アニータ・キリ(Anita Killi)
JPG1968年1月17日、ノルウェー西部リーセフィヨルドの入り口に位置する、スタヴァンゲルに生まれる。

1988〜90年 ノルウェー国立芸術デザイン大学で修学、1990〜92年 MRDH District Collegeでアニメーションを学ぶ。
1996年にノルウェー国立芸術デザイン大学のアニメーション専攻を卒業、卒業制作課題でマルチプレーン撮影のアニメーションを制作した。

1995年、アニメーションスタジオTrollfilm ASを設立し、今日に至る。
The Hedge of Thorns(邦題:マレーネとフロリアン)』はヨーロッパ最優秀アニメーション賞(Cartoon d'Or)にノミネートされるなど、世界の映画祭で数々の受賞をし、日本でも数多くの映画祭で上映された。
Trollfilmは、ノルウェー内陸部、人口3000人弱のDovre(ドブレ)の酪農場にある。子育て中のキリは家族と牛に囲まれた静かな環境でアニメーション制作に打ち込んでいる。
ドブレは、冬季オリンピックが開催されたリレハンメルと同じオップラン県の山岳地域にある。

Trollfilm ホームページ:http://www.trollfilm.no

作品歴
2009年 Angry Man(アングリーマン〜怒る男〜)
2001年 The Hedge of Thorns(マレーネとフロリアン)
1999年 The King That Wanted More Than a Crown、アニメーション演出
1996年 Daughter of the Sun
1994年 Circle、アニメーション演出
1992年 The Glass Ball

キリ監督が生まれた、スタヴァンゲル(Stavanger)
リーセフィヨルド観光の拠点となる街。カラフルな木造建築物が多く、その数はヨーロッパ最多とも言われている。人口約17万のこの町は北海油田を中心に栄えている。同時に自然の営みにも恵まれたこの町は、年間を通じ、リーセフィヨルドを訪れる旅行者で賑わう。

作品紹介
アングリーマン〜怒る男〜Angry man_1
原題 Sinna Mann 英題 Angry Man
2009年、20分
ノルウェー語日本語字幕版
カットアウトアニメーション、その他


◆監督、脚本、撮影、原画、プロデューサー:Anita Killi
◆原作:Gro Dahle 「Sinna Mann」
◆オリジナルイラスト:Svein Nyhus
◆音楽/編集: Hege Rimestad
◆音響: Hakon Lammetun、Lydhodene AS
◆編集: Simen Gengenbach、Drommesuiten AS
◆演奏/ヴァイオリン、他:Hege Rimestad、サントゥール(イランの民俗楽器):Javid Asfari Rad、トロンボーン: Oyvind BrÆkka
◆アニメーション:Anita Killi、Trin Saarapik、Maral Charyeva
◆アドバイザー: Oivind Aschjem、Family advisor for ATV (Alternative to Violence)
◆声の出演:Runi Arnekleiv、Herborg Krakevik、Henrik Mestad、Svein Tindberg、Gro Dahle
◆日本語字幕監修:青木順子
◆プロデューサー:Anita Killi
◆制作:Trollfilm AS
◆資金提供:The Norwegian Film Institute (Short film consultants: Sirin Eide & Kalle Lochen)、Helse og Rehabilitering with Extra funding、 thruough Redd Barna、Ministry of Children and Equality and Social Inclusion、Ostnorsk Filmsenter AS

◆あらすじ:
ボイは、理由も分からず怒りを爆発させ、暴力を振るう父親の機嫌をいつも気にする。母親は、怒りんぼうの父がいなければ母子の生活が成り立たないと、ボイに我慢を強いる。「自分が悪い子だから、パパが怒る」と思うボイ。家の中のことは口外無用と辛抱するのだが、「誰かに話してごらん」と、不思議な鳥と仲良しの犬に励まされ、王様に手紙を書く・・・
◆受賞など:
本年アヌシー審査員特別賞、観客賞ダブル受賞、広島グランプリ受賞ヨーロッパ最優秀アニメーション賞(Cartoon d'Or 2010)ノミネート、他多数

>>「アングリーマン」公式サイト

ここに掲載するすべての画像 (c)Trollfilm AS

◇「アングリーマン〜怒る男〜」 制作メッセージ Angry man_3
〜 Trollfilmホームページより
多くのこどもにとって、家庭は安全な場所ではない。
こども達は恐れ、見捨てられているという疎外感を覚え、家庭の問題は自分のせいであるという自責の念にしばしば縛られている。
本作で父親は母親に暴力を振るう。幼い少年のボイ(Boj)は目撃者となる。
誰かが酷い扱いを受けるのを目撃するのは、わたしたちが考えるよりはるかに痛ましいことである。このようなこどもの多くは、自らを責め、家の中で起こることに過剰な責任を感じてしまう。家庭の中で起こることは家族の問題であり、他人に話すべきではないと考えがちである。秘密にすべきことであると。もしその秘密を漏らそうものなら、殺されてしまうとさえ思いこんでいる。
多くの場合、そこに問題の本質があるのだ。絵本とアニメーション映画の「Angry Man(アングリーマン)」は、人々に話し合ってもらうために、この問題を取り上げた。
秘密は白日の下に晒されるべきである。おとなは、家庭で誰一人として恐怖を抱くことがないようにせねばならない。わたし達は語らねばならない。
本作は、暴力を振るう人々にも捧げられている。好きで暴力を振るう人はいない。もし本作が、助けを求める人の背中を押し、あるいは問題を抱えていることを彼らに自覚させることに役立つならば、終わりのない悪循環を放置するよりも意味のあることだろう。
多くの人は、内に“アングリーマン”あるいは“アングリーウーマン”を抱えながら、生きているのだ。

◇絵本「Angry Man (Sinna Mann)」とアニメーション映画化についてAngry man_2
 〜 Trollfilmホームページより
わたしは、娯楽ではあるが、娯楽のためだけでないアニメーション映画を創りたかった。
長年それに適う原作を探していたところ、著者のグロー・ダーレ(Gro Dahle)からボイ(Boj)のスクリプトを紹介され、わたしは「Sinna Mann」に惚れ込んでしまった。
グローと、彼女のパートナーでもあるイラストレーターのスヴェイン・ニーフース(Svein Nyhus)は、絵本出版前に、アニメーションの制作に取りかかることを許可してくれた。
本作のキャラクターのいくつかは、ニーフースの「World without Corners」などの前作から転用しているが、「Sinna Mann」絵本のイラスト、とりわけ象徴的な部分はアニメーションに取り入れていった。グローとニーフースは絵本の翻案に当たり一切の制限を設けなかった。わたしにとって理想的な始まりだった。
もちろん、アニメーション映画は絵本がなければ決して実現しなかった

◇アニメーションに描かれた、ノルウェー国王が矯正プログラムや施設を運営しているか? Angry man_4
〜 キリ監督とのQ&Aより
絵本「Sinna Mann」は、暴力を振るう父親を持つ、6人のこどもがノルウェー国王へ、彼らが抱える問題に興味があるかと尋ねる手紙を書いたという実話に基づいている。
ノルウェー王ハラルド5世はその手紙に返事を書き、こども達を王宮に招き、彼らの問題に耳を傾けた。こども達は、自分達の問題を王に泣きながら訴えた。こども達は王に真実を話さねばならないと感じ、秘密を明かした。
その後、王の面談は「Sinna Mann」の原稿に書き上げられた。王が登場するまでのストーリーが暗すぎるという理由から児童書化が見送られたという後日談がある。それでも本は出版された・・・
王はこども達に、彼らはとても勇気があり、問題の責任は彼らにはないと諭したという。そしてこのストーリーは世に送り出された。アニメーション映画でも王が主要な役所である。

◇ノルウェーの国王Angry man_5
本作のエンドクレジットに「願いを聞いてくれた ハラルド5世へ感謝を込めて」を見て、へぇー!?と思う観客も多いと思う。
ハラルド5世(ハーラル5世)は現国王(1991年1月17日 - )。
立憲君主国ノルウェーは、1905年ノルウェー=スウェーデンの連合を解消し、国民投票により君主国家を設立、デンマークのカール王子をノルウェー王として選出し、ホーコン7世が即位した・・・この経緯を、ノルウェー出身のトーリル・コーヴェ監督の短編アニメーション映画『王様のシャツにアイロンをかけたのは、わたしのおばあちゃん(My Grandmother Ironed the King's Shirts)』(1999年/カナダ・ノルウェー)がユーモラスに描いている。
ハラルド5世は、ホーコン7世の孫になる。

ノルウェー王室は開放的で庶民的といわれる。ハラルド5世の父王オーラヴ5世(オラフ5世)は“庶民の王”と呼ばれ、1970年代の石油危機の時には電車やバスで旅行したという。
コーホン皇太子の長女イングリット・アレクサンドラ王女は、「ご近所だから」という理由で地元の小学校に通っている(クーリエ・ジャポンVol.71/アフテンポステンより)。1990年に憲法を改正し、ノルウェーでは男女にかかわらず第一子に王位継承権が与えられるため、イングリット・アレクサンドラ王女は父コーホン皇太子に次ぐ、2番目の継承順位にある。
王室と国民との距離が近いため、本作や原作絵本で、父親の家庭内暴力に苦しむ少年ボイが誰かに助けを求たとき、王が登場したのだろう。
そして上記の通り、実話でも少年たちは王に助けを求めたのである。

Daily Yomiuri(デイリー読売)掲載インタビューと本作の社会的背景について>>
アニータ・キリ監督の短編アニメーション映画『アングリーマン〜怒る男〜』について、世界のアニメーションシアター WAT 2010での上映の際に、Daily Yomiuri(デイリー読売)紙の取材の応じたキリ監督のインタビュー和訳を紹介します。

作品画像、制作中の様子>>「アングリーマン」公式サイト

「アングリーマン」トレーラー

この1本を選んだ理由
アヌシー2010で初めて観て、とにかく感動しました。CIMG4250
4年を費やしたというカットアウトの映像も美しく、それ自体が感動ものですが、ストーリーとエンディングが心に強く残ったのです。
いつものとおり、「もう一度観たい」一本になりました。
アヌシーの受賞式が終わり、ステージに残るキリ監督に「ぜひ、日本で紹介させてほしい」と挨拶。帰国すると、すぐにトリウッドの大槻さんに話し、今回の上映となりました。

家庭内暴力、児童虐待という極めて重いテーマです。生半可な気持ちで上映してはいけないと心に決めて、取り組んできました。
キリ監督とメール交換を始めると、監督のアニメーション創りや本作に対する真摯な取り組みがすぐに分かりました。「日本でも、多くの人たちに観てほしい」という切なる想いが伝わってきました。
運良くある方から、原作絵本を日本で出版しようとしている、ノルウェー語翻訳家の青木順子さんを紹介していただき、絵本やその原作者グロー・ダーレさんとスヴェイン・ニーフースさんの情報をいただきました。
ノルウェー王国大使館から貴重な情報をいただき、「アングリーマン」の日本公開を支援していただいています

日本でも虐待を原因とする、こどもの死という最悪の事件が続いています。虐待、あるいは家庭内暴力というのは被害者を救うだけでなく、“暴力”を振るってしまう側も救済しないと解決しない問題なのです。
本作を観た方々が、内なる“アングリーマン”“アングリーウーマン”に思いを馳せていただけると幸いです。

青木順子さんが主宰する「ノルウェー夢ネット」
青木さんのコラム「DVで母親を殺された子どもたち」

◇児童相談所全国共通ダイヤル 0570-064-000(24時間/PHP、一部のIP電話不可)
厚生労働省 児童虐待防止対策・DV防止対策>>
子育て、出産に悩んだら、まず相談を。
虐待が疑われるこどもを見かけたら、すぐ連絡を。

児童相談所全国共通ダイヤルへ電話すると、お住まいの地域の児童相談所に電話をつないでくれます。


「アングリーマン〜怒る男〜」は世界のアニメーションシアター WAT2010(2010年11月13日〜12月10日)でご覧いただけます。

作品画像とトップの監督写真のコピーライト (c)Trollfilm AS

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トーキョー ノーザンライツ フェスティバル 2001

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