2010年06月14日 15:12

松さん 2

告白」
 *ちょっと蛇足
*次号予告
 
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*新作レビュー
「告白」中島哲也監督(日本)
松たか子、木村佳乃、岡田将生ほか出演

 たぶん今年の邦画では衝撃度ナンバーワンだろう。シュールを通り越したブ
ラックなパワーが静かに炸裂し続け、どこかに希望や救いが出てくるのではな
いか、という観客の予想を見事にスパッと裏切ってゆく。それでいて映画作品
としての完成度は高く、これだけ壮絶な内容でありながら、さっぱりした余韻
でまとめ上げる監督の手腕は大したものだ。生徒役の子供たちがリアルで、松
たか子も非情な教師役を好演している。原作は、本屋大賞にも選ばれベストセ
ラーとなった湊かなえの同名小説。

 中学校1年B組の教室。終業式後のざわつくホームルームで、担任の森口悠
子(松たか子)は、突然の退任報告に続けて、亡くなった自身の幼い娘が実は事
故死ではなく殺人で、「犯人はこの中にいます」と衝撃的なことを口走る。淡
々と恐ろしい復讐を語る森口の言葉は、ほぼ特定された2人の男子生徒に動揺
を与え、それぞれ違う狂気へと向わせる。
 それは犯罪を犯しても少年法によって守られる14歳の「人間」に対する彼女
の、周到に用意された復讐劇だったのだ。波紋が拡がる中で、登場人物たちの
過去と心があぶり出されてゆくが、それが新たな悲劇を生む……。

 中学世代特有の、何ごとにも過敏に反応し、時に必要以上の衝動にかられて
行動してしまうこの年代の生徒たちを中心に据えたことがまず成功している。
短絡的な発想も行動も、この年齢ならちっとも不自然ではないからだ。
 森口以外の登場人物は、成績優秀で化学の知識に長ける少年Aこと渡辺修哉
(西井幸人)と、気が弱くいじめられがちな少年Bこと下村直樹(藤原薫)。対照
的な2人の”犯人”に加え、我が子を溺愛し、悪いのは他者と決めつける修哉
の母親(木村佳乃)、事件に巻き込まれる学級委員の北原美月(橋本愛)、うっと
うしいほど明るくノリの軽い熱血漢の新任教師”ウエル・テル”(岡田将生)。
それぞれの背景が、「告白」という形で描かれた後、事態はさらに展開をみせ、
憎悪と思い込みの連鎖とともに最終局面に向けて突き進む。

 主人公、森口の復讐劇は、一見教育的見地からの懲らしめを思わせるが、そ
うではない。大人であり教師でもある冷静な彼女が、裁かれることのない犯人
を自ら断罪するところが、本作の最もコワイ部分であり、核心でもある。
 ほとんどの子供達が携帯を持っていて、メールによって匿名の暴力が伝播す
る様が如実に描かれるが、便利さと引き換えに現代社会に侵入した厄介な脅威
と上手に向き合うことなど、中学生には無理な話。便利さは、痛みと背中合わ
せなのだ。

 “○○ワールド”と形容されるような独自の作風を築き上げた監督が、自分
のカラーを封印して違うタッチで仕上げるというのは、とても勇気が要ること
だと思うが、今回中島監督は見事にそれをやってのけた。「下妻物語」、「嫌
われ松子の一生」、「パコと秘密の絵本」などでみせたCGを併用したカラフ
ルでポップな色使いではなく、彩度を抑えたトーンの実写で真っすぐにまとめ
ている。しかしアングルやカット割など映像技術はさすがの出来、最後に来て
監督らしい表現方法も顔を出している。

 このストーリーは、むやみに明るく茶化したりしないことが正解であり、自
分のタッチを抑えて、あえて悲劇を悲劇として表現したところに、原作に対す
る誠意を感じる。時折封入される鮮やかな空も印象的だ。レディオヘッドの重
く響くロックナンバーが挿入歌として効いていて、この選曲センスも光る。

 さらに、観客が必要以上に嫌悪感やわだかまりを残さぬよう、工夫がなされ
ている。まず登場人物たちの行動に、ほんの少し飛躍したありえなさ加減を滲
ませて現実感を薄めている。また各人物がセリフの中で、矛盾や割り切れなさ
を指摘する事で観客の気持ちを代弁し、いわば”解説”を加えて納得させてい
るのだ。
 
 松たか子は、これまでのイメージとはまるで違うダークなヒロイン役に成り
きっていて、甘さはみじんもない。また木村佳乃も、今まで観た中で一番好演。
感情を強調する際に、台詞が棒読み気味になる欠点が今回は解消されている。

 海外の映画には、希望も暖かさもないのにずしんと見応えのある秀作が多い
が、日本でこういう作品が拡大公開系でヒットするのは珍しい。目下反響を呼
んでいるが、この有無を言わさぬインパクトを、ぜひ確かめてみてほしい。
ヒールは似合うかなあ?


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