ワーナー・オンデマンド THE EDGEで配信中の海外ショートアニメーションのオススメポイントです。
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THE EDGEは、ハリウッドのメジャースタジオとして日本で最大規模の会員を擁するワーナー・ホーム・ビデオの公式動画配信サイト「ワーナー・オンデマンド」が、海外のエッジが効いたショートフィルムを日本に紹介し、日本のショートフィルムを海外に向けて発信することにより、世界のショートフィルムクリエーターを応援していく目的で立ち上げたレーベル。
THE EDGEの海外ショートアニメーションは、オフィスHWATセレクションよりセレクトしてお届けします。



『ノルウェー最後のトロール』、おとなのメランコリー
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ピョートル・サベギン監督の『ノルウェー最後のトロール(The Last Norwegian Troll)』は、絶滅寸前のトロール(北欧の妖精)の話です。
トロール族最後の一頭は、現代のノルウェーでひっそりと、橋の下で暮らしています。ゴミ箱からあさった、糖質たっぷりの缶ジュースが大好物。仲間に置いてきぼりにされ、生き残ったトロールは数百年後、発展の邪魔になっていたのです。賢い3匹の若いヤギが、年老いて意固地になったトロールを殺してしまいます。トロールは、「なんてバカなんだ」と嘆きつつ、フィヨルドの海に沈みます。

監督のサベギンさんは、ロシア出身で、今はノルウェーで活躍しています。
カナダのNFB(国立映画制作庁)と共同制作した短編アニメーションの『Through my Thick Glasses(仮題:僕の分厚いメガネ)』やプッチーニの「蝶々夫人」をモチーフにした『Aria(アリア)』で知っていました。
ユーモアを忘れない、パペットアニメーションの作家です。

サペキンさんの最新作『ノルウェー最後のトロール』との出会いは偶然でした。
新作を探しに行く、アヌシー国際アニメーションフェスティバルで、本作はアウトオブコンペティションに入っていました。主要部門のコンペだけでも全てのスクリーニング予定が埋まるほど、膨大な数の新作が登場します。なかなかアウトオブコンペティションまで見られません。
だから、本来なら出会えない作品だったかも知れません。

アヌシーではスクリーニング以外の時間は、旧知のビジネスパートナーや友人たちと情報交換します。
『ノルウェー最後のトロール』は、フランスのフォリマージュ(Folimage)のドミニクさんが薦めてくれました。10年来の付き合いで、信頼のおける女性です。
ランチで「おもしろい作品を見つけた?」と聞くと、開口一番に本作が挙がりました。
さっそく、MIFA(アニメーション・マーケット)のビデオライブラリーで見ました。

「コンピュータが大嫌い」というサベギンさんのアニメーションにはCGのビジュアルエフェクトも、派手さもありません。
『ノルウェー最後のトロール』も、素朴なパペット、ちょっとぎこちない動き。
名優マックス・フォン・シドーの語りに合わせた、クレイ(粘土)の主人公の表情は実に豊か。印象に強く残ります。
アートの最先端ではないけれど、サペギンさんの長年の技術と、変わらぬコマドリへの愛着。
「もう一度見たい、日本で紹介したい」と思いました。

Troll production_juni 2009 008サペキン監督、スタジオでの制作風景(2009年6月) メーキングビデオ配信中のワーナー・オンデマンド THE EDGEより








原作は、ノルウェーのこどもたちに人気の民話です。賢い若いヤギが、悪者のトロールを懲らしめるのです。
ところがサベギンさんは、ヤギではなく、悪役のトロールを主人公にしました。「時と共に去りゆく物の象徴として、トロールを描きたかった」と語っています。
宮崎駿監督を敬愛し、宮崎作品にインスパイアされたサペギンさんは「自然も生き物として捉えている」とメイキングビデオで明かしています。

『ノルウェー最後のトロール』はこども向け題材ですが、人生の後半に入った、わたしにも響きました。
トロールは時代遅れとなり、若いヤギにあっけなく追いやられます。そしてトロール族は絶滅してしまいます。しかし、彼らの生きた証は残ったのです・・・
わたしも、生き方を変えるにはちょっと年を取りすぎたかな。やがて時代遅れとなり、退場して行くのでしょう。
役目を終えたとしても、ちっぽけな、この命が地上の連鎖をつなぐ。わたしも、バトンをつなぐ、一つの命。
本作に、わたしと同年代のサペキンさんが込めた、命、生き物への慈しみを感じました。

いつかノルウェーのフィヨルドを見る時、岩のように眠るトロールたちが重なることでしょう。
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※ ピョートル・サペギン監督『ノルウェー最後のトロール』を語る>>
※ ピョートル・サペギン監督の略歴など>> 

※ 『ノルウェー最後のトロール』は、ワーナー・オンデマンド THE EDGEで配信中>>

THE EDGEトレーラー>>

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掲載画像「ノルウェー最後のトロール」より (c) KinoPravda 2010