2011年01月26日 08:21

話題

*新作レビュー「ソーシャル・ネットワーク」
 *ちょっと蛇足
 *次号予告

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*新作レビュー
「ソーシャル・ネットワーク」 デヴッド・フィンチャー監督(米) 
ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールドほか出演

 世界最大のSNS「フェイスブック」創設者とその周囲の人間達の、光と陰
にスポットを当てたドラマ。フェイスブック誕生の舞台裏が、いかにもアメ
リカらしい発展と訴訟の渦とともに興味深く描かれる。
 目下話題の作品だが、夢と希望を前面に出した感動作とはひと味違い、現
実らしさを基調に、学生上がりの面々たちの若さゆえの虚栄心とつまづき、
そして人を変えてしまう「数」と「金」の呪縛が、テンポ良く硬質なタッチ
で等身大に表現されており、好奇心を刺激するのに充分な出来栄えである。

 2003年、ハーバード大のオタク学生、マーク・ザッカーバーグ(ジェシー
・アイゼンバーグ)は、彼女のエリカ(ルーニー・マーラ)に振られた腹いせ
にプログで中傷し、ついでに学内の女子学生のデータをハッキングし、2人
ずつ並べてどちらがいいか投票させるサイトを立ち上げる。プライバシーの
損害や女性蔑視の非難の一方で膨大なアクセスを記録、一躍有名人になる。
親友のエドゥアルド(アンドリュー・ガーフィールド)と、発展型を模索して
いると、ボート部のエリート、ウィンクルボス兄弟が彼らに接近してくる。
大学内限定の出会い系サイト設立への協力を依頼されたマークは彼らの案を
パクり、さっさと自分でそっくり版の「フェイス・マッシュ」を立ち上げて
しまう。これが脅威的な勢いで人気を呼び、他の大学へと波及し、やがて本
格的なビジネスとして「フェイス・ブック」へと発展していく。

 やがて音楽配信システム「ナップスター」を構築し、音楽業界と大もめし
たショーン・パーカー(ジャスティン・ティンバーレイク)と会ったマークは
感銘を受け、ショーンのビジネス拡大路線に乗る。ショーンの人間性に不信
感を抱いたCEOのエドゥアルドは会社の資金を凍結させるが、マークは投資
家を確保して対立、2人の溝は深まってゆく。利用者数の増加だけが唯一の
達成感となったマークにも、ショーンの罠が降りかかり……。

 なるほど、これが真相なわけか…。友人たちをおとしめた代償が、成功の
暁に自らに回ってくるという宿命が切なくもあり、当然の報いともいえる。

 マークはなんだか日本のホリエモンみたいだ。インターネットを駆使して
時代の寵児となるものの、言動を含めて好戦的な印象がやっかみを生み、食
うか食われるかの濁流にさらされていく。ラフな服装もそっくりだし、理屈
に長けるところも似ている。
 
 映画は、エドゥアルドがマークを相手取って起こした裁判の公判を追う形
で、彼らの軌跡をたどる構成になっている。堅実で常識派のエドゥアルドが
追い落とされ、侵害が明らかなウィンクルボス兄弟の知的財産所有権は認め
られない。強い者の論理が通り、勝った方が正しいとみなされる構図に弱肉
強食国家の真髄と、それに翻弄されるイマドキの若者像が垣間見える。

 マークも、エドゥアルドも、ショーンも、実は何が何だかわからないまま
に、目的もゴールもみえない大きな虚像に向って突き進んだように思える。
 それだけに2人の脇役が印象に残る。
 一人はハーバード大の学長。マークの学内データ盗用を訴え、大学憲章を
暗誦するウィンクルボス兄弟を「退屈だ」と切り捨て、父親のコネでアポを
取ったやり方を叱る。
 そしてもう一人はマークの元恋人エリカだ。ネット上で屈辱を被った彼女
は、有名になったマークが近づいてきても相手にしない。筋が通っていてぶ
れない2人に、ネット頼みのエリートたちはとまどう。
「乗ってこない」ことがネットの仕掛け人にとって最も怖いことなのだろう。

 今や全世界で5億人を超える利用者がいるフェイスブック。ハッキング、
肖像権侵害、出し抜き工作……決して公明正大とはいえない創始者たちの作
ったこの現代の交友広場が、唯一他のSNSと違う点は登録者の「実名制」だ。
学生名鑑からスタートした成り立ちの痕跡を残し、匿名制により多くの問題
が生じている現在のネット環境において支持を集めているその特徴こそが、
欠点だらけのオタク青年マークのプログラマーとしての有能性と、彼の中に
少ないながらも点っている誠実さの現れのように思えて仕方がない。
 何かと考えさせられ、現代の一面を捉えた興味深い作品である。
 
「ソーシャル・ネットワーク」公式サイト
http://socialnetwork-movie.jp/


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