企業内コーチ育成のすすめ

このページは、(株)帝国データバンク発行「帝国ニュース兵庫県版」に、NPO法人企業内コーチ育成協会代表理事・正田佐与が、2008年秋以来月1回のペースで連載させていただいている人気巻頭コラム・『企業内コーチ育成のすすめ』を、同社のご厚意により転載させていただいています。

NPO法人企業内コーチ育成協会 http://c-c-a.jp
ブログ:コーチ・正田の愛するこの世界
http://blog.livedoor.jp/officesherpa/

●つながりをパワーに

 

 所得が減り、人が減り、正規雇用が減り短期契約や派遣に。


 2012
年わが国の職場の風景です。


 日本企業の強みであった技能の伝承やそれによる高品質は、今、風前のともしび。

長い凋落の一途にある日本。「価格」でアジアに遅れ、さらに「品質」でも後塵を拝しそうな勢いです。

 


 その日本企業で人の「つながり」を力に換え、高品質と競争力を回復させようという試みがはじまりました。


 当コラムが過去
4年にわたり提唱してきた「承認中心のコーチング」


 詳しく言いますと、「傾聴(話を聴く)」「承認(認める)」「質問」「フィードバック」…などから成る、人が人を伸ばすコミュニケーション手法の「コーチング」の中でも、「承認」をすべての基礎として重点的に伝え、確実に身に着けてもらう、というもの。


 従来、コーチングといえば「質問するコミュニケーション」と思われてきました。そのように書いてある文献も多数ありますが、当協会はわが国では、「質問」より「承認」こそが有効性のカギになる要素だ、と提起したのです。


 さらに、企業・組織の中間管理職(ミドルマネジャー、部課長クラス)に「承認中心コーチング」を研修で伝え、高いレベルまで習得して日常のマネジメントに応用してもらうことを「企業内コーチ育成」とよんでいます。


 当コラムのタイトルでもある「企業内コーチ育成」。これは、教育研修を通じた一種の企業風土改革コンサルティングであり、たんに意識が改革されるだけではなく、「社内トップ支店」「目標達成率
150%」など、目覚ましいレベルの業績向上を起こしてきました。何故なら、1人のマネジャーが「コーチ」(=教育力のあるリーダー)になることによって、その部署の従業員全員にとっての持続的な人材育成が起こり続け、1人1人の高いレベルの成長が起きてしまうからです。


 原理としては簡単なことですが、この手法の有効性はなかなか理解されないできました。


 当協会では過去
10年にわたり、関西地域で業績向上を起こしたマネジャー自身に登壇してもらい、パネルディスカッションやセミナーを繰り返し開催、「企業内コーチ育成」の有効性を語ってもらってきました。しかし、どれほど詳細にそこで起こった人々の成長や業績向上を伝えても、やはり発表された数字の変動があまりに大きいためか、現実感をもって受け止められないできました。いわば「効果」を伝えても伝えても信じていただけなかった10年間でした。

(そんな中、4年前に筆者に当コラムの執筆をお声がけいただいた本誌の見識には感謝するのみです)



また、同じ「コーチング」とはいっても、従来品の「質問中心コーチング」とは異なる「承認中心コーチング」というジャンルがあり、そちらが真に有効なのだ、ということもあまり理解されず、お客様が「質問中心コーチング」を取り入れて失敗に終わってしまう、という残念な事態も起こってきました。

 


●初の統計調査でメカニズム解明へ

 


 このほど、京大研究員・瓜生原葉子氏のご協力により、当協会では「承認中心コーチングの有効性に関する調査」という統計調査をリリースいたしました。目覚ましい業績向上を起こしてきた「承認中心コーチング」(企業内コーチ育成研修)が、部門の人々にどのような意識変化を起こさせ、その結果業務上の成長を遂げ業績向上につながるのか、を研修前後に個々人にアンケートに回答してもらうことで学術的に解明するものです。具体的には、「プロフェッショナリズム(プロ意識)」、「組織アタッチメント(愛着心)」が、媒介変数となる可能性があります。言わば、上司―部下の間に「心の絆」の架け橋を築くと、組織全体のチームワークの絆に発展し、それが個々の人の優秀さを高めるというメカニズムであろうと考えられるのです。


 度重なるリストラ、人件費抑制など従業員に「我慢」を強いざるを得ないわが国の企業で、いかに起死回生の士気高揚と業績回復が行えるか、この調査はその試金石となるものです。


100
年後に誇れる人材育成を」2012年の当協会の方針です。


 皆様、
4年間にわたり当コラムをご愛読ありがとうございました。また、どこかでお会いできればうれしく思います。(了)

 

 


●最初の上司は部下の一生を決める


 

「復唱させていただきます。○○社の××様ですね。」

 4月。お電話した先で、やや硬い声、いつもより丁寧な応対の人に出会うと、

「ああ、新人さんかな」

と思います。少々モタついても、一生懸命な姿勢には応援したくなりますね。

 新人研修の長さは企業規模によってまちまちです。短いところでは「1日」か「2~3日」、長いところでは数週間から数か月まで。

 さて、新人研修よりも、そのあとが実は問題。新人が配属された先も大いにモチベーションに影響しますが、それは一過性のこと。実は、新人のその後の仕事人生にもっとも大きな影響を与える存在は別にあります。それは「上司」。

入社後最初の3年間に出会う上司は、その人の入社3年目、7年目、13年目まで昇進、給与、ボーナスに影響を及ぼすという調査結果があります。なんとも責任重大ではありませんか。

その「上司」になる、ということ。

 

●新人へのOJT指導に丸投げは禁物

 

「これをやったのは君か!」

 大声がオフィスじゅうに響きました。

 頭から湯気を立てているT課長とその前で固まっている新人のP子さん。

「オイ!A君、君がちゃんと教えてないからだろ!」

「は、はい、そうですが。P子さん、わからないことは訊きなさいと言っただろ!」

 慌てふためく先輩のA君と、ますますしゅんとなるP子さん。

 さて、誰が悪いのでしょうか。

 

 職場を離れた集合研修などをOFF-JT(職場外研修)というのに対し、職場で仕事の遂行に同時並行で行う、主に先輩から後輩への教育をOJTOn the Job Training)といいます。OJTのあり方次第で、新人さんは良くも悪くもなります。

上のエピソードでは、指導役のA君と指導される新人のP子さん、どちらに原因があるとも言えません。

 A君の教え方がアバウトすぎたのかもしれないし、P子さんが無謀にも細かい確認をしないままどんどん仕事を進めてしまう人なのかもしれません。ただし、P子さんがそのような個性の持ち主であることがわかっていれば、指導役のA君はもう少しこまめにP子さんの仕事ぶりを見ていなくてはいけません。

 または、指導役のA君が忙しすぎ、気の弱いP子さんが「わからないことは訊け」と言われていても、話しかけづらい雰囲気を放っていたかもしれません。

 そうした、指導役と新人さんの個性の掛け合わせによっては、指導役以外の周囲の人も指導役と新人さん、両方に目を配ってやる必要があります。とりわけ、直属の上司は指導が上手くいっているかどうかに直接の責任を負います。決して指導役のA君に丸投げしていいわけではありません。

 

 極端な例としては、新人に教える役割の人がまったく存在せず、仕事の体系的な教え方、おぼえ方も存在せず、新人はわからないまま仕事は振られるがミスして叱られるばかり、という職場もあります。こうした職場では、新人の定着は非常にわるくなります。指導役を割り振るのも上司の責任なのです。

 

●管理職になることは第二の大事件

 

 直属の上司はまた、日常の細かい仕事の指導から一歩引いたところで、仕事の心がけについて、あるいは会社の理念について、新人に大きな指針を与えてやれる存在でもあります。

 低成長時代の収益のカギは「人」。良い人を採用し、訓練し、長く勤めてスキルアップしてもらう。これが「高品質」、「顧客満足」をもたらし生き残りに直結します。

 新入社員さんへのOJT指導は、良い人づくりへの第一歩。厳しい就活を経て、希望にもえて職場に入ってくる新人さんが会社生活に幻滅することのないよう、思い切って「良い上司・先輩」を心がけてみませんか。

 

 初めて会社員になることも人の一生の大事件ですが、初めて管理職になることも実は、それに劣らぬ大事件です。職場のあらゆることを、これまでとはまったく違う視点、違う立場で経験することになります。当コラムは今年度も、上司の皆様が良いマネジメントの担い手であるよう応援してまいります。(了)


●最初の上司は部下の一生を決める

 

「復唱させていただきます。○○社の××様ですね。」


 4月。お電話した先で、やや硬い声、いつもより丁寧な応対の人に出会うと、

「ああ、新人さんかな」

と思います。少々モタついても、一生懸命な姿勢には応援したくなりますね。


 新人研修の長さは企業規模によってまちまちです。短いところでは「1日」か「2~3日」、長いところでは数週間から数か月まで。


 さて、新人研修よりも、そのあとが実は問題。新人が配属された先も大いにモチベーションに影響しますが、それは一過性のこと。実は、新人のその後の仕事人生にもっとも大きな影響を与える存在は別にあります。それは「上司」。


 入社後最初の3年間に出会う上司は、その人の入社3年目、7年目、13年目まで昇進、給与、ボーナスに影響を及ぼすという調査結果があります。なんとも責任重大ではありませんか。


 その「上司」になる、ということ。


 

●新人へのOJT指導に丸投げは禁物

 

「これをやったのは君か!」


 大声がオフィスじゅうに響きました。


 頭から湯気を立てている
T課長とその前で固まっている新人のP子さん。


「オイ!
A君、君がちゃんと教えてないからだろ!」


「は、はい、そうですが。
P子さん、わからないことは訊きなさいと言っただろ!」


 慌てふためく先輩の
A君と、ますますしゅんとなるP子さん。

 さて、誰が悪いのでしょうか。

 



 職場を離れた集合研修などを
OFF-JT(職場外研修)というのに対し、職場で仕事の遂行に同時並行で行う、主に先輩から後輩への教育をOJTOn the Job Training)といいます。OJTのあり方次第で、新人さんは良くも悪くもなります。


 上のエピソードでは、指導役の
A君と指導される新人のP子さん、どちらに原因があるとも言えません。


 
A君の教え方がアバウトすぎたのかもしれないし、P子さんが無謀にも細かい確認をしないままどんどん仕事を進めてしまう人なのかもしれません。ただし、P子さんがそのような個性の持ち主であることがわかっていれば、指導役のA君はもう少しこまめにP子さんの仕事ぶりを見ていなくてはいけません。


 または、指導役の
A君が忙しすぎ、気の弱いP子さんが「わからないことは訊け」と言われていても、話しかけづらい雰囲気を放っていたかもしれません。


 そうした、指導役と新人さんの個性の掛け合わせによっては、指導役以外の周囲の人も指導役と新人さん、両方に目を配ってやる必要があります。とりわけ、直属の上司は指導が上手くいっているかどうかに直接の責任を負います。決して指導役の
A君に丸投げしていいわけではありません。

 


 極端な例としては、新人に教える役割の人がまったく存在せず、仕事の体系的な教え方、おぼえ方も存在せず、新人はわからないまま仕事は振られるがミスして叱られるばかり、という職場もあります。こうした職場では、新人の定着は非常にわるくなります。指導役を割り振るのも上司の責任なのです。

 

●管理職になることは第二の大事件

 

 直属の上司はまた、日常の細かい仕事の指導から一歩引いたところで、仕事の心がけについて、あるいは会社の理念について、新人に大きな指針を与えてやれる存在でもあります。


 低成長時代の収益のカギは「人」。良い人を採用し、訓練し、長く勤めてスキルアップしてもらう。これが「高品質」、「顧客満足」をもたらし生き残りに直結します。


 新入社員さんへの
OJT指導は、良い人づくりへの第一歩。厳しい就活を経て、希望にもえて職場に入ってくる新人さんが会社生活に幻滅することのないよう、思い切って「良い上司・先輩」を心がけてみませんか。


 

 初めて会社員になることも人の一生の大事件ですが、初めて管理職になることも実は、それに劣らぬ大事件です。職場のあらゆることを、これまでとはまったく違う視点、違う立場で経験することになります。当コラムは今年度も、上司の皆様が良いマネジメントの担い手であるよう応援してまいります。

(了)

●20代以下で「10人に1人」(米)、若い人に蔓延

  当協会の主催する「よのなかカフェ」では、このところ
「自分の気に入らない仕事を指示されると従わない、食ってかかる若い人」
が何度か話題に上りました。そんなにそれは頻繁に起きているのか、と思った矢先、
「週刊新潮」3月12日号では、
「新型うつが職場に蔓延している」として、
「気に入らない仕事を指示された」
「気に入らない職場に配転になった」
「上司が気に入らない」
などをきっかけに診断書をとり鬱休職に入る若い人をレポートしました。
 同記事に、「未熟なナルシシズム」という言葉が登場します。

 当コラムでこのところ連続して取り上げる「ナルシシズム」。実は、「自己愛性人格障害歴のある人が16人に1人」というショッキングな数字の出たアメリカでも、20代までの若い人を対象にとると「10人に1人」という高率となり、若い人を中心に「ナルシシズム」が蔓延していることがうかがわれます。

 従来も、思春期のある時期にナルシシズムはだれでも通過するものでした。しかしそれが自然に修正されないまま、大学生になり社会人になっているようなのです。
 さて、それは職場ではどんな形で現れるでしょうか―。

 信頼できる管理職の知人からは、こんな若い人の話が出ます:

「ミスが多く仕事は全然信用できないが、人前で話すことは非常に上手く、人材育成部署から社内講師に推薦された」(自治体)
「話の中に偉い人の引用が多い。自分の職場や上司を『偉い人目線(=上から目線)』で見て批判し、自分のことは棚に上げる」(製造業)
「雑用を引き受けたがらない。雑用的な仕事を振ると逆切れする」(IT企業)「自分の言ったことが守れない。言うことは威勢がいいができない約束をする」(製造業)
「見通しが甘く、同じ失敗を繰り返す」(旅行業)
「同僚同士挨拶ができない。内気だからできないというよりする必要がないと思っている」(飲食業)
「自分以外の他人がほめられると急にやる気をなくす」(複数業種)

 これに加え、お定まりの「叱られると恨む、逆切れする、辞める」があります。

 これらも、過剰な自己愛・自己賛美を特徴とする「ナルシシズム」の症状と言えるのです。

 そうなる原因として、
・ネット、ゲーム、携帯などの仮想空間ばかりで育ったため現実世界での行動経験が決定的に足りない、
・ネット上で露出できる交流サイト、動画サイトなどにより自己顕示欲は旺盛、
・褒められてばかりで育ち、叱られた経験がない ―などが挙げられます。


 ●むずかしいナルシシスト指導、成功のカギは


 「今の若い人」、決して一括りにできるわけではなく、優秀な人は非常に優秀です。恐らくこの世代の人のご両親の世代では、適切に子育て情報を取り入れながらきめ細かくお子さんを見て指導した人たちも一定比率を占めているのです。

 ただ、一部とはいえ比率を増してきている、上記に挙げたような「若い人」を、職場ではどのように指導したらいいでしょうか。

 一般に「有能な自分」「すばらしい自分」と、不正確な自己像をもって生きている場合、残念ながら仕事の能力は高いとはいえません。「自分はできる」という根拠のない思い込みと不注意がミスを産んだりします。しかし、頭ごなしに叱りつけると逆ギレするか、極端に意欲を亡くす人々でもあります。

 非常に指導のむずかしい相手ですが、基本は「良くできたことを褒めること」。ナルシシストの苦手な「チーム指導」「協力行動」は、それを行ったら褒める、を繰り返す。そして、できていないこと、言行不一致なことについては感情的にならず正確に指摘すること。もしこじれやすいようであれば、ネガティブな指摘をする指導の際には第三者に同席してもらう、録音するなどし、証拠を残すことも必要です。ナルシシストの指導はむずかしいことを前提とし、1人で指導を抱え込まない、「チーム指導」の体制をとることもお勧めです。


(TEIKOKU NEWS兵庫県版2012年3月19日版 所載)


 

●深刻なパワハラ、「オレオレ上司」



「パワハラ?どこに証拠がございますか。私ほど社員を丁寧に扱うものはおりませんよ」


 ある中堅企業の取締役事業部長兼工場長、Aさん(60)は、慇懃な口調で言いました。


 
Aさんは取引先の大企業の部長から今の企業に出向し役員に。出向後すぐ、業績の下がっていたこの工場で幾つかのプロジェクトを立ち上げて自ら率い、その結果やや財務を持ち直しました。しかし、新しい事業部長が来て5年経った現在は、工場、事業部内に鬱による休職が目立ち始め、メンタル疾患の連鎖が起こる「鬱マーチ」の様相になってきています。原因は、Aさんの部下に対するきつい叱責、悪罵によるもの。そして、モチベーションの下がりきった職場では、業績もまた下降線をたどっています。


 会社サイドの話によると、取引先との関係上
Aさんを解雇、降格などはできない。またAさんのパワハラ問題が放置されてきたのは、Aさんが社長には極端におもねり、ごまをすり、社長の意を迎えることに長けているから。以前いた会社では、Aさんはプラント建設などのプロジェクトのリーダーを担当。そこでは社内の少数精鋭を率いてきた。有能な人ではあるが多様な能力の人を束ねる仕事はしてきていない。


 こうした、銀行や大企業からの出向役員がパワハラの担い手になるというケースは、筆者の知る範囲では珍しくありません。「格下の会社に来た」という「植民地感覚」なのでしょうか。



 別の事業部長Bさんは、朝8時からのTV会議で怒鳴りまくっていました。


 グローバルに設備を納入するこの会社では、支社・現地法人に
TV端末を置き、毎朝TV会議で情報共有しています。


連日、技術上のトラブルが発生。


「ここにひび割れがあるな。もっとよく見せて」


「この
C社製の部品○×がサイズが合ってないんじゃないのか。C社の部品は癖があって…」


 技術職出身の
Bさんが延々と1人で技術談義。朝の会議の1時間はあっという間にそれで過ぎていきます。会議に出席した10人は疲れ切った顔で各職場に戻りました。


Bさんの時代とはもう技術も変わってるんですがねえ…今発生しているトラブルはまた、別の次元の話なんですが」


現役の技術者は苦笑い。


 さて、
AさんとBさんに共通の困った資質とは…?




 前回の当コラムで触れた「ナルシシズム(自己愛)」。会社の上司がナルシシストの場合、上記のように大変なロスが起こります。
Bさんのように時間をロスするだけならまだ可愛いものですが、Aさんのように周囲の心の健康を害し、休職はおろか退職にまで追い込んでしまう深刻なケースもあります。

 いずれの場合も、「有能な、素晴らしいオレ」の幻想に酔い、「オレ」が主人公の長話をしたり、その自己イメージを損なう相手、自分に反論する相手、ミスをして自分の顔に泥をぬる相手には激しい怒りをおぼえ罵ります。また、ナルシシストの特徴として、「どんな些細なことでも他人に勝ちたい、勝利感に酔いたい」という欲求もあり、他人を傷つけ貶めること自体に快感をおぼえる場合もあります。




●ナルシシスト上司に効く薬とは?

 

 こうした上司のナルシシズムに対する処方箋は―。


 軽度の場合、当コラムが推奨する「承認」を学習することが効く場合もあります。他人の成功や成長を喜ぶ、というのは、ナルシシストにとって大きな成長を意味するのです。とりわけ、中年期を過ぎ、やや自分の体力気力が衰えてきたときに、他人を承認し他人の力を通じて成功することを学ぶのは、ご本人にとってもわるくない選択かもしれません。


 「承認」ができるようにはならなかったとしても、人を伸ばす「コーチング」の考え方を学んだことで、「ひどい叱責はしなくなった。怒り散らさなくなった」という周囲の声もよく伺います。

 しかし、重度のナルシシストには、「承認」など愚の骨頂でしかありません。あまりにも周囲にとって「有害」なナルシシスト上司は、やはり降格するか部下を持たせないようにするのが一番でしょう。


 前回も触れたように、病的なナルシシズムである「自己愛性人格障害」はアメリカで
16人に1人の高率で発生しており、日本にも増加の気配があります。


 次回は、部下世代のナルシシズムにどう対処するか?というお話をしたいと思います。


(帝国データバンク発行「TEIKOKU NEWS 兵庫県版」2012年2月20日号 所載)

 


 



 


 



 読者の皆様、遅くなりましたが明けましておめでとうございます。本年も当コラムをどうぞよろしくお願いいたします。



●プレゼン技術とは裏腹に…



 東北大震災が起こり、日本人の「絆」が見直された昨年。

一方では為替相場、国内電力事情と海外進出を促す機運も強まり、「グローバル化」は待ったなしの様相です。

先ごろ行われた家電フェアでは、日本メーカー各社の社長による流暢な英語プレゼンがいまや花盛り。

 そこで今回は、「日本人にふさわしいグローバル化とは?」を考えてみたいと思います。



 

「アメリカで『自己愛性人格障害』を発症したことがある人は16人に1人」


 最近、こんなショッキングな数字が出ました。傲慢さ、自己顕示欲、攻撃性、特権意識などを特徴とする病的なナルシシスト、「自己愛性人格障害」と診断されたことのある人が
6.2%。アメリカ国立衛生研究所の3万5千人を対象にした調査です。


 過剰なナルシシズムからくる注目されたい一心の劇場型犯罪や「働かない病」、ブランド品のモノや大きい家への執着も顕著です。


 人類の末期症状ともいえるこうした風潮への処方箋は、心理学者によると、「謙虚」「質実」「集団主義」「禅など瞑想によって得られる自己感情への気づき」、など、東洋的なものだといいます。


 故スティーブ・ジョブズ氏(元アップル社
CEO)に代表されるようなアメリカ式のアピール上手、プレゼン上手を、私たち日本人はつい羨望の眼でみてしまうところですが、当のアメリカはナルシシズムの病理に悩んでいるのです。



●器質的に「つながり」を求める日本人


 

 日本人の「つながり指向」は、ある程度器質的に読み解くことができます。


 日本人の感情の大きな要素として「不安感」があることが、脳科学でわかってきました。安心感に関わる脳内物質であるセロトニンの取り込みを左右する「セロトニントランスポーター」の型の中に不安遺伝子があり、この不安遺伝子により「不安感の強い人」が、日本人には
65.1%もいるというのです(アメリカ人ではわずか18%)。


 「不安=つながり」と即結びつけるのは早計かもしれませんが、「人とつながっていないとなんとなく不安」。多くの人はおぼえがあることでしょう。


 一方ゲノム解析により、日本人の
Y染色体のタイプはチベット人と共通性があることがわかりました。


 昨年、チベット仏教国であるブータンの国王夫妻が来日し、その優雅で有徳の振る舞いとともに「国民総幸福量(
GNH)」の考え方が話題になりました。このGNHでは、幸福の指標として心理的幸福、健康や教育とともに「コミュニティ」をその要素としています。

 


 そんな日本人は、近年海外からどう見られているか。


 オーストラリアへの視察から帰ってきたビジネスパーソンによると、「日本企業は中国企業に比べて歓迎されている」。現地法人を作り納税するとともに現地人を雇用し、現地と緊密なつながりを作る日本企業はどんどん来て投資してほしい、と言われるというのです。日本式の「つながりの価値観」なかなか捨てたものではないかもしれませんね。

500円+ドリンク代。


 

 いささか手前味噌で恐縮ですが、当コラムで推奨する「企業内コーチング」、そして「承認」というリーダーの行動と心のありかた、いずれも日本人の良さを最大限活かし、個々人と集団の強さを最大限発揮する結果につながります。


 本年も「日本人そして日本企業の強さ」、探求してまいりましょう。



 22日(木)19:00より神戸三宮・カフェ「アロアロ」にて、第31回よのなかカフェ「日本の企業を『つながり力』で変える!」を開催します。参加費

皆様のご来場をお待ちしています。詳細とお申し込みはNPO法人企業内コーチ育成協会

http://c-c-a.jp/cafe/ まで。



※なお、「つながりを求める傾向」がつねに良い方に向かうとは限りません。集団主義の悪い面が出る場合もあります。当コラムでは、「つながり」の良い面とともに、折に触れ負の側面への目配りもしていきたいと思います。(了)



 



(TEIKOKU NEWS兵庫県版2012年1月23日号 所載)


 


 


 



 


 


 


 


 

「あなたに期待をして送り出します。あなたなら大丈夫です。若いうちに訓練所を経験し、その経験をいつかこの部署に戻ってきて活かしてくれると信じています。それまで待っているからね」(2011年承認大賞部下部門大賞)


 航空会社に勤務
5年目の客室乗務員(当時)、直子さんは、ある日指導役の女性上司に呼ばれ、こう言われました。


 直子さんはその半年前、乗務員としては致命的なミスをし、幸い事故には至らなかったものの「もう会社を辞めよう」と落ち込んでいました。そこへ上司から上記の一言。


「青天の霹靂でした。訓練所は以前から志望していましたが、本来訓練所は入社
10年目以上のベテランが行くところだったんです」と直子さん。


 もともと人を育てることに興味があった直子さんは、上司の言葉を励みに訓練所で教官として後進育成に一生懸命取り組み、その甲斐あって直子さんの後輩も早くから訓練所勤務に回れるようになったとのことです。


 「承認の温かさ、有難さは、それから
10数年たった今も人を育てるうえで私の基本スタンスになっています」と直子さんは言います。



 

「そうだ、社内MVPを獲ろう。お前ならできるよ」(同部下部門準大賞)


 仕事帰りの途上、当時の男性リーダーが由紀さんにこう言いだしました。


 ここはリクルート系のある広告代理店。由紀さんはリーダーと
2人きりのチームに属し、社内でも「何をやっているかわからないチーム」と見られ、わかりやすい結果を出すことを求められていました。そんなある日のリーダーの一言。


 当初由紀さんは「む、無茶な…」と、思ったそうです。しかしリーダーは本気で、翌日から毎日、由紀さんに「おい、成績グラフみてみろ」「今トップを行っているぞ」と、注意を促し続けました。


 その結果みごと、代理店間でつける営業ランキングのトップに躍り出、
MVPに。


「営業で苦しいときもリーダーのあの言葉が励みになり、投げ出しませんでした」と、由紀さん。表彰会場では、由紀さんが壇上から客席のリーダーに

「リーダー!やりました」とガッツポーズ。


 「彼女の行動力や負けず嫌いな性格などをみて、この子はやれるな、と思いました」


 当時のリーダーの紳一郎さんの弁です。

 


 人は、信頼する他人からの期待に応えて頑張り、成長するという性質がある。


 このことを実証したのが、心理学者ローゼンタールの有名な「ピグマリオン実験」です。


「この子たちは大変成績の良い生徒です」と、誤った情報を先生に与えました。実際には、そのクラスの子たちはあまり成績の良くない生徒も混じっていたのです。しかし先生はその情報を信じて教え、一学期たってみると、生徒たちの成績は軒並み伸びていました。


 先生が、「この子たちは成績の良い子たちなんだ」と信じて指導した結果、生徒たちへの言動にそれが反映され、生徒たちはそれを感じとって先生の期待に応えるべく勉強してしまった、というお話。同様の現象は、営業マネージャーと営業パーソンたちの集団についても確かめられており、「ピグマリオン効果」とよばれています。


 上司や指導者の「期待する力」が相手を伸ばす。たまたま今回の受賞例はいずれも期待された部下が「女性」でした。なでしこジャパン活躍の中でも言われたように、とくに女性はリーダーに心服すると、「この人のためなら」と思いがけない力を発揮することがあるようです。


 当コラムをお読みになっている上司の皆様は、もし女性部下を持たれたら、「女の子」などと思わず、是非部下に「期待」を伝えられますように。それも口先だけのお世辞でなく、本心からの期待を。



TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2011年12月5日号 所載 

「わからないことを訊いてくれたね」

 これが、本年度当協会が開催した「承認大賞2011プロジェクト」で上司部門大賞を獲得した「上司(正確には先輩)の言葉」です。

 当コラムに繰り返し登場する概念「承認」。人を「認める」「褒める」ことで相手を成長させ、また組織全体の活性化や業績向上、リスクマネジメントにも大きな効果があります。この「承認」を推奨するために催しているイベントが「承認大賞」です。


●1人から始めた企業改革、「承認」が共通言語に


上記の言葉は、就職したてで自信を失っていた若手に、先輩から「わからないことは何でも周囲に訊こう」とアドバイスしたあと、その若手が実際に「○×がわからないんですが…」と訊きにきたので、親身に答えたあと、こう言って励ましたもの。その後、この若手はほかの先輩にもどんどん質問するようになり、また自主的に何かを学ぶ姿勢も出、数か月後も元気に働いているとか。

相手のプラスの行動を事実そのままに認める「行動承認」が上手く功を奏した事例で、どの職場でも使えそうな普遍性があります。

 この言葉の主、高齢者介護福祉施設にお勤めのケアマネージャー・ソーシャルワーカー、林義記さん(32)の職場を訪ねてみると―。


 林さんの勤務先、医療法人社団すすむ会佐野記念アットホームは、神戸市西部の高台にあります。入所者約150人と、神戸市で最大規模の老健施設。スタッフは約80人。


 林さんはその中で相談室の主任。入所者・利用者とスタッフ、スタッフ間、また利用者と関係機関、をつなぐ「交差点」のような立場です。

 32歳、主任、という、組織の中ではやや中途半端な立場。通常、この職位の方ですとまだ権限がないため、「承認」を教えてもあまり身に着かないことが多いのですが、林さんは違いました。

「自分は、一生懸命頑張った仕事でも認めてもらえなかったことが悲しく、悔しかった」

―だから、「人を認める」ことを自ら実践する立場になろうと決意。

 冒頭の「わからないことを訊いてくれたね」をはじめ、周囲の人に機会あるごとに「承認」の言葉を意識的に発してきました。周囲からは

「林さんと仕事をすると楽しい」

 と言われるように。


 「承認大賞」表彰式の翌日は、職場の朝礼で賞状を見せて報告しました。同僚からは、

「良かったね!」「凄い!」

と、賞賛の嵐。少しずつ、「承認」が職場の共通言語になりつつある、と実感する林さんです。

 今後は、施設全体に一層「承認」を波及させるため、利用者から好評を得ているスタッフを理事長から「表彰」してもらう仕組みを思案中だとか。

 超・高齢化社会の中、介護福祉職員の総数は、平成17年(2005年)で約112万5千人。離職率は20.2%と、全労働者(17.5%)を上回り、離職率低減が叫ばれています。低い報酬、仕事のきつさといった構造的要因もありますが、一方でさほどコストもかからず、職場の意欲や人の和を高める「承認」は一つの有効な処方箋と言えるでしょう。


「回答は『やれ』の一言」。

 上司部門で次点、準大賞になった言葉です。こちらは、年間に26件ものプロジェクトに関わる「富士通のサムライ」、マツモトコウジさん(43)のもの。


●現場で考え抜く部下をつくるために


新規プロジェクトに各部署から入社5年以上の元気のいい精鋭をピックアップする。社の理念、プロジェクトの意図するところを懇々と話し込む。そのうえで、「こういうことをやりたいんですが」と戦術面で若手から相談を受ければ、「回答は『やれ』の一言」。こういう情景をイメージすれば、この言葉の重みがわかってきます。

こと変化の激しいICTの世界では、1つのプロジェクトでも現場でどれだけ考え抜いたかが勝敗を分ける。自分の頭で考えない依存的な人間では困るんです」とマツモトさん。

 神戸のあるものづくり企業でも、社長さん自らが同様に「社員が何か相談してきたら、『やれ』と回答する」例があるそうです。

 

 同じ「承認」でも、前者は上司・先輩のきめ細かく指導する温かさを感じさせる承認。後者はある一定レベル以上の働き手に対する、厳しく突き放し相手に考えさせる承認といえるでしょう。「承認=優しいもの」という一面的なイメージを大きく塗り替えた今年の「承認大賞」でした。(了)


TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2011年11月9日号所載

 

 

 

 

 

 


「お酒、控えませんか」。

 筆者は講座を受講に来た中小企業経営者、Aさんの顔を見つめて言いました。

 Aさんは50代後半。「自分は『ほめる』ことが苦手で」と、「承認」に重きを置く当協会のコーチング講座を受講に来られました。

 初日の「承認」「傾聴」のプログラムは、順調にこなされたのですが…。

●二言目には噛みつくように

 異変は2日目、「前日の振り返り」の時間に起きました。

 「承認」の宿題を、Aさんはできなかった。妻の作る料理にひとこと、「うまいな」と言おうとした、が、どうしても言えずやめた。「それは残念でしたね」と筆者。

 それからでした。Aさんは他の受講生の実践の発表にすべて噛みつきました。

「お子さんも、そんな風にほめられたらつけ上がるんじゃないですか」
「庭にバスケットゴールを作ったんですか。そんな甘やかしでろくな子に育たないんじゃないですか」

 ひいては、講座の内容にもAさんの矛先が向かいます。

「先生、やっぱり我々経営者にとって『ほめる』なんてナンセンスですよ。昔はそんなことしなくても人が育ったんだ」。

 たまりかねて、

「Aさん、今日は攻撃的ですね。ひょっとしたら、夕べたくさんお酒を飲まれませんでしたか」と筆者は言いました。

 Aさんは、はっとした表情になりました。

 Aさんは地元の大企業出身。50歳手前でスピンオフして現在の会社を興し、1人から始めた会社は10年で10人の規模になりました。取引先は古巣の会社のほか、錚々たる大企業が名を連ねます。

 大企業の要求する技術水準を満たすために、起業後に雇い入れた社員にハッパをかけなければならないこともしばしば。そんな話を、前日には同情をもって聴いていました。

 しかし、飲酒の影響があると話は別です。A氏の告白したところでは、ご夫婦とも酒が好きで、毎日の晩酌にビール3本、5本、さらに日本酒、と飲む。その結果、午前中は特に頭が重く、不機嫌になることが多い。そんな時に社員から悪いことの報告が入ってくれば、教科書通りの冷静な対応などできず、まず、怒鳴ってしまう。

「きのう、Aさんから『女性の社員を毎日昼食に連れて行くのが悪いのか?』というお話がありましたね。普通に考えたら別に悪いことではありません。でも、お酒で社長さんが攻撃的になり、特に女の子相手にしつこくからむようなことをしていたのでは、社員さんから苦情が出ても無理はないんですよ」。

●アルコールが作る独特の人格とは

 日本の飲酒人口は約6000万人。そのうちアルコール依存症は約230万人と言われます。

 アルコール依存というと、鼻が赤くいつも酩酊状態で、と固定的なイメージがありますが、一見そうは見えない依存症の人も増えています。

 筆者の経験では、アルコールの影響を強く受けているビジネスパーソンの方には特有の困った人格があります:

■意志薄弱で、自分の決めたことを貫き通せないことが多い
■被害者意識が強い
■攻撃性や反発心が強い
■理由のない不安感が強い。その結果例えば年配の権力を持っていそうな男性に簡単に迎合する
■上記の理由で攻撃性と迎合性の両極端の間を揺れ動く。勇ましいことを言うかと思えば、すぐ腰砕けになる。「軸がない」と言われることもある
■女性に対しては攻撃的、見下し的。人間観がステレオタイプになる。部下や出入り業者に対して暴力的に振る舞うこともある

 上記のように意志薄弱なので、「基本的にだらしない性格の人がアルコール依存になりやすいのか」と思われがちですが、そうではありません。アルコールによって作られた人格なのです。

 いずれにせよ、こうした人格が現れる、とりわけ中年期以降の人に、というのは、その人だけではなく組織全体のパフォーマンスにとっても非常に残念なことです。

 アルコール依存は、一度なってしまうと「酒をやめる」しか選択肢がなく、放っておくとじわじわと進行してしまう恐い病気です。早期発見が望ましいのは、言うまでもありません。

 酒に甘いと言われる日本社会。忘年会前の時期に水を差すような記事で申し訳ありませんが、御社の社員に「困った酒飲み」がいないか、チェックしてみませんか。(了)




TEIKOKU NEWS兵庫県版 2011年10月10日号所載


 この原稿を書いている現在(9月7日)は、ロンドン五輪出場権をかけて日本女子サッカー代表・なでしこジャパンが奮闘の真っ最中です。
 
 さて、「なでしこ」の生息地はピッチだけではなく、普通の職場にも走り回っているのです。そんな普通の「なでしこ」たちと男性の「監督」たちの関係は…。


●責任感のある人が目に入ってきた

 工場生産部長のYさんは、「女性リーダーを作る」という目標を前に、頭を悩ませていました。Yさんの眼には、その部署の女性従業員たちはみな、「どんぐりの背比べ」に見えました。

 コーチングのトレーニングを受けて1カ月ほど経ったある日。会議の席で、ひときわ責任ある発言をしている1人の女性、A子さんがYさんの目にとまりました。

 そういえば以前にも、また別の時にもこの人はそういう風ではなかったろうか―。Yさんの中でいくつかの記憶が結びつきました。

「あなたは先日の5S会議で部品置場のレイアウト替えについて積極的な発言をしていましたね。普段から人一倍、当事者意識を持って仕事をしてくれているあなたならできると思っているんですよ」

 数日後、YさんはA子さんに「リーダーになって欲しい」と心を込めて語りかけ、A子さんの同意をとりつけることができました。

「自分でも不思議ですが、コーチングの『承認』を学ぶと、ひときわ責任感のある人がすっと目に入ってきたんです」

と、Yさんは語りました。



 研究機関にて。

 男性の受講生たちに、私は簡単なテストをしました。彼らの同僚の女性の研究員、B係長の名を挙げ、「この人の業績を教えてほしい」と頼んだのです。

「はい、○○大学の助手から入社し、一貫して△△の研究に従事。□□の効果を実証して論文化したのは、この分野ではかなり際立った功績です」

 日頃から「承認」を叩きこまれている(?)男性研究員らはこのように答えました。「承認」的に大変良く出来た模範回答でした。

 この同じ問いを、B係長の上司である部門長にぶつけてみました。すると、部門長氏は当然ながらこの部門の在籍期間が一番長いにもかかわらず、

「ええと、彼女は△△の研究をしていたと思ったけど…」

こちらはかなりあやふやな答えです。

 女性の働き手の実績が記憶に残らない、言葉で再現することができない男性上司というのは、残念ながら意外に多いものです。

 実は、この部門は特に女性の昇進が遅れており、他の部門では部長級もいるのにこの部門ではまだ課長級が1人もいない、という状態を指摘されていました。その理由が少しわかったような気がしたものでした。


●50代、「お嬢さん」からプロの働き手へ

 自治体のO課長は、自分の課の女性のC係長に手を焼いていました。

 C係長は職場結婚で、ご主人はO課長の先輩の課長に当たるという関係。本人の年齢もO課長よりも上なので、つい「タメ口」を利いてしまうことがあります。

 性格は、O課長によると「ややお嬢さんで、軽い」。会議で真剣に議論してある方向に結論が出そうになったタイミングで、それを覆すような発言をしてしまうことがあるということです。

 O課長は当初C係長のことが嫌いで、話しかけられてもついぶっきらぼうな返事をしてしまうことがありました。

 ある日、C係長が「主人と久しぶりに外でデートしてね…」と話しかけてきました。それに、O課長は珍しく「ほう、そうですか」と応じました。すると、C係長はしばらく話したあと、安心した表情で席に戻りました。

「私はC係長の話を聴いていなかったのだろうな、と思いました」

と、O課長は後で語りました。

 その後、O課長の「監査指摘率半減」キャンペーンの下で、この部署は次第に一丸となってまとまっていきます。監査が終わり、成績が「指摘率半減」近くに躍進したことが決まったとき、C係長は発表をきいてから真っ先に自席に戻り、書類の再点検に没頭し始めました。数か月前の「お嬢さん」だったC係長とは別人のようでした。

 翌年度は、C係長は課を代表して外部で発表するように。「うちの課を代表する選手に育ってくれました」と、O課長は顔をほころばせました。

 結局、50歳過ぎのC係長は、自分を「女性、お嬢さん」ではなく、1人の働き手として認めてくれる上司を心の奥底で求めていたのかもしれないのです。(了)



TEIKOKU NEWS 兵庫県版2011年9月12日号所載

 先ごろのイベント「よのなかカフェ・男のプライド」で、現在63歳前後の「団塊の世代」男性と、その世代と一緒に仕事をしたことのない20代女性との意識の差が鮮明になりました。

 これまで当コラムではあまり取り上げてこなかった「団塊世代」。さて、どんな人たちなのでしょうか。


●「強い競争心」と、「話を聴かない・認めない」の世代

 人口論的には、第一次ベビーブームの間に出生した1947年―49年の世代。また広義には、46-54年生まれとされます。今年の時点では57―64歳の方々です。

 47年生まれの人を例にとりますと、とにかく人口が多いので小学校時代は1学年10クラス以上が普通。すし詰めの教室で激しい競争を繰り広げ、60年安保時には13歳、70年安保時には23歳。ビートルズ、グループサウンズ、フォークに熱狂した世代でもあります。オイルショックは27歳。恋愛結婚、核家族を特徴としニューファミリーとも呼ばれます。そしてバブル期(86―91年)には39―43歳の働き盛り、企業戦士でした。

 有名人では、北野武、武田鉄也、西田敏行、星野仙一、千昌夫、ロバート・キヨサキ、谷村新司、矢沢栄吉、など、きら星のような人たちが生まれています。

 この世代はさまざまに特徴づけられますが、やはり一般の組織にお勤めだった方々で特記すべきは「競争心」。

 筆者の狭い経験からも、この世代に属する方には、特有のコミュニケーションの「癖」があるような気がします。コーチングで学ぶ「傾聴(話の聴き方)」、この中に「人の話をさえぎらない、否定しない、アドバイスしない」という原則がありますが、これをやると「わが社の上の世代の人達はこの真逆ですよ。必ず人の話の語尾にかぶせて物を言いますよ」と、40代管理職の方々からは声が上がります。当協会の主催する「よのなかカフェ」というディスカッションの会でも、ほかの人の話が終わるか、終わらないかのタイミングで我先にと発言するのは、「団塊の世代」の方の特徴です。否定してしまう、アドバイス(見当違いの)をしてしまう、というのも多いです。

 また、他人を認める「承認」というものも、この世代の方々ははなから一笑に付してしまいます。

「人を認めろだって?会社はそんな甘いところじゃないよ」

 うーん、あまりにも強い「競争原理」で生きてきていると、「他人を認める」など愚の骨頂なのか…実は、残念ながらこの世代の方々に、若い世代の人を「潰す」という行為も割合よくみられるのです。

 さらにこの世代の男性では「性別役割意識」を強くお持ちの方も多く、これも子供時代から競争に次ぐ競争で生きてきたために、人口の半分である女性を一段低く置いたほうが競争相手を減らせるという戦略と考えることもできるのです。

 いかがでしょうか。あなたの会社で知らず知らずのうちに常識になっていたことの中に、「団塊の世代」の行動原理がそのまま「会社の常識」「日本人の常識」になっていたということは…?

●強い企業は社員に競争させない

 先に挙げたように、「団塊世代」の方々の育ってきた環境を想像すると、そのあまりにも強い競争心に同情することもできます。とはいえ、ヒトが古来集団を形成して狩猟や農耕で食物を得てきた、その営みに必要なのは外部環境への効果的な働きかけであって、集団の中の内輪もめではありません。競争社会アメリカのIT企業でも、グーグル、フェイスブックなど成功している、活発にイノベーションを行っている企業ほど、社員間の競争心を抑制し良好な人間関係を重視する傾向にあることに注目すべきでしょう。

 団塊世代に続く、1952―58年生まれの人々を「ポスト団塊世代」別名「しらけ世代」とよぶのだそうです。

 さて、「団塊後の段階」の組織の精神を作ってくれるのは、どの世代でしょうか…。

 なお、本稿でいう世代的な特徴、あるいは男性・女性の特徴などはすべてそれらの属性の平均同士の比較であり、素晴らしい人柄の団塊の世代の方もいらっしゃることを補足します。(了)



TEIKOKU NEWS兵庫県版2011年8月15日号所載

●iPhoneアプリで「B型の自分」を確認

 先の松本龍・前復興担当相の被災地での暴言のあと、辞任。

 その暴言そのものについては、ここで今さら取り上げる必要もないかもしれません。被災地である岩手・宮城の両県知事の心労も地元の痛みも感じられない、およそリーダーとしての品格に欠けるものでした。

 ところで、前大臣の発言の中で「俺は九州男児だ」「B型だ」というのがあったので、おやおや、となったのでした。

 「九州男児」はともかくとして、血液型とりわけ「B型」については、頭を痛めたことがあったからです。


 ある大企業のリーダー。コーチングの研修も一通り受けられた方ですが、ある日iPhoneの画面を見せてくれました。そこには「B型人間の説明書」のアプリ。

 ご存知のように、「血液型性格診断」は、科学的根拠がないとされているにもかかわらず、わが国では根強い人気があります。それも性格診断から相性診断、裏性格診断と、ガラパゴス的な発達ぶり。サラリーマンやOL、学生同士の気楽な話のタネとなっています。

 ヒューマンスキル系の研修講師からしますと、ある程度蓋然性のある性格診断のようなものを研修でお伝えしたあと、「先生、でもやっぱり血液型が正しいですよね。僕は○×型です」と言われると、ガクッとなるのです。権威づけられていない気楽さが、逆にいいのでしょうか。

 中でもとりわけ、「血液型」の話題がすきなのは、「B型」の人。数年前、「○型人間の取扱説明書」という本のシリーズが一大ブームを巻き起こした時、最初に登場したのが「B型人間」の本だったのは、記憶に新しいですね。

 なぜ、「B型」の人が自分の血液型の話題がすきなのか―。

 先にあげた「説明書」では、
「人の話聞かない」
「欠点を指摘されて一応悩んでみるけど、直す気はさらさらナイ」
「右と言われれば左と言う」
そして
「自分論がめじろおし」
など、「マイペースな自分が好き」という意味のフレーズが並んでいます。


●性格診断の陥りやすいワナ、自己暗示

 しかし、ここには当然ワナがあります。性格診断のたぐいは、どれをとってもそれを読んだ人が「自分はきっとこうに違いない」と自己暗示をかけ、その方向に自分の行動パターンを「強化」してしまう働きがあるのです。

 ここは「B型」の人に限らないのですが、たとえばB型の性格の特徴を読んだ人は、それを読んだがためにそれまで以上に「気分屋で、自分勝手で、人の気持ちを考えず、あまのじゃく」と、なる可能性もあるのです。いわば、「居直り」。

(こうしたことは、研修で教えるような性格診断では必ず「自分はこうだと決め込まないように」「成長を止めないように」という「戒め」があるものですが、血液型にはないようですね…)

 というわけで、先のリーダーさんに私は「そうですか。ご自分が『B型だ』と思われるなら、リーダーをやめていただかないといけません」と言いました。

「えっ?コーチングってその人の強みを活かすことではないの?」先方は目を白黒。

 誤解されやすいところですが、人は永遠によりよく成長するよう努力を続ける存在だと、コーチングでは見ます。ある程度自己実現を果たしたリーダーで、なおかつリーダーであることを引き受けようという方であれば、自分の与えられた天分を超えて成長していただきたいもの。ちょうど、ユング心理学で壮年期の人は、それまで未発達だった自分の心の機能(例えば男性であれば感情機能など)を発達させることができる(心の個性化)としていることと重なります。

 居直ることをやめ、成長しよう。「B型である自分」がすきなB型リーダーさんには、耳の痛いことかもしれません。

 ちなみに、筆者の血液型はA型です。ただし人から「A型でしょう」と当てられたことはほとんどなく、あまり血液型診断を信頼していないほうです。(了)



TEIKOKU NEWS兵庫県版2011年7月17日号所載

●嫉妬する男性たち

 「今の若い男の子(人)と職場」について考えざるを得ない2つの事例に出会いました。

 女子大生対象のコーチング研修で。質疑の時間に手が挙がったのは、4回生で、バイト先の飲食店で最近昇格したという、ひときわコミュニケーション能力の高い女の子。

「バイト先の上司(副店長)で、『ありがとう』も『ごめんなさい』も言えない人がいる。めっちゃ腹がたつ。どうしたら」

「それは、その人にこそコーチング研修を受けてほしいですねえ(笑)まっすぐ言って治るほど人格の出来た人ではなさそうですから、どうしても仕事上困るという場合は、その上の店長に言ってみたらいかがですか。今どきはそういうバイトの人からのフィードバックを気にかける企業さんも多いですから」

 研修の後、この女性がそばに来てお礼とともに
「私、その上司のことを、『この人子どもなんだ』と思うことにしてるんです」。

「それがいいですね。残念ながら、男性のほうが幼いですね」と私。



 別の場面。企業のマネージャーの受講生さんが、「部下のリーダー(男性)が、その部下の女の子のことを『ワガママだ』と言ってとりつく島がないんです」。

 詳しく事情をきいてみると、この職場はシフト制で、土日もだれかが出勤するのですが、この男性リーダーがこの女性部下を土日勤務に充てることが多い。女性部下は独身とはいえ、「たまには土日休みたい」と不満を言う。最初の相談者である上司が、「この程度に土日休みを配分したったら、落としどころとして十分やろ」と男性リーダーを説得するが、それに対して「彼女のワガママだ」と譲らない、という次第。

 「それは、優秀な女性部下に対する『嫉妬による微妙な意地悪』ということはないですか?微妙とはいえその状態を放置すると、その女性部下のほうが会社を辞めざるを得なくなりますよ」と私。

 十分にその状況が考えられる、とのことで、女性部下を配置換えし、別のリーダーの下につけることで決着したそうです。

 この男性リーダーは様々な場面で頼りなさをみせ、女性部下から注意される場面もあったとのこと。


「大企業が男性の優秀な層をさらってしまう分、われわれ中小企業にくるのは『普通程度の能力の男性と優秀な女性』の組み合わせになるんですよねえ」とは、この受講生さんの述懐。

 手元の戦力で最大のパフォーマンスを上げて生き残りを図りたいということであれば、中小企業においては女性の能力を正当に評価し、定着を図るとともにそれなりの処遇を考えるのが現実的かもしれません。


●なぜ、女性との関係がうまくいかないか

 一方で「20-30代の男性がなぜ、優秀な女性とうまく関係が築けないのか」も、興味深いテーマではあります。

 少し古い調査ですが、2001年に子ども向けTVアニメの描く「男性」「女性」を調査したところ、TV番組の主人公の61.6%は男性でした。男性のライバルも男性が多く、女性は、「しっかり者」として描かれるものの傍観者的役割や援助的役割でした。(『日本の男性の心理学』柏木惠子ら著、有斐閣)

 何を意味するかというと、この世代の男性の「自己観」「世界観」というのは、「自分は主役、女性はしっかり者であっても傍観者か、さりげなく自分を立てて補佐してくれる存在」というバイアスがかかっているかも知れず、だとすると現実世界で出会う、自分より有能で、自分に注意したりしてプライドを破壊してくる女性というのは、「性格の悪い女性」であり「存在しないのが正しい」かもしれないのです。

 さて、職場にとって、また男性、女性とも幸せな「落としどころ」は、どこにあるのでしょうか―。

 当コラムにたびたび出てくる「承認」という手法の中では、「行動承認(事実承認)」に重きを置き、「プラスの行動の量、質を正確に観察しほめる」ということを推奨します。こうしたトレーニングが、当協会の受講生さんにみるかぎり、男性、女性、その他の属性にかかわらず、公正に能力や仕事への貢献度を見極めることに役立っているように思います。

 7月13-14日の2日間、兵庫県経営者協会の主催により当協会方式のコーチング研修を実施します。企業内研修よりもはるかに少ない研修費用で高い効果を得られるオープンセミナーの機会ですので、多数のご参加をお待ちしています。

兵庫県経営者協会ホームページ ⇒
 
http://www.hyogo-keikyo.gr.jp/ 


TEIKOKU NEWS兵庫県版2011年6月20日号所載

「承認って根本的に大事なものだと、私は思ってますよ」。

 そう語るのは、某企業のマネージャーを務めるN子さん(40代)。航空会社客室乗務員を皮切りに、系列ホテル・有名ファッションブランド2 社のトレーニングマネージャーを歴任してきました。

「男性の経営者には承認なんてわからない人が多いですから、私、男性社会に入るたびに闘ってきたんです」。

 そのN子さんの「闘いの記録」とは―。

●華やかな世界の裏のギスギスした人間関係

「ホテルって、『スタッフを蹴飛ばす文化』があるんですよ。ご存知ですか」

 ホテルにもよるが、お客様に向けるにこやかな笑顔とは裏腹に、スタッフ間では、陰で足を
引っ張る行為など当たり前。

「でも私、仕事ってそんなものじゃないと思ったんです。表も裏もなく人に優しくするから、本当のサービスが出来る。航空会社でそういう文化を一度経験していましたから」。

 N子さんは、ホテルにあってもN子さん流を貫き、スタッフを「承認」し続けます。しかし1 人で頑張って文化を変える、というのは限界があるもの。N子さんは配属替えになり、その職場を離れました。

 N子さんの次の職場は某有名ブランド。ここでも、当初スタッフ間の冷たい人間関係に出会いましたが、それほど根が深くなかった、とN子さんは言います。先輩が後輩を指導するときの“キモ”はなんとなく分かっている人が多かった。しかし「承認」という共通認識を持ったことで、さらに上手くいくようになります。この職場がうまく回りだしたころ、N子さんは同業種の超一流ブランドに引き抜かれます。

 ここは、華やかな外面と裏腹にかつてなく表と裏のある冷たい人間関係だった。N子さんが店舗を訪問すると、最初何も言わないでいるとスタッフに挨拶しても無視されます。ところがトレーニングマネジャーだと知るや、急ににこやかに近づいて挨拶してくる。という、極端な裏表のある文化でした。

●否定文化は、社員を萎縮させる

 現在のN子さんの職場は、有名企業の関連会社。ここでは「承認」は?との問いに、N子さ
んは顔を曇らせ首を振りました。超人気企業であることをテコに、「否定の文化」が根づいて
しまっている。「否定して、否定して、最後に誰かが救う、そういう成功体験をなまじ持ってい
るので、変えられないんです」。

 N子さんのいる関連会社でも本体から来た経営陣が「否定の文化」を持ち込むので、スタッ
フが萎縮し、あきらめ、何も言わなくなっている。やれと言われたことだけを唯々諾々とやる、典型的な「指示待ち」。そこでN子さんはじめ何人かのミドルマネージャーが「聴く、承認するマネジメント」を試みても、下のスタッフは逆に「あたしたち指示だけしてもらえればいいんです」と反抗する。それで体を壊して辞めたミドルマネージャーもいる。

 それでも、N子さんの働きかけで、その人の得意な仕事を与えることなどによって、変わってきたスタッフも中にはいる…。

 そうまでしてなぜ「承認のマネジメント」を?

 先にも述べたように、N子さんのスタートは航空会社の客室乗務員。ここでは逆に、「承認する文化」が自然に根付いていたそうです。「よく頑張ったわね」「あなたがこの間、これをやってくれて助かったわ」という言葉が自然とやりとりされていたのだそうです。

 そして、失敗しても人を責めない、マニュアルを改訂するなどシステムを変える。

「承認のない文化の中で働いていると、自分の中のモチベーションがシュルシュルシュルっと下がっていくのがわかるんです」とN子さん。

 日本の中でも天と地ほど違う企業文化。読者のあなたは、どちらの文化の中にいますか?

 今年、当協会では「承認大賞2011プロジェクト」として、より大規模に皆様から「承認」のエピソードを募集します。読者の皆様、是非ご応募ください!

http://shounintaishou.jp(「承認大賞」で検索していただけます)


TEIKOKU NEWS兵庫県版2011年5月23日号所載

●かつてない重い空気

 ある企業の研究開発部門での半年間の研修のこと。

 初日の研修で、「しいん」となった会場に、講師の私は言葉を失いました。
 受講生に問いかけをしても、反応が薄い。とりわけ今回の研修の主な対象である、30 - 40代のマネージャーたちが「無音」なので、上の部長クラスが代わりに質問に答えてしまう。

 かと思うと、たまに質問の手が上がると講師に対する喧嘩腰の質問。

 事前のアンケートでは、あれだけ口々に組織の問題点を熱く語っていたのになあ。

 この部門とはそれ以降半年間のお付き合いになりましたが、最初の1 カ月はこの「しいん」が取れませんでした。誰かが職場の気がかりや問題点について話しても、「大変だねえ」「うちにもあるよ、そういうことが」までは反応が出るのですが、あとが続かない。

 かつて経験したことのない空気の「重さ」でしたが、「他者尊重」を教えるために「承認」を教え、一人一人の特性を理解するために「強み」の診断をし、一人一人に「承認」の言葉を投げかけ…という関わりを根気よく続けていくうち、空気は変わってきました。

 だれかが「こういうことで困っている」ふと漏らした一言を、
「それはどういうこと?」
「こういう解釈はできないかな」
ほかのだれかがすくい上げる。

「責めない」「見下さない」(「承認」には、「見下さない」という意味もあるのです)ことが共通ルールになっているので、安心してちょっと困ったこと、壁に当たっていることの話ができる。そして、ときには仲のいい笑い声も。

 半年間の研修の中間点ぐらいから、当初とは打って変わった「ワイワイガヤガヤ」した雰囲気になってきました。

 中学生や高校生の教育の話ではありません。れっきとした中年の大人の世界の話。

 あとになって、1 人の受講生さんがおもしろいことを言いました。

「先生、初日の僕らの状態というのは、いわば三宮の駅ですれ違う見知らぬ人同士と同じだったんですよ。会議などで顔を合わせることはある。でも名前ぐらいしか知らない、何をしている人かまったく知らない」

●いけないのは笑いも叱りもないチーム状態

 研究開発組織とコミュニケーション能力。「必要なの?」と思われるかもしれません。しかし、実際は研究者の世界も、ひとつの研究プロジェクトが成就するまでに他部門、他プロジェクトとの連携、社外の研究者や協力会社との連携、そしてプロジェクトメンバー間の会話やリーダーからメンバーへの育成、と無数にコミュニケーションの機会があります。

 実際に、この半年間の研修の中で、難航していたある研究の「開発移行」やメンバーの立案したプロジェクトの立ち上げなどが起こりました。従来のこの組織では部長級以上の発案でプロジェクトが始まることが多く、若手研究者の育成が課題だったのでした。

「ワイワイガヤガヤしている度合い」は、組織の活性度のバロメーターとも言えます。周囲を信頼して言葉を発することのできる風土は、イノベーションが生まれやすく、また問題が早く顕在化し解決しやすいものです。

「いけないのは、笑いも叱りもない声の出ないチーム状態」

と、当協会で受講されたあるマネージャーは語ります。

 あなたの職場は、ワイワイガヤガヤしていますか?(了)

 このたびの東日本大震災によって被災された方々に心からお見舞い申し上げます。生命を失われた方々やご遺族に心よりお悔やみを申し上げます。

●被災地以外もこころの変調が

 死者・不明者が2 万5000人を超え(3 月24日現在)、明治以来最悪の災害。被災した岩手・宮城・福島・茨城の方々の受けた苦しみは同じ人として耐えがたいものでした。

 苦しんでいる人のもとに駆け寄り、助けたいと思うのは、私たちのヒトの脳の高次な働きのようです。とりわけ、自ら被災地を経験した兵庫県の方はそうかもしれません。

 しかし今回の場合、被害が甚大すぎ、被災地の自治体も機能停止している、道路が寸断されガソリン不足で交通も制限されているなど、市民ボランティアが現地に入るには不利な条件が揃っています。「救援活動の経験のない人はまだ現地に入らないで」と、災害専門家は呼びかけます。

 そうしているうち、直接被害を受けていない私たちにも、こころの危機は忍び寄ります。

 何かしたいのに何もできないという無力感、フラストレーションにより不眠になる。鬱気味になる。そして怒りが湧く。

 地震発生から10日ほど経ち、被災地以外の地域にも職場で鬱傾向を示す人が増えているとメンタルヘルスの専門家は指摘します。

 人の「多様性」でいえば、ネガティブな情報に接することの得意な人、苦手な人がいるようです。人によっては、一定量以上のネガティブ情報に接していることで心のバランスを崩すことがあります。勇気を持って震災報道のTVをオフにすることも必要です。


●ビジョンを持った支援とリーダー育成を

 言うまでもなく、もっとも助けが必要なのは、当然ながら被災地の避難所でひどい環境で生活している方々。


 全国から多額の募金と救援物資が集まり、既に大阪、兵庫などの施設に被災者が集団で移動する動きも始まっています。しかし被災者に対する支援も、当初は手厚いのですが震災から1年、2 年たつうちには手薄になってきた、心細かったと話す阪神・淡路の被災経験者がいます。

 長期にわたる建設的な関わりが必要。被災を免れた私たちは、元被災地だからこそ、平常心を保ったうえでそうした未来設計をもちたいものです。

 さらに、震災発生翌日から福島第一原発での放射能爆発が起き、放射能漏れの危険が発生。原子炉への放水など冷却作業の難航、ホウレンソウなど農作物の風評被害など、一連の人災ともいえるアクシデントの中に、情報を総合し必要な決断をするリーダーシップの不在、組織行動の弱い面と強い面がみられました。

「日本は情報を隠蔽し混乱した情報しか出さず、信用できない」と米政府関係者の耳の痛い話がある一方で、放水作業に当たった東京消防庁の隊長らの会見は見る者に感動を与えました。

 優れたリーダーの育成は、目の前の問題解決に迂遠なようでいて実は近道なのです。災害時には世界に讃えられる我慢強さの美質をもった私たちですが、それだけに甘んじず、意識的に未来を創造する態度を身に着けたいものです。

 NPO法人企業内コーチ育成協会は、4 月7日に緊急よのなかカフェとして「大震災神戸の私たちにできることは」というテーマで市民討論会を行います。参加費無料(要ドリンク代)。真摯な読者の皆様のご来場をお待ちしています。(了)



TEIKOKU NEWS兵庫県版2011年3月28日号所載

●予防がもっとも大事


「職場うつには発生対応、医療対応だけでは解決しません。予防がもっとも大事です」

 メンタルヘルスの専門家、渡部卓氏(ライフバランスマネジメント研究所代表)は言います。

 わが国の自殺者数はいまや、年間約3万3千人。交通事故死の5千人をはるかに上回る数字です。

 昨年(平成22年)5月発表された、警察庁の自殺者統計をみてみましょう。21年の自殺者数は、32,845人。うち男性23,472人、女性9,373人。月別では3・4・5月の3カ月間が、各3,000人を超え、年間でもっとも自殺者の多いのはこの期間。年齢別では、50-59歳が6,491人と最も多く、60~69歳、40~49歳がこれに続きます。この3つの年代、40-69歳の合計が17,710人で全体の半数以上を占めます。

 よく、新聞などで報じられるのは小中学生の自殺のほうですが、圧倒的多数を占めるのは「中高年の自殺」なのです。

 また、これら自殺総数のうち原因が特定されているものの中では、最も多いのが「うつ」なのです。

 職場うつについて正式な統計はありませんが、ビジネスパーソンの10人に5人以上は「仕事上の高いストレスを抱えている」と答えていることを考えると、職場で出会う人のうち、2人に1人は、軽度うつかそれに近い状態と考えていいようです。
 
●やはり上司はカギを握る

 長引く不況によって縮小する市場。人数は減らされたのに容赦ない仕事量。走り回っても成果の出ない中、上司からの叱責は容赦なく響く。

 前出の渡部氏は、「モチベーションブレーカー」の上司として、以下のタイプを挙げます。

■ミスばかり指摘して誉めないタイプ。
■部下の相談を抱え込む上司のタイプ。
 ○飲むことだけで正面からコミュニケーションが出来ないタイプ。
■休みを取らない長時間残業に無頓着なタイプ。
 ●朝早く、遅くまでいるタイプ。
 ●アフター5・休日を無視するタイプ。
■ナルシストのタイプと有能すぎるタイプ。
■部下の賞賛をモチベーションにしている上司タイプは部下に関心がない。
■数字に出せとすぐに言う上司のタイプ。
■成功体験、昔の話ばかりのタイプ。
■ビジョンや戦略の話ばかりが好きなタイプ。
■部下に任せて、責任を取る気がない上司のタイプ。

 いかがでしょうか。読者の皆様に、お心当たりの方は…。

 現代の上司自身も、高いストレスにさらされていることは否めません。とはいえ、やはり上司の立ち居振る舞いが部下のメンタルヘルスに大きく影響することは、昔も今も変わりはないのです。

 そのような背景からすると、「上司の良い行動様式」を提唱し普及させることが、一つの非常に有効な処方箋であることは間違いありません。

 ちなみに、人を伸ばすコミュニケーション手法、「コーチング」はそのための有効な道筋ですが、そこで従来ウエートを置かれていた、「質問力」は、軽度の鬱の人相手にはタブー。少なくとも、質問ばかり矢継ぎ早に投げかけて「質問責め」にすることは禁物です。相手を本格的に鬱にしてしまう可能性があります。

 一方、人を認める言葉掛けや行為の「承認」(共感をふくむ)は、正しく使えば少々の鬱気味の相手にも、モチベーションを高めたりメンタルヘルスを改善したりする力があります。2008年の「産業人メンタルヘルス白書」では、メンタルヘルスを予防する職場づくりに有効な方策として、「方針理解、承認(声かけ)、あいさつ」を挙げています。

 鬱は、一度なってしまうと治療に1年から1年半かかり、自殺や再発のおそれのある怖い病気。休職が職場にもたらすコストも無視できません。今すぐ、コストのかからない予防策、「承認」に取り組んでみませんか。

 わたしどもNPO法人企業内コーチ育成協会は、今年も部下を力づける上司を表彰する「第2回承認大賞」を、10月16日「ボスの日」に向けて開催いたします。詳細は随時、お伝えしてまいります。読者の皆様もぜひ、ご応募ください。(了)


TEIKOKU NEWS 2011年2月28日号所載


●「冷静さを保てない」ある経営者さんのお悩み

「昨日、うちの経理をやっている妻を怒鳴ってしまったんです」

 ある家族経営の新聞販売店の経営者さん(50代後半)―仮にAさんとします―が話し始めました。リーダーシップの中の「感情」を扱う講座の中でのことです。


 販促のため、新聞社から各販売店に勧める年末サービスの「みかん箱」の宅配。これを取り入れる、取り入れないは販売店の裁量ですが、経営者さんが「取り入れよう」と自社で話したところ、「そんな人員はいない。ただでさえ大変なのに」。妻をはじめスタッフから猛反対が起きた、というのです。

「せっかくコーチングを学んだのに、冷静でいられませんでした。コミュニケーションは難しいですねぇ」しきりに首を振るAさん。

 一般論として、確かにコミュニケーションは難しいです。さて、この場合は・・。


●何を恐れているのか

 それに続くワークでは、参加者の方の「恐れているもの」を相互インタビューしました。

 Aさんは、「ポジティブ」な資質のあるご性格。創業者経営者さんによくある資質で、明るく朗らかな、楽しい人柄なのですが、このタイプの人は一般に「恐れ(恐怖)」の感情と向き合うことを非常に苦手にされます。

 案の定、Aさんはインタビューの中で一般論を話すばかりでしばらく逃げ回ります。しかしやがて、しみじみとした口調で言われました。

「われわれ新聞業界は今、縮小の一方です。若い人がどんどん新聞を読まなくなってきている。うちの販売店も、みんなはよくやってくれていますが、いつまで経営が持つか、考えると不安ですね。夜も眠れないことがある。手伝ってくれている妻や息子も路頭に迷うのではないか、と」

 ふだん快活なAさんの声はそれまでより一段深く、低くなりました。ついで、

「『みかん』の件も、なぜあんなに取り乱してしまったのか。考えてみると、『これをやらないと、潰れるかもしれない』という恐れがあったのかもしれません」

「Aさん、今のその正直な気持ちをご家族やスタッフに話してみられたらどうでしょうか。今のAさんの口調で、ご自身の『恐れ』としっかり向き合った状態で話をされたら、皆さんにもきっと伝わると思いますよ」

●「恐れ」と「悲しみ」を感じられない現代人

 リーダーの方の「怒り」の感情をどう制御するか。当コラムでは、例えば明らかな怠慢や倫理規範的に正しくないことについて、「怒り」を交えた叱責をしてもよい、と勧めたりもしていて(連載第16回「怒りを戦略的に見せる」参照)、「怒り」をいつも悪いものとして扱うわけではありません。

 ただ、多くの場面では、リーダーの方にはご自身の「怒り」の感情が何からつくられているか、自覚していただきたいものです。実は、意外なものから「怒り」がつくられていて、それは目の前の相手、部下などに対してぶつけるのは不適切だ、ということが珍しくありません。

 感情の専門家からの指摘として、

「現代人は自分の感情とどんどん向き合えなくなっている。とりわけ、『恐れ』『悲しみ』の感情を十分に感じることができず、それらを『怒り』にすり替えて表出することが多い」――

 いかがでしょうか。

 ミドル以上のリーダーの方では、ご両親や祖父母など、大切な肉親との別れも経験します。こうした悲しみが、職場での「怒り」の表出に影響を及ぼしている例もよく見聞きします。

「恐れ」と「悲しみ」。それらを、他のものにすり替えずそれら自体としてきちんと感じることで、私たちは「怒り」を必要以上に他人にぶつけることを減らすことができるのです。

「怒り」のコントロールの仕方は、これ以外にも色々あり、当コラムではすべてをカバーできませんが、1つの非常に有効な道筋として、読者の皆様にご紹介したいことです。(了)



●女性登用のクオータ制導入は時間の問題

「北欧のノルウェーでは、上場企業のボードメンバーの4割を女性にする割当制を2008年に導入しました」
東レ経営研究所ダイバーシティ&WLB研究部長、渥美由喜さんは語ります。

 達成しなかったら上場廃止、という世界でも初めての厳しいクオータ制は、2010年には早々に実現したそうです。これに続きアイスランドで同様の制度を導入。そして日本と同様南欧スペインでも、地域の女性人口に比例した女性候補者数の擁立を義務づけました。お隣韓国でも2004年に比例代表区において男女候補者を半々にするというクオータ制を導入しています。

 日本でも、10年以内にはクオータ制が導入されるはずだとか。

 果たして、それはどんな波紋を呼ぶことになるでしょうか。

●制度として導入したものの・・・

 ここで筆者のささやかな経験をご紹介しましょう。1988年、男女雇用機会均等法施行2年目に総合職として入社。その会社としても、女性総合職採用2年目のことでした。

 しかし、制度として採用はされたものの、初めて女性の部下をもった男性の上司や先輩のみる目は決して温かくありませんでした。例えば同期の男性には気軽に雑用の指示を出すものの、女性の私には「反発されるのではないか、泣かれるのではないか」と、こわごわ「お願い」をされる。女性部下に対する戸惑い、違和感がはっきり伝わりました。

 さまざまにアドバイスを貰い、「私は雑用を喜んでやります。指示してください」と表明してそこをクリアすると、今度は「泊まりの壁」。シフト勤務なので男性は「泊まり部屋」があったが女性にはない。男女同室にはできない。女性の泊まり部屋を整備するまでは女性は泊まり勤務をできない。

 すると、「女はいいなあ、泊まりがなくて身体がラクだなあ」というカゲ口が耳に入ってきます。そこを、「宿泊設備がなくても泊まりをやらせてください」と上司に直談判し、仮眠時間は資料室に突っ伏して寝ることでクリア。そうしているうちに2カ月ほど遅れて女性用の泊まりのスペースを作ってもらいました。一方、「女性の泊まり勤務に門戸を開くことは母性保護に逆行する」と、古手の女性社員からの異論も耳に入ってきます。

・・・と、入社1年目にしてありとあらゆる難題を(しかも仕事の本筋ではない女性ゆえのことばかり)体当たりでクリア。2年目以降も、「地方勤務は可能か」「警察取材は可能か」と、上司たちの不安を体当たりで払拭していくのですが、その繰り返しで疲れ切り、結局3年半で退社することに。

 実はその間、地方勤務時代には表彰も受け、「当社の声価を高める仕事をした」と社長からの賛辞もいただいたりもしたのですが、直属の上司の意識がそれでも変わらない。本筋の「働く」以外の、周囲の男性の「女性観」との闘いを背負っての3年半だった、と今振り返っても思うのです。

 これは私の当時の勤務先の特殊性でもあるのですが、転勤の多い職種で海外勤務も生涯にわたって何度かあるので、男性上司たちの奥様は専業主婦になることが多い。上司たちにとって、部下の女性をはかる基準はどうしても「家庭にいる奥様像」となり、男性と同様のコースでキャリアを重ねていきたいと願う女性部下の心情というのは異常な上昇志向にしかみえない、ということだったと思うのです。

●女性が働かない都市、神戸とは

 そうした、身近な女性の生き方が男性上司の意識に深く影響するというのは、時代を経ても同じこと。

 幸か不幸かわが神戸市では、専業主婦率が政令都市でトップ、また女性の「未就職希望率(働きたくない率)」も同トップ。

 この数字から、働きたいと願う個別の女性にとって神戸は優しい土地か、そうでないかがある程度想像できる気がします(もちろん、一部の女性の側にも結婚して家庭に入りたい、子育てに専念したい、という願望があることは否定しませんが)神戸市のみならず関西の企業全体に、「女性は結婚したら家庭に入るもの」という意識が根強い、といわれます。

 あとは、「女性を働かせることが業績向上のために必須だ」という覚悟が、トップにあるかどうかでしょう。全国ベースでは、女性の勤続年数の長い企業ほど業績がいい、というデータはあるのです。(了)


TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年12月20日 所載

●「感情オフ」の職場ができるわけ


 「部署を替わりました」と、友人からメールを貰いました。


「・・・新しい職場では、私の部署は部下2人と私と3人でこじんまりとした所帯なのですが、隣の部門を含めた本部全体の雰囲気は、中途半端な職人さんの集まりの様で局地的な会話しか存在しなく、チームとしてのまとまりが欠如している雰囲気があり、どうすれば皆のベクトルが上手く合うのか?日々考える時間が多いです。

トップの方針が不明確で時間軸によってダイナミックに変化するにも(笑) 関わらず、情報の周知徹底がなされておらず、

『えっ?そうなの?』
『そんな話聞いていなかった!』
『それは誰々に言ったはずだ』

等々上手くいっていない部署にありがちなパターンです。やれやれ・・・

そんなこんなで、これから自分に何ができるのか?少しアプローチの仕方も考えながら過ごす今日この頃です。」



 あるある、と膝を打たれた方も多いのではないでしょうか。

 隣で仕事をしている同士、互いに心を通わすすべもなく、感情をオフにして働いている職場。

 もちろん、コミュニケーションがない分、仕事の効率もわるいです。非協力的です。

 いろんな原因があります。よくいわれる成果主義、IT化以外に、上のメールにあるような、上層部の一定しない方針(ブレやすさ)もまた、職場の「感情鈍麻」をもたらします。

 こうした状態になった職場を、人と人との交流、コミュニケーションがあり、柔軟なボトムアップの意思決定があり、感情ベクトルが一つの方向に合った職場に変えていくこと・・・、そう、「企業風土改革」を志す人がいます。

 筆者の経験では、「コーチング」を学ばれ成果を出したリーダーの中には、少なからず「企業風土改革」の実践者だった人がいました。

「社内1位」「全国1位」といった、華々しい業績数字の変動の蔭に、1人のリーダーの地道な努力によるモチベーションアップや、人々の当事者意識の向上、それに伴う仕事のスキルアップ、レベルアップや、協力行動の増加、といった現象がありました。

 それは、「人材育成」と「企業風土改革」が表裏一体となっています。


●50人の課員を動かした「課長の承認力」

 思い出深い事例があります。

 ある自治体にて。50人の課員を擁する課長さんがコーチング、とりわけ当コラムでも度々触れている「承認」(認める、褒める)を学ばれました。

 当時この課は、前の課長が在職死亡したあとで人々の心はばらばら。業務能力も低く、住民とやりとりして作成する書類も誤字脱字だらけ、必要な要素も抜けていたり、ペン書きと定められているのに鉛筆書きのところがあったりしました。

 そして、監査の成績はこの市の同一職務の課でワースト。

 この課長が、「監査成績を前回の2倍(つまり監査指摘率を半分)にする」と決意。

 監査が3カ月後に迫った係長会議を前に、7人の係長全員に個別面談。1人当たり3つの「承認」の言葉を投げかけつつ、「監査成績を倍にし、課を活性化しよう」という思いについて話しました。

 すると、係長は「課長、いいことを言ってくれました!われわれもそう思っていました」と、全員賛成。これまで、係長会議では課長が何か前向きなことを言うたびに、係長たちからネガティブな反論が出、係長同士結束して課長に反対していたというのに、です。

 そうして係長たちから課員へこの話を下ろし、課全体が監査へ向けて動き始めました。

 年末年始には、恒例の課長から課員全員への異動面談。ここでも、課長は課員たちに「承認」の言葉を投げかけ続けました。すると、個別の課員からは「親の介護で体が疲れて大変なんです」など、プライベートな事情もきくことになり、そこへの理解も進みました。結果的に、課員たちも課長の思いに共鳴、1月末に行った監査では、監査指摘率は2分の1には届かなかったものの、かなり近い数字に(27%→15%)。本庁の内部監査員からは、「全課一丸となって業務品質向上に取り組まれたことが素晴らしい」と、褒められた、ということです。

 また、この過程では、課員同士困っているとわかるとすぐ席を立って助け合う「協力行動」がみられた、ともいいます。

 こうしたエピソードは、仕事の現場の人々にいかに「眠っている力」が内在しているか、またそれが「承認」をきっかけに外へ表れてくるか、を、繰り返し考えさせてくれるのです。(了) 


TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年11月22日所載



 69日ぶりに作業員全員が救出されたチリの落盤事故で。わずかな食料を計画的に分配し、33人の作業員の規律を維持するとともに仲間を励まし続けたルイス・ウルスアさん(54)のリーダーシップは、NASA(米航空宇宙局)からも高く評価されました。

 大統領やスポーツの監督といった有名人の立場でない、普通の組織の中のリーダーシップの力がこれだけクローズアップされたことも珍しいでしょう。

 でも日々、わたしたちの身近にもそんなリーダーたちが目に見えない仕事をしているとしたら…。

●身近にもいる、「優れたボス」

 去る16日の「ボスの日」、「部下を力づける言葉、伝えていますか?」と題した当協会主催「第一回承認大賞」の表彰式が神戸・三宮で行われました。

 上司部門・大賞は2例。その内容とは…。

(1)研究開発職の管理職。製品開発に悩んでいた研究員の部下と何度も話し合ったところ、検査システムのアイデアは持っていたが臨床ニーズに自信が持てないことがわかった。ちょうど神戸で関連の学会が開かれていたので、上司は先生に突撃インタビューすることを提案。初日のインタビューから帰った部下に、「良くそんないい先生をつかまえられたね」「心強い情報が得られて良かったね。また明日も頑張って」。部下は翌日もインタビューに行き、上司の携帯に「朗報です。先生から『是非そういう検査システムを作ってください』というコメントをいただきました」と報告メールをくれた。(この案件は現在研究プロジェクト立ち上げ準備中)

(2)社員14名の設計事務所の社長。やる気の見えなかった10年選手の女性社員に社外研修会に行かせ対外的に発言する機会を持たせた。役割を与え、成果の検証を行い、褒めることを意識した。「考え方のバランスが良いから、思ったことはどんどん発言して欲しい。」「勇気を出して階段を一段ずつ登れば、見える景色は変わるよ。」などの言葉がけをした。すると気づいたことを行動に移せるようになった。最近は他社の社内活性化の取り組み状況を学び、「社内での勉強会が必要です」と発言。非常に高い問題意識を持つようになった。

●上司の力でできる組織変革

 (1)は、ものづくり企業の研究開発という、日本経済の生き残りのカギを握る分野。従来、「研究開発のリーダーは鵜飼いの鵜匠」と言われました。部下が生みだす、とってくる研究アイデアやシーズを待ち、それを研究として完成させるのを、魚を捕りにいった鵜を待つ鵜匠のごとくに待つ。ただ一方、研究開発畑を歩んできた人がそうしたリーダーシップを獲得するのは現実にはむずかしいことでもあります。
ここでは、部下を後押しするスキルを獲得した上司が効果的に声掛けし、伸び悩んでいた部下が力強く行動するよう促しました。上司の「承認力」が、組織の世代交代/若返りと活性化をもたらすことが評価されました。

(2)は、男女の役割が固定化しやすい中小企業で、あきらめを持って仕事していた女性社員を活性化した事例。当初、社長は「外部の研修に出し、発言させる」ということを試みていました。それから本人の社内での発言がしっかりするにつれ、励ます言葉掛けをし、またそれに応じて驚くほど当事者意識を持った発言が本人から出るようになったといいます。

 最初は「同期の男性社員に比べやる気がみられなかった」と言われる女性社員。実は、この社員自身からみると、やはり「役割固定化」が、あきらめをもたらしていた、と言います。本当は仕事は大好きだと。

 この事例の後、社長さんは社員との直接のコミュニケーションを増やすため、月に2回のペースで個別に食事をする時間をとることにされたそうです。

 「第一回承認大賞」、新聞各紙でも大きく取り上げていただきました。「上司の教育力」が、今ほど求められている時代はない、と実感する次第です。(了)



 TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年10月25日号所載

●若手に手こずる上司世代、その本音は

「上司世代」の方とお話する機会の多い当協会。

 このところのご相談で多いのが、やはり「若手の指導に手こずっている」というものです。

 普通の「はい」「いいえ」の受け答えができない、お客様と会話できない、注意すると黙り込む、自分の気が乗った仕事にだけのめり込む…。

 以前の当コラムでも取り上げましたが、今春入社してきた新入社員から、学校で「ゆとり教育」を受けてきた本格的な「ゆとり世代」。しかし明確に分けられるわけではなく、その数年前から「ゆとり予備軍」ともいうべき世代で、基本的なコミュニケーション能力、責任感、一般常識などの低い人の率が高くなった、と実感として言われています。

 さて、こうした若い人にどう接するのが正しいのでしょうか。


 わたくし個人は、おおむね以下のような順序で可能性を探りながら、ご相談に応じるようにしています。

(1)単純な若い人の側の常識不足
(2)上司の側のバイアス、決めつけ
(3)(2)との関連で若い人の「認められていない」という不満
(4)メディアに煽られた?若い人の「天職願望」、「青い鳥症候群」、「カリスマ崇拝」など

 上記以外に、まれですが重症の「ネトゲ依存」や、若い人の極端な人格的偏りにより、職業生活に適応できなくなった、とみられるケースもあります。

●若い人の中の「認められたい」を理解する

(3)の「認められていない」に、違和感を感じる上司世代のかたも多いでしょう。

「まだ仕事で何の実績も出していないのに、なぜ『認められたい』と思うんだ?」

 ここで食い違うのは、若い人の側が求めているのは、実績や達成に応じた、見上げるような有能なビジネスパーソンとして「認められたい」ではない、ということです。

 実績や有能さを前提としているのではない、現在の「ありのままの等身大の自分」を認め、その上で「成長を促す」関わりをしてほしい、ということです。いわば上司にこれまで以上の「テーラーメードの教育的関わり」を求めている、ともいえます。

 「甘い」と言えば言えるのですが、現実にこうした食い違いが離職や人材コスト増、ノウハウの流出につながっているとしたら―。

 今年の当協会主催の「第一回承認大賞」応募事例では、ドロップアウト寸前の若い人を上司が「承認―相手の存在価値や行動を認める」の力で引き上げ、社会人として自立させた、あるいは向上がみられた事例がいくつか送られてきています。

 そのうちの一例。

(1)20代後半の社員、男性。各部署で「できない奴」と烙印を押されて自部署に配属。実際に社会人としての基本ができていなかったが、上司は「一人前の社会人になる」という目標を「彼」と共有し、辛抱強く「傾聴」「承認」を続けた。少しずつ「行動する前に一旦考える」という姿勢が身についた。鬱気味と告白しカウンセリングにも通い始めた。ある日、「彼」の机の上に上司からの注意した事項をまとめたファイルが載っていた。

(2)20代前半の営業社員、男性。目つきが悪く周囲から浮いていた。上司が同行し、その努力ぶりを認める言葉をかけた。さらに全体の前でも「彼」の仕事ぶりを紹介し、「彼」にも発言させた。すると顔色が良くなり、発言も増え、積極性が芽生えた。受注も増えた。


 部下の力不足、家庭教育・学校教育の不足や実体験の不足。そして上司の側の余裕のなさ、世代的に「育てられた」体験の不足。

 このギャップが埋まる例もあり、また努力しても埋まらない例も現実にはあるでしょう。

「ゆとり世代は教えても伸びない」
メディアにはサジを投げた論調もみられます。しかし努力する意思のある上司の方には、当コラムは応援を惜しみません。

「うちの上司は、『承認なんて甘い』って言うんですよ」。
「それは、現実の今の若い子を目の前に見ていないからでしょう。今の若い子をみていたら、われわれの育てられたやり方が通用しない、とわかりますよ」

 お蔭様で当コラムも連載2周年となりました。ビジネスの最前線におられる皆様に役立つものが書けるのかと不安いっぱいでした。ご愛読に心から感謝申し上げます。(了)



 TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年9月27日号 所載

●ドル換算GDPで第3位に


「日本人の労働意欲や生産性が急低下しているのはなぜか。働き方、働かせ方が変わらないことに問題がある」。
 
 神戸市内で先ごろ行われたイベント、「日本人と仕事」で、太田肇・同志社大学教授(組織論)は、こう発言しました。

 日本人の労働意欲、労働生産性、チームワーク、国際競争力。これらの数値指標は、ここ10-20年、先進諸国の中で急低下。

 さらに、「自分の仕事能力に自信がない」という人の比率はアメリカに比べて極めて高い。

 かつての「勤勉でチームワークが良く、高い職業能力・職業倫理を持って働く日本人」というイメージは様変わりしています。

 そして、今年4-6月のGDPは、ドル換算で初めて中国に抜かれ世界第3位に。

 日本の国際的地位低下に歯止めはかからないのでしょうか。



 なぜ、ここまで労働意欲が低下したか。

「今までの仕事というのは、比較的受け身でもやれたと思う。例えば工場の生産ラインとか、銀行の窓口でも伝票の整理だとか。そういった仕事というのは、比較的モチベーションが低くても成果にそんなに表れなかった。ところがIT化などによって、工場もオフィスも非常に様変わりして、工場でも監視労働は増えてきている。それからオフィスだと、コンサルティングのような、知的な労働が大幅に増えている。それらの仕事というのは、本当にモチベーションが高くなければ、生産性が上がらない。つまり押し付けたり強制で、受け身な仕事のやり方では成果が上がらない。にもかかわらずマネジメントの面では、やらされ感に陥るような働かせ方があったりする。そこに私は問題があるのではないかと思う。」(太田教授)

 知的な、受け身では成果の上がらない仕事が増えている一方で、やらされ感に陥るような働かせ方が今も幅をきかせている。

 その1例としては日本特有の「長時間労働」「非効率な仕事の仕方」があります。

 また、「企業内コーチ育成」を掲げる当コラムとしては、管理職の資質向上による職場コミュニケーションの円滑化、人材育成、決断スピードの向上、などもお願いしたいところでしょう。

●雇用環境には激変の予兆

 一方、「働く環境」について、このところ政府レベルでも多くの改正や転換がみられています。

 父親の育休習得を可能にする、改正育児休業法が今年6月30日に施行されました。

 厚労省も「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、兵庫県内では父の日の「こうべイクメン大賞」のイベントが記憶に新しいところです。

 そして「派遣」など非正規労働の位置づけについては反省の弁が出ました。

 同8月3日に発表された厚労省の「平成22年版労働経済白書」では、「人員削減を通じて労働生産性を引き上げようとする動きが強まり、生産力の持続的な発展に課題が生じている」「人件費コストの抑制傾向により、技能蓄積の乏しい不安定就業者(非正規労働者)が増加し、平均賃金の低下や格差の拡大がみられる」などを指摘。日本型雇用を再評価したうえで、「今後の着実な経済成長に向け、すそ野広く、より多くの人々に支えられた労働生産性の上昇を目指すとともに、成長の成果を適切に分配していくことが課題」としました。

 いわば、バブル崩壊後の「失われた20年」の間に短期的視野で雇用を考えてきたことが労働生産性を低下させたことや、社会全体を疲弊させ活力を失わせたことへの包括的な反省が生まれてきた、とみることもできます。

 非正規労働の見直し、新卒者採用のあり方の論議とともに、一方では「正社員の雇用保障を弱め、解雇を容易にすること」も、俎上に上がっています。

「働く人、働かせる人」いずれの側も、「依存」から「主体」への転換が問われているときなのかもしれません。(了)



TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年8月30日 所載

●目標設定はどこでも悩みのタネ

「なんだか元気がないですねえ」

と言われた、管理職のAさんがタメ息をつきました。

「目標設定面談を控えて、課の20人のメンバーの目標を決めないといけないんですよ。1人1人の能力レベルに合った目標でないと、1年間間違ってしまうので、それが重くのしかかっていて…」

 現代の管理職にとって、「目標設定」は悩みどころ。個人の自主的な目標設定に任せておくと、低すぎる目標で安易に達成してしまおうとする人が出て来、難易度の高い目標にチャレンジする人との間で不公平感が生じます。ほとんどの管理職は、部下の目標設定を自分で行います。部下にとっては、「押しつけられた目標」ということになります。

●ビジョン型と価値観型、目標に対する態度の違い

 さて、ここからは、「会社の目標管理制度」とは離れて、人材育成の世界での「目標」に対する個人の態度のお話です。

 大きく分けて、人には「ビジョン型」と「価値観型」の2種類がいるといわれています。

 前者、「ビジョン型」は、「あなたの目標は何?」「夢は何?」と、問いかけられると、ぱあっと未来のある時点の「絵」が浮かびます。もともと視覚系の知性が強い人に多い。

 この人達は、「目標設定」という作業と「相性がよい」のです。目標を立て、それに向かい努力する、ということが自然にでき、苦になりません。

 一方で後者、「価値観型」の人はどうか、というと、「将来の目標などは必要ない。日々自分らしく、例えば『ほかの人といい関係で』『一生懸命誠実にものごとに当たる』などの価値観を体現していければいい」という生き方。日本人には、割合多いと言われます。この人達に「あなたの目標は何か?」「ビジョンは何か?」と、問いかけても、困って目を白黒するはず。

 かと言ってこの人たちが仕事ができない人かというとそんなことはなく、非常に優秀な人もこの群の中にいるのです。

「夢を手帳に」の著書のある経営者さんなどは、恐らく上記の「ビジョン型」の人だろうと思うのですが、もし経営者・管理者の方が、ご自身が「ビジョン型」で、目標を設定すると誰でもモチベーションが上がるはずだ!と、思われると、「価値観型」の部下の方は、困ったことになることでしょう。

●「目標」と「見える化」はやる気を下げる?

 さらに、個々人の未来を予測できる範囲(時間の長さ)は、実にまちまち。

 2、3か月、6か月先の「短期的未来」をイメージするのがやっとだ、という人もいれば、「あなたの5年後は?」「10年後は?」との問いにパッと答えられる人もいます。

 これも、会社の目標管理では年度単位の目標を立てるのが普通ですが、その「標準モデル」にきれいに当てはまる人のほうがむしろ少数だ、ということです。

 では、どうすればいいのか?

「最適解」というのはありませんが、人材育成・モチベーションの立場から望みたいのは、「目標管理」における「目標」は決して個々人のモチベーション向上につながるものではないのだ、と割り切ったうえで、より個々人の心情にフィットした「個人目標」や、また「目標」ではなく「価値観」を聴いて理解してあげることが理想でしょう。その担い手は、できれば組織の部門長(管理職)に、お願いしたいのです。

 「やる気」を上げそうで上げないキーワードは、「目標」以外にも色々あります。

 最近では、「見える化」が話題になりました。

 「『見える化』は全社で研修して共有しているはずだ!『見える化』をしよう!」と、言っても、不思議と「見える化」という言葉自体に反発をもつ人がいる。

 「『見える化』しよう」というより、「このデータをグラフにして」と指示したほうがいいのでは?と思えるケースもあります。

 むずかしいですが、「様々な受け取り方」に対する感性を磨きたいものですね。(了)



 TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年8月1日号所載

●「お友達の会話」と「ビジネスの会話」

 前回(6月7日号)に引き続いて、「意識のバーチャル化」のお話です。

 先日、ある席で「友達同士の会話とビジネスの会話はどう違うのか?」というご質問を受けました。

「たとえば…」
 例に出したのは、コーチングの「傾聴(話の聴き方)研修」でよく行う、「否定」のワークです。

「相手が悩んで相談してくることについて、『そんなことないでしょう』『考えすぎでしょう』と『否定』で返してください」

 研修の中でそうリクエストすると、2人1組のワークの2分間の会話の中で、相談者は話題提起した「困ったこと」を聴き手によって頭から否定されます。

 すると何が起こるか。

 相談者は、最初の相談のときの「困った顔」を引っ込め、照れ隠しのように「にやっ」と笑い、そして話題を替えます。もっと面白い話、2人が共通で笑いがとれる話にスライドしていきます。

 友達同士の会話なら、それで十分。わざわざ片方の都合で深刻になる必要もありません。

 しかし、これがビジネスの会話、部下から上司への「相談」の場面だったら―。

●「それがわかっていてなぜできないんだろうねえ」

 ある製造業の会社のナンバー2の「Aさん」は、いつもちょっとしたことで怒鳴り出す社長の補佐役です。チクチクと毒のこもった言い回しをするので、社内では、「社長の怒鳴り、Aさんの嫌味」と言われる存在。

 ある日、管理職の部下が「こんなやり方(生産方法)をしているから、わが社は生産性が上がらないんですなあ」とAさんに話しかけてきました。

 それに対してAさんの返事。

「それがわかっていて、どうしてできないんだろうねえ(笑)」

 これを聴いた私、

「その部下は、Aさんにその話をした時、どう言って欲しかったんでしょうか。『よく気がついたな。ではどうしようか』と言って欲しかったのではないでしょうか?

 自社が生産性が上がらない方法をとっている、ということは、その時初めて気がついたことなのかもしれないし、ひょっとしたら前から気がついていて、その部下の権限では動かせない人を動かすために、Aさんに相談したかったのかもしれないですね」

 Aさんはこれに対して、

「私は『ビートたけし』をお手本にしてるんですよ。『それがわかっていてどうしてできないんだろうねえ』と、落ちを作って、笑いを取りたいんです。実際、社員はみんな笑ってくれますよ」。

 読者の皆様は、上のやりとり、どう思われますか?

●マネージャーは真摯であれ!

 このところ『ドラッカー本』が売れています。

 その中でよく引用される言葉があります。マネージャーに本当に必要な資質とは。

「人のマネジメントに関わる能力、例えば議長役や面接の能力は学ぶことができる。管理体制、昇進制度、報奨制度を通じて、人材開発に有効な方策を講ずることもできる。だが、それだけでは十分でない。スキルの向上や仕事の理解では補うことのできない根本的な資質が必要である。すなわち真摯さである」―

「真摯さ」を軽んずることはむしろ楽です。友人同士の会話であれば、「まじめ」はからかいの対象になり、斜に構えたほうが対人関係で優位に立ちやすいとも言えます。

 しかし、私どもNPO法人企業内コーチ育成協会では、一般的な「コーチング」ではなく、マネージャー育成に特化したコーチングのプログラムをご提供しているため、上のドラッカーの言葉には大いに共感するのです。

 当協会主催による「第一回承認大賞」の募集を開始しました。http://c-c-a.jp/award/ 読者の皆様、良いマネジメントの普及と業績の向上のため、ぜひご応募ください!! 


(了)

TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年7月5日 所載

 鳩山由紀夫首相と小沢一郎民主党幹事長の退陣で、先週の日本は揺れました。

 両氏のリーダーシップについて論じることも興味深いのですが、本稿では、大きな政局よりもより身近な「私たち」に何が起きているのか、に焦点を当てて書いてみたいと思います。


 ご存知のように、宮崎県では口蹄疫が猛威を振るい、6月3日現在までに累計16万9881頭の家畜を処分するという事態になっています。

 最初の感染例が報告された4月20日-5月の連休までは、地域間の家畜の移動は制限し業務用車両の消毒を行ったものの、全車両に対する消毒はなく、あっという間に感染が広がりました。

 その間、奇妙なことに「口蹄疫にかかった牛や豚は、食べても人体に影響はない」という、楽観視をすすめるようなフレーズばかりが一人歩きし、赤松農水相は外遊に。10年前の2000年当時、北海道と九州で口蹄疫が発生したときにどのような「封じ込め」を行って成功したか、真摯に検討した形跡はありませんでした。

 それが、100年かけて品質改良をした種牛を殺処分し、宮崎県の畜産を壊滅的状況に追い込む事態をもたらしてしまったのです。

 その後も種牛の感染について「報告した、しない」また、現地の町長について農水省の職員が「しつこくゴネる」と、心無い報告をしたとも報告され…。

 私たち日本人は、「ものごとを真剣に考える」習慣を失ってしまったのでしょうか。

 精神科医の最上悠氏は、『ネガティブのすすめ』(あさ出版)のなかで、ゆきすぎたポジティブ思考の弊害を指摘しています。

「まだだめだと際限なく手を広げる完璧主義者」、
「自慢話などで自己武装する人」、
「傷つくことを恐れ、自分のマイナス面を出せない人」…

 いずれも、不愉快な現実をありのままに認められないという問題点を抱えています。

 長引く不況の中で、「頑張りさえすれば何とかなる」「物事の明るい面だけを見れば、成功する」というポジティブ思考を勧める自己啓発書が売上を伸ばし、売れるからと出版業界もその分野に力を注ぎます。また、鬱の人、鬱になりやすい素因を抱えた人にとっても、ポジティブ思考は口当たりのよい議論です。

 ものごとを深く真剣に考えられなくなった傾向を助長するものとして、さらに、TVで育ち、ネット・ケータイで育った世代の「感覚の視覚化、バーチャル化」が指摘できます。

 五感のうち視覚から入ってくる情報をかつてなく大量に受け取って育った人たち。彼らは、今目の前にある現実、とりわけ口頭のコミュニケーションから得られる情報(刻々動く事態の報告は、多くのばあい口頭で入ってきます)から、事態の深刻さ、今後の広がりの可能性を読み取ることができません。目の前で牛や豚が殺され埋められる事態になって初めて、「大変なことだったのだ」と思うことができます。しかしそれも、リモコンでTVのチャンネルを替えれば、ネットの次のページに行けば、見ないで済むものでもあります。

 8か月半前、鳩山政権を支持率75%で誕生させたのも私たち日本人。口を極めて罵り、辞任に追い込んだのも日本人。「4年間に4人の首相」は、日本の国際的地位を低下させている私たち自身の「意識の病」を象徴しているのではないでしょうか。


(了)


TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年6月7日号所載

 リーダーの「志(こころざし)」は、いつ、どんなふうに生まれるか。

 TVでは維新の志士たちのドラマが評判ですが、現代にあって普通に入社しサラリーマン生活をした人たちにとっては、どうでしょうか。

 決して一般化はできないものの、私には何度も思い出すドラマチックな光景があります。

●家族のために経営をしたい!

「僕は、家族のため、妻や子のために経営をしたいんです!」

 ある若い、―といっても歳のころ30代半ばにみえる二代目経営者さんが声を絞り出すようにして言いました。

 数年前、ある業界団体のお招きで、経営者さんを対象に「コーチング」のワークショップをさせていただいたときのことです。

 まだ「コーチング」の認知度が低いころで、講義を聴く参加者の経営者の皆さんは、半信半疑の表情。

 デモンストレーション(ここでは、全員の前で特定の人がモデルになって行うコーチングのことです)のクライアント役を募集したところ、休み時間に1人の若い経営者さんが手を挙げました。それが冒頭の経営者さんです。

「皆さんもご存知のように、先月父が亡くなり、急遽私が会社の後を継ぎました」

クライアント役になった経営者さんが話し始めました。

「正直言って、どうしていいかわからないのです。会社は大変な状況です。父の代からの幹部も決して僕に納得してついてきてくれるわけではありません。僕自身、自分が経営者になりたかったのかどうかもわからない。…ただ、」

経営者さんが言葉を継ぎます。「周囲の人のことを考えると、僕は何とか踏ん張らねば、という気持ちになるのです」

「経営はそんなことじゃないだろう!」

その場のボス格の年配の経営者さんが「吠える」のを尻目に、

「僕は…、僕は誰よりも家族のために、妻や子どもたちの将来のために会社をやろうと思うのです!」

それまでになかった、強い語気でした。

 しんとその場が静まり返り、そして何人かの年配の経営者が「それでいいよ。あんたがそう思うならそれでいいよ」と気の抜けたような声でつぶやきました。

●志が「家族のため」であっても

 「自分は何のために働くか」

 これは、経営者などトップリーダーにとっても、1人の平凡な働く人にとっても、重要な問いです。問われて即座に答えられる人は、そう多くありません。

 修羅場に遭ってはじめて言葉にできるもの。

 あるいは、長いことさまざまな経験をくぐり抜ける中で自分に問い返し、熟していくもの。

 通常は、その人の固有の価値観が「何のために」の「何」に当たります。

 のっぴきならない状況で言葉にしたとき、それは「家族のため」という平凡なものだった。ということも、あっておかしくありません。

 むしろ、「人とのつながり」をことさらに大事にする国民性の日本人であれば、「家族のため」という価値観は、意外に多数派かもしれないのです。「天下国家のため」という大上段の価値ではなく。

「子どもの日」に発表された日本の子どもの数は1694万人と、29年連続減。総人口に占める子どもの数の割合は13.3%で、人口4000万人以上の国の中で最低となりました。出生率の低迷や将来の社会設計を視野に、長妻厚労相が「イクメン=育児をする男性」を流行らせよう、と発言。折しも今年6月20日の「父の日」に向けて、地元神戸では有志が「こうべイクメン大賞 100人のイクメン」を企画しています(当協会もこの活動を応援しています。ホームページhttp://kobeikumen.com)。

 「良い父親でありたい」と願うことが、ひいては働くことへの強い動機づけにつながるなら。それも、長時間労働をしてただお金を運んでくるだけの父親でなく、子どもに時間を割き、直接関わる父親として。

 数年前、藤原正彦氏がベストセラー『国家の品格』の中で語った、「まず家族を愛し、続いて地域を、ひいては企業や国家といった大きな単位を愛す」という概念は健在かもしれないのです。
(了)

TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年5月10日号 所載

●情報はなぜ伝わらなかったか


 トヨタ・豊田章男社長の3度にわたる米公聴会出席と大規模リコール実施で、一連の品質問題には決着がついたようにみえます。

 ただ、なぜクレーム発生から問題重視まで、これだけ時間がかかったのかは解明されずじまいでした。

 人気車種の不具合という事実に、情報と触れた組織の各階層の人びとがどう向き合ったのでしょうか。

 組織のどこかに、販売を失速させるような不愉快な情報をシャットアウトする要素があったのです。

 それは、「組織が急速に巨大化したから」(豊田社長)という説明だけでは理解しえないでしょう。

 過去のトヨタには、「嫌な情報はないか。いい情報は要らないから、嫌な話をきかせろ」という風土があったといいます。
 なぜ、それが途絶えたのか。

●恐怖と不安が嫌な情報を遠ざける

 ここからは、「トヨタ」や豊田社長から離れて一般論になりますが、嫌な情報にすすんで触れるのは、誰しも嫌なものです。

 自分の存在を脅かすような情報は、本能的に回避したい。それは個人差がありますが、とくにうまれつき「恐怖」「不安」の感情が強くはたらきやすい人に、よく見られます。ようするに「怖がり」の人。

 上司が「嫌な情報は言わないでくれよ」という表情をし、周囲にその空気を撒き散らしていると、部下は当然、言わなくなってしまいますね。

 それでは、うまれつき「恐怖」「不安」の感情が強くはたらく人は、それらの感情をどう克服していったらいいのでしょうか。

 心理学では、脱感作法といって、特定の事柄にたいする恐怖心や不安感を弱めるようなトレーニングがあります。これはあくまで何が恐れる対象なのかわかっている「○×恐怖症」の治療の場合です。

(たとえば、ゴキブリが苦手な人には、50M先に5cm大のゴキブリがいることをイメージしてもらう。恐怖スコアをつけ、ゆっ 呼吸し、リラックスしてもらう。次には45M先に5cm大のゴキブリがいるところをイメージしてもらう…と、いったことを繰り返すわけです)

 ところが、ビジネスでの情報のやりとりでは、何が「怖い」か、事前に特定できるわけではありませんから、この方法はつかえないですね。

●「僕、怖がりですから」

 さて、このことについて、先日、地元である経営体験発表を聴かせていただいたとき、1つのヒントをいただきました。

 神戸のある中堅企業の二代目経営者さん。この不況の時代に、昨年度は過去最高益を記録しました。商品バリエーションの多様化、新工場の稼働など、それまでの経営上の決断が1つ1つ功を奏しています。

 傍から見れば「大社長」なのですが、66歳のご本人は、

「いや僕、怖がりですから」
「僕二代目のぼんぼんですから、苦労してませんから」
「僕がカリスマ性なんか発揮したらみんなついてきませんよ」
と、謙遜されます。

「僕何もしてませんから。あ、これはええかっこしてるな。怒られるな」
と、自分を客観視する言葉をよく使われます。

 たぶん、「怖がり」なのは、謙遜ではなく本当。ただ、そうやって自分の中の「恐怖心」を認めるのは、それ自体勇気の要ることです。そして、「恐怖」を思い切って言葉に出してしまうと、それは必要なことを勇気をもって取り組むうえで、障害にならなくなります。

 「怖がり」の自覚のある読者の方は、ぜひご参考になさってみたらいかがでしょうか。


TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年3月15日号所載

春。今年は桜満開の時期に晴天が続き、お花見を楽しめた方も多かったのではないでしょうか。
 職場では、人事異動とともに新入社員教育も始まっています。
 その風景をみると…。

●一般常識教育に力

 鉄鋼商社のJFE商事では今年度、新人研修の期間を昨年度より3日増やして23日間としました。自社の役員や組織、セキュリティー装置を含めた本社ビルの使い方、メールの書き方などを教えるほか、毎朝のオリエンテーションでは人事担当者が気づいたマナーや一般常識の欠落についても注意する時間を設けているといいます。

 昨年度来、履修内容を減らした「ゆとり教育」を受けてきた学生が入社するようになり、従来より一般常識に乏しいことが指摘されています。各職場に配属後は基礎教育をする余裕がないため、入社時教育に力を入れることにしたもの。

 毎年、日本生産性本部が発表している「今年の新人像」は、「ETC型」。

 そのココロは、
「性急に関係を築こうとすると直前まで心の『バー』が開かないので、スピードの出し過ぎにご用心。IT活用には長けているが、人との直接的な対話がなくなるのが心配。理解していけば、スマートさなど良い点も段々見えてくるだろう。“ゆとり”ある心を持って、上手に接したいもの。」
だとか。

 若手側の「ゆとり」を懸念しつつ、迎え入れるベテラン社員の側は心に「ゆとり」を、というわけですね。

 かつては、「新人の教育係は2年生社員。教える側も学びになるから」と言われてきたのも様変わり。当協会では、「教育係はその職場で一番優秀な人。新人の側の常識に流されず、会社の常識を教え込む。そして周囲も教育係を孤立させない」というやり方を推奨しています。叱る時も、2-3人でトーンの強弱を変えながらブレずに叱るよう指導。上司・先輩世代には「連携プレー」が求められます。

●ITへの順応度には落差

 一方で、各企業が採用を大幅に絞った結果、「超・氷河期」を勝ち抜いて今年採用された新人には高い評価の声もあります。

 自分の新人時代と比べて今の新人が上だと思うか、という問いに対して、上司・先輩世代のうち「今の新人の方が上だと思うものはない」と答えた率は37%。しかし過半数は今の新人には侮れないところがあるとみなしているとも言え、「資格など専門性」(22%)、「知識」(15%)、「語学力」(14%)などに一目置いている人もいます。

 とりわけ、「IT」の知識や順応度の高さには目を見張るものがあります。

 今年3月、当協会が行った討論会「新聞、読んでますか?」では、「新聞・TV世代」の40代、50代と、インターネット・動画サイト世代の30代以下で、利用メディアがくっきり分かれました。「ニコニコ動画」を運営するドワンゴの小林宏社長は、「20代は新聞のない世界に生きている」と言ったそう。MixiもTwitterも、若い人向けの有効なマーケティングツールとなり、それを自在に操る感性もまた、若い人のもの。

 先輩・上司世代は、足りない部分を温かく見守りながら教えてやる姿勢とともに、若い人の得意分野については、柔軟に「教えて」が言えることが必要ですね。

 お蔭様で先月、初めての著書『認めるミドルが会社を変える』を出版させていただきました。

 出版を記念して、「企業内コーチ育成事例セミナー」を今月17日(土)に三宮で開催します。本連載や著書に登場した実在の「企業内コーチ」たちが、皆様に直接お話する場を設けます。参加費は1,000円。詳しくは当協会サイトhttp://c-c-a.jpでご覧ください。


TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年3月15日号 所載

「実は、ゆうべあまり寝てないんです」
 受講生の「Kさん」が憔悴しきった顔で言いました。
 開講中のコーチング講座・応用コースの中の一幕です。

●怒ることは問題解決に結びつかない?

 「Kさん」は報道関係の管理職。ある企画を任せていた部下が、期日ぎりぎりになって「できません」と言ってくる事態に。企画の関係者が急にクレームを言い出し、企画をひっくり返しそうだという。

 記事の穴は開けられない、いや企画自体をあきらめようか。時間に追われる中、Kさんは部下に必死で関係者を説得させ、何とか企画を仕上げさせることができました。

 それもふだんからの部下の詰めの甘さが招いたこと。

 しかし、Kさんはいつも通り冷静沈着にに部下に指示を出し、問題解決をしたのでした。

「怒ったって仕方ないですからね。部下を委縮させるだけですから」

「しかし、それでいいのですか?」
 講師が尋ねました。
「怒りを心にため込んではいませんか?ゆうべ寝ていないということですが、それが身体に来たりはしませんか?」

 べつの受講生が発言を求めました。
「私は、不快な感情を伝える『Iメッセージ』も伝えていいと思っています。『私はそれはイヤだ』というように」

「それは、怒りをすべてぶちまける、ということではなく、選択的に伝える、ということですね」と講師。

「はい。一切怒りを見せないで、穏やかにその場の問題解決をすると、確かに部下はスムーズに動けますし問題解決は早まります。でもそれをしていると、部下はいつまでも『これは絶対にやってはいけない失敗だったのだ。回避しなければならないのだ』ということを学習しないと思うのです」

「ああ、確かに…」
とKさん。
「どうも最近私は、ナメられているような気がします。『何をしてもKさんは怒らない人だ』と」

「私は部下を『あなたはそれでいいの!?』と怒るときがあります。怒ると、怒った人の『本気』が伝わると思うんです」
と、3人目の受講生が言いました。

 さて、読者の皆様は、部下を「怒る」ことができますか?

●冷静に対処することの落とし穴

 一般にマネジメントの本では「叱るときは、感情を交えず冷静に叱る」と書かれています。実際にやってみると、これは叱るというより、ミスの「指摘」という方がふさわしいかもしれません。「フィードバック」というスキルになります。

 実はそれができるというだけでもかなり高いハードルです。リーダーの方のもともとの性格にもよりますが、部下のミス、クレーム、期日遅れといった「望ましくない事態」について、自分の感情を振れさせることなく、問題解決をできるというリーダーの方はごく一部。多くのリーダーはそこで、怒り、狼狽、焦り、傷つき、恥らいなどの不愉快な感情を経験し、それらの感情をそのまま部下にぶつけてしまいます。それをしないようになるだけで大したものです。

 ただし、「感情を交えず、冷静に対応」ができるようになったリーダーの方には、次のハードルが待っています。冒頭の「Kさん」のように、冷静沈着に対応してくれるリーダーに対しては「甘え」の心理が働き、部下の緊張感が低下してくるのです。ミスが頻発するようになります。

 この段階では、「怒りを戦略的に見せる」というワザも必要になってきます。

 ここで、受講生の皆さんから出たような、
「私は不快に思っている。私はがっかりした」という、抑制の利いたIメッセージや、
「あなた、それでいいの?」といった、愛情のこもった「責める言葉」が効果を発揮します。

 リーダーの方に「怒ってもいいですよ」とお話しすることは、非常にリスクがあります。ほとんどのリーダーは、感情を抑制するという段階がまだできていません。

 まず「感情の抑制」「怒りの抑制」を十分に学んでいただいたうえで、次の段階で「ネガティブな感情を抑制的、選択的に見せる」ということを意識的に取り入れていくことになります。

 もちろん、当コラムで繰り返し取り上げていますように、「怒りを伝える」ことが効を奏し、相手の真摯な反省につなげるには、ふだんからの「承認=認めること、褒めること」によって信頼関係を作っておくことも大事です。

 メンタルヘルス研修などでは
「一切叱ってはいけない、怒ってはいけない。今の若手は簡単に鬱になるから」
と教えられる一方で、業務品質を一定レベルに保つには、グローバルな競争に勝つためには、厳しさも見せていかなくてはならない、という職場も多いことでしょう。

このジレンマをどう解決するか。1人1人の上司のヒューマン・スキルがかつてなく問われる時代です。(了)


TEIKOKU NEWS 兵庫県版 2010年2月15日号所載

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