2009年03月20日 03:18

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砂漠の国だったことを知る者は、いまどれだけいることだろう。
ここは摩天楼の都、FEG。
並び立つ高層ビルの群。
空を飛ぶ車たちが渋滞を起こすほど飛んでいる。
雅は、今日この日のために、大量の書類の束の詰まった部屋から、久しぶりに外に出た。
変わり果てた景色に驚き、茫然とする。
「ちょっと見ない間に」
夕日に照るFEGは綺麗だった。
これなら、夜景はもっと綺麗だろう。
これが、FEGに起きた大統領効果であった。
莫大な資金がFEGに集まり始め、国は光の名にふさわしく、変わりだしていた。
雅は、目の前にひろがる光景に、自分のいる世界の、バブル景気を思い出した。
そしてふと、今日執務室を出た訳を、思い出す。
想い人、千葉昇は来ているだろうかと、辺りを見回した。
昇は、動く歩道に乗って雅に近づいてきていた。
昇は、気づいた雅に向かって、手をあげた。
雅は笑って、手を振りかえす。
昇は、動く歩道を降り、雅の隣までやってきた。
「こんにちは」
雅は、夕日に照らされる昇を見て、絵になる人だなあ、と思いながら、
「こんにちは・・・こんばんは、かな? ね。夕日がすごいよ」
夕日に照らされた、昇の影が、長い。
昇も、この光景には、感心しているように、
「……すごいですね。高いビルのガラスにいっせいに照り返されて」
そこまで言って、一度言葉を区切った。
噛み締めるように、
「黄金の国のようだ。ここは」
昇はそういった後で、皮肉そうに微笑んだ。
雅は、理解している。
この急激な変化が、いいことばかりではないことを。
「あんまり急な変化は、いろんなところに無理が出るからちょっと心配はしてるんだけど・・・」
そう、かすかに不安をにじませて言い、そして再び周りを見渡した。
「ここだけ見ると違う国に来たみたい」
昇は、夕焼けに眼鏡越しの目を鋭くしたまま、
「無理は出ていますね。ええ。ここはもう、みんなの知っているFEGじゃない」
雅と同じように光の国を見つめた。
何を考えているか、計り知れない目で。
そしてその目には、心には見えていることを、昇は告げた。
「にゃんにゃん共和国の首都、FEGですよ」
雅は、困惑を隠さない。
「首都、かぁ・・・」
昇は、遠い目をして、誰ともなく言った。
「そろそろ、潮時かな……」
雅はそれを聞いて、目の前の景色から視線を昇へと移した。
「違うところに行く?」
昇も、雅を見た。
わかる人にだけわかる、雅を見るその瞳だけが、わずかに優しい。
「ええ。ここも、強くなったんで。」
そしてそのことを誤魔化すように、普段は鋭すぎる眼差しを隠すための眼鏡を手で押さえた。
雅は、それを見て、少しだけ微笑んだ。
優しく訊ねる。
「そっか。どこに行くか決めてるの?」
そう言われて、しばしの沈黙の後、昇は、
「……いえ」
雅は、嘘だと思った。
たぶんこの人は、もう決めている。
自分の生き方を。
だから、雅は笑った。
明るく、未来を見ている者の笑顔が、沈み行く日に、まぶしい。
「どこでもいいか。ねぇ。二人で行くにはどこでも面白いかもね」
雅もまた、決めていたのだ。
この人と生きるのだと。
そんな意志を知ってか知らずか、昇はまだ彼方を見ている。
「川原さんがいなくなったら、この国傾きますよ」
昇はそう笑った。
雅は、それでもと、笑う。
国の友人たちの顔が浮かんだが、それでもと。
「大丈夫大丈夫、いなくてもそれなりにまわるように教育はしてるから」
明るく、手を振った。
この国で、雅が果たしている役割は、大きい。
何よりその存在のかけがえなさを、昇は知っている。
「どんながんばっても人徳や人のつながりまでは教育できませんよ」
昇はそこまで話した後、黙った。
雅の声は、あくまで明るい。
「王様には怒られるかなー。あ、大統領か。ふふっ」
笑う雅の声だけを聞きながら、昇はかの人を思った。
「大統領はすごいと思いますよ。もう伝説の中の人物だ」
雅は、いつも誉め言葉の裏にある、デメリットさえ、見通す。
その気になるとなく、最悪を想定して最善を尽くせる女に、雅はなっていた。
「伝説になるって、つまり本物を見たことない人が増えるってことよねー。いいんだけど。ちょっと執務室の書類のたば思い出しちゃった」
その大統領に会うことが、執務室に戻ることが、なくなるとしても。
どこか、これまでの生き方を過去のものにしようとしている自分がいるのを、雅はどこかで感じていた。
彼女には、見えてしまっている。
千葉昇という未来が。
昇は大統領の話を続ける。
「そうですね。もう、実在を疑ってる人もたくさんいます」
わずかな沈黙。
「……そんな風になってみたい。伝説の中の誰かに」
そして、さらに口をつぐんだ後、雅に、
「……ちなみにほんとについてくる気ですか?」
と確かめた。
雅が昇にとってもかけがえのない存在であることを、見せないようにしながら。
昇の総てを見通したように、雅は言った。
「是空さんがどうして伝説の男になったか教えてあげましょうか? すごい奧さんがいたからよ」
それは、いまは思い出だけの女の、ただ想いからなる伝説だった。
みんなを護ってあげてね、そう言って旅立った、ただの是空とおるという男の生涯の伴侶。
「あの奧さんにはかないそうもないけど、ちょっとぐらい手助けはできると思う」
雅は、その女のことを、よく知っていた。
もしかしたら、是空さんが伝説なのではなく、その女が伝説なのではないかとさえ、思うほどに。
昇はけげんそうに、
「凄い奥さん…?」
そう言って、小さな声で、
「彼はずっと独身の……」
雅は、ふふ、と笑った。
「秘密よ、秘密」
昇は目を白黒させた。
「そうか。進行している縁組にも影響が」
雅は、大統領の縁組みがあると知って、独身なら仕方ないかと、笑った。
かの女が、いまどこにいるか、思いをはせながら。
「……」
昇は黙って、雅に手を出した。
「僕は冷たいが」
雅はその手をとった。
その意味を、理解しながら。
「使えないと思ったらいつでも置いてって」
真っ直ぐに、昇の目を見た。
夕日に、燃えるような瞳。
「でもきっと探して追いつくよ」
強い目で見つめ、雅は笑って言った。
昇は眼鏡を指で押した。
迷った後、眼鏡を外した。
眼鏡のないその目は、鋭い、目つきだった。
「貴方が恥ずかしくないようにする」
昇もまた、決めたのだ。
雅と伴にありながら、その未来を目指すことを。
「うん。私も頑張る」
雅は微笑んで、その鋭い目つきの昇を、見ていた。
この人についていく。
ずっと、ずっと。
昇は考えた後、眼鏡をかけて歩き出した。
手を握っている雅も必然的に、一緒に歩き出す。
隣に並んで。
昇は、つないでいる手とは反対の手で、眼鏡を押した。
「とりあえずは、動くための資金をつくりたい。その次は芥辺境藩へ。あそこの犯罪組織をつぶしたい」
雅からは、そう言った昇が、夕日に燃えているように見えた。
笑う。
「OK。芥ね」
昇の隣を楽しそうに歩きながら。
「資料集めるわ。資金は・・・ちょっと前なら自由になるお金があったんだけどな」
昇は、前だけを見ていた。
しかし、隣を歩く女の手を離すつもりはない。
「すぐに作れる。これだけお金は集まっているんだから」
雅は昇と同じ未来を見るだろう、これから始まる総てに、
「すっごいわくわくしてきた。・・・・ふふっ」
昇は高い城を見て、拳をあげた。
それはかつて政庁城と呼ばれた、いまは共和国大統領の城。
これはきっと、大きな出来事の始まり。
「いずれはあそこに」
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2009年01月20日 18:17

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ヤガミはどこか、誇らしく歩いていた。
カツカツと、高い靴音をたて、堂々と。
そう、夜明けを告げる、騒々しい足音のように。
隣を歩く時緒に、かすかに歌声が聴こえる。
歌に耳をすます時緒。
それは、華やかな戦いの歌だった。
“我はこれにて剣を持ち、百万の悲しみを駆け抜ける”
それを聴いて、時緒は微笑んだ。
ヤガミは歌うのをやめ、時緒に、
「なぜ笑っているんだ?」
と笑いながら言った。
時緒も微笑んだまま、
「別に。笑いたいから」
「いい話だ」
一言いってヤガミは少し笑った。
時緒は、ヤガミを見ながら、ゆっくりと言った。
「そうだね。私、不思議と落ち着いてるの」
「……それは良かった」
時緒のヤガミは、こういうときはなぜなんだとは、聞いてこない。
それは、その胸にある、謙虚さからくるのかもしれなかった。
そして時緒は、なぜと聞かれないことを受け止められる、そんな女だった。
「うん。やらなければいけない事は沢山あるけど。取りあえずは」
言って、そのことに、笑った。
ヤガミは、
「落ち着かないよりは落ち着いていたほうがいい」
とだけ言い、あくまで理由など聞かない。
時緒は、自分の心に正直に話す。
「うん。私にはそんなに沢山を一度に考えられないってわかったもの」
「考えることが出来ても、手は2本だ」
ヤガミは初めて、時緒を見て微笑んだ。
「俺はそういうことにしている」
「できる事をすればいいんだね」
ヤガミを見返しながら時緒は頷いた。
ヤガミは、時緒を縛らない、自由な風であることが、好きな様であった。
「やらないでもいい」
そしてヤガミは眼鏡をそっと指で押し、
「そんなことはお前の自由だ」
と、突き放しているようで、大切にしているようなことを、言った。
時緒は、そんなヤガミが思うように、自由を使う風の様だった。
「私はやりたい事しかしないの」
それを聞いてヤガミは、
「いい話だな。うらやましい。俺もはやくそうなりたい。とりあえずはそうだな。全ての食べ物からピーマンを抜くところからだな」
と言って、舌見せてた。結構長い。
時緒は、自分が自由であることを、望んでいる。
が、ままならないこともあると、
「自発的にはね。へー、ピーマン嫌いなんだ…」
そう言って、ピーマン嫌いと言って舌を出すヤガミを興味深げに見て、
「同じだね」
と、自由を望むヤガミに笑いかけた。
「あんまり生真面目に生きるのも面白くない」
ヤガミは、面白そうに、楽しそうに言った。
冗談めかしながら、ヤガミは良く分かっていそうであった。
時緒は、
「それ私の事?」
と、不安をのぞかせる。
面白くない?
嫌われた?
「なんで俺がお前のことを話さなきゃいけないんだ?」
ヤガミはだが、不思議そうにそう言った。
「私の事真面目だって言ったから気にしただけだよ」
どうやら嫌われた訳ではないらしい。
安心してちょっとだけ、むくれる時緒。
ヤガミは、
「隣にいるのに」
と言ってくすくす笑った。
時緒は、その笑い方に、
「別に真面目にしてるとか、そんなつもりないの。…って、そうですね」
と言って何か負けた気がしたが、そのことは言わなかった。
ヤガミは笑う。
「あんまり気にするな。お前はお前。俺の言うことなんか、都合のいいところだけ拾えばいい……ふっ、さわりたいがそれができないのが残念だな」
「うん。…触るのは苦手なの」
時緒はそう言われて、少女特有のことを言った。
ヤガミはそのことを気にもとめる風もなく、上機嫌に歌って歩いていた。
そろそろ外だ。
そして、ヤガミは、外からさしこむ明かりに、笑った。
「分る分る」
ヤガミの隣で一緒に歩きながら、そう言われてちょっと泣きそうになる時緒。
女心である。
ヤガミは、
「俺も良く、他人のぬいぐるみを触って怒られる」
そう言って時緒が泣きそうなのを無視したが、少しだけ早く歩いた。
時緒は思う。
なんで泣きそうになっちゃうんだろう。
「そっか」
時緒から、ヤガミの顔が見えなくなった。
ヤガミと時緒の間にわずかな距離ができる。
時緒は、自分が思うように泣くよりもヤガミの顔が見れない方が、嫌だった。
あわてて追いつく。
だが角度的にヤガミの顔は見えない。
ヤガミはそんな時緒が泣きそうなのを、なぐさめない。
ただ、泣くのを見ないようにした。
その誇りが、傷つかないように。
時緒はヤガミの顔が見えなのが嫌で、ヤガミの服の端を掴んだ。
「どうした?」
しかし。
こういうときにヤガミの声はひどく優しい。
だから、いけないんだろう。
この男は。
時緒は、優しい声を聞いて、あーとかうーとか唸る。
そして、自分に正直になることにする。
「ヤガミ、手を繋いでもいい?」
「触るのも触られるのも、嫌いなんじゃないのか?」
ヤガミは時緒に、手を差し出した。
「貸す。噛み跡だけはつけるな。後は自由だ」
時緒は、ただ自分に正直になろうと、思った。
「うん。好きじゃない。触ってみたいと思ったから」
そしてそっと手を伸ばしながら、
「噛み付きませんよー…」
と言ってヤガミの手をとった。
ヤガミの手は乾いている。
大きい。
汗もかいてないから、緊張もしてないのだろう。
時緒は、それがちょっと嫌だった。
ヤガミの顔を見上げる。
まったく緊張してないように見えた。
いまいましいくらいに。
時緒は、少し考え、その不敵にさえ見える様子を、笑うことにした。
ヤガミは、その笑顔に、
「普通の手だぞ。残念ながら」
時緒はそれを聞いてさらに笑い、
「別に珍しそうな手だから繋いだわけじゃないよ」
そして手にこもった力を抜いた。
「ありがと。もう大丈夫」
手を、離す。
ヤガミは、笑った。
「喜ぶべきか、時間が短かったのを悲しむべきか、手を繋ぐといってくれたんだから無神経に手を繋いで歩けばよかったのか、それが問題だ」
深刻ともどうとでもとれる調子で、言った。
手のひらに残るぬくもりを感じながら、時緒は、
「別に嫌じゃなかったよ。でも手を繋いでると自由に動けないから」
と言って笑った。
「真面目に答えないでいいぞ。悩むのも楽しみだ」
ヤガミは少しだけ笑った。
時緒は明るく笑い、
「そっか。そういうものなのかー…」
と納得しかけ、
「強がりだ」
とヤガミが言ったせいでさらにちょっと笑った。
つまり……。
時緒は手を伸ばす。
「まだ大丈夫かなあ。時間になったら言って」
そう言ってヤガミの手をとってにぎにぎした。
ヤガミは5秒きっかりで、照れた。
顔が紅い。
そして、繋いでいない方の手で、顔を隠す様に一度、眼鏡を押した。
「どこか負けた気がするな」
時緒は、紅くなったヤガミを、初めてみた。
「そう?」
楽しそうに笑う時緒。
じっとヤガミを見ている。
「もう見せない。可能な限り見せない」
ヤガミは、その実、恋愛にうとく、そして負けず嫌いだ。
「こういうのは……」
しかし、顔を紅くして言うのでは、何の効果もない。
「えー。可愛いのに…」
時緒は、顔を紅くしたヤガミを、ずっと見ていられたらなあと、思った。
「?」
何か言いよどんでいるヤガミを、さらに見る。
しかしヤガミはそれ以上言わず、
「お前はかわいいと言われるの、好きか?」
と時緒に問いかけた。
時緒は、ああそうかと思いながら、
「好きじゃない。…ごめんね、つい言っちゃった」
ヤガミは、笑った。
「かわいい」
「正直すぎたかー…って、何ですか。それは仕返しなんですか」
時緒は、ヤガミにかわいいと言われ、頬が紅くなるのを感じる。
いやだ、恥ずかしいし、それにそれに……。
「これで、おあいこだ」
ヤガミは、
「当然だ。俺は負けるのが大嫌いだ。本音が8割だが、それだけじゃない」
その実、時緒をかわいいと、思っている。
仕返しとは、体のいい口実だった。
時緒は笑った。
「2割は?」
そう聞き返されてヤガミは、
「なかなかいい笑顔だ」
49秒考えた結果として、そう言った。
何度も言うがこの男、その実恋愛下手である。
ごまかすのが凄く、下手だった。
笑う時緒。
「ありがと」
「なんの礼だ。勝った時にそういうのは、すごい嫌味だぞ。知らないかもしれないが」
いつの間にか、ヤガミの手が汗ばんでいた。
顔見れば紅いから当然かもしれないが。
「私が言いたかっただけ。今でも好きだよ」
時緒は、柔らかい微笑みを浮かべた。
ヤガミは照れて、時緒から背を向ける。
しかし手は、自分から離そうとは、しなかった。
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2008年12月21日 06:33

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お誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントです。


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テスト


2008年12月02日 01:24

前略

総一郎さん、まず、この間はごめんなさい。
ずっとずっと、この言葉を抱えて、反省して過ごしてきました。
また、お詫びのこのお手紙が遅くなったのも、ごめんなさい。
もう二度と総一郎さんにあんな思いをさせないために、わたしが変わらなきゃと思い、考える時間が必要でした。
自業自得とはいえ、もうあんなことは繰り返したくはありません。
わたしは、わたしなりに、総一郎さんのことをたくさん考えました。
総一郎さんの、ちゃんと愛されて育ったようなところがすごく好きなんだと改めて思ったり、わたしは総一郎さんにとってどんな存在になりたいのか、そのためにどんな努力が必要か。
総一郎さんの支えに、できたら一時でもいいからやすらぎに、わたしはなりたいです。
これまでのわたしからは程遠いけれど、そうなれるよう、わたしは変わってゆきたいと思います。
本当にごめんなさい。
総一郎さんが、好きです。
これからも一緒にいさせてください。
お願いします。

かしこ

藤原総一郎様

藤原ひろ子


2008年10月05日 00:36

02a5a7a6.jpg拝啓

総一郎さん、お元気ですか。
どこも、お怪我などされていませんか。
危険なことはされていませんか。
ちゃんと食べて、ちゃんと休んでいますか。
辛いことや、苦しいことはありませんか。
今日は、総一郎さんの話を聞きたいと思っています。
だから、先にわたしの夢の話を書きます。
わたしの夢は、いつも総一郎さんの隣にあることです。
なぜなら、わたしにとって総一郎さんを想うことは、忘れそうなほどの心の奥底で、静かに、愛してると叫び続けることだからです。
そこか泥と硝煙にまみれる戦場であろうとも、国や、国以外のお仕事をしている時であろうとも、わたしには総一郎さんだけです。
総一郎さんこそが、わたしの夜明け。
総一郎さんだけが、わたしの希望。
だから、側にいたい。
いまはこんなわたしですが、わたしはわたしの闇の中にさす一筋の光に向かって、ただ走るだけです。
総一郎さんに向かって走るだけです。
そしていつだって、隣にいられたら、いいと思っています。
総一郎さんの夢は、なんですか。
わたしもその夢のお手伝いをすることはできますか。
できたら、総一郎さんの夢も、聞かせてください。
そしてここからは、少し現実的な話です。
クーリンガン騒動が、いったん終息しました。
いまFEGはにゃんにゃん共和国の首都ともいえる、経済的発展をしています。
しかし、そこには、経済的歪みというか軋轢も生まれだしています。
是空大統領からは、まだFEGに千葉さんがいて経済的に安定していた頃にあったお話ですが、総一郎さんをISSの金庫番にどうか、考えてみてほしいと言われました。
しかし、現在のFEGが心配なのも、また確かです。
その話を大統領にしたところ、自由に、とのことでした。
わたしとしては、現在のFEGの急激な発展が少々怖く思います。
できたら、総一郎さんにFEGの経済を、みてほしいです。
もちろん総一郎さんがISSの金庫番の話を受けるのも、総一郎さんの自由です。
ですが、今一度考えていただけないでしょうか。
お願いします。
そしてもうひとつ、現実的なお話を。
いま、総一郎さんに会いにきていることで、わたしの手持ちのマイルが、尽きます。
また、0から稼がなければなりません。
会いたくても、しばらくまた、会えなくなります。
出来るだけ、お手紙は書こうと思っていますが、わたしの力量でどこまでやれるかわかりません。
やれるだけやろうと決意していますが、あまりに会えずに総一郎さんに愛想をつかされても仕方がないかもしれません。
でもまた必ず、総一郎さんに会いに来ます。
わたしに見える総一郎さんへの光が絶えるのは、わたしの時が終わった時、わたしの心臓が止まった時だけです。
それまでは、しばらくまた会えなくなりますが、もし総一郎さんがわたしのことを思い出すことがあったら、その時わたしも総一郎さんに心の中で愛していますとささやいていると、思ってください。
いつもいつも、あなただけを想っています。
命あるかぎり希望はあり、そしてわたしは生きています。
また会えるまで、何度でも、何度でも、どんな死線もくぐりぬけてみせます。
わたしは総一郎さんと、生きると決めたのだから。
また会いましょう。
その時まで分の、愛をここに。
I just keep burning love.
それまで、どうかご健勝で。
ご無事をお祈りしています。
愛をこめて。

かしこ

藤原総一郎様

藤原ひろ子

追伸
腕時計は、以前わたし損ねたプレゼントです。
Souichirou.Fの名前入りです。
よかったら、使ってください。


2008年09月25日 17:12

拝啓

総一郎さん、お元気ですか。
いま、なにをしていますか。
危険なことはしていませんか。
どこも、怪我などしていませんか。
ちゃんと食べて、休んでいますか。

いま、FEGも、戦闘の準備を始めていると聞きました。
わたしは総一郎さんが危険な部所についていないか、それだけが気がかりです。
先に、よけ藩国で夜國涼華さんと一緒に会った、晋太郎さんが、苦戦しているそうです。
総一郎さんは、自分の正義のために、進んで危険に飛び込んでいくこともあるかと思います。
正直に言うと、お止めしたい、せめて、ついていきたい。
いま総一郎さんの傍らにあれないのが、これほどに悔しいことはありません。
どうか、わたしの命をかけて、あなたのご無事と、また、あなたの笑顔に会えることを、全霊かけてお祈りしています。
今月会いたかったのですが、予定がずれて来月になりました。
2ヶ月に一度会えればいいと言ってくださったのに、本当にごめんなさい。
本当は叶うのなら毎日でもお会いしたいです。

そして、どうかおぼえておいてください。
あなたが戦場をかける時も、いついかなる時も、総一郎さんはひとりではありません。
わたしの心は、どんなときもあなたのそばに。
愛しています。
次に何事もなく、お会いできることを祈って。

かしこ

最愛の人、藤原総一郎様
藤原ひろ子

追伸
I just keep burning love.


2008年08月28日 23:16

/*/
ここは飛行場。
小鳥遊と川原は、照りつける太陽と熱風に迎えられながら、宰相府に降り立った。
空港ロビー。
目の前には、千葉が立って微笑んでいる。
小鳥遊が、感嘆の声をもらす。
「わー…」
そして物珍しそうに辺りを見渡した。
微笑ましい。
その様子に自然、笑顔になりながら、千葉が言った。
「ようこそ。宰相府に。といっても、僕は昔ここにいたことがあるだけだけど」
「私 まともに国外出たことないもので…今日は宜しくお願します」
小鳥遊はちょっと感動しつつ、千葉と川原にお辞儀をした。
川原はそれに微笑んで、
「私も実は観光したことほとんどないの。だいたい仕事につかまってるから!」
にこやかに、なごやかな雰囲気の中、千葉がそっと眼鏡をおさえ笑い、
「今日は、どこをあんないしようか」
小鳥遊はそれを聞いてふと思い出した事があった。
元共和国参謀という事で、誤解受けないように風野秘書官あたりに一報入れておきたい。
さて、どうしたものかと思いながら、
「そーですねー…とんと地理も疎いものでして…」
千葉を見て言った。
「千葉さんのお勧めはございますか?」
そして千葉が思案している間に、小鳥遊が携帯をポケットから取りだし、
「あ、ちょっと失礼します」
と千葉と川原に背を向け、登録してある番号、風野秘書官に、観光で来た旨の連絡を入れた。
FEGを風野が離れたのはほんの少し前のことだが、懐かしい声で、楽しんでと言われ小鳥遊は微笑みを浮かべて、はいと答えた。
千葉は、さて、と小さくつぶやいた後、
「お勧め、ですか。ここは巨大な観光地なので、どこを見ても観光地にはあたると思います。ただ、歴史がないので、新しいのしかないですけどね」
小鳥遊は、千葉の説明を背中で聞きながら、電話を切った。
振り返る。
「中座失礼いたしました…これで無用のトラブルも無いですかね」
そして先ほどの千葉の発言を受け、
「では、人が多いところが見たいです。宰相府に住んでらっしゃる方々を拝見したいです」
千葉は穏やかに微笑んで、
「では居住区に、タクシーでいきましょう」
千葉は空港を出ながら、さす日差しにいささか目を細め、手をかざした。
「バスは便利なんですけど、乗り次が大変なんです」
小鳥遊は、タクシーやバス、と聞いて頷きながら、やはり建物から出た途端に照りつける太陽に、瞬きをした。
「交通網もしっかりなさってるのですね」
そして目がなれてくるに従い、小鳥遊は、環状線の参考になるかなーと、まじまじと空港前の舗装された道を眺めた。
川原も目がなれたようで、微笑み、
「じゃあ行きましょうか」
小鳥遊は、期待に胸を膨らませながら、
「はい」
と答えた。
千葉は、空港前に列をなしているタクシーに荷物を入れると、小鳥遊と川原に先に後部座席に乗るよう促し、自分は助手席へ。
シートベルトをしめ、運転手に短く目的地を告げをタクシーを走らせた。
タクシーはすぐに街中に入る。
色んな車が行き来している。
ごみごみしていてさらに暑い。
うかつにまど開けられない。
川原は窓からの景色を物珍しそうに見て、
「こっちのほうに来たの、はじめてかも・・」
小鳥遊はクーラーのきいた車中にあっても、
「あつー…こちらは我がFEGと同じ、西国でしたね」
と、襟元をパタパタさせた。
千葉は苦笑しながらも、なれた様子で、
「天井にあたる熱がね・・・車のクーラーは全開なんだけど」
そして走るタクシーが徐々にゆっくりになり、そのうち、完全に渋滞に巻き込まれてとまった。
千葉はテールランプをはるかに見ながら、後部座席に声をかけた。
「さ、ここまでかな。歩いていこう。バスじゃこうはいかないから不便なんだ」
小鳥遊はシートベルトをはずしながら、
「なるほど。……運転手さん、ありがとうございました」
川原は明るく、
「はぁい」
と言って帽子をかぶって車を降りた。
外は、乾燥した熱気にあふれている。
3人は渋滞の中を歩いている。
歩道には、子供も多く、花を売ったりしている。
小鳥遊は、あつーとつぶやきながら、辺りを見渡し、
「思ったより、人口も多いのですねー。国土はともかく、ちょっと人口は少なめのイメージでした」
花売りの子供達が、3人にも寄って来た。
千葉は人口を思い出しながら、
「FEGより多いかな」
「こんにちは」
小鳥遊は花売りの子供に微笑みかけた。
川原は千葉の発言をうけ、頷いて、
「商業施設が多いからそれを支える人口も多いのよね。」
小鳥遊は、そういえば自分の国もゆっくり見たことがないことに気づき、
「一度FEG国内もゆっくり見てまわりたいなぁ…」
花売りの子供が、そんな3人を、色とりどりの花を持って追ってくる。
「2わん 2わん」
一杯集まってくるが、千葉は無視して歩いている。
小鳥遊はいっぱいいるなあと笑いながら、ちょっとすまなそうに、手を振って千葉に付いていった。
川原も乾燥した熱風に帽子をおさえながら、
「ごめんねーお金もってないから」
わんわんは手持ちにないからなあ、と、心の中で笑った。
小鳥遊は子供達を避けて歩きながら1本かったら無限に群がってきちゃいそうですね…、と小さくつぶやく。
子供の群れは、買う気がないのがわかると、ひとり、またひとりと取りまきから離れていき、結果3人は子供達をうまくかわした。
と、風景が少し変わる。
居住区だ。
狭い道が曲がりくねっている。
とても車は通れない。
建物が密集しているために道は日陰になっている。
そしてそれゆえに、静かだった。
居住区の建物は一様に白い。
土でかためたレンガのようだ。
千葉は、日陰にわずかながら涼しそうに微笑み、
「雨が降らないので焼かないでいいし、白いのは太陽光の反射のためです」
小鳥遊は、
「なるほどー」
と言って、ここでキョロキョロしたら不審だと思い、千葉を見ながらあいづちをうった。
そしてさらに千葉へ疑問を口にする。
「道が細いのは、土地不足…人口密度が高いのでしょうか」
千葉は、眼鏡を少し押し、
「わざとですよ」
笑って、
「車が入らないように、市道をつくります」
小鳥遊は納得して頷き、
「なるほど、安全の為なのですね」
そして、それならばあるのでは、と想像して、
「近くに街道のような、商店の集まった道はありますか?」
川原は涼しい日陰の風に機嫌よく、
「自転車も通ると危なそうね。この道だと。散歩にはいいけど」
千葉はふたりに楽しそうに笑い、
「生活の知恵、かな。趣味かもしれないけれど。こう見えて中庭はどれも見事ですよ」
そして、小鳥遊の求めていた道を示した。
「こっちです」
一気に視界が開け、景色が極彩色に変わる。
バザールだ。
長い道に露天商が立ち並んでいる。
それまでの静けさが嘘の様に人でごったがえしている。
川原は小鳥遊の方を見て、
「ことりー、はぐれちゃだめだよー」 と言いつつそっと千葉の服のすそを握った。
小鳥遊もこれは迷子になるなと千葉の後ろくっつきながらキョロキョロした。
「はーい」
千葉は川原の仕草に微笑んだ。
バザールには色々な商品と店があった。
小鳥遊は千葉に、
「ここではどのようなものが売られているのですか?」
と尋ねながら周りを見渡した。
小鳥遊の目に飛び込んで来たのは、果物にはじまり、猿や剣、骨董品、似顔絵、美術品……。
川原はしっかりと千葉の服をつかみながら、
「こういうところ大好きなんだけど、人が多すぎるところが欠点ね」
と言いつつ屋台への好奇心は隠せない。
千葉は笑って、小鳥遊を振り返って、
「まあ、奴隷以外は、たいてい」
わずかに、ふ、と不敵にも見えなくもない笑顔で、
「戦闘機だって買えますよ」
驚いた小鳥遊は、
「や、それはすごい」
と言って改めてしげしげと屋台を眺め、
「ともあれ、個人の趣味満たすよりは…なにかお土産でも欲しいですかねぇ」
と、ちょうどあった骨董品のお店のぞいた。
骨董品はアメショーからやかんまで置いてある。
川原はそれを後ろからのぞきこみ、
「アンティークは高いわよ〜」
と笑いながら小鳥遊についていく。
露店の軒先には、珍しいので水を清めると信じられる印入りコップがある。
小鳥遊はアメショーを見て、
「…改良型とはいえ、わが国ではまだ現役なんですがねぇ」
複雑な気持ちでいるところに値札に1万わんわんとあるのを見て、ショックを受けた。
安い。
小鳥遊と川原は、手をのばし、アメショーの隅々までためづすがめつする。
状態はかなりいい。
おそらく、大昔、市場に叩き売られた機体のようだ。
川原は在庫あまりを思ってやや複雑に苦笑いする。
小鳥遊はアメショーに心惹かれつつ、コップの値札見た。
コップは10わんわん、第7世界の日本円でいうところの、1000円だ。
小鳥遊は、まじまじとコップを見ながら、
「地味に高いなー…」
川原はコップを持ち上げて、
「でもお土産にはいいかも。」
小鳥遊はやや高いコップを諦め、
「千葉さん、川原さん。似顔絵でも描いてもらいません?」
コップは、綺麗な文字が透かしではいっている円盤があって、これをコップのそこに沈めるようだ。
川原がコップを手にしてるのを見て千葉は、
「交渉しようか?」
川原は手持ちのわんわんを心の中で数えた。
小鳥遊は、千葉の言葉に、再びコップを見て、
「あ、お願いします。千葉さん」
川原は、100わんわんはもってる、うん、と心の中で頷く。
千葉がなれたように露店商に交渉すると、コップはあっさり3わんわんになった。
川原はあまりの下がりように笑いながら、じゃあ買います、と、コップを手にした。
小鳥遊も、
「あら。では、4つください。」
とコップを4つ、購入した。
合計12わんわん払うと、店主は大喜びだ。
千葉は苦笑しながら、
「平均すると1/3くらいになるね。このへんだと」
と、あとでふたりにこっそり教えてくれた。
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2008年07月08日 19:44

前略

総一郎さん、お元気ですか。
どこも、お怪我などしていませんか。
この手紙は、FEGに帰ってから書いています。
悪童同盟にいる間に、たくさんお手紙を書いたのですが、とても取り乱していて、お見せするわけにはいかないので、改めて書き直しています。
総一郎さんがFEGに残った訳を知った時、わたしはなんて自分本意に動いたのだろうと後悔し、周囲に大変迷惑をかけながら、FEGに戻る決意をしました。
ずっと一緒にいると言ったのに、本当にごめんなさい。
この1ヶ月、総一郎さんと離れて過ごして、改めて総一郎さんがどれだけかけがえのない存在かわかりました。
もう二度と、こんな風に離れてしまうのは嫌です。
離れている間に、思いだけが、ただつのりました。
総一郎さんを思い出さない日はありませんでした。
どうか、許してもらえるのなら、ただそばに置いてください。
総一郎さんが、わたしの希望、わたしの勇気です。
総一郎さんのとなりを走れる女になります。
そのためだけに生きます。
今度こそ、ずっとそばにいます。
あなたを想い続ける、心とともに。
愛しています。

かしこ

藤原総一郎様

藤原ひろ子


80b4f5a3.jpg裏に「Souichirou.F」の名前入り


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