送について第三者機関である放送人権委員 会の決定を尊重すると宣言していることを意味するでしょう。
 もし各放送局が、自ら構成員となってBPOを設立したにもかかわらず、 委員会の決定に対し異論があるときは何らの「改善策」も「取り組み」も行 わないと言う姿勢を取るのであれば、放送業界が自主的・自律的に放送倫理 上の問題に対処できないことを示すものだという批判を招くのではないかと 委員会は危惧します。

4. 本決定の不十分な理解

 NHKは、本報告書第5項において、「今回の勧告では、そうした具体的な 放送上の事実がないまま、編集上の印象を最大の根拠として、『摘示事実』を 認定し、人権侵害だと判断しています。印象という個人差があるものを軸として『摘示事実』が認定されていくことに、現場は不安を感じていますし、 現場の納得感に欠けるBPOの認定が行われると、報道の萎縮につながりか ねないと言う懸念も広がっています。放送現場で働く者たちにとって、より 納得性の高いかたちで『摘示事実』の認定を行っていただければ、と思います。」としています。
 しかしこの点は、以下のとおり、本決定に対する理解が不十分なことによ るものです。

 本決定では、本報告も引用するいわゆるテレビ朝日ダイオキシン報道最高 裁判決の基準によることを明記し、約4頁を費やして綿密な分析を行ったう えで摘示事実を認定しているのであって、本報告が述べるように「印象という個人差のあるものを軸として」摘示事実を認定してはいないからです。
 「印象」という言葉は、上記最高裁判決にも用いられていますし、本決定 において「印象」という言葉を用いている部分も、その最高裁判決の判断基準に則ったものです。本決定は、最高裁判決の判断基準にしたがうことを冒頭で明記し、そこに挙げられた複数の判断要素に基づいて綿密且つ詳細な検 討を加えて摘示事実を認定したものであって、決して「印象」を「最大の根拠として」摘示事実を認定したものではなく、したがって報道の萎縮を招くようなものではありません。
 同様に、本決定において委員会が「STAP研究に関する事実関係をめぐ る見解の対立については立ち入った判断を行うことはできない」とした趣旨 についても理解が不十分であると思われます。
 最後に、NHKは本報告での主張を正当化するような文脈で、引用の形式 をとりながら不正確に要約して「BPO10年のあゆみ」における堀野紀元 委員長の発言に触れているので、その点に付言します。
 まず、このインタビューの表題は「人間の尊厳が損なわれることがあってはならない」というものです。そして「決定に不満があっても、それはもう 済んだことだと言って通り過ぎてしまうとなると、委員会の存在意義はあま りないんじゃないか」とされています。そして本報告で触れられた部分は、 正確には、「むしろ、決定において委員会がこの番組についてはこう考える、 ここは直してほしい、これはいけないことだと言ったことに対して、局側の意見、見方、そして例の『真摯に受け止めます』以上に何らかの具体的な意見や見解があるのかそのあたりはこちらも是非知りたい。」としたうえで、 その後に「我々も神様じゃないから、間違った認識をしている場合もあり得 る。そういう場合はこちらが学ばなくてはいけないし、委員会が言ったこと が正しいとすれば、それは局の中で定着させてもらわなくてはいけない」とされているものです。
 このように、堀野元委員長も、局側に異論があれば委員会決定が指摘した 問題についての「改善策」や「取り組み」などの対応をしなくて良いとしているものではなく、委員会の本意見と異なるところはありません。

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BPO放送倫理・番組向上機構ホームページより
http://www.bpo.gr.jp/?p=8946&meta_key=2016#iken2

 以上のように、BPOは勧告内容を無視したNHKのヌルヌルとした言い逃れに対して、NHKには理解力がないのか?とバッサリ切り捨てています。
 NHKはどうしてこれほどの醜悪さを晒してまでも、自分たちの過ちに向き合うことを拒むのでしょう。NHKの経営陣は、放送業界が自主的・自律的に放送倫理上の問題に対処できないことを世に示して、国が規制に乗り出すのを待っているのでしょうか。マスコミ各社は、NHKのこの無法な振る舞いを野放しにすることが、逆に放送業界の手足を縛られる道に向かう危険性にもっと敏感であるべきです。これはまったく他人事ではないのです。