認知行動療法における認知

 

 認知療法における認知はまったく異なる出自をもつ。この療法の輪郭が出来上がるのは1955年から1960年にかけてであり、スキナーが行動理論プログラムの応用を各方面で試みるも行き詰まっていた頃からである。カナダの心理学者、アルバート・バンデューラの研究が認知行動療法における認知理論の嚆矢とされている。かれは行動理論のモデルを粉飾させ、そこから、好子および嫌子の強化とは別の、模倣というものがもつ行動論的効果を練り出した。

 1963年の論文において、バンデューラは自己の理論が狭義の行動理論とは一線を画していることを強調している。「現在、多くの学習理論が報酬と罰を使い分けて新たの行動を習得させる方式に集中している」が、このような流れに対して、かれは模倣の影響力についての実験的研究を対峙させている。「この実験結果が示していることは明らかである。諸指標の観察から、ひとがなんらかの形の行動で反応しなくてはならないとき、他者の行為が及ぼす効果は、この他者の行為が存在しない場合は当該する行為に出る確率がゼロに近いのに比し、かなりの高確率でこの行為が出現する。社会的模倣は実際、スキナーが推奨する継起的試行の強化を必要とせずに新たな行為の習得を短期間にあるいは即座に可能にする(1953)。」

 バンデューラが発表したもので1960年代のものは、精神分析理論が色濃く反映されていた。かれが成し遂げようとしたことは、精神分析理論の一般心理学化であったが、これは理論の極端な単純化を招いてしまった。バンデューラの目論みは、精神分析をもっと倹約しようとするmore parsimoniousところにある。「攻撃者への同一化(フロイト、1946)防衛的同一化(モウラー、1950)」において、不安を軽減させるため、攻撃を受ける者は、攻撃する者に、つまり攻撃的、脅迫的な人の属性を取り入れて変身するが、この例は攻撃の模倣の学習として人口に膾炙するものである。しかしながら、子供が攻撃という反応様式をもって発達し、攻撃的な成人となる場合、攻撃対象の自から他への移動が影響しているという説明で十分で、なにも防衛的同一化といった機制を持ち出すまでもない。反社会的傾向をもつ青年の生活歴の研究(バンデューラとウォルター、1955)および攻撃的な少年についての研究(バンデューラ、1960)によれば、これらのケースの両親は子供に対して非寛容的で、攻撃がかれら自身に向けられることは全面禁止であることが示されている。一方で、親たちは子供たちに家族以外の者への攻撃を強く促すのである。こうした異なった二方向への攻撃行動の強化のモデルは、子供の攻撃が親などもともとの作用主に向けられるのを制止しやすくし、攻撃を、制止がより緩い対象や状況へと移し替えられるのを助長するのであろう。」こうしてバンデューラ等は、被験者がどのように模倣するのか明らかにするような実験装置を設け、精神分析を実験用語に翻訳する。「模倣について、攻撃的模範者に対して、被験者が恐れている場合、愛する場合、{・・・}中立である場合との間で比較研究すれば、攻撃者への同一化の理論よりより倹約的な理論の方が、模倣というプロセスの説明をしやすくするのではなかろうか」11と。

 

11. A. Bandura, D. Ross, S. A. Ross, «Transmission lf aggression through imitation lf aggressive models», Journal of Abnormal and Social Psychology, vol. 63, p. 575-582. http://psychclassics. yorku. ca/Bandura/bobo.htm.所収

 

 バンデューラは模倣理論を自己-効力理論によって補完させる。今度は被験者にとって、自分自身が模範者となる。「個体は発揮すべき自己の諸能力を、知覚を介して、思考様式、動機づけや行動に反映させ、決定づける。」バンデューラの主張はこうである。「ひとは脅威と感ずる状況、行動を避け、遂行するに値すると思われる活動に取り組む。{・・・}代理経験、つまり自分自身に類似した個体の所定の活動が自己効力の知覚に影響を与える重要な情報源となる」12。抜き差しならない『社会的模倣』、つまりは想像的審級をバンデューラは、唯一、十全の因子として、これをもってすれば、スキナーの行動理論の唯一無二のモデル、試行錯誤による強化の必要もなしに新たな行為を即座に習得できるのだとする。言うまでもないが、どちらのモデルによっても、学習理論のモデルの彼岸に位置する問題、主体が言語の世界に投げ込まれているといった事態を説明できるはずはない。

 

12. «De l’apprentissage vicariant à la perception d’auto-efficacité» (1996). www.offratel.nc//magui/bandura.htm.所収。バンデューラの処女作Adolescent Aggression1959年に上梓された。1973年にはAggression, A Social Learning Analysisが書かれる。1977年、Social Learning Theoryというタイトルのもとに、かれは、理論の集大成となる論文を発表する。かれの功績は讃えられ、1974年には米国心理学協会の会長に、さらには1989年、国立科学学士院医学学院の顧問に選任される。

結局のところ、バンデューラの認知についての概念は、ごく一部分の事実に還元されるだけである。すなわち、他者の想像的同一化と自己像に基づく自己コントロールの審級である。だから、かれはテレヴィジョンや映画における暴力や問題シーンに対して、直情的なアンチ・キャンペーンが展開されるに際して、駆り出されるのである。ハリウッド映画を観るにつけ、バンデューラ氏は、スクリーンに模範を示してほしいと願っているのではあろうが、理解されているようには思えない。むしろ反面教師として映っているのではないであろうか。