SMくん、

はじめまして。私は39年後のキミ自身だ。今のキミがいる世界は昭和54年、1979年9月だね。キミがロードショー誌やイアン・フレミングの文庫本で一生懸命研究している007シリーズの最新作、『007/ムーンレイカー』が年末に公開されることを心待ちにしていることだろう。中学二年のキミはその映画に衝撃を受けて、それから毎日ジェームズ・ボンドのことを考えて生きてゆくことになる。『中二病』なんて言葉はまだないと思うけど、決してブレることなく、そのまま突き進んで欲しい。

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昨日はその時の中学担任のN先生もいらして、10人集まってクラス会をやったんだ。地元に残っているヤツが多い、というのもあるけど、こうしてキミの帰省に合わせて集まってくれるんだから今のクラスメートに感謝しなければいけない。それだけ仲が良かった証拠というものだ。当時新卒だったN先生とは実は年齢が10歳しか違わないので、先生より頭髪が薄くなっているヤツも多い。本人には内緒にしておいてほしいけどね。武田鉄矢のように熱血先生だったN先生だけど、キミたちが卒業してからは学校が荒れに荒れて随分悩んだと聞く。教室の窓からオルガンをグラウンドに投げ捨てた生徒もいたそうだ。そういった意味ではキミたちはウブだったのかもしれない。それでも毎回N先生はキミたち生徒と保護者のおかげで今も教師生活を続けることができている、とおっしゃる。いつまでも感謝の気持ちを忘れないこと、そしてそれを伝えることは非常に重要なことなんだ。

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感謝の言葉で思い出した。バレンタインデーで初めてキミにチョコレートをくれたTちゃんも来たよ。当時友達を経由していたけど、キミは彼女からもらったことはわかっていたのに、ありがとうのひとことも言えなかったはずだ。私はそのチョコレートのことを今でも鮮明に憶えている。15cm四方くらいの箱にハート型のチョコレートが入っていて、大きな白い文字で『好き好き』と書いてあったんだ。今日のクラス会でTちゃんが隣に来たので、チョコのことを憶えているか聞いてみた。彼女は文字のことは忘れていたけど、『Mくんのこと、すごく好きだったよ。うん、好きだった』と言ってくれた。そんな彼女も25歳の息子さんがいる立派なお母さんで、私は『とても嬉しかったからあの時はありがとう』と39年目にしてちゃんと伝えることができた。Tちゃんに言わせれば、今のキミは勉強しかしてなくて、女の子と話しているところを見たことがなかった、と。うーん、中学生の本分は勉強だといえばそれまでだが、最初につきあう女の子に理想を追い求めすぎてはいないか?Tちゃんだって十分可愛いはずだし、当時彼女が大好きだったトシちゃんのモノマネを必死に練習していたじゃないか。ちなみに『ターラトシヒコです!』というモノマネはその後の大学・社会人の宴会芸で抜群にウケるのでボンド道とともに精進するように。

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それにしてもキミのポジティブな妄想癖には我ながら呆れるよ。中学二年当時から想像力たくましく、女の子とああしてこうする夢が実現するのは残念ながらまだ数年先のことだ。高校時代に一度デートした女の子と数十年ぶりに飲み会で再会したからといってキミのことを好きである保証など何一つない。そもそも大昔に一度デートしたからといってその時彼女がキミのことを好きであったことすら怪しいのだ。それをいい歳なのにうじうじと思い出に浸り、万が一こうなったらこうしよう、ああなったらああしよう、などとプランBまで計画して飲み会に臨むことなど、時間の無駄というものだ。ましてやLINEでつながっている夜のお姉ちゃんなど、恋愛感情など100%ない、と断言できる。あ、39年前のキミはLINEと言っても知らないか。今じゃ電話をかけなくても手紙を書かなくても一瞬で『大好きです!』なんてメッセージを送ることができる便利な世の中だ。その分軽薄で、心がこもっていない、ともいえるけどね。つい先日も39年後のキミはプロのお姉ちゃんに軽くあしらわれてひどく凹んでいた。その時はプランCまで考えていたというから若いキミの空いた口もふさがらないことだろう。

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故郷である北海道に帰省するといつも思うよ。大学を卒業して東京に出て、夢の第一歩を踏み出したけど、このまま北海道で就職する人生もあったんじゃないか、と。もしくは大学から上京することができたかもしれない。だから東京の私立大学を経済的な理由で受験させてくれなかった両親をキミは将来恨むことになる。いや、そもそも高校も大学も第一志望じゃなかったはずで、自分は受験に弱い、なんて思い悩むことだろう。でも結果的にキミが進んだ道は間違いではない。ちゃんと東京の企業に就職できたのも大学のおかげだし、キミが今好きになりかけている英語を切磋琢磨できたのも大学の友人のおかげなのだ。東京でチャランポランな大学生活を送り、バイトに明け暮れていたら最初の会社に就職できたかどうか怪しいし、そうすると社会人になってから今のオクトパシーに出会えていないはずだ。おっと、オクトパシーは文庫本で読んだかもしれないが、キミの将来の奥さんのことだ。彼女と結婚していない自分なんて考えられない。今回北海道で一緒だったのはたった4日間だけだったが、美瑛の青い池にも行けたし、札幌オータムフェストでしこたまお酒を飲み、酔っ払って、とても楽しかったよ。もしかしたらこうして39年経った今でもボンドおたくでいられるのもオクトパシーのおかげかもしれない。

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いや、違う。やはり今のキミがベースなのだ。クソまじめで女の子の手も握ったことがない、文章を書くことと夢想することが大好きなキミのおかげで今の自分があるし、大切なボンドお友達との交流が続いているのだ。だから安心して今の道を進んで欲しい。でもたまには女の子とデートしてみるのも悪くないと思う。その時はああだこうだと考えずに行き当たりばったりでいくのがいい。今日くまのプーさんの映画を見たけど、『何もしないことをする』なんて境地には53歳の私でも到達できない。でもあわただしく過ごした今回の帰省とは違って、たまには何も考えないで行動することもいいんじゃないかと思い始めているよ。

ではまた。