●深刻なパワハラ、「オレオレ上司」



「パワハラ?どこに証拠がございますか。私ほど社員を丁寧に扱うものはおりませんよ」


 ある中堅企業の取締役事業部長兼工場長、Aさん(60)は、慇懃な口調で言いました。


 
Aさんは取引先の大企業の部長から今の企業に出向し役員に。出向後すぐ、業績の下がっていたこの工場で幾つかのプロジェクトを立ち上げて自ら率い、その結果やや財務を持ち直しました。しかし、新しい事業部長が来て5年経った現在は、工場、事業部内に鬱による休職が目立ち始め、メンタル疾患の連鎖が起こる「鬱マーチ」の様相になってきています。原因は、Aさんの部下に対するきつい叱責、悪罵によるもの。そして、モチベーションの下がりきった職場では、業績もまた下降線をたどっています。


 会社サイドの話によると、取引先との関係上
Aさんを解雇、降格などはできない。またAさんのパワハラ問題が放置されてきたのは、Aさんが社長には極端におもねり、ごまをすり、社長の意を迎えることに長けているから。以前いた会社では、Aさんはプラント建設などのプロジェクトのリーダーを担当。そこでは社内の少数精鋭を率いてきた。有能な人ではあるが多様な能力の人を束ねる仕事はしてきていない。


 こうした、銀行や大企業からの出向役員がパワハラの担い手になるというケースは、筆者の知る範囲では珍しくありません。「格下の会社に来た」という「植民地感覚」なのでしょうか。



 別の事業部長Bさんは、朝8時からのTV会議で怒鳴りまくっていました。


 グローバルに設備を納入するこの会社では、支社・現地法人に
TV端末を置き、毎朝TV会議で情報共有しています。


連日、技術上のトラブルが発生。


「ここにひび割れがあるな。もっとよく見せて」


「この
C社製の部品○×がサイズが合ってないんじゃないのか。C社の部品は癖があって…」


 技術職出身の
Bさんが延々と1人で技術談義。朝の会議の1時間はあっという間にそれで過ぎていきます。会議に出席した10人は疲れ切った顔で各職場に戻りました。


Bさんの時代とはもう技術も変わってるんですがねえ…今発生しているトラブルはまた、別の次元の話なんですが」


現役の技術者は苦笑い。


 さて、
AさんとBさんに共通の困った資質とは…?




 前回の当コラムで触れた「ナルシシズム(自己愛)」。会社の上司がナルシシストの場合、上記のように大変なロスが起こります。
Bさんのように時間をロスするだけならまだ可愛いものですが、Aさんのように周囲の心の健康を害し、休職はおろか退職にまで追い込んでしまう深刻なケースもあります。

 いずれの場合も、「有能な、素晴らしいオレ」の幻想に酔い、「オレ」が主人公の長話をしたり、その自己イメージを損なう相手、自分に反論する相手、ミスをして自分の顔に泥をぬる相手には激しい怒りをおぼえ罵ります。また、ナルシシストの特徴として、「どんな些細なことでも他人に勝ちたい、勝利感に酔いたい」という欲求もあり、他人を傷つけ貶めること自体に快感をおぼえる場合もあります。




●ナルシシスト上司に効く薬とは?

 

 こうした上司のナルシシズムに対する処方箋は―。


 軽度の場合、当コラムが推奨する「承認」を学習することが効く場合もあります。他人の成功や成長を喜ぶ、というのは、ナルシシストにとって大きな成長を意味するのです。とりわけ、中年期を過ぎ、やや自分の体力気力が衰えてきたときに、他人を承認し他人の力を通じて成功することを学ぶのは、ご本人にとってもわるくない選択かもしれません。


 「承認」ができるようにはならなかったとしても、人を伸ばす「コーチング」の考え方を学んだことで、「ひどい叱責はしなくなった。怒り散らさなくなった」という周囲の声もよく伺います。

 しかし、重度のナルシシストには、「承認」など愚の骨頂でしかありません。あまりにも周囲にとって「有害」なナルシシスト上司は、やはり降格するか部下を持たせないようにするのが一番でしょう。


 前回も触れたように、病的なナルシシズムである「自己愛性人格障害」はアメリカで
16人に1人の高率で発生しており、日本にも増加の気配があります。


 次回は、部下世代のナルシシズムにどう対処するか?というお話をしたいと思います。


(帝国データバンク発行「TEIKOKU NEWS 兵庫県版」2012年2月20日号 所載)