土木技術資料53-9に「地下水排除工のボーリングの施工実態に関するアンケート調査について(その2:保孔管編)」阿部ほか、がありました。斜面防災対策技術協会と全地連を通じてアンケートを取ったそうです。
集水ボーリングの保孔管と言うと、すぐに「集水効率」を思い浮かべる人が多いようですが、私はずいぶんと地すべりの地下水排除工工事や設計・効果判定をしましたので、集水効率にはほとんど興味を持っていません。動力を使わない重力排水ですから、集水効率が1/2でも、2倍の時間をかければ同じ量が排水されます。
途中で集水した水が漏れるということを懸念する声もあるようですが、地下水に不飽和の箇所でないと逸水はしないわけですから、地すべりの安定上大した影響があるとは思えません。
これが、飲料用水源などで一定時間内に大量の水の確保が命題であるならば話は別でしょうけれど、その時には上等のステンレスフィルターを使います。
むしろ、問題は施工の確実性(保孔管が共上がりや共回りしない=保孔管が傷つかない=長期の使用で破損しない)こと。そして、地すべり地は大地が動いておりその中に入っているパイプは常に破断の恐れがあるため、多少の動きがあっても破断しないだけの強度を持つこと、が必須だと考えています。(国交省の積算資料にも鋼管と塩ビ管の使い分けは地すべり変動の有無、と書かれています。「変動の無い地すべり」の定義は曖昧ですが)
したがって、ジャミングしやすい地盤や、滑動中の地すべりでは鋼管材を使い、動いていない地すべりでは塩ビ管を使うようにしています。しかし「動いていない地すべり」に対策する必要があるのかどうかは、永遠の謎です。相当量の雨が降った場合には動くかもしれないので、その保険という位置づけでしょう。
アンケート結果でも、施工性の問題が最重要視されており、対策として高強度のものに変更するという解決策を選択する場合が多いようです。ただ、塩ビ管と鋼管は値段がだいぶ違いますので、無理して弱っちい保孔管で施工する場合も多いようです。施工に携わる者にとって、きちんと保孔管が孔に納められるかどうかが最大の関心事項なので、当然の結果と思います。
集水効率が本当に地すべりにどの程度の影響を与えるのかを考えず、やみくもに集水効率が高いのはよいことだと盲信していると、保孔管は破断してもよいが集水効率が命(健康のためなら死んでもよい)的な矛盾に満ちた行動になる懸念を持ちました。