「春のメリー」 
脚本家 アントワーヌ・ランシヨーのプロダクションノート
Melie_00


■「春のメリー(Le Printemps de Melie)」 ストーリー構成について
 本作は、春祭りの時期に、二つの物語を同時進行させ、最終的に一つに収束させる構成で、中世の伝統的な短編形式を取り入れた。
 一つめの物語は “中世のサスペンス”風である。春の祭りを心待ちにする人々が未知の病に冒される。そこに、治療よりも権力欲に取り憑かれた、よそ者の“医者”が出現する。彼こそが呪いの張本人である。メリーは、自ら“調査”し、この呪術使いの狡猾な企みの裏をかき、恋するレオンと力を合わせて“腹が膨らむ” 奇病(まさに中世の肥満!)に冒された人々を救う。
Melie_03

 二つめの物語(前作「冬のレオン(L'Hiver de Leon)」を引き継ぎ)では、養子となったクマの子、レオンが自らの出生の秘密に近づく。春の祭りの生け贄に捧げられる動物を助けるために、われらのヒーローは自らの命を省みないどころか、半獣(クマ)半人間という自らの正体と対峙する。レオンは、不本意ながら、出生の場に立ち戻る。そこで、彼の兄弟(実か虚か)かも知れない、野生のクマに出会う。新たな手がかりは、レオンの(そしてわれわれの)空想を掻き立てるが、彼が(そしてわれわれが)知りたがっていることが、全て明 かされるわけではない。
 芝居の常として、実はその野生のクマが生け贄だったという、思わせぶりな幕引きとなる。登場人物が集合し、一気に問題は解決する:友情の絆は強まり、流行病は収束し、生け贄のクマは逃げ、悪者の素性は暴かれる。この冒険で、メリーとレオンは成長し、より深く愛し合い、強い絆で結ばれたカップルとなる。
Melie_01


■「春のメリー(Le Printemps de Melie)」ついて
 わたしは中世に関心を持っている。ヨーロッパ文化が受け継いできた、中世のコント(短いお話し)、伝説、そして風習を、わたしは書物から学んだ。中世とは、物語性の豊かな時代である。彩色術のようなグラフィックス/視覚表現の観点からも、伝説、コント、風習のような叙述の観点からもそのように言える。これは、人々が信仰、伝説や異教徒の習慣を放棄し、キリスト教という新しい宗教へ “順応”する過程に現れる。この移行過程でうち捨てられた遺産、とりわけ季節と結びついた伝統的な祭りに、わたしは強く惹かれる。中世では、祭りのコンテクストにつながる春という時期は、富みの象徴であり、歴史の使いであった。冬眠から醒めたクマの姿、すなわち“原始の人間”が主役に躍り出る。春になっても太陽が昇らないという恐怖は、新しい流行病で土地が不毛になるという不安とともに、あの時代の人々を支配していた。そして花は愛と生殖を象徴し、中世の空想に欠かせないものである。
Melie_16

 このような理由から、レオンの冒険物語の登場人物たちは、春の物語に再登場させることとした。そして今回は、メリー王女とレオンとの愛情関係を深め、レオンという人物像を彼の出生の秘密にできるだけ沿わせた。この新しい企画を通じて、このような文体を探求した。
 本作は、「冬のレオン」の続編ではないが、第1作を継承した物語性とグラフィックスは伸長させた。そして、新旧二つの物語は繋がりを持ちつつも、それぞれの物語がそれぞれに存在し、互いに自立させることを留意しながら、新作により前作も深まるようにした。
Melie_04


■「冬のレオン」の企画成立まで
 2002年、コント「Jean de l'ours(クマのジャン)」の構造を元に、「L'Hiver de Leon(冬のレオン)」という題名の、新しい話しを書き上げた。L'Association Beaumarchaisの支援と、Sopadin(優秀テレビシナリオコンテスト)で好評を得て、2003年に(セリフのある)脚本を完成させ、発表した。プロデューサー兼演出家のパスカル・ルノートル氏と、演出家・作画家のピエールリュック・グランジョン氏の二人がこのお話しに共感してくれて、これを企画化し、立体(人形)アニメーションにすることに興味を示してくれた。その後、イラストレーターのサミュエル・リベィロン氏がチームに加わった。中世の彩色術/挿絵からインスパイアされた、オリジナルで高品質なグラフィックスが、本作に高級感と本物感を与えることとなった。現代口語のセリフ、演出法、グラフィックス観とのギャップは、本作の味付けになり、他と差別化している。
 フランスのFrance3局が本企画を採用し、「冬のレオン」は26分の短編作品として、ヴァランスのFolimage(フォリマージュ)スタジオで制作された。フランスでは、2007年のクリスマス期に全国放送され、こども向け絵本が出版された。さらに、立体アニメーション特集の一部として劇場公開された。
Melie_08


■養子のテーマ
 レオンの冒険シリーズの第1作「冬のレオン」では、かわいそうな孤児と親との再会というありきたりではなく、最初から子側に焦点を当て、こどもが出生の疑問や対立する人たちとの関わりを通じて、養子になった身の上を受け入れて、成長していく様を描いた。お話しの最後には、若いクマは保護者と和解し、両者を結ぶ強い絆を理解し、心の澱から開放されるとした。
Melie_11

 「春のメリー」では、レオンを再び登場させ、養子というテーマを深めようと試みた。このアイデアは古典コント「Valentin et l'ourson(ヴァランタンと子熊)」からもらった。養子と放棄(子捨て)というテーマは、昔のコントでしばしば取り上げられている。常に、養子になった子は虐められ、養子の養父母は悪魔のように描かれてきた。幸い今日では、養子とそれにまつわる考えはかなり変化した。「春のメリー」は、養子を迎えた両親と養子本人について、実際に近いイメージを提供している。それゆえ、現代的なお話しの「春のメリー」では、養父母と養子が、重要で、ポジティブで、そして構造的な役割を担った。

■「春のメリー」と愛の探求
 「冬のレオン」を貫くものは、“通過・移行”(Le Passage、こどもから青年へ、生みの親から育ての親へ、動物の規定から人間の規定へ・・・)である。それゆえ、この物語は季節の移り変わり(秋から冬へ、年末から新年へ・・・)とも関連する。そして、冬という季節に結びついた風習と共に展開する。物語では登場人物たちをある身分から別のそれへ移行させ、スクリーン上では景色や環境が移り変わる。クリスマスの祭りを中軸に据えて、レオンがクマの素性と養父母との親子関係を受け入れる和解のシーンは、クリスマスの祭りと同じ夜にした。その舞台には、レオンがこの世に送り出されたであろう場所、洞くつを選んだ。
 「春のメリー」では、この“通過”というテーマを深める構図を用意した。春すなわち新生の季節(花、性的本能、風習、伝説)と、一族の素性や兄弟姉妹(血縁、出生の場)という、二つの主題を発展させた。
Melie_18

 わたしのこれまでの研究を基に、春の風習に因んだ想像上の祭りの物語にした。そのセレモニーとは、公現祭(1月6日)と復活祭を掛け合わせたようなものであり、聖燭祭(聖母お清めの日、2月2日)、マルディ・グラ(謝肉祭の最終日)、そして謝肉祭(カーニバル)の諸行事を凝縮させている。また、この春の祭りは、二人の主人公のある状態から別の状態への移行を示し、途絶えることのない再開の印でもある。わたしたちの伝説や風習に基づき、この新しい物語はヨーロッパ固有の文化と共鳴する。

■ヒロイン メリー
 加えて、王女のメリー・パンデピスという人物を前面に出した。とりわけ、ここで登場する祭りは、女性(女性の特性)と関連している。
 メリー王女は、常に花に彩られた世界で行動する(花が好きな彼女は、花を描き、花を書物で調べ、レオンの花束を受け取る・・・)。春のコンテクストは、思春期とメリーの初恋を象徴する。したがって花が、この物語のストーリーとグラフィックスを輝かせる要素となっている。
 われらのヒロインは常に行動的である。中世の歴史的コンテクストとはギャップがあるのだが、この現代的な女性の聡明さ、洞察力、芯の強さ(強情さ)が物語を結末へ導く。メリーはまた、物語の分岐点でも先導者的な重要な役割を担う。このような理由から、この物語は、こども向けにアレンジはしたが、花を謎解きの鍵にする、「薔薇の名前」のような“中世のサスペンス”形式となった。
Melie_09


■主役の二人 メリーとレオン
 メリー王女とレオンの若いカップルは、新しい太陽と春の再来を人格化している。二人は、人々の心に取り憑く不安がもたらす、負の人物/フィギュアらと対決する。病気とインボルク(ケルトの火祭り、2月1日)、悪魔のような医者は、太陽が戻ってこないことへの恐怖を現している。事件が次々に起こる、祭りと春到来の時に、二人は、人々を恐怖におとしめる人物/フィギュアを排除するために戦う、積極的で善良な人物として描かれている。
Melie_15

 この新しいコントは、放棄、病気、そして愛、アイデンティティ、ナルシズム、アンビヴァランス、去勢、エディプスコンプレックスというような普遍的な問題にまつわる古典的な恐怖を戯曲化した。その恐怖から免れ、秩序に新しい均衡をもたらせるであろう、攻撃性を自覚しなければならない。
Melie_22

 メリーとレオンの成人儀礼的な冒険と祭礼を欲する気持ちは、秩序の回復と季節の更新という図式に結びつく。彼らの最終的な勝利は、カップルが結びつく過程のたいせつな事件である。主人公の二人とこの物語を通じて、わたしたちは伝統的な祭りという文化遺産に思いを馳せ、社会における人間の命や立場をも思いやることになる。

■「春のメリー」日本語吹き替え版について■

このページに掲載した画像は無断使用禁止です。
(c)Folimage - Piwi - Divertissement Subsequence (Leon) Inc. - Office national du film du Canada / National Film Board of Canada - 2009