ぼちぼちと2

生活や人生設計に間接的にかかわる防災や地球科学のおはなし

     ・・・でも毒にも薬にもならないお話が中心です。通勤途上の暇つぶしにご利用ください。

『唯一生き残るのは変化できる者である』 チャールズ・ダーウィン

経験則の限界(2)逆算法+計画安全率

逆算法+計画安全率も経験則です。計画安全率は、対策費用を決定する最重要数値なのに、いくら探しても設定根拠となる文献がない不思議な数字です。

戦後の電力需要が逼迫している際に、ダム+水力発電の稼働を最重要視した時代にできたようです。すなわち、高度経済成長でダムを作って発電しなければならないが、試験湛水すると地すべりが起き、調査し、観測し、設計し、施工し、そしてまた試験湛水。ここで止まっていればいいが、再び地すべり活動が起きる・・・「いつになったら発電ができるんだ!」

あらかじめ、目標とする安全率を決めておき、その予算措置をしておけば発電までの時間が節約でき、産業用電力が供給できるようになります。

逆算法+計画安全率は、日本の戦後復興、高度経済成長に著しく寄与した方法論でした。

地すべりの場合には、変動が観測できるので、安全率1.0は確実にわかります。したがって、計画安全率は、自然(気象)環境のブレ幅を示していると言えます。観測期間中の水圧条件がすべてではなく、当然「記録的な」豪雨や長雨が供用期間中にもあるはずなので、その条件下でも「安全率が1.0を下回らない」ようにする、あるいは「安全率が1.0を下回る確率が十分に小さい」といえる閾値、という位置づけです。

この「経験」は、戦後復興から高度経済成長初期にかけてのものなので、蓄積されたデータ量としては決して多くなかったはずです。それが、いまでも無批判に生き続けているのは、なんとなくムズムズします。

またこの経験も、「近年の地球温暖化・・・」では変更せざるを得ない運命にあります。集中豪雨が増えたということは、今まで想像していた、あるいは経験したような水圧上昇よりも大きな出来事が起きる、ということなので、計画安全率を気象変化に合わせて引き上げなければならないでしょう。

経験則は、こういう見直しに耐えられません。もともと論理性があるわけではないので、前提条件に変化があったときに合理的な再設定ができないからです。

「地球温暖化・極端気象」で経験論の前提条件が変わったため、、、、方法論を、合理的かつ論理的な方向に変えなければならないのが必然になってきました。結果オーライだと思います。

経験則の限界(1)標準勾配

最近土砂災害関連で「近年の地球温暖化により雨の降り方が確実に変わってきた。このため従来の対策では不十分になった」という枕詞がつくものを目にすることが多くなりました。

前提条件を、「以前とは異なる気象環境」とするのは、どこに線引きするかの話で、人によっては異なる見解になるので、これはこれで良いと思います。

問題は、そんなことではありません。経験則は前提条件が変わると使える道理を失う!ということです。

標準勾配は、経験的に崩れた勾配と崩れなかった勾配の境界線で決めているものです。土質力学は全く関与していません。

標準勾配の前提条件は、「日本の気象・土質環境では」というものです。

「近年の地球温暖化・・・」はその前提条件が変わったことを言っています

となると、すでにこれまでの標準勾配による経験的安定確保策は、前提条件を失って成立しなくなっていることになります。(諸外国が標準勾配の海外技術移転を拒絶するのは、気象・地質条件が異なるから、という理由です)

もし、本心から「近年の地球温暖化・・・」と考えているのであれば、標準勾配に関する設計基準を変えなければなりません。土砂災害防止工をもっと積極的にやらないといけないという国土強靭化推進路線であるならば、前提が変わったのに合わせて、評価方法や設計方法を変えねばなりません。

理屈はこの通りですが、ではこれまで造った盛土や切土はどうするの?という大問題が浮かび上がります。全体に及ぶ話は影響力がとても大きいのです。

局所の話(施工不良など)は全体に及びませんので「基準」の変更まで話が広がることはありませんが、全体の話は、基準の話に広がり、既存構造物の見直しにつながります。。

この矛盾を、新たな標準勾配を作ることで何とかするのは愚かです。「近頃の地球温暖化・・・」で得られた法面情報は僅かなので、経験的な線引きができません。

土質力学的に合理的な方法で診断するようにするしかありません。具体的に言えば、現地で土の諸定数を実測し、安定計算を行い、崩壊条件を明らかにし、確率的な被害額によって予防対策するかどうかを管理者が判断しなければなりません。

その覚悟があって、 「近年の地球温暖化・・・」をおっしゃっているのであれば天晴なのですが。。。

自分の裏山だけが崩れないようにする対策

谷埋め盛り土の地震地すべり(滑動崩落)の仕事をしていた2000年ごろ、盛土全体の安定化対策をするには、地震時に発生する過剰間隙水圧消散をすればよいことはわかったものの、盛土上の住民の合意をとるのは不可能だろうと思いました。行政も及び腰です。
-------------------
比叡平の自主防災組織のHP
http://blog.livedoor.jp/shagal/archives/cat_50035114.html 
大津市からは詳細調査(二次スクリーニング)を実施したら対策工事をせざるを得なくなるが、それには住民の費用負担(工事費の1/2)が伴うため住民の合意を得ることが困難であるので、詳細調査には踏み込めないという説明がありました。
住民からは調査もしないで終了するのはおかしいのではないかという意見が出されましたが、1箇所あたりの調査費を1000万円として346ブロックの詳細調査をすれば34.6億円になり、国の補助(1/3)があっても大津市には財政的余裕はないのでできないということでした。これに対して全ての箇所で行うのではなく、一次スクリーニングの段階で危険度の順位はある程度わかるはずなので、優先度の高いところから調査を始めることもできるはずという指摘がありました。 
--------------------
日本は、私権がとても強いので、みんなの合意がとりにくい社会です。また問題となるような高度経済成長期の大規模盛り土造成地に住んでいる人たちは、けっこう主張が強くて大変な人が多いような気がします(自治会長を経験したときの記憶です)。

ということで、1軒だけ守る対策工が必要になるはずだと思いました。前のHPにはその対策工を書いていました。

土砂災害の80%を占める表層崩壊でも同じことが言えます。

土砂災害は国がやることだから、自分たちで金を出すなどあり得ないという人は、決して少数派ではないと思います。しかし、中には表層崩壊で被災したくないという個人はいらっしゃるわけで、その人「だけ」が助かる対策工が必要だと考えていました。

その人「だけ」が助かることがわかると、周辺の人たちの心が動揺し始めることが期待できるからです。地震対策では一度そういうことをやりましたが、地震は再来周期が長いので、実感として怖がる人は少なかったようです。

その点、豪雨による斜面崩壊が起きる確率は、全斜面100%です。人間の死亡率が100%なのと同様です。証拠は、そこに侵食地形(普通の斜面のことです)があることです。

全斜面の崩壊確率が100%だとしても、何年以内に・・・なのでしょう。たぶん100〜数100年以内の崩壊確率です。土壌雨量指数履歴順位第一位クラスの雨を日本中に降らせて、崩壊を起こす(地形を刻む)のには時間がかかります。

そう考えると、特定の場所が大雨で崩れる確率は、大地震の確率とあまり変わりないかもしれません。しかし、近い地域で大雨の話を聞くことは多く、意識の中で「怖い」と思いやすいのではないかと考えます。

自ら排水補強パイプで裏の斜面を対策し、斜面のどこかが崩れるようなレベル2の雨が降っても、自分の裏山だけは崩れないという状態にした人を、周囲の人は内心羨ましがると思います。

あるいは「自分だけ助かろうと思う自己中な人だ。隣のうちの斜面が先に崩れればよいと思っているけしからん奴だ」と怒るかもしれません。

羨望でも怒りでもどちらでも構いません。心が動いたときに人は行動に出ます。

仮定義:レベル1、レベル2の大雨

1995年の兵庫県南部地震後、地震動に対してレベル1、レベル2という概念が入りました。地震動は連続的な値を持つので、レベル1、レベル2は、不連続がないのに人間が決めた境界ということになります。

地震・津波
駿河トラフ・南海トラフ沿いでおおむね100年〜150年周期で発生するマグニチュード(M)8クラスの地震・津波が「レベル1」。過去数千年間に発生した記録は見つかっていないが、発生すれば甚大な被害をもたらす恐れがあり、あらゆる可能性を考慮したM9程度の巨大地震・津波が「レベル2」。

雨にレベル1、レベル2があるかどうかは知りません。私は記憶にありません。

でも、表層崩壊の予防に取り組んでいると、レベル1、レベル2があるように思えてきます。そして、レベル1、レベル2の境界は不連続です。自由水圧と被圧水圧(過剰間隙水圧)の不連続があります。過剰間隙水圧になると、理屈の上で水頭は山の上の地下水流入孔位置まで上がります(実際には完全なパイプではないので、かなりの水圧降下が起きますが)。

仮定義してみましょう。

レベル1:年に数回ある大雨警報時の降雨レベル。飽和地下水が地表面に達するが、自由水圧である。

レベル2:100年〜数100年に一度の大雨で、土量雨量指数履歴順位第1位クラス。その地域が経験した最大級の雨。ソイルパイプが飽和し、地下水が過剰感激水圧化する。どこかの斜面が崩れ、地中の過剰感激水圧を解放させる。

私のイメージはこんな感じです。

レベル1で崩壊するような斜面は、しょっちゅう崩れることになるため、地形を維持できません。何かの理由で新しくできた斜面ならあり得ます(人工斜面など)。

レベル2で崩壊するのは理にかなっています。水圧はあくまでも圧力なので連結していれば広域的に伝播します。したがって、一連の斜面は同じレベルの水圧になります。表層土の条件が似たようなものなら、一連の斜面の中でどこが崩れるかわかりません。

逆に言えば、どこが崩れてもよいのです。ちっともおかしくない。

そして、崩れた斜面の近くの斜面は、崩壊と同時に一気に地中内水圧が解放されるので、急速に安定化します。斜面の安定化に寄与するのは、隣の斜面が崩れることです。

自分の裏の斜面を、崩れて周辺を安定化させる「水圧開放斜面=崩壊斜面」にしなければ、予防工になります。

自然状態で同じ条件であれば、少しだけバランスを変えて崩れにくくしてやれば、周辺斜面の中で崩壊優先度最下位になれます。排水補強パイプを打てばそれが実現できます。

パイプを打ってあれば、隣接斜面の過剰感激水圧を少しは低減できるかもしれませんが、水圧消散工の影響範囲は、東日本大震災時の白石市緑が丘(寿山)を見ると、パイプがあるところだけのようです。急激な水圧消散の場合には、影響範囲が狭いのでしょう。

したがって、パイプが打ってないところは、隣接斜面であっても崩壊優先度があまり低くならないと思います。

調査機器訓練場で何をするか?(5)維持管理、レベル1豪雨、レベル2豪雨

道路土工構造物技術基準ができて、いまその運用のためのガイドライン作りをしていると聞いています。

kunren34この基準が、いままでの道路土工指針などと異なる点は、(1)国の基準であること(「道路土工」は参考書の位置づけだったらしい)、(2)「現状評価」が基本であること、(3)地表水・地下水処理を重要視していること、です。

8月下旬にあった日本地すべり学会のポスターセッションで、土研の森長さんが場所によって滑り面強度を変えた3次元安定計算を発表されていました。当社でもだいぶ前に取り組んでいた分野ですが、森長さん曰く「ここ5年くらいこの分野の研究がなくなっていた」そうです。

それは、地すべり土塊の安定度を現状評価するニーズが無かったからに他なりません。(大きな対策工事費をかけられる公共事業以外では地すべり対策や、安定度評価をしない、という間はニーズが生まれないかもしれません)

土質強度と地すべりの形状をちゃんと入れたら、順算でちゃんと答えが出ますよ。これからは順算で評価するようにしましょうね。そうすれば、対策が必要か、不要かという入り口論から入れますよ、と提案したところ、「そんなの必要ない。今まで通り対策ありきの逆算で良い」と地すべり業界(産官学とも)が返答した、という構図でした。

地すべりを順算で安定計算して安定度を評価する方法論は完成しているので、あとはニーズ待ちというところです。一番ありそうなきっかけは、「外圧」です。日本の斜面対策技術は世界一だと誇っていますが、実際には金のかけ方が世界一なだけで、論理性は高くなく、便宜的方法(ガラパゴス手法)が異様に発達した、というのが実態です。

維持管理の時代は、現状評価をする時代です。

順算で斜面の安定計算をする時代です。

すなわち実測値で勝負する時代です。

基準書などの「表からの引用」=見做しは「悪」になる時代です。

だから、c・Φ・γは少なくとも実測せねばなりません。

そして、地表まで地下水が上昇する状態=レベル1で安全率Fsが1.0を下回るか?崩壊確率PFが0%よりも高いか?が一次判定になります。多くの斜面では、Fs>1.0、PF=0%だと思います。

ならば、ソイルパイプが飽和して過剰間隙水圧を作用させる状態=レベル2でなければ崩壊しません。逆の言い方をすれば、レベル2ならどこかが崩壊します。その崩壊を、決して被害を受けてはならないところに発生しないように誘導するのが「予防」です。予防は、決して崩さないことではありません。

被害が発生しないところを、わざと崩壊させて大事なところを守る、という予防があってもよいくらいです。

そういう時代の変化も、実験場で作っていこうと思います。
現場でc・φを軽々と計測

「土層強度検査棒」




(独)土木研究所開発

土木研究所資料 第4176号 平成22年 土層強度検査棒による斜面の土層調査マニュアル



-------------

3次元可視化ソフト

MVS / EVS

大幅値下げ!



他社と差別化できる3D

地盤リスク評価:3次元モデルを用いた地盤調査リスク評価事例




-------------

土構造物維持管理

最新技法!




計画的予防保全が可能となる合理的手法



-------------

太田ジオメルマガ


記事検索
最新記事
livedoor プロフィール
QRコード
QRコード
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Amazonライブリンク
現場でc・φを軽々と計測
「土層強度検査棒」

(独)土木研究所開発
土木研究所資料 第4176号 平成22年 土層強度検査棒による斜面の土層調査マニュアル

-------------
3次元可視化ソフト
MVS / EVS
大幅値下げ!

他社と差別化できる3D
地盤リスク評価:3次元モデルを用いた地盤調査リスク評価事例



-------------
土構造物維持管理
最新技法!


計画的予防保全が可能となる合理的手法


-------------
太田ジオメルマガ
アクセスカウンター

    現場でc・φを軽々と計測
    「土層強度検査棒」

    (独)土木研究所開発
    土木研究所資料 第4176号 平成22年 土層強度検査棒による斜面の土層調査マニュアル

    -------------
    3次元可視化ソフト
    MVS / EVS
    大幅値下げ!

    他社と差別化できる3D
    地盤リスク評価:3次元モデルを用いた地盤調査リスク評価事例



    -------------
    土構造物維持管理
    最新技法!


    計画的予防保全が可能となる合理的手法


    -------------
    太田ジオメルマガ
    • ライブドアブログ